しあわせの理由(ハヤカワ文庫)グレッグ・イーガン

2007年05月13日 | 読んでみました
表題作の「しあわせの理由」が非常に秀逸でした。

しあわせの理由

これも例によって、マッピングしようと思ったのですが
今回は相互のリンクが希薄なので、あんまり有効な情報にはならなかったかも…

「適切な愛」
夫の脳を子宮で保存するというアイデアよりも
妻が感じた心の動きが切なかったです。
しょうがない、では割り切れないけど
知ってしまうと二度と知らなかった時には
戻れない、でも生きていかないと…みたいな

「闇の中へ」
アラスジを書くと「ワームホールの中の人を助けに行くボランティア」
というどうしようもなくクダラナイ表現になってしまうんだけど
少しでも内容に触れると、作品の面白みを奪ってしまう
そんなギリギリな作品です。

「愛撫」
絵画と同じ情景を完璧に模倣する。ただそれだけのオハナシ
本編とはあまり絡まないんだけど、
ポリスである間に飲む向精神薬ってネタは
他でも読んだ気がします。何だったっけ?

「道徳的ウイルス学者」
不特定多数の異性との性交を禁止する為の「道徳的ウィルス」が
作り出した世界とは?
オチを秀逸と感じるか脱力するかは読み手次第かも…

「位相夢」
前の短編集の「ぼくになることを」でのシチュエーションは、
産まれた時から擬似脳と共に生活してきたという前提でしたが
この位相夢は、普通の人間がスキャンを行なう事で
機械の身体に移行する時のオハナシです。
グレイズナーが出てくるのでディアスポラ系でしょう。

「チェルノブイリの聖母」
話の展開はまずまずだけど正直良くわかんなかった。
イコンとアイコンのコジツケなのかな?

「ボーダー・ガード」
量子サッカーというスポーツ的なエントロピーの奪い合いが描かれているのですが
頭の中で想像するのにちょっと困難が伴いました。
が、緻密に書かれた量子サッカーは物語的には全くのオマケです。
何でこの人はこんなに夢中になって量子サッカーを描いたんだろう…
スポコン的なモノを描きたかったんだろうか…
ちなみに、この量子サッカーはWebで公開されています。
http://gregegan.customer.netspace.net.au/BORDER/Soccer/Soccer.html
あ、ほんで、「ぼくになることを」の宝石の始祖が出てきます。
ってワケで順列都市、ディアスポラ系列ですね。

「血をわけた姉妹」
この話、どっかで読んだ事ある…
というか、これまた何一つ説明出来ない話ですね…
全てがネタバレに繋がっちゃう…
イントロはホラーかと思いましたが、最終的には
いつものイーガン節になりました。
ネタ的には超平凡なんだけど面白かったです。
SFもネタだけじゃないよね。

「しあわせの理由」
正直、最初はつまんなかった…
アルジャーノンというよりも、透明人間(カーペンターの映画)な
重みに欠けた感がありました。
が、後半というかオチが非常に良かったです。
「しあわせの理由」という題名も良かったです。
原題は「reasons to be cheerful」なのですが
「よろこびの理由」とするよりも
「しあわせの理由」の方がずっと良いです。
タイトル一つとってもセンスが出るよね…
というか、そうだよねって素直に納得できるオチが
切なかったけど良かったです。

結局「祈りの海」とは違い、「位相夢」がグレイズナー絡みで
後期の長編に繋がっているカンジで、「ボーダー・ガード」は
長編への布石ではありますが「ぼくになることを」の
世界観を補完する位置付けにしかなっていませんでした。

なので、単純に短編集として楽しんでも損をした気分にはなりません。
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祈りの海(ハヤカワ文庫)グレッグ・イーガン

2007年05月08日 | 読んでみました
「ひとりっ子」を読みたくて、読み始めました。

正確には「グリュフォンの卵」の口直しをしたくて
本屋で平積みされていた短編集を眺めていた時に
イーガンさんの「ひとりっ子」が目に付いたので
購入したのですが、第三短編集だった事に気づいたため
急遽、第一短編集である本書を購入した次第でゴザイマス。

祈りの海

グリュフォンの口直しにはなりましたが
満足出来たか?というとイマイチ感が…

どの作品も面白いんだけど、単体で十二分に評価出来るんだけど
「万物理論」で感じた圧倒的な何か、には欠けます。
順列都市以前の作品だからしょうがないんだけど。

「順列都市」の習作的作品というか、関連作が
数作見られるカンジですね。
っていうか、最初に読んだ作品が「万物理論」である立場としては
全てのイーガン作品が習作にしか見えないのですが…

で、全体としては「これぞグレッグ・イーガン」という紹介が出来る程には
作者の現在の能力に比すると、作品全体のレベルが高くないし

「これがグレッグ・イーガン」という紹介も可能といえば可能なんだけど
真骨頂とも言える量子系が含まれていないので、
イーガン語るならこれを読め、的な紹介も出来ないし

どれが好きだったのか?と問われたら「イェユーカ」が好みかな。
ナニゲに一番SF風味の薄い作品ですが…

しかし、この短編集が後の作品群に繋がる事だけは確かなので
イーガンマップを作るためのメモはとっておきます
相変わらず自分のためのメモでスマヌ

「貸金庫」
毎日『自分』が変わる人生を描いた作品。
順列都市系列とこじつけられない事も無いかも。

「キューティ」
子供に恵まれない夫婦(というか夫)が
遺伝子形質から仮想生物(ロボット?サイボーグ?)
を購入するオハナシ。
アラスジ的には、もっと悩み深いんだけど
マップ的には順列都市系列。「ひとりっ子」の原型か?

「ぼくになることを」
純粋な順列都市系列。
銃夢の「脳無し」はマンマこの世界観がモチーフですね。
どっちが先なのかは知らないんだけど。

「繭」
ウィルスだけではなく、脳内物質も制御可能な完璧な胎盤とは
みたいなカンジ。万物理論系列に当るのかな。

「百光年ダイアリー」
ニワトリが先かタマゴが先か。
「あなたの人生の物語」もモチーフ的には似てるよね
あ、あと、この通信のアイデアってシンギュラリティスカイで
使われてた気がするんだけど…
もちろんイーガン先生のが先に発表しているのですが。

「誘拐」
妻が誘拐されたと言う「映話」は、現実なのか非現実なのか。
順列都市系列です。って言っちゃうとネタバレ?

「放浪者の軌道」
無宗教という宗教、という表現は淡白すぎか
もしかしたら万物理論に繋がるトコロがあるのかも。

「ミトコンドリア・イヴ」
ストーリーよりも、アインシュタイン-ポドルスキー-ローゼン相関関係
という理論に惹かれました。
本当にあるんだねぇ…

「無限の暗殺者」
特異点ってアレだよね。最近だと電王。
どの時間軸も影響を受けないという。
特異点の話としては「ひとりっ子」に繋がるのか?

「イェユーカ」
モラトリアムとボランティアの境目は自己犠牲なんだと思う

「祈りの海」
宗教系のオハナシと言い切ってしまっていいのだろうか?
「あなたの人生の物語」の中の『地獄とは神の不在なり』とは
対極に位置するオハナシだと思う…

そんなカンジの作品集でした。
毎度の事ながら感想のみで
小説の内容が不明でスマヌ

あ、ほんで結局この短編集は
僕みたいにイーガンの実力を思い知っている人が
イーガンの素を知るための本かと。
入門書としてはイマイチかも。
むしろファン向けってカンジで。
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グリュフォンの卵(ハヤカワ文庫)マイクル・スワンウィック

2007年05月05日 | 読んでみました
読みにくい…

訳がアレなのか、元々の文章がアレなのか
そもそも翻訳向きではない文章なのかは判りませんが
アレでした…

グリュフォンの卵

特に「騙された!」って気はしてないのですが、
帯のアオリに惹かれて買っちゃったっつーのが何だかな…

いや、
「いま最も注目されるSF作家の名品の数々をご堪能あれ!」
という表紙側のアオリに罪は無いんですよ。

何故なら日常的に小説を購入している人なら
この帯の情報量がゼロである=無視して良い
という事を無意識で判断可能だから。

が、裏表紙側の帯が犯罪級。というか釣られた…
「あなたの人生の物語 絶賛発売中」って…
いや~、つい買っちゃいました。

だって、久々に興奮するSF作家に出会って
新しい作家さんを探すかな、という気分が増しているトコロに
興奮させられた小説が帯に載っているとなると
買わざるを得ないっつーか
つか、買うよね。こんな帯ついてたら。反射で買うよね?

で、アレでした…
駄目っつーか、ニガテなんですよ…
単語だけSF風の作品って…

一冊前に読んだ「あなたの人生の物語」も確かに
「単語だけSF」なSFの類なのですが、
文章が上手かったので、小説として楽しめたし
論理展開に手抜きが無かったのでSFとしても
OKだったのですが、この小説には両方無いし
アイデア的にもアレレなカンジという…

私的SF面白ポイントである
・文章力
・SF力(論理展開編)
・SF力(アイデア編)
のどれか一つでもOKが出れば、もう少し読み易かったのに…

この短編集に載っている作品の中には
ヒューゴー賞受賞作も、スタージョン賞受賞作も
入っているらしいので、
人によっては面白く感じるのかもしれませんが
どうしても乗りきれませんでした…

どれかオススメって言われると、
最初の作品の「ギヌンガガップ」が
アイデア的にギリOKってカンジかな…
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あなたの人生の物語(ハヤカワ文庫)テッド・チャン

2007年05月04日 | 読んでみました
かなりイマサラなのですが、面白すぎました…

この作家さんは、「あなたの人生の物語」以外に作品が出ていないのが
非常に残念です…

最初の一遍「バビロンの塔」は、完全に物語系のSFというか
理論ではなく事象で描くタイプの上に、話が上手いのでガッツリと
ハートを掴まれてしまいました。

あなたの人生の物語

最後まで読んでも、決して論理系というか理論系というか
基礎知識が無いと理解の出来ない系のオハナシは無かったハズなのに、
読後の印象としては、物語系SFのイメージよりも理論系SFのイメージの方が
より強く残っているという、不思議な作家さんでした。

多分、半数程度の作品のSF的なアプローチの方針が
何となくグレッグ・イーガンに似ていた気がしたのと
「理解」「ゼロで割る」「あなたの人生の物語」「七十二文字」の
SF的な論理展開が徹底していた事が、
理論系SF作家なイメージを強くした気がします。

という風に、SF的なアプローチが文章力を上回った作家さん
であるかのように錯覚してしまいますが、
この作家さんの本質的な良さは文章の上手さだと思います。

ウチのように、小説の本文に触れずに感想だけで押し切っちゃう
書評というより感想文タイプのBlogには、
文章力の上手さが魅力のSF作品は鬼門ですね…
だって、本文より感想の方が面白くなるワケないんだもん…

SFのネタ的にも表題作の「あなたの人生の物語」が、
一番ステレオタイプなSFだったのと
「理解」のオチがイマイチ嬉しくなかったくらいで、
かなり楽しめました。
つか、物語的にはどれも良い出来でした。

というワケで、とにかく読んでみてください。
コメント (2)
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