Saxophonist 宮地スグル公式ブログ

最大の趣味+職業の音楽について熱く語ります。その他にライブのお知らせ、趣味の旅行&温泉巡りも。登録宜しくお願いします。

Michael Brecker "Pilgrimage"

2007年09月04日 02時23分12秒 | records/cds
最近、またマイケルの追悼週間になっている。ここ10年でこんなに彼の演奏を聴いてる事は無いかもしれない。若い頃の演奏からこの遺作に至るまで。

「ブレッカー・フレーズ」と表現されるように、彼には独特のフレージングが有り、天衣無縫なウェインの演奏に比べるとパターンがどうしても聞こえてくる。しかしながら、若い頃と最近のを比べると彼が興味を持ったものの変遷と言うのが窺える。

このアルバムの前の作品「ワイド・アングルズ」は彼独特の曲想なんだけど、ギル・ゴールドスタインの見事なアレンジによって凄く分かりやすく仕上がっていて、最初に聞いた時からスッと入って来た。「聖地への旅」という邦題が付いたこの作品は、同じくギルがバンド・アレンジを施したらしいのだけど、一聴しただけでは身体に入り込んでこない、ちょっとした「壁」の様なものを感じた。前にも書いたけれど、「ワイド・・」のミックスに比べるとサックスにコンプなりマキシマイザーなどを一切かけてない様な非常にノーマル(或いはナチュラル)な音質で、聞き比べると迫力という点ではオトナシイ様な印象を受けた。体調が悪い中のレコーディングというインフォメーションが専ら飛び交っているけれど、プレー自体はいつも通りのテクニックを披露してくれている。よって、エンジニアかミュージシャン(マイケル本人)の意図するものがこのサウンドなのだと思う。

さて、曲想なんだけど、ここにこそ僕は「壁」を感じる。それは、完全に今までのスタイルを変えたというわけでもないし、僕には原因が分からなかった。とりあえず言える事は、息子に奉げた「When Can I Kiss You Again ?」という曲のエピソード~病気治療のため無菌室に入れられたマイケルに部屋の外から彼の息子がそう尋ねた~から、僕は優しくメロディアスなバラードを想像していたのだけれど、全く予想を覆され、上手く言えないけれど「厳しい」という印象を得たのだ。この印象は、アルバムを通して常に漂っている感じがする。必死で「遺す」という行為を遂行した・・という様な。この感覚は死を目前にした者にしか分からないのであろう。コルトレーンの「エクスプレッション」にも同様のものを感じる。僕も子供の頃から病弱で、病気で死ぬかも知れないと覚悟をした事が何度も有るけれど、もうすぐ死ぬんだ・・という覚悟とは全く次元が違うものだと思う。自分が同じ状況になった時に改めてこのアルバムを聴こうと決意している。その時、初めて本当の涙が出るのだと思う。今の僕の、彼が亡くなった事を悼む涙ではなく、死に対する無念や恐怖感、病気に対する何処にも向けられない怒り、世俗から切り離されるというある種の開放感、家族や大切な人々への感謝や強い愛情、そういうのが一気に怒涛の様に押し寄せて来るんだろうと思う。これを聴いて感動して涙を流すとしたら、そういう感覚にリンクする事が出来て初めて流す事になるんじゃないかと思う。想像だけで何も分かってはいないけれど。

入り込めないアルバムの割には何度も繰り返し聴き、もう、曲のメローディーもだいぶ覚えてきたのだけど、不思議な事に、今までのマイケルの好きな作品と違ってニコニコしながら聴くと言う事が出来ない。だからと言って、僕があまり好きでない彼のアルバムとは違って「またいつか気になったら聞いてみようか」という様な安易な気持ちにもなれない。この作品を聴く度にそういった不思議な感覚に囚われる。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 夏休み最後の・・ | トップ | 「きみにうたう」の音質・・ »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Re;Michael Brecker "Pilgrimage" (どくあた)
2007-09-04 08:26:38
私もこのアルバムについてコメントしてみました。
たしかに全体的に聴いていて痛い、というのは確か。
ブレッカーのExpressionというのは言いえて妙。

http://pfrom18vfrom4.blog107.fc2.com/blog-date-20070610.html
返信する
今、 (SGURU)
2007-09-04 10:55:55
ご感想、読ませて頂きました。
感じることは同じなんですね。。
返信する

コメントを投稿