早くして認められた才能、その後の作品への周囲の理解のなさと挫折。そして再生。この曲は彼が完全復活した93年のソロ・アルバム「Suspended Disbelief」に収録された、やはり泣ける曲だ。初出は89年のリンダ・ロンシュタッドのアルバム「Cry Like A Rainstorm」だから、これはセルフ・カバーということになる。
輝かしい栄光の過去。それに「アディオス」と別れを告げる決意。それが淡々と歌い上げられる。ほとんど自身のピアノだけをバックに歌う様は、悪いがすっかり貫禄のついてしまったロンシュタッドより、頼りなくて切ない。このアルバムの前作「Angel Heart」(82年)ででっぷりと太ったウェッブの姿を見たときはどうしようかと思ったものだが、11年のブランクを経てエレクトラから発表された本作の、精悍な姿に胸をなで下ろしたファンも多いのではないだろうか。その後コレクター向けに本人の再録盤を企画しているガーディアンから「10 Easy Peaces」を96年に発表。これにはグレン・キャンベルでヒットした「ガルベストン」の2度目のセルフ・カバーも収録されている。
ここまで当然のようにウェッブの事を語ってきたが、いちおう彼の経歴も見ておこう。コンポーザーとしてウェッブが注目を浴びたのは66年、まだ20歳の時だ。グレン・キャンベルの「By the Time I Get to Phoenix」「Wichita Lineman」、フィフス・ディメンション「Up Up and Away」、そして俳優リチャード・ハリスの「MacArthur Park」「Didn't We」と立て続けに大ヒットを放って、時代の寵児となる。69年には初のソロ・アルバム「Jim Webb Sings Jim Webb」を発表。以降計9枚のアルバムを発表するが、どれも話題を呼ぶほどではなかった。
ウェッブはポピュラーミュージック界の変動期に登場した「時代の寵児」でしかなかった。彼のソロアルバムを聴く限り、当時はそんな印象が強かった。特にワーナー時代までの作品は「ジム・ウェッブ好き」でなければピンとこないかも知れない。いわゆる「シンガーソングライター・ボイス」というやつで、歌の説得力のなさったらアル・クーパーと双璧、といまだに思っている。しかし楽曲の親しみやすさは別格だ。彼の曲を愛した歌手も多いが、そのなかでもグレン・キャンベルとアート・ガーファンクルはウェッブに「惚れた」歌手といっていい。カントリー歌手のイメージが強いグレン・キャンベルだが、デビュー前はセッションマンとしてハル・ブレイン等とビーチボーイズのアルバムでギターを弾いていたこともある。ヴェンチャーズやサーフグループのレコードでも影武者としてプレイしているらしい、とは「急がば回れ'99」を出した鶴岡氏の受け売りだ。最初のシングルはブライアン・ウィルソンからもらった「Guess I Dumb」だが、ウェッブ作の「フェニックス」「ウィチタ」「ガルベストン」……と続く「ご当地ソング」シリーズがなければ、現在の経歴は無かったに違いない。もっともウェッブはこれらの土地に行ったこともなかった、というハナシも聞いたが本当だろうか? 一方アート・ガーファンクルのほうはサイモン&ガーファンクル解散後ソロになってジム・ウェッブにはまったクチ。ほとんどジム・ウェッブの曲ばかりという名盤「Watermarks」がある。
また俳優リチャード・ハリスが歌った「MacArthur Park」も忘れてはいけない。7分20秒という当時は画期的な長さであったにもかかわらず、全米チャート2位を13週も記録した。この曲、ウェッブ自身が惚れまくってアソシエイションに持ち込んだが、3分でも長いといわれたシングルの時代、相手にされなかった。最終的にウェッブの友人でもあったハリスがアルバムに収めるのだが、この曲のオケはロサンゼルスで録られ、歌はダブリンでかぶせるという変則的な仕上げがされている。そのリチャード・ハリスは2002年に没。ヘッドコピーは「あのハリー・ポッターの校長先生、死去」だから、こっちのハナシのほうが泣けるかも知れない。このほかチェックして損はないのがジョー・コッカーの「I Can Stand A Little Rain」。やはり名曲「Moon Is A Harsh A Msitress」「It's a Sin When You Love Somebody 」の2曲をジムのピアノをバックに熱唱している。そして「雨に濡れても」で知られたB.J.トーマスの「Rock' n' Roll Lullabye」。変わったところではSwing Out Sisterのファースト「 Kaleidoscope World」のオーケストレーションも彼。どおりで「You on My Mind」を聴いたとき、「Up Up And Away」を思い出したはずだ。最後に99年にCDで再発となったウェッブの「Words & Music」(70年)の「Three Songs」は「Let It Be Me」と「Never My Love」「I Wanna Be Free」を組み合わせて1曲にしたという、ソフト・ロック・ファンなら気が変になってしまうほどの名演。
輝かしい栄光の過去。それに「アディオス」と別れを告げる決意。それが淡々と歌い上げられる。ほとんど自身のピアノだけをバックに歌う様は、悪いがすっかり貫禄のついてしまったロンシュタッドより、頼りなくて切ない。このアルバムの前作「Angel Heart」(82年)ででっぷりと太ったウェッブの姿を見たときはどうしようかと思ったものだが、11年のブランクを経てエレクトラから発表された本作の、精悍な姿に胸をなで下ろしたファンも多いのではないだろうか。その後コレクター向けに本人の再録盤を企画しているガーディアンから「10 Easy Peaces」を96年に発表。これにはグレン・キャンベルでヒットした「ガルベストン」の2度目のセルフ・カバーも収録されている。
ここまで当然のようにウェッブの事を語ってきたが、いちおう彼の経歴も見ておこう。コンポーザーとしてウェッブが注目を浴びたのは66年、まだ20歳の時だ。グレン・キャンベルの「By the Time I Get to Phoenix」「Wichita Lineman」、フィフス・ディメンション「Up Up and Away」、そして俳優リチャード・ハリスの「MacArthur Park」「Didn't We」と立て続けに大ヒットを放って、時代の寵児となる。69年には初のソロ・アルバム「Jim Webb Sings Jim Webb」を発表。以降計9枚のアルバムを発表するが、どれも話題を呼ぶほどではなかった。
ウェッブはポピュラーミュージック界の変動期に登場した「時代の寵児」でしかなかった。彼のソロアルバムを聴く限り、当時はそんな印象が強かった。特にワーナー時代までの作品は「ジム・ウェッブ好き」でなければピンとこないかも知れない。いわゆる「シンガーソングライター・ボイス」というやつで、歌の説得力のなさったらアル・クーパーと双璧、といまだに思っている。しかし楽曲の親しみやすさは別格だ。彼の曲を愛した歌手も多いが、そのなかでもグレン・キャンベルとアート・ガーファンクルはウェッブに「惚れた」歌手といっていい。カントリー歌手のイメージが強いグレン・キャンベルだが、デビュー前はセッションマンとしてハル・ブレイン等とビーチボーイズのアルバムでギターを弾いていたこともある。ヴェンチャーズやサーフグループのレコードでも影武者としてプレイしているらしい、とは「急がば回れ'99」を出した鶴岡氏の受け売りだ。最初のシングルはブライアン・ウィルソンからもらった「Guess I Dumb」だが、ウェッブ作の「フェニックス」「ウィチタ」「ガルベストン」……と続く「ご当地ソング」シリーズがなければ、現在の経歴は無かったに違いない。もっともウェッブはこれらの土地に行ったこともなかった、というハナシも聞いたが本当だろうか? 一方アート・ガーファンクルのほうはサイモン&ガーファンクル解散後ソロになってジム・ウェッブにはまったクチ。ほとんどジム・ウェッブの曲ばかりという名盤「Watermarks」がある。
また俳優リチャード・ハリスが歌った「MacArthur Park」も忘れてはいけない。7分20秒という当時は画期的な長さであったにもかかわらず、全米チャート2位を13週も記録した。この曲、ウェッブ自身が惚れまくってアソシエイションに持ち込んだが、3分でも長いといわれたシングルの時代、相手にされなかった。最終的にウェッブの友人でもあったハリスがアルバムに収めるのだが、この曲のオケはロサンゼルスで録られ、歌はダブリンでかぶせるという変則的な仕上げがされている。そのリチャード・ハリスは2002年に没。ヘッドコピーは「あのハリー・ポッターの校長先生、死去」だから、こっちのハナシのほうが泣けるかも知れない。このほかチェックして損はないのがジョー・コッカーの「I Can Stand A Little Rain」。やはり名曲「Moon Is A Harsh A Msitress」「It's a Sin When You Love Somebody 」の2曲をジムのピアノをバックに熱唱している。そして「雨に濡れても」で知られたB.J.トーマスの「Rock' n' Roll Lullabye」。変わったところではSwing Out Sisterのファースト「 Kaleidoscope World」のオーケストレーションも彼。どおりで「You on My Mind」を聴いたとき、「Up Up And Away」を思い出したはずだ。最後に99年にCDで再発となったウェッブの「Words & Music」(70年)の「Three Songs」は「Let It Be Me」と「Never My Love」「I Wanna Be Free」を組み合わせて1曲にしたという、ソフト・ロック・ファンなら気が変になってしまうほどの名演。