野球応援

阪神タイガースを中心に野球の記録と記憶を徒然なるままに書きつづってみます。

タイガース事件簿 『捕手池辺』

2011年06月07日 | タイガースの今昔
1977年4月30日土曜日
大洋-阪神4回戦
川崎球場


前日にはあまりにも有名な事件があった。
レフト佐野が大飛球を追って外野のコンクリートフェンスに頭から激突し頭蓋骨を骨折し昏倒した事件だ。
センター池辺は泡を吹き、白目を剥いて意識を失っている佐野をみて、タイムも掛けず担架を要請したため、インプレーと見なされ、1塁ランナーがタッチアップで長駆ホームイン。同点とされた。
救急車がグランド内に到着するほど大きな事故であったにもかかわらず、インプレーとして扱われ、抗議も却下された。
当時は佐野にエラーがついたらしいが、後日訂正されたそうだ。
が、この事件とは違い、その翌日の出来事である。


田淵までダウン
田淵急所打撲 片岡右手中指骨折
捕手がおらん
お家の一大事『捕手池辺』が救った。


という見出し。

覚えていますか?

絶対絶命の八回
池辺 命がけの古沢リード
サインは2つ グーとチョキ



事の発端は七回

"うっ"とうめいて田淵がうずくまった。
高木のファールチップが急所に直撃。

変わった捕手片岡も福島のファールチップを右手に受けて骨折。

もうひとりの捕手大島はすでに代打で出場済み。

二死満塁の大ピンチ。


片岡の治療中に一枝コーチがグランド内をうろちょろ。

「タイラできんやろか」三塁守備位置での交渉で藤田平は「生まれて一度も経験がない」

次のお目当ては池辺。センターまで入って交渉。
だがこのベテランも「バッティング捕手もしたことない」

片岡は右手中指を絆創膏で固定して再びマスクをかぶった。
2-1と追い込んだ福島を三振にしとめて、なんとか七回をしのいだ。


しかし八回に大騒動が起こった。

「とにかく捕手を一人つくっとかなあかん」(山内コーチ)と言うことで、体のいい外野の町田公雄が候補にあがって、ブルペンで投手の球を受け始めた。

だが八回表に一死満塁で池内に打順が回るチャンスがやってきた。
投手は左の宮本だ。もう右の代打もいない。
「町田だ。アレを呼び戻してくれ」吉田監督の叫び声。
ブルペンからベンチを素通りして出ていった町田はあえなく三振。

そのまま片岡を無理使い出来るというベンチの判断は甘かった。

三番手安仁屋の制球難も輪をかけた。

四球の江尻が盗塁しても片岡の球は二塁にも届かない。
続く代打伊藤もまた四球。
この無死一、二塁に山下が無情にも片岡のケガを攻めてきた。
捕手前のバント。それを片岡が一塁へ暴投。もう球は投げられない。

差は一点。ワッショイ、わっしょいと大喜びの一塁側スタンド。


タイガースがそれどころではない。

見かねた池辺が「やります」と買って出た。

無死一、三塁。一点もやれない場面。

投手も予定外の古沢に変わった。

絶対絶命のピンチに立ち向かうのは急造バッテリー。

「ええか、サインは念には念を入れて出すんやで。三塁ランナーが帰りよるから」と山内コーチはプロテクターを渡しながらアドバイス。

(念には念を入れて、なんてアドバイスになってないが。笑)

池辺はまごまごしてプロテクターの付け方もわからないほどの"素人ぶり"だ。

「ガンちゃん(池辺)真っすぐとスライダーだけ決めとこか」と古沢も苦笑いのサインの打合せだ。

サインはグーとチョキだけの二種類だった。

たったこれだけでピンチを乗り切ろうというのだ。

古沢のスライダーが滑るたびに池辺は飛びつくようにミットに入れた。

一塁走者の山下が盗塁する。

だが、急造捕手の池辺は捕球が精一杯でそれどころではない。

打席の高木にヒットでも出れば逆転される無死二、三塁。

「あいつが勝負だった。あとは松原さんを敬遠して満塁にすれば清水、田代には自信があった」という古沢。

しかし勝負と言っても、池辺はグーとチョキを交互に出すだけだ。

だが、高木が三邪飛に打ち取ったあとは、二種類の球種だけで一点を守りきってしまった。

どっとわくベンチ。殊勲の捕手は握手攻めだ。

「もうこりごりだ。命がけだった。球を捕るのに精一杯で、なにがなんだかわからない。」と池辺は、今度はレガースがなかなか取れない。





池辺 巌(いけべ・いわお)
背番号34
1944年1月18日生まれ
長崎県出身
178cm77kg
右投右打
外野手、三塁手、ほか(捕手)
511試合 打率.262(1498打数392安打)
32本塁打 142打点 18盗塁
長崎・海星高-大毎・東京・ロッテ62-阪神75-近鉄79


74年オフに金田正一監督と衝突し2対5の大型トレードでロッテから阪神に入団。
翌76年にセンターでゴールデングラブ賞受賞
阪神在籍は4年


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