
#4 ダイヤさんと呼ばないで
「イメージ」という鎖はしばしばその人を規定する尺度として用いられます。よくもわるくもその尺度が人と人の距離感として表面化してくることも多いでしょう。
黒澤ダイヤという少女はどんな人でしょうか。頼れる生徒会長、ルビィの優しいお姉ちゃん、Aqoursのメンバーの前では完璧主義ゆえにやる気が空回ってしまうといった一面を見せたこともあったでしょうか。
きっとダイヤはずっと誰かが規定した「黒澤ダイヤ」でいることを期待され、彼女もまたそれに応えるだけの能力を持っていました。そんなダイヤを見る"周囲"の目は、果南曰く「雲の上の存在」。
この表現とてもおもしろいですね。というのも、雨を降らせるのが雲ですから、雨が降るのは常に雲の下です。だから、一番高い位置にある「雲の上の存在」が地上に雨を降らすようなことはありません。上に雲がない場所、そこには決して雨は降らないのです。でも、冒頭部室におけるシーンでは悩めるダイヤのこころをズバリ表しているかのように確かに雨が降り注ぐ。
つまり言いたいことは、ダイヤもまたきちんと地に足の着いた普通の女の子ということですよね。「雲の上の存在」ではないから、人並みに悩むし、嬉しければ涙を流す。
真ん中にポッカリ穴の空いている5円玉、地を転がるその硬貨を見つめるダイヤはいったいなにを想ったのでしょうか。
ダイヤの中に小さく空いていた心のスキマ、それがどのようにうめられていくのか、今回はそんな普通の女の子・黒澤ダイヤの物語です。
転がる想い

説明会と予備予選、そのどちらも最後まで諦めない気持ちで最高のパフォーマンスを披露することが出来たAqoursの9人。自分たちの「道」を一生懸命に「9人」で駆け抜けていくことが「キセキ」たりえるのだと改めて痛感した千歌だからでしょうか。予備予選の突破を疑う様子は全くありません。
1期12話における前回の予備予選突破の結果発表に右往左往していた頃を思うととても感慨深いですね。リーダーである千歌の自信がみんなに広がっていったからかもしれません、緊張こそしているものの他のメンバー達も前回ほど慌てている様子は見られませんでした。
そして、結果は見事にトップ通過...!嬉しさでいっぱいの花丸は果南に抱きつき、善子と鞠莉も思わずハイタッチからポーズを決めるという何とも微笑ましい光景が続きます。

が、その日常的な一幕に困惑を隠せないのがこの人・黒澤ダイヤです。その後、千歌にハイタッチを求められ、手こそ合わせますが、どこか遠慮がち。
世の中には、人の輪の中に自然と入っていける人もいれば、もちろんそうでない人もいます。直接的な対面でのやり取りこそ片手の指で数えられる程度にしかないであろう「SaintSnow」の鹿角聖良とさえ、仲良く交流できる千歌のような人もいれば、同じAqoursのメンバーとも少し距離を感じてしまうダイヤのような人もいる。
もちろん状況こそ違いますが、μ'sにもかつて似た気持ちを抱えていた人がいました。そう、矢澤にこですね。にこもダイヤも根本は同じ。要は仲良く会話を弾ませているみんなが羨ましいんですよね。本当はその輪の中に飛び込んでいきたいけど、プライドがどうしても邪魔をしてしまう。
イメージに反する自分を見せるのが恥ずかしいから、「ダイヤちゃんと呼んでほしい」と打ち明けることが出来ない。イメージという鎖に縛られるダイヤの姿はどこまでも人間らしいなぁと思います。

でも、どうしても一歩を踏み出したいと思った。だから彼女は果南と鞠莉にそれとなく、2人が1年生や2年生と最近仲良くしてるという話を持ち出します。ここで相談という形ではなく、あくまでもたいしたことではないと強調するところがとても彼女らしいですね。
結果的に、生徒会長としての規律や上級生であることの自覚などと素直になれないことを言ってしまいますが、ダイヤ自身が意図して発したものではなくとも、それが彼女なりのSOSであるのだと、しっかりとダイヤのことを理解出来ている果南と鞠莉の姿は、改めて3年生組が今まで一緒に積み重ねてきた時間の長さと絆の深さを感じさせるには十分な印象を含んでいました。
Aqoursのメンバーは9人が揃った花火大会の日から色々なことを一緒に経験して、密度の濃い時間を一緒に過ごしてきました。そこには確かな絆もある。しかし、みんなが果南や鞠莉のようにダイヤと長い年月をともに過ごしてきたわけではありません。もちろん、さん付けで呼んでいない妹のルビィは例外としても、千歌たちに果南や鞠莉のような理解を求めるのは、やや酷というものでしょう。
ゆえに、アルバイトを探す2年生組の談笑の場でも、フリーマーケットにおける一連のやり取りでも、なんとか打ち解けようと試みますがなかなか上手くいきません。あれこれ手を尽くしても、彼女のやる気が空回りするその姿は、どこかコロコロと転げ回る5円玉硬貨のようでもありました。

そして、うなだれているダイヤを見て、様子がおかしいことに千歌は気付きます。Aパートの部室のシーンでも千歌はダイヤを気にかけている描写がありますが、こういうところとても千歌らしいですよね。果南も褒めているとおり、これがリーダーとしての高海千歌の魅力。
しかし、今回に限って言えば、ダイヤの相談相手として適役なのはやはり3年生の2人なのでしょう。そもそも下級生とも仲良くしたいという想いに対して、素直になれないのが今のダイヤの抱えている悩みですから、下級生の千歌が先陣をきって、直接ダイヤ本人に切りこんでいくというのはやや状況が複雑になりかねない。
だから、ダイヤが2人を呼びだしたように、今度は果南と鞠莉がダイヤに直接切り出すのでした。

自分を良く知る2人をごまかすことが出来ないと観念した彼女は、自分の願いを打ち明け、2人のアドバイスのもと、再びアプローチを開始します。
伊豆・三津シーパラダイスでのアルバイトを通じて、1年生・2年生との自然な交流を図ろうとするダイヤですが、これがまた難航。
調理場で千歌や花丸へ砕けた会話を振れば不思議がられ、アシカを手懐ける様子はまさにしっかりした「ダイヤさん」そのもの。「自分から行かなきゃ始まらないよ」と果南に言われ、曜ちゃんや善子ちゃんと呼んでみるけど、更なる混乱を招くばかりで、上手くいきません。
ついには、状況を見兼ねた果南と鞠莉が千歌たちにダイヤの想いを打ち明けていました。自然に振る舞おうと思えば思うほど、ダイヤのやることは裏目に出てしまう。なぜ、彼女のアプローチはことごとく空回りしてしまうのでしょうか。
ダイヤモンドの輝き
そんな折、水族館内を園児たちが走り回るハプニングが起こりますが、事態の収集をつけたのはダイヤでした。
「ちゃんとしてよ...」と涙ぐむ1人のおんなのこに過去の自分を重ねたダイヤは、自然とこの事態を解決すべく動きます。泣く必要はないのだと。そのおんなのこに自分のありのままの姿を見せ、「ちゃんとして」と周囲に働きかけるそのありかたは、決して間違っていないのだと、そう自戒を込めて語り掛けるようにその少女に「道」を示す。
あの少女が将来、黒澤ダイヤのような人になっていくのかはわかりません。彼女がこれからどんな「道」を歩いていくのか、それこそ、それは未来の彼女が知っていればいいこと。ただ、あのとき少女が浮かべていた笑顔と、ダイヤが浮かべていた笑顔はきっと同じものだった。

そして、そのダイヤの笑顔こそが、水族館内において彼女のアプローチがことごとく上手くいかなかったことに対する解答の全てです。
すなわち、「ダイヤさん」らしくなかったから。唐突に意味もなく天気の話をし始めることも、「ちゃん」付けで誰かを呼ぶことも、いつもの彼女らしくない行動でした。ゆえに、千歌たちは違和感を覚える。アシカに怯える梨子やルビィがとても彼女たちらしいように、アシカをきちんと手懐ける姿こそがダイヤらしい。
きっと彼女は自分の堅いというイメージを壊したかったんですよね。たとえ学年を飛び越えても、自然と分け隔てなく接し合えるような関係性を築くことが出来る果南や鞠莉に憧れていた。それは、今回に限った話ではないのでしょう。ずっと、ずっと、子供の頃から鞠莉や果南のそういう姿が羨ましかったのかもしれません。
でも、「ちゃんとしている」のもダイヤの個性。個性とは、すなわち『ラブライブ!』の文脈における、その人の魅力です。「ちゃんとしている」人だって、自分たちと同じようにちゃんと悩むし、自分たちと同じように壁にぶつかるし、自分たちと同じ目線で笑い合える。ゆえに、園児たちをまとめるダイヤの姿を見る千歌は微笑み、転がる5円玉を見た鞠莉も「キレイな5円です!」とそれを肯定する。
みんなとの距離を近づけるために、自分のイメージを壊す必要はないのです。そもそも、ダイヤが感じていた距離は自分自身が作り出していたもの。だって、「ちゃんとしている」ダイヤも、硬貨が転がるように空回りしてしまうダイヤも、もうみんな受け入れている。イメージに縛られて歩みだせなかったのはダイヤ自身。だから、ダイヤがただ黒澤ダイヤのままみんなに近付けばいい。

"結局、わたくしはわたくしでしかないのですね"
それに気づいた彼女にはもう、自分で自分を縛る鎖はありません。そう、イメージを壊さなくたって、その鎖を解き放つことは出来る。
そして、千歌たちも「ダイヤさん」という敬称をどこまでも肯定します。でも、それは敬称「それ自体」に意味を見出しているからではないんですよね。
「ダイヤちゃん」と呼ぶから、距離が近付くわけではないのです。「ダイヤさん」を「ダイヤさん」のまま受け入れてくれた、その千歌たちが彼女に贈る「ダイヤちゃん」だからこそ、本当の意味で彼女のこころに届く。
なによりも堅いダイヤモンド。でも、彼女があの日、みんなの前で浮かべた笑顔はどこまでも柔らかく、まばゆい輝きを放っていたのです。
よくぞ1日でこんなにも深い考察を!
毎度のことながらよくストーリーを見ておられますね。
5円玉の意味についてはもう目から鱗でした。
千歌がその硬貨を洗うシーンも最後の千歌のセリフに繋がるのかなと思ったりもできて、とても納得がいきました。大好きなダイヤさんのメイン回で素敵な感想を読むことが出来て大変心が踊りました。
ブログを読みながら思わず涙が...。
彼女の人柄や心情をとても丁寧に掘り下げられていて凄く共感しました。自分のことになると不器用で素直になれなくて、けど曲がったことを許さない真っ直ぐで頼れる彼女だからこんなにも惹かれたんだと思います。ちかっちがそれを彼女に告げてくれたことが嬉しかった。最高の4話でしたね。
4話の感想を拝読してどうしても言いたくなったので失礼をば...笑笑。
私の推しは松浦果南なのですがいやはやさすがに今回のダイヤのいじらしさには感服。ダイヤ推しにはたまらなかったことでしょう。
転がる5円玉が印象的に挿入されていた意図に関してはもうなるほどなるほどと頷くばかりでした。
果南と鞠莉の下級生たちとのやり取りを見て、嫉妬ファイヤーが芽生えるダイヤですが、やはりダイヤには、2人と同じでいたいという思いもあったように思えてなりません。ほんとに可愛いですね。
細かい部分にも注目されていて、感嘆するばかりです。
最後に「ダイヤちゃん」と呼ばれて、少し困ったようで嬉しい表情のダイヤちゃんに、不覚にもウルッてきちゃいました。
全般的に3年生の絆が大いにクローズアップされていて嬉しかったですね。
笑いませんか? からの大笑い。あそこの流れが大好きです。
それと千歌が聖良と良好な関係を築いていたというのに驚きです。
あれの意味を考えていたのですが、千歌(とAqours)の魅力が内浦や沼津の外へと伝わり始めている、という最初の表現だったんじゃないかな?だったらいいな、というのが結論です。
そしてパフォーマンス至上主義だったSaintSnowが、輝くことの意味を探して歌うAqoursに何か感じ始めているのだとしたら・・・。
今後2人の関係がどうなっていくのか気になります。
実は2期前から、梨子が果南を"果南ちゃん"と呼ぶために苦労するお話を書いていたんですが、
第4話の次回予告を見て先に"ダイヤちゃん"が来ちゃう!と慌てて書き上げたのがいい思い出。そして予想通りでしたw
もしお暇があればURLの先から読んでくださると嬉しいです。
ではまた次回も楽しみにしています。
感想で大事なのはスピードではなくて、どういうことを書きたいかだと思っていますが、自分は放送を見て、一晩明けた日曜日が一番落ち着いて書けるので、これからもなるべく日曜日に更新していこうと思ってます。なので、これからも暖かい目で見守って下さると嬉しいです。
「お堅い」という表現と硬貨というワードを繋げてみると、5円玉が登場したことの意図はあるんだろうなと思い、意識して見ていたら、空回りするダイヤと転がる5円玉がどうにも印象的でしたので、それを物語に落とし込みながら書いてみました。楽しんで頂けたなら嬉しいです。4話とっても素敵な回でしたね。
『ラブライブ!』2期8話は、希のいじらしさが堪らなかったですね...。
1人の人物にとことん焦点を当てたお話が展開される回は、感想を書く立場としても、どこまでもその人物に寄り添っていきたくなるくらい本当に破壊力が高くて、好きなんです。ダイヤ回としてこれ以上ない物語でした。
レノさんコメントありがとうございます。
頂いたコメントを見て、どうしても言いたくなったので...。(謎の意趣返し)
ダイヤが果南と鞠莉と同じでいたいと思っているというのはまさに同感で、彼女にとって同じ目線に立ってくれる友達って子供の頃からずっと彼女たち2人だけだったんですよね。だから、果南や鞠莉が千歌たちと仲良くしているように自分も仲良くしたいと思った。そこが今回の物語のきっかけなんですよね。ほんとにかわいいなと思います。
ご指摘のとおり、最後のダイヤの表情はもう抜群に良かったですね。作画担当の方々に感謝しかないです。
僕も「笑いませんか? からの大笑い。」のくだりがめちゃくちゃ好きで、とても3年生らしい間柄を表現したシーンだったなぁと思います。ダイヤには申し訳ないですが、あのシーンはたびたび見返してても笑いそうになります...笑。
「SaintSnow」との交流もポイントのひとつでしたね。1期では、自分たちだけの景色を見つけていくことを誓う千歌たちの対立項的存在として、結果至上主義に寄った「SaintSnow」が描かれましたが、千歌と聖良の2人の関係性を通して、お互いの長所や魅力に刺激を受け合っていくというのも一種の青春だなぁと思うと今後の展開が楽しみになりますよね。
SS拝読させていただきましたー!自分にはSSって正直あまり馴染みがないジャンルではあるんですが、ボリュームのある文章なのに、梨子ちゃん視点でとっても読みやすく、またたくみさんの愛を感じるお話でした!
初めてコメントします!いつもいつも新しい気付きをくれるブログさんだなぁと思っていましたが、今回は特に感じ入るところがたくさんあってさすが!と思いました。ダイヤさんの性格についての掘り下げと、個性を大切にするというラブライブの文脈と最後の「ダイヤちゃん」の意味などなどただ脱帽でした。また5話の感想も楽しみにしております。
ブログを読んで頂いていたようで嬉しいです。
『ラブライブ!』シリーズは、それぞれの個性を大事にするという文脈がとても重要視されているので、個性ともう一つ大切な輝きというキーワードを踏まえて今回は感想を書きました。また次回も楽しみです!