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QUADRAの新譜「どうぞお気遣いなく。」のエンジニア後記。

2013年11月06日 03時05分44秒 | records/cds
2013年10月発売のQUADRA「どうぞお気遣いなく。」

前作「お茶の間的にどうよ?」ではいつも通り、ミックス時にサウンド面で色々アイディアを出させて頂いたが、今回は遂に4曲、録音とミックスを自宅でやらせて頂いた。クレジットでは「Recorded at NFS Studio, Tokyo」となっているが、NFSとは「Noizz From Sguru」の略称であり、「Noizz」は「Noise + Jazz」という僕の造語である。これまでも、僕のアルバムでは何度も自宅レコーディングをして来たが、自分のリーダー作以外では初めて。そういう意味でも、前作より遥かに思い入れも強い。

今回、僕が担当したのは、
08 THE DREAMS OF THE IMPATIENT
11 CAPIVARA
そして、「悋気の独楽」1と2である。


今回も「The Grooves Around the Globe」同様、Windows7とXPを駆使して作業。


What's New Records の佐藤社長に戴いたコンデンサー・マイクが今回も大活躍!

佐藤社長はサウンド面での僕の師匠である。「What's New の音」というのが明確に有り、かの名ギターリスト故・澤田駿吾氏をして「舶来の音がする。」と言わしめた技術をお持ちで、僕はその音色が好きで3枚目の「Be Water」からお世話になっている。昔気質で、卓の前に座りフェイダーを手作業で操る姿が指揮者の様である。そこには長年の知識や勘が必要である。正直言うと、僕の作業はオートメーションを多用し、コンピューターが自動でフェイダーの上げ下げをやってくれるわけで、そういう技術は必要ない。ただ、長年に亘り、僕も名盤と呼ばれるものを聴いて来たわけで、サウンドに対しては明確な理想像が有る。


4月12日、まずは武田和大の録音から。正座で録音ってのも珍しい。(笑)


自分の録音。まぁ、いつでも出来るので特に日程は決めず。。


4月26日、酒井聡行の録音。いよいよ、メロディーが入る。


主にソリストだった岩佐真帆呂の録音は5月3日とラストになった。

この様に別々で録音して後でミックスとなる。この4曲以外の曲は、全員がスタジオに揃って「せ~の!」で録るいわゆる「一発録り」なので、1本1本のマイクが隣の楽器の音を拾うわけで、当然、別録りとは全く違う空気感が生まれる。ただ単純に編集して音量を合わせてリバーブをかけるだけではなく、この「空気感」も一発録りと揃える必要が有る。

「悋気の独楽」は歯切れ良さと、少し機械的な響きが欲しかったので、敢えてノン・リバーブで。エディットだけに集中すれば良い。(因みに、武田のバリトンの立ち位置が左端になっているのは、アレンジ上、この方がそれぞれの音が聞き取りやすいからである。)

しかし、他の2曲はフルート&クラリネットのアンサンブル。サックスと違う雰囲気も出したかった。そこで、上質の大ホールを仮想現実化してみようと考えた。


まずは、それぞれのパートをホールの真ん中・前列10列目くらいで聴いていると想定し、リバーブの設定を決める。Quadraはいつもライブで半円形の陣形を組む。つまり両端の二人は少し前に居るので、よりダイレクトに客席に音が伝わると同時に、ホール全体の響きの影響も受けやすくなる。一方、中央の二人は奥に居て、後に有る反射板(これも僕の勝手な想定だが。)に跳ね返った音を想定しつつ、それほどホールの響きの影響を受けずリスナーに音が届くというイメージにしてみた。

つまり、両端の二人はリバーブの種類を実像がボヤケたものを深めにし、中央の二人は反射板からの跳ね返りを想定して軽くディレイがかかった上に実像が比較的はっきりしたリバーブにするという、2種類のリバーブを使う事で「ステージの奥行」を表現してみた。

この時点ではそれぞれの立ち位置でのみ空間系のエフェクトがかかっているのみである。


次に左右の幅の表現だが、「THE DREAMS OF THE IMPATIENT」の岩佐真帆呂のSOLOを例にとって説明しよう。
まず、左のスピーカーの真ん前で聴いた場合、彼のフルートは真ん前に有るわけで、ダイレクトに音が客席に届く設定にすれば良い。問題は、逆側の右のスピーカーで彼の音を聴いた場合にどのように聞こえるかである。実際のホールの右端の席に座ったと考えると岩佐の立ち位置から相当な距離を想定する事になる。音量は小さくなるであろうし、音質もかなりボヤケる筈である。しかも、反射板の影響も考えると多少ディレイもかける必要が有る。

結局、僕が取った手段はもう1トラックを設け、立ち位置でかけたリバーブとは全く別の種類の空間系エフェクトをそれぞれに与えるという事である。つまり、奥行き用の本トラックとは別に「幅用」の別トラックを設け、計8トラックを用意し、全く別々のエフェクトをかける事にした。こうする事により、かなりの立体感を得る事が出来たと思う。本当は僕の「The Grooves Around the Globe」でもこれくらいやりたかったのだが、やはりオーケストラとなるとトラック数を倍にするとコンピューターのCPU使用率があっという間に100%になりフリーズとなる。こういう小編成で実験が出来て本当にラッキーだ。チャンスが有れば大き目のスピーカーで大音量で聴いて戴きたい。

因みに「CAPIVARA」では、より小さいホールを想定し、リズムはスタジオでドライに・・という、クラブ系チックなサウンド構造になっている。


お囃子「御所のお庭」の録音風景。ダルブッカを始め、どこが日本やねん・・って楽器を使いまくっている。まぁ、僕の「箸と茶碗」は日本ならではだけど。(笑) 本当は僕のイメージでは柳家〆冶師匠の海外公演で、ガイジンが字幕読みながら鑑賞してて、お囃子もガイジンのミュージシャンが初見でスゲー下手ッピに演奏してる・・って感じで笑いが取りたかったんだけど、岩佐真帆呂も僕も変な楽器で真剣に演奏してしまった。(笑) 実は拍手や歓声にも凝っていて、違う音質のものを3種類用意して、順番に流したり、重ね合わせたりする事によって大ホールの空気感を出している。普通にホールの拍手や歓声を流しても、イマイチ奥行きが出ないものである。

音響以外にも、結構、僕のコダワリが活かされたアルバムなので、是非ともご購入戴きたい。演奏家の僕としては、06)MESECINAでのイスラム音楽の歌い回し「メリスマ」を多用したクラリネット・ソロとダルブッカとズルナを聴いて欲しい。他のメンバーのソロも非常に良く、特に10)ALLEE DES BROULSLLARDSの武田和大のソロは素晴らしい。来年はツアーもやると思うので、是非ライブとCDの購入を!!

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2 コメント

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CAPIVARA (ひろこ)
2013-11-08 01:13:53
スグルさま

難しいことはよく理解していないかもしれませんが
でもなんかワクワクしますね
CDを聞く時が楽しみです。

CAPIVARAはあの可愛い動物のことですか
返信する
Re:CAPIVARA (Sguru)
2013-11-08 15:18:18
是非お買い上げのほどを。
そう、ブラジル産の大型ネズミの事です。
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