映画なんて大嫌い!

 ~映画に憑依された狂人による、只々、空虚な拙文です…。 ストーリーなんて糞っ喰らえ!

Wの悲劇 ~映画の完全読解 (4)

2011年12月14日 |  Wの悲劇
     ■『Wの悲劇』 (1984年/角川春樹事務所) 澤井信一郎 監督


   製作=角川春樹事務所
   配給=東映
   公開=1984年12月15日、東宝洋画系
   108分、カラー、ワイド

   製作 : 角川春樹
   プロデューサー : 黒澤満、伊藤亮爾、瀬戸恒雄
   監督 : 澤井信一郎
   脚本 : 荒井晴彦、澤井信一郎
   原作 : 夏樹静子
   撮影 : 仙元誠三
   照明 : 渡辺三雄
   音楽 : 久石譲
   音楽プロデューサー : 高桑忠男、石川光
   美術 : 桑名忠之
   編集 : 西東清明
   録音 : 橋本文雄
   助監督 : 藤沢勇夫
   舞台監修 : 蜷川幸雄
   舞台美術 : 妹尾河童
   舞台照明 : 原田保

    配役
   三田静香 : 薬師丸ひろ子
   森口昭夫 : 世良公則
   羽鳥翔 : 三田佳子
   五代淳 : 三田村邦彦
   菊地かおり : 高木美保
   宮下君子 : 志方亜紀子
   堂原良造 : 仲谷昇
   安部幸雄(演出家) : 蜷川幸雄
   嶺田秀夫 : 清水紘治
   安恵千恵子 : 南美江
   木内嘉一 : 草薙幸二郎
   水原健 : 堀越大史
   城田公二 :西田健
   小谷光枝 : 香野百合子
   佐島重吉 : 日野道夫
   林トシ子 : 野中マリ子
   居酒屋女将 : 絵沢萠子



〔13〕
●暗い風景(大阪)
 ※時間が判然としない。一見、夜に思える。まだ夜も明けない早朝にしては車の通りやネオンがうるさい。やはり夜だろうか…。昭夫は記者会見をテレビで見たというから、やはり早朝なのだろう…(不明)。
→《街の中を走行する新幹線》
・警笛、鉄道の音(ノイズ)。
●新幹線
→《ぼんやり外を眺める静香》
 ※皆さんはグリーン車なのか、静香だけが座っている。
・画面右からフレームinした日高が、静香の左肩をトントンと叩く。
 ※日高の背広の色が、舞台裏で翔がかおりを追い落としたシーンの時と違うので、やはり別の日だろう。
・驚く静香。
 ※痛々しいほど、怯えている様子が出ている。
・日高は、本当のことを言いなさいと静香へアドバイスし、画面右へフレームout。

●記者会見場(劇団の稽古場)
→《男の背中》
・ざわついた音(ノイズ)。
・背中が前に倒れ、背中越しに正面を向いた人々。
 ※マイクをセッティングしていたことが、直ぐに分かる。
・背中の男が画面左へフレームoutすると、会議テーブルの上にセッティングされたマイクの束。
・その背後にしゃがみ込むカメラマンたち。
 ※カメラマンたちは斜に座らせ、カメラを構える姿に立体感を持たせている。正面に構える姿勢では、遠近感がないのでカメラマンだと認識し難いからだ。
・シャッターを切る音。
 ※フィルムをセッティング中だ。
→《複数台のTVカメラ、背後に天窓》
 ※天窓が明るいので昼間のようにも思えるが、外灯の灯りのようにも見える。稽古場のカーテンが、締め切ったままなので、やはり夜だろうか…。
・手前のカメラが軽く左にパンしてみせる。
 ※TVカメラと認識し易いように、動かしてみたと思われる。一応、入口から会見席までをピント合わせしていた様子だ。
→《芸能レポーター》
・中央に、梨元勝と福岡翼が雑談。
 ※現役のレポーターだ。
・ノイズ。
→《芸能レポーター》
・中央に、須藤甚一郎と藤田恵子が雑談。
 ※当時の現役レポーターだ。
・ノイズ。
→《複数人のカメラマン》
・シャッターを切る。
 ※《会見場の正面》→《後列のTVカメラ》→《中列のレポーター》→《前列のカメラマン》、といった具合に後ろから前へ順次写していき、次のカットで出入口へ突進して行く感じだ。
・シャッター音(ノイズ)。
→《手すり越しの、稽古場の全景(二階からの俯瞰)》
・画面右奥の出入口から複数人入ってくると、カメラマンたちが一斉にそちらへ突進。
・「来た、来た」という声。
・関係者は会見席へ(カメラは、手すり越しに右へ移動、左へパン)。
・シャッター音。
・フラッシュ。
・日高(プロデューサー)の挨拶。
・それを遮るように、
梨元レポーター:三田さんちょっと顔を上げてくれませんかね。
→《カメラマン越しの、うつむく静香》
・静香がゆっくりと顔を上げると同時に、フラッシュが焚かれる。
 ※初めてのマスコミ体験に驚きを隠せない表情。さすがは薬師丸さん、目を瞑りません。
・シャッター音。
→《画面手前から、静香の右耳~シャッターを切るカメラマン~芸能レポーター~TVカメラ》
 ※シャッター音とフラッシュ繋ぎ。静香の赤いイヤリングは、このカットの為だったりするかも…。
→《戸惑う静香》
 ※シャッター音とフラッシュ繋ぎ。 
・どこを見てよいか分からない静香。
・日高が挨拶を続ける(off)。
→《カメラマンたちの後頭部越しに、画面左から、立って話す日高~静香~タバコを吸う安部(演出家)-A》
 ※消えかかるシャッター音と一回だけ光るフラッシュ、それと日高のセリフで繋いでいる。
・レポーター陣の顔色を恐る恐る伺いながら、出演者の交代を説明する日高。
 ※芸能界とマスコミの利害関係が透けて見える演出だ。
→《質問する梨元レポーター-B》
・レポーター陣と衝突する安部(演出家)の声(off)。
・声の方へ顔を向ける梨元レポーター。
 ※梨元が前、その後ろに福岡が座っている。
→《カメラマンたちの後頭部越しに、画面左から、立ったまま安部を見る日高~静香~指を差して反論する安部(演出家)-A》
 ※安部の反論と梨元の目線繋ぎ。
・反論し返すレポーターたちの声(off)。
→《質問する福岡レポーター-B》
 ※レポーターたちの声繋ぎ。ここでの福岡の質問は、次のカットの冒頭に食い込む。梨元は振り返らずに福岡へマイクを向けるが、その仕草が慣れている。この二人は、質問の仕方も普段のままでリアリティーが出ていた。
→《カメラマンたちの後頭部越しに、画面左から、体を起こす日高~静香~タバコを吸いながら質問に答える安部(演出家)-A》
 ※福岡の質問と目線繋ぎ。
・安部の答えに納得して座る日高。
・非難するレポーター陣の声(off)。
→《藤田レポーターと須藤レポーター-C》
 ※レポーター陣の声繋ぎ。藤田の後ろに須藤。
・静香に質問する須藤レポーター。
 ※須藤の質問は、次のカットへ食い込む。
→《うつむく静香-D》
 ※須藤の質問繋ぎ。
・どうしていいか分からない表情。
須藤レポーター(off):行為中だったんでしょう。
 ※須藤は、梨元や福岡に比べるとやや硬かった感がある。
・ふと目を上げる静香。
 ※ここで、静香がホテルでの出来事を思い出した印象だった。
→《堂原と知り合った切っ掛けを質問する藤田レポーター-C》
 ※ここで質問する藤田の質問は、次のカットの冒頭に食い込む。
→《質問に答え始める静香-D》
 ※藤田の質問と静香の目線繋ぎ。ここで静香が語り始める内容は、翔が静香に語っていたことだ。ここでの、覚えたてのセリフをたどたどしく喋るような様子は、このあと感情が入ってからの喋りと対比させている。この時点では、まだ静香は女優ではない。
→《質問する梨元レポーター-E》
 ※先程までは、福岡と梨元が同じ構図を共有していたが、ここからは独立する。須藤と藤田はそのままだ。
→《梨元レポーターへパトロンの意味を問う静香-D》
 ※梨元の目線繋ぎ。
・梨元レポーターへ目線を向ける静香。
静香:パトロンって?
梨元レポーター:だから例えば…、
→《パトロンを説明する梨元レポーター-E》
 ※静香の目線と梨元の説明繋ぎ。
梨元レポーター:…最近の言葉で言えば愛人バンクですよ。
→《首を振って否定する静香-D》
 ※梨元と静香の目線繋ぎ。
・堂原とのエピソードをたどたどしく語る静香。
 ※翔がホテルで語っていたことを、必死で思い出している様子が伺える。この時点では、まだ翔の代弁をしているに過ぎない。
福岡レポーター(off):三田さん、
・静香が福岡レポーターの方へ目線をやる。
→《金銭の援助を問う福岡レポーター-F》
 ※福岡の質問と静香の目線繋ぎ。
福岡レポーター:月々お小遣いを貰ったことはないんです…
→《質問に答える静香-D》
福岡レポーター(off):…か?
静香:いちっ…二度あります。
 ※「いちっ…」と言い掛けたのは、翔から貰ったお小遣いのことだろう。翔が語っていたことを思い出そうとしているうちに、つい出掛かった言葉だ。また、翔ならどう演じるだろうという思いでいっぱいだったのかも知れない。
・静香は落とした目を前に向けて、真っ直ぐの目で、
静香:私、堂原さんを愛してたんです。
 ※翔が堂原を愛していたのは事実。だから、この言葉は確信を持って言っている。
・フラッシュが焚かれ、シャッター音が鳴る。
→《驚いた様子の藤田レポーター-C》
 ※フラッシュとシャッター音繋ぎ。
・年の差を問う須藤レポーター。
須藤レポーター:…離れてますよ…
→《目を伏せる静香-D》
須藤レポーター(off):…ね?
 ※須藤の質問と目線繋ぎ。
静香:愛してしまったんです。
・涙ぐむ静香。
 ※五代との経験を語るようだ。
→《結婚を問う藤田レポーター-C》
藤田レポーター:結婚は考えたんですか?
→《うつむく静香-D》
静香:ありません。
 ※これも五代とのことを思い浮かべてのように思える。ただ、このセリフは繋がらない。「考えたことはなかったんですか?」という質問を、静香が想定してセリフを丸覚えしていたという設定なのか、それとも、単に撮影上のミスか…。
→《質問を浴びせる藤田レポーター-C》
藤田レポーター:二十歳くらいの女性だと、愛する男性と結婚したいって思うのが、とっても自然な気持ちだと思んですけど…
→《うつむく静香-D》
藤田レポーター(off):…いかがですか?
 ※藤田の質問と目線繋ぎ。
・静香は虚ろな目線を上げて、
静香:奥様がお有りでしたし…。
→《尚も浴びせる藤田レポーター-C》
藤田レポーター:別れて下さいとは、仰らなかったんですか?
 ※唯一女性のレポーターである藤田と静香の図は、ただの女と女優の図だ。質問に出てくる奥様も、ただの女だ。

 ※ここまでのカットバックは、
A→B→A→B→A→C→D→C→D→E→D→E→D→F→D→C→D→C→D→C→D→C

→《カメラマン越しに、画面左から、日高~静香~安部(演出家)》
 ※藤田の目線繋ぎ。見る側の視線が静香に集中するように、左端のマイクの背を高くし、右の安部には手で顔を隠すような仕草をさせている。
静香:ありません。
 ※これもセリフの流れとしては繋がらない。
・涙ぐむ静香。
 ※ここから、女優に入っていく。
静香:たまに会って、何時間かいられるだけで幸せでした。
レポーター陣(off):ほら、やっぱり愛人じゃないですか、そういうの愛人って言うんですよ。
・レポーターの方を見る日高。
・カメラは、ゆっくり前へ移動。
静香:食事も割り勘にして…。
 ※この時に、スイッチが入ったか…。最後のジュースとハンバーガーの話は翔の話にはなかったものだ。翔を参考に、また五代への思いも含めて、静香なりに女優を演じ切った様子だ。最初のラブホテルのシーンで登場した『俳優修業(上)(下)』、スタニスラフスキー・システムの実践だ。つまり、嘘の涙。演技の涙だ。ここでの泣きの演技は、ラストシーンとの対比と考えて良いだろう。
・一斉にフラッシュが焚かれる。
・シャッター音。
・日高の右腕が画面左からフレームinする。
日高:それじゃ、まぁ、このあたりで勘弁して下さい。今日は皆さんどうも…
→《手すりの格子越し、稽古場の全景(二階からの俯瞰)》
日高:…ありがとうございました。
・日高と安部が静香を抱え上げ、その周りをカメラマンが取り囲み、一塊となった集団が雪崩れるように出て行く。
 ※見る側の視線を、手すりと格子で絞っている。

 ※静香にとって記者会見とは、女優として世間に顔を晒す最初だ。この顔を晒す行為と、この後サングラスを掛ける行為は、女優と私生活(ただの女)を分かつものである。サングラスについては、既に翔の登場のシーンで示されている。会見でカメラに向きあう静香は、世間と向き合う図であった。本番舞台で、翔の足元に照らされた光の線や、翔が語った「お客様に道徳教える為に芝居やってる訳じゃないでしょ、私生活と舞台とどんな関係があるの…」と同様の一線だ。

●メガネ店
→《鏡越しにサングラスを掛ける静香(アップ)》
・黒のサングラス。
 ※フィフティーズのファッションには、黒のサングラスが定番。
 ※値札と背後にサングラスが陳列されているので、お店だと分かる。
・勢いよくサングラスを外し、別のサングラスへ掛けかえる静香。
 ※定番ファッションを捨てて、翔の物に似たサングラスを選ぶ。自分を見失っている静香の様子が分かる。因みに、値札には13,500円とあった。

●静香のアパートの外(夜)
→《坂道を登ってくるサングラス姿の静香》
・白いカーディガンを羽織っている。
・アパートの階段に差し掛かる(カメラは、静香を追い、やや後退しながら右へパン)。
・画面右から階段に腰掛けた昭夫がフレームin。
・はらりと白いカーディガンが片袖はずれる。
・静香は後退り、今来た道を走り去っていく(カメラは、静香を追い左へパン)。
・昭夫は画面右へフレームout。
・電信柱の前で、白いカーディガンが静香の肩から落ちる(カメラは、左へ移動しながら静香を追い右へパン)。
 ※見る側の目線を、そのカーディガンに釘付ける。
昭夫:待てよ!
・静香の後を追いかけて画面右からフレームin。
 ※昭夫には、電信柱と石柱に手を触れさせている。そこには、二人が結ばれた夜の、思い出がある。
・坂道を正面に据えてカメラは止まる。
・静香と昭夫は、公園内を左の方へ曲がり。
●公園(夜)
→《ブランコ越し、奥の方から静香、続いて昭夫が走ってくる》
 ※静香が走るアクション繋ぎ。
・ブランコのところで追いつき、静香のカバンを引っ掴んだ昭夫(カメラは、やや上へパン)。
 ※画面右奥にアパート、左奥に街灯があり、二人が立つ位置を頂点にVの字の構図が出来ている。
・ブランコの揺れる音。
静香:嫌いになったでしょ。
昭夫:ばかやろう!!
・静香の左頬を叩く昭夫。
・その時、サングラスが飛ぶ。
 ※サングラスが必要な生活(女優の生き方)を、昭夫が叩き落とした瞬間だ。サングラスは、うまく飛ぶように工夫してあったのだろう。このカットの時だけ、大き目のサングラスだったのかもしれない。
・静香を叩いた手を見つめる昭夫。
 ※衝動的だったことが分かる。叩いた自分に驚いている様子だ。昭夫にとっては、以前の自分を見るようだったのだろうか。思わず叩いたのも、その所為かもしれない。
静香:顔、ぶたないで…私、女優なんだから。
 ※サングラスは翔が初めて登場するシーンで示されていたように、女優と私生活(ただの女)を分けるシンボル。サングラスの存在によって身も心も女優に変わる。昭夫に叩かれ、無理矢理サングラスが外された時、静香は女優を主張する。昭夫が居酒屋で語った、もうひとりの自分だ。
昭夫:俺は女優なんかに惚れたんじゃねぇや……ただの女に惚れたんだよ。
静香:でも、女優になっちゃったのよ。
 ※もう世間に顔を晒してしまった以上、後戻りはできない。自分の中のもう一人の自分が、表に晒されてしまった訳だ。
昭夫:芝居なんてやめてよかったよ…。
 ・驚いた表情の静香。
静香:友達ってあなたの事だったの…。
 ※ここで初めて、昭夫が友人の死を切っ掛けに役者を挫折していた事を知る。
・サングラスを拾う昭夫。
昭夫:割れてないけどさ…
・そう言って静香のお腹に突き付けて渡す。
昭夫:似合わねえよ。
 ※サングラスを掛けるような生活(女優)は、君には似合わないという意味だ。
・画面奥へ歩き出す昭夫。
 ※昭夫にとって、今の静香は昔の自分。一度捨てたもう一人の自分だ。だから静香の呼び掛けにも振り返らない。
・振り返って昭夫を追う静香。
 ※静香が、初めて昭夫を追いかける。
→《画面左を手前へ歩いてくる昭夫、中央で立ち止まる静香、背後に外灯》
 ※静香のアクション繋ぎ。
・歩き去って行く昭夫を、強く見つめ、
 ※静香が、初めて昭夫を見つめるシーンだ。飾らない自分を好いてくれた、たった一人の男だったことに気付く。
静香:見に来てね、私の芝居…見に来てね!
 ※まるで昭夫を引き留めようとするようなセリフだ。あなたの為に演じる!あなたの為に…。なんと慎ましい。この作品中、最高のセリフと言えるだろう。泣ける!ラストシーンの二人の会話への伏線にもなっていた。
・歩き去る昭夫の下半身が、画面左へフレームout。
・静香はゆっくりとサングラスを掛け直す。
 ※女優に戻ったのだ。

 ※2台のブランコの内4本の鉄鎖が、二人の背後に写り込んでいる。この内、左の2本はその左側に照明が当り、昭夫の顔と静香の右腕を照らすものと同じものだろう。一方、右の2本はその右側に照明が当てられている。これは、静香の顔と左腕を照らすものと同じ照明だろう。役者さんたちが少しでもずれたら光の輪郭が出ないので、入念なリハーサルが行なわれたと思われる。夜の暗い背景をそのままに、鉄鎖の光や二人の輪郭を浮き彫りにしてみせる照明は、見事な技術だ。このシーンは照明技師さんたちのものだ。

●ラウンジ(夜)…1シーン1カット
→《青く光るグラス越し、窓際のテーブルに座る五代(カメラは、ゆっくり右へ移動)》
・ラウンジ内に流れるピアノ演奏。
 ※実際に演奏している設定かどうかは分からないが、ピアノの演奏が流れるだけで、ちょっとした高級感が出る。
・テーブルには橙のガーベラが1本。
 ※ガーベラの花言葉は“我慢強さ”。我慢強く耐えているのは、なにも今夜の翔ばかりではない。向かいに座る五代はずっと耐えている印象だ。
・画面手前には語らい合う男女。
 ※夜のホテルのラウンジなので、お客同士がプライベートを干渉し合わない雰囲気が出ている。密会の場。この後、顔、ガーベラ、椅子の背もたれ等が画面手前を横切って行く。
・翔を誘う五代。
翔(off):だって私、喪中だもん。
・タバコを銜える五代。
翔:あの人、私の上で死んだのよ。
・ライターを右手に顔を上げる五代。
・カメラは、右に移動しながら、ゆっくりと左へパンしていく。
・画面左から、翔がフレームinしてくる。翔の手にはブランデーグラス。
 ※ブランデーグラスは、冒頭のラブホテルのシーンと、静香が翔に説得されるホテルの部屋のシーンでも出てきた。大人の恋を意味していたのだろうか…。
翔:記者会見見てて、悔しかったわ…。
・画面右へ、五代がフレームoutする。
・カメラは、左側に翔、右側にテーブルのガーベラを維持したまま、移動し続ける。
・翔が、静香への嫉妬や堂原への謝罪を口にする。
・画面右から五代がフレームinしてくる。
・翔を責める五代。
・テーブルに身を乗り出す翔。
翔:舞台に立てるなら、役者はなんだってやるわよ。
 ※役者としての気構え。事実、何でもやってきたという自負の表れだ。
五代:…菊池かおりは、どうなるんだよ…あんたと三田静香が殺したようなものじゃないか。
 ※五代のかおりへの同情心。五代が常識的な感覚を持ち合わせていることが分かる。この後、かおりは傷害事件まで起こす。そこまで、彼女を追い込んだのは、やはり翔と静香だ。この罪は、重い。この映画をハッピーエンドに終わらせていないのも、かおりの件があるからだろう。
・画面手前のガーベラが中央に来た時、カメラが止まる。
・翔は、窓の外を眺めながら、
翔:浮かんだり沈んだり、沈んだり浮かんだり…私は絶対に沈みたくないわ。
 ※心底、女優だ。彼女に罪悪感が無いことへの違和感は、もはやない。ホテルのシーンや静香の退所を阻止したシーンで、さんざん女優魂を見せ付けられているからだ。

 ※このシーンは、奥に窓ガラスがあるので、カメラの移動撮影に当たっては、カメラが移らないようにる必要があった。女性の顔が画面いっぱいに横切る箇所がそのタイミングに当たったのだろうか…。照明も、ガラスに映る夜景と、室内の反射を同時に演出するのは大変だったと思われる。
 (※ここで日替わり)


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1 コメント

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翔が静かに嫉妬 (Françoise Arneur)
2022-12-17 11:06:59
翔は主役登用という餌で静香に身代わりを頼み、自己の女優生命を守ろうとしたが、結果的にこれが誤算だった。それによって「愛人を若い女に奪われ捨てられた」という構図が出来上がってしまった。記者会見での静香の見事な演技も相まって、指示した翔自身本当に堂島を寝取られたような錯覚に陥り、迂闊にも堂島に事の真相を明かしてしまう。
悲しい女の性だ。
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