第38回ジャズ聴き部 Waltz for Debby/中山拓海さん
僕はこのチャンネルのファンであり、応援もしている。特にこの「ジャズ聴き部」は面白いし、今のジャズ業界に最も必要なものだと思うので、色んな方々に観て頂きたいと思っている。静岡DOTCOOLのマスター林さんは僕と同い年で、お店を切り盛りしながら同時にピアノを演奏する凄い人だ。お店にはツアーで何度もお邪魔させて頂いて、演奏後には毎回美味しいお酒と楽しいジャズ談義が夜更けまで続く。
殆どのミュージシャンが自分の演奏をアピールする事にしかYouTubeを利用していない。もちろん、レクチャーなどに有効活用している人もいる。しかし、僕がこのブログでも何度も訴えている事だけど、今のジャズ業界に最も必要なのは演奏者の方ではなくリスナーなのだ。リスナー拡大の為にYouTubeを活用する事は出来ないものか…と思ってた矢先にこのチャンネルが現れたのだ。そして、これを観て頂ければ、ミュージシャンが演奏家である前にかなりのヘビー・リスナーである事がお分かり頂けると思う。
ここ東京ではミュージシャンと店は星の数ほど有り、それぞれがしのぎを削っているわけだが、残念ながらリスナーの高齢化が進み減少の一途を辿るばかりである。僕自身もライブ会場で若いリスナーを見かける事は殆どと言ってよいほど無い。それが原因で需要と供給のバランスの崩壊がどんどん進行しているのである。
ジャズ界の今後の発展を考えて…なのか、「若手ミュージシャンを育てる」という文化がかれこれ30年ほど続いているが、リスナーを育てるという文化に全く結びついていない結果が、この供給ありきで需要を蔑ろにした現状を生んでいると僕は考えている。これは本国アメリカでも同じではないかと思う。自国文化であるジャズの楽しみが理解できない一般人が多い事への嘆きや危機感はかなり前から米国ミュージシャンの間でも語られていた事だ。
正直、若手ミュージシャンなんてのは筍みたいに次から次へと勝手に育って来るし、今の情報社会で上手くなる方法なんて簡単に見つかるし、教える側もそれ相応のスキルが無い限り淘汰されるので必死に教えるわけで、今や上手い若手が次々出てくるのなんて当然の事なのだから、「若手を育てる」なんてのに心血を注ぐ暇が有ったら一刻も早くリスナーを育てる事に重点をシフトするべきだと思っている。ジャズは「上手い、下手」だけで語れるものでもないのだし。
しかしながら、「後進を育てる」というのはビジネスとして成立しやすいが、「リスナーを育てる」というのはビジネス化し辛い所に、その難しさが有るというのも理解している。その結果として演奏者とリスナーの比率が健全な三角形からどんどん不健全は逆三角形へと移行していったのが明らかである。
自分がジャズのリスナーとして育った環境を振り返ってみると、親から無理やり聴かされてたというのは置いておいて、ジャズ喫茶のオヤジ、レコード屋のオヤジ、高校や大学の先輩や同輩など、みんな当たり前だが無償で情報提供してくれていた。それはジャズ愛以外の何物でもない。その中で、僕は新しい情報を取り入れ、たまに議論(「このアルバムが良い・悪い」とか「このミュージシャンがカッコいい・悪い」とか)する事で価値観を構築して行き、ミュージシャンである以前にリスナーとして成長させて貰ったと思っている。でも、レッスンを通じて生徒の話を聞くと、こういう経験をした事が無い人が大多数なのだ。あるいは議論そのものを避けてるケースもあるかな。でも、ジャズという音楽の形態自体がアドリブを通して自分のアイデアを主張するというものなのだから、そこを避けていてはダメだと僕は考えている。まぁ、プロ同士の議論は価値観がお互いもう既に完成されてる為、議論しても平行線なケースが多いから、僕は避けるけど(笑)
さて、「ジャズ聴き部」に話を戻そう。
毎回、紙袋に入ったレコードを取り出して、ゲストにそのレコードについて語って貰うという趣旨のものだ。そのアルバムを知っていようが知っていまいが…である。ここが面白い。知らないと、「え~!こんな名盤知らないの⁈」となる。これ言われるとかなり「恥ずかしい!」となるのだけど、そうやって共通認識を少しずつ植え付けられて行くものなのだ。そうやって馴染みの無い楽器やミュージシャンに触れて行き、視野や価値観を少しずつ広げて行くのだ。僕は高校・大学時代にこれを経験し始めた。僕だって、無数にあるジャズのアルバムで、いまだに苦手なアーティストや聴いたことの無いものなんて沢山有る。だから、こういう遣り取りを観てて勉強になる事は多々ある。
こういう会話を経て、新しい情報を仕入れて、よくそのアルバムを聴いて学び、次のジャズ談義ではその知識を元に話に花が咲く…というのが、ジャズ・リスナーの楽しみの一つだ。レコード(サブスクでもいいんだけど)を聴いて、ある程度の価値観を持った上で、次の段階としてライブ会場に足を運ぶというのが必ずしも正しいとは言えないけど、ステップ・バイ・ステップで考えるとこうした方がすんなり入り込めるかもしれない。
ジャズってのは「知ってる曲演ってる!イェイ!」ってのでは決してなく、アドリブ部分や音色に価値観の重きを置いている音楽だ。それを理解出来ていない聴衆は結局はライブ会場に再び現れる事は無い。だから、アドリブの部分で何をやっているのかを理解する事がどうしてもリスナーに求められる高き壁なのである。何も、全ての音とコードを理解する絶対音感が必要…と言っているわけでなく、「今やってるのと別の曲のあの一部分を引用してる!」とか「ドラムのこのリズムにサックスが反応した!」程度で十分なのだ。
そういう意味で「ジャズ聴き部」は、リスナー同士が集まって楽しく語り合ってるってのをそのまんま流してるわけで、こういう世界をまず一般の方々に知って戴かない事には、リスナーなんて増えるはずもないと思っている。ジャズなんてのは、中学生がタバコを吸う様なもんで、ちょっと背伸びしてオトナぶって知ったかぶりするとこから始まる。男ならそれがオンナにモテるだろう…という大いなる勘違いから始まる。僕の若い頃はそんな感じだった。それが、いつの間にか「学問」みたいな清廉潔白なものになってしまい、色気も無いつまらないものになってしまった。
実は日本全国で「ジャズ聴き部」の様な地下活動は行われている。貴方の住む町にジャズ喫茶やレコード鑑賞会を開催していいると思わしき施設があるなら、そこには我々の同胞が居て、いつでもウェルカム状態だ。中には気難しそうだったり、上から目線で来る輩もいるかも知れないけど、その実、ジャズに興味を持ってくれた事が滅茶苦茶嬉しいのである。少しでも興味を持って戴いたなら、思い切って飛び込んで頂きたい。ジャズ喫茶なら、覚えたてのアルバムをリクエストするだけでも、「参戦した気分」になれるし、そこでマスターや隣の客とそのアルバムについて語り始めたら、もう立派な同胞だ。僕も高校時代にそこから始めたのだ。
僕はあくまでリスニングという趣味の延長で、もっと深くジャズを知りたいっていう欲求の結果ミュージシャンになった。だから、僕より年配のリスナーを先輩と思ってるし、ジャズ喫茶のオヤジは師匠と思っている。僕のライブを観に来られるお客さんの殆どが、そういった同胞の方々なので、心地良くライブをやらせて貰ってるし、僕の音楽を厳しい耳で評価して下さってるのだから有難いと思っている。だから、今後のジャズ界を本当に考えるのなら、若手ミュージシャンの為にも、リスナー仲間=同胞を増やす事が最重要課題なのである。
「ジャズ聴き部」がそのきっかけとなってくれたら本当に嬉しい。
ドンピシャです。ジャズを聴くようなオトナになればモテるに違いないていう勘違いと幻想ですよね、それで聴き始めたし、今でもその中にいるような。今は違うんでしょうかね?
そう、そうなんですよ、特に我々世代は!笑
最近の若いミュージシャン見てると、特にジャズでモテたいとかなく、ゲーム感覚でやってる感じがします。
https://blog.goo.ne.jp/noizz382/e/b1ac20340fa10796665e9c88ecfd8841
だから、滅茶苦茶上手くて的確なんだけど、ヤクザな感じはしませんね。チェットやリーモーガンみたいなスケコマシ感は無いし、フレディみたいにぶん殴られそうな感じもない(笑)
まぁ、今そういう音楽が求められてるなら、それでも良いかなと思ってます。ただ、自分が聴きたいのはヤクザなジャズなので、そうなると動機が不純な方が良いかな…と。となると昔のレコードに手が伸びちゃう。
今やジャズを聴く若者って、おそらく演奏者しか居ないと思うので、聴き始めの動機も純粋に「こんなカッコよく演奏したい!」とか「上手くなりたい!」一心なのかも知れません。
それとは別に、聴き専の若者がどんどん育って欲しいです。動機はまぁ何でも良いんですけど、入り口が割と狭いですからねー。やっぱ「ジャズ聴いたらモテるよ!」ってデマでも流しますか!笑