映画なんて大嫌い!

 ~映画に憑依された狂人による、只々、空虚な拙文です…。 ストーリーなんて糞っ喰らえ!

Wの悲劇 (2)

2009年02月23日 |  Wの悲劇
     ■『Wの悲劇』 (1984年/角川春樹事務所) 澤井信一郎 監督


 主題歌“♪Woman”の歌詞は、当初、映画とは全く関係のないものと思っていました。一途な恋心が切なく綴られた内容だったからです。ところが、繰り返し作品を見て行くうちに、あるカットが途轍もなく好きになり、そこでの静香(薬師丸ひろ子)の心境と主題歌の歌詞が徐々に重なって思えて来たのです。それは、昭夫(世良正則)がスキャンダルの事で静香を激しく責め立てる夜の公園のシーンにありました。歩き去って行く昭夫の背中へ静香が「見に来てね!」と叫ぶ、シーン最後のカットです。この静香のセリフが、私には「行かないで!」に聞こえてしまいます。もしも、かおり(高木美保)や君子(志方亜紀子)ならば、きっと「行かないで!」と感情の赴くままに叫んでいたのだろうなぁ…と思えば思うほど切なく、あの夜、昭夫が静香を黙って包んでくれていたならば、この歌の歌詞のようになっていたのかもなぁ…と思うとまた切なくなって来てしまうのです。

          

 少し詳しく説明して置きます。あの「見に来てね!」のカットは、かなり重要な役割を果たすものでした。あのカットを境に、恋愛の潮目がはっきりと変化して行きます。あの直前、公園のブランコの前で二人が一悶着するカット迄は、昭夫が静香を追いかける展開になっていました。実際に世良さんが薬師丸さんを追い掛ける、或いは、逆に世良さんから薬師丸さんが走り去る描写が何度か繰り返されています。ところが、あのカットを境に、静香が昭夫を追う展開へと、恋愛の潮目が変化して行きました。その後、初舞台を済ませた静香が階段を下りて来る場面では、昭夫を発見した静香が嬉しそうな表情で階段を下りて来るのに対して、昭夫の方は静香との別れのサインを手に持っています。最後の場面でも、昭夫との思い出の家を訪ねるのは静香の方からでした。…といった具合に、恋愛のベクトルが逆方向へ働き始めた瞬間を捉えたのが、正に、あの「見に来てね!」のカットだった訳です。私が澤井監督を尊敬して止まないのは、あのセリフでしっかりとカットを割り、薬師丸さんを画面左からフレーム・インさせられる手腕にあります。勢い良く画面へ飛び込んで来る静香の様子からは、昭夫への感情が溢れ出てきそうでした。しかも、憎いことに、そこでは静香にそれをグッと飲み込ませています。「見に来てね!」の前に、グッと…。初めて気付いた恋心に素直になれないもどかしさは、見ていてとっても切ないものがありました。何せ、羽鳥翔(三田佳子)へのプロンプによって、それとなく静香の心の内は明かされていた訳ですから…。今のところ、私にとっての『Wの悲劇』は、このカットが全てです…。


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