どさ

詩を投稿しはじめました。
そのうち、紀行文も予定しています。
落ち着きに欠けたものが多くなりますがそれしかありません。

男ジャム(その2)

2019-12-09 13:00:48 | ドサ日記

男ジャム(その2)(宗谷支庁:サロベツ原野) (2007年8月17日)

 

Ⅱ 女もすなるジャム造りといふものを、男もしてみんとてするなり

 

人や猿はみな生きるため木の実を摘んだ。さあ、木の実を摘もう。猿への原点の旅。見たことのない木の実もあったが、これ食って原野の中でのたうち回る=命に差し障るなので、まずは見知ったハマナスの実を集めた(ここが猿とわたくしの違うところ)。

小一時間もすると、ヘルメットが一杯となる。“これ、ジャムにするぐらいなら、生でも食べられるだろう?”と一個噛んでみる。“スカッ”あれ、情けない噛み心地とジャリとした歯当たり。このハマナスの実、可食部は極々わずかで、中には堅~い種。

“あーれま、種取りが必要だ~”かなり面倒な作業となることが分かった。しかし、ヘルメット一杯まで取ってしまったので捨てたくはない。それでは、ジャム造りをはじめよう。

 

ここまで一時間

 

ここまで二時間半

 

 

刻んでいる間、どんどん腹が減り、“別にここまでしなくとも、パンと塩辛でいいじゃん”と日和りかけるが、少々意固地になってジャム作り。

 

 刻み終わって、水と砂糖で見込むと、おーや、キラキラと光り出した。

 

ここまで三時間 はらへんたな~

 

さて、一仕事終えた。そよ風が心地よい そして、ときおり光りがさしこみ、この愚かしき男ジャム工房さえも照し出してくれる。では、ジャムが冷えるまで、しばしゴロン。低い空を眺める。

 

草という草がひとつのいろに向かう

空はまだ低く、空はさらに湿り、逓減する呼吸

だが どうなのだろう ときおり、この暗さを切り裂き、

光の縞が走る

瞑黙の始まりから果てに向け 

ほら どうなのだろう ひかりが自分を追い越していく

- -なんという早さ、なんという心地よい疲れ- -

 

こんな、意味不明のメモが残っているときは、だいたいもの凄―く眠かったとき。

実際に少し寝りこんだ。さて、この半時ほどの眠りは、故郷の丘で懐かしい女性に大事なものを渡すなどという分かりやすい夢ではなく、教室に犬がいて、給食が延期になるという不可解な夢を残して去っていった。これは悪夢なのか吉夢なのかさっぱり分からない。

夢は、その人の潜在意識が現れる事が多いというが、果たして原野に包まれて眠るという都会人の憧れを、今まさに達成している自分の潜在意識が犬と給食なのだろうか。

 

それはそうと、もう昼の10時、ともかく、朝飯、朝飯。そして、パン一個取り出し、

ジャムをたっぷりつけて「いただきまーす」。“おう、いいぞ、いいぞ”ハマナスの香りをパンの懐かしいような香りが包み、疲れた体に一口ごと甘みが染みこむ。また一口、どんどん染みこむ、また一口、ぐぐぅーと染みこむ。もう一口、ぐぇ~“甘すぎるな~”

自分は、基本的に辛党、甘い物は苦手。確かに、ジャムは出来たが、始めて作ったジャムなので砂糖の加減が分からないし、大体このハマナスには酸味という物が全くない。色つき綿菓子を溶かしたようなコテコテの甘さに仕上がってしまった。

「うーん、このジャムパンで今日一日とは」と思わずまたがっかりする。甘い物が苦手なのに加え、甘い物だけ食べると必ずひどい胸焼けを起こすからだ。そのとき、みどりの原野でまた紅く光るものがある。

“ここよ、ここよ”

おう、あなたは“フランボワーズ”(きいちご)ではないか!

 さきほど、ハマナスを摘んでいる足下に、きちごも群生していたのだが、一個摘んで食べてみると、あの腐れクエン酸と同じ味がして「こーのきいちごめが!」と、どんどん踏みつぶして歩いていたのだ。しかし、人は本当に現金なものです。この甘重いジャムを救うのはあなたしかいない。さあ、せっせと摘んで、ジャム造り第2ラウンド。

{ミス・フランボワーズ、どうかぼくのもとにきておくれ}

 

わたしがフランボワーズ。サロベツの娘にして、クエン酸の母

 

おお、めっこし採れたでや

 

煮込みます

 

(こんなことをしながら、真昼になってしまった。)

 

結果、苦節半日にして、男ジャムは完成した。甘酸っぱい、爽やかな香り。申し分ない出来上がり。人に方向なんかいらねぇ、何かやれば何かできちまう。

“いやー良くできた、良くできた。沢山あるな・・・ はっ!”

雷がごとく気がつく。ハマナスを煮込む段階で鍋を一個使い、フランボワーズを迎えた際にもう一つ鍋を使っている。つまり自分は鍋2個分、2.5リットル強のジャム在庫を抱えているのだ。

・・何というジャムなる所有、何という身の丈に合わない財産・・

それに何より困った事は、いざ、食料が補給できる場所まで着いたとしても、鍋はジャム倉庫になっているということだ。「別に捨てりゃいいじゃん」と思う方もいるだろうが、“緑野で摘んだ紅い実は、どうしてそれが捨てられましょう”捨てられません。

そして、なんとわなしに考えていると、近くの草むらがガサゴソし、ひょこりと“キツネ”。おお、そうか、さっきの夢は悪夢でもなく吉夢でもなく、うん、正夢だったんだ(この正夢に何か意味があるのだろうか・・)。そうだ、こいつジャム喰わねぇかな?そうすれば、このジャムも無駄にならない。そして、持て余したジャムパンを、「ほれ!」と投げつける。

キツネは、投げられたパンをじーっと眺め、それからこちらを見て、ゲーンと威嚇。最後に、パンの匂いをかぎ、フンと草むらに消えてしまった。

このキツネの態度を見て、自分は悟った。このジャムはもう自分と一体なのだ。自分の姿の一つなのだ。それでどうなったかって?うん、自分はおもむろに鍋を偶然号の荷台にくくりつけ、更なる北方を目指して出発したのだよ。

その後、この日サロベツ西北方を旅したお兄さん、お姉さんの多くは、実にキモイ目に遭ったことだろう。つまり、目が合うと「やあ、ジャムいらないか?」と鍋のフタを開け、ニコニコ近づいてくるヒゲ親父の難にあったのだ。

フタを開ける度に、お兄さん・お姉さんの「ひっ!」というような顔。ミセス・フランボワーズも、その度に不機嫌な顔で自分をにらむ。

「わたしって、こんな目で見られるためにわざわざジャムになったわけ?」

(全くです)

 

 

 



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