「照子と瑠衣」井上 荒野 著
を読んだ。図書館で借りて読んだ。かなり予約待ちをしたので、なぜ読みたかったのか忘れてしまったが、とても面白かった。そしてせつない。井上荒野の力量がわかる本だった。
いなりずしを作る場面から始まる。
「すし飯には大葉とちりめんじゃこと胡麻を混ぜた。」
というのを読んで、おいしそうだなあと思って、今日のおひるごはんにさっそく、大葉と白ごまをごはんにまぜていなりずしを作った。(ちりめんじゃこはなかったので)
照子が45年におよぶ結婚生活を解消して、家を出ていくときに、夫にいなりずしと牛肉のワイン煮を作り置きしていく場面だ。
ところ変わって
私は、きょう、夫の運転する車で出かけた。
家に到着する手前の三叉路で、一時停止のある道から出てきた車が、夫の車とこすりそうになった。
確かに向こうには一時停止の標識があるので、こちらが優先だが、出てきた車に寄って行って窓をあけ、「一時停止があるんだよ」と声を荒げた。 向こうの男性(同じくらいの年か)は窓を開け、「ちょっと見えなかった。んでも手をあげて合図した。」「同じ町内なんだから、もめんのやめっべ」と言った。
向こうも向こうで、「わるい わるい」とでも言ってくれればいいのに、「そこに車とめっから」と、受けて立つ雰囲気。
私はこういうくだらない意地のぶつかりあいは大っ嫌いだ。
私が相手に「すみませんでした。行こう!」
と言って車を出させた。
これまでも何度か夫のこういう不愉快な場面にでくわした。
照子と瑠衣 での照子が家を出たのは、こういう事の積み重ねの ”ハズバンド問題” だ。妻を傷つける言動。夫側はたいしたこととは考えていない。照子に子供がいないのも別れる決断をうながしただろう。
私もこれまで何度言葉を飲み込んだかわからない。
一番つらかったのは、私の母が認知症になって、ひとりで暮らせなくなった頃の思い出だ。とりあえず、夫とふたりぐらしのこの家に連れてきて、
「介護保険を利用しながら、一緒に暮らしてだめか」と決死の覚悟で頼んだら、怒り心頭で「あなたがそんなにお母さんが大事なら、俺は退職したら、離婚して田舎に帰り、母親と暮らす」と言った。
夫も長男で、夫をはじめ義実家は古い頭の面々なので、妻の母親と同居するとは想定外だろう。
私には兄がおり、幸運にも結婚して子供も3人いる。実家の不動産は兄が継ぐように母は遺言を書いていることを私も知っていた。兄は精神的な疾患を抱えており、安定した公務員だったのだが、50代で退職した。
そんな兄の事もあり、私も私がなんとかしなくちゃと思い込んでいた。
「あなたのお兄さんを呼べ」と言われて、泣く泣く電話して兄を呼び、
「あなたがお母さんを看るべきでしょう」と言った。
結局、兄の住まいに母は引き取られ、介護保険を利用しながら、義理の姉にお世話になりながら寿命を全うした。
結果的にそれで良かったかなと思った。
でも、「離婚する」と言われた時、私は「私は離婚はしたくない」と言った。そしたら彼がふっと笑ったのよね。
なんでこんな時に笑うのだろうと思った。
激情にかられると、思わず口にしてしまう無責任な言葉に何度もうちのめされてきた。そして彼から離婚すると言われた時、それだけは言われないだろうと変な自信があったので、意外な気がした。
彼が離婚したら、義理の母はどんなに悲しむだろうと思った。そして彼だって母親と幸せに暮らせるとは思えない。
夫の言動には傷つくことが多いし、母との事では今でももっとBESTな選択があったかもしれないと思う。
でも、まだ結婚して間もない頃、家にかかってきた義理の母の電話に、「それは、俺たちの問題だろ!」と言っていた夫がいた。うれしかった。
何をいわれたのかわからないし、私も聞かなかった。
あれが、長い結婚生活をつなぎ留めているのかもしれない。