逍遥日記

経済・政治・哲学などに関する思索の跡や旅・グルメなどの随筆を書きます。

転売の問題(1)―マスク転売の現状―

2020-05-06 22:13:47 | 経済
転売の問題(1)―マスク転売の現状―
和洋女子大学・山下景秋

(「マスク転売の問題」という題を「転売の問題」という題に変更しました)

 この「転売の問題」のシリーズでは、この新型コロナ感染症拡大の危機時における転売の問題を中心に扱う。以下では、転売に関して日本人に一番関心のあるマスクを例にして述べる。

平常時
新型コロナウイルスが日本で感染拡大する前は、日本でマスクが不足したり、価格が異常に上がるという問題はなかった。
 月間のマスクの需要が1億枚から4億枚(年間12億枚から48億枚)であるのに対し、2019年のマスクの生産・輸入数は約55億枚だったからである。(このうち約44億枚[8割]が輸入であり、ほとんど中国からの輸入である。国内の生産数は約11億枚で国産化比率は2割ぐらい)
 マスク不足はなかったし、価格もドラッグストアや量販店で不識布マスク50枚、500円から600円(1枚当たり10円から12円)程度で売られていた。
新型コロナウイルス感染の拡大
 しかし、1月に中国で新型コロナウイルス感染が拡大し、2月ごろから日本で感染が拡がり始めると、事情が変わってきた。
 ドラッグストアや量販店の店頭でマスクが見られなくなり、ネット通販で2月中旬には1箱60枚4万円(1枚667円)を超える例もあったぐらいマスクの価格が高騰したのである。
 ドラッグストアでマスクが開店直後に陳列される場合は、開店前に行列ができ、朝並べる人だけが買えるという不公平感も人々の間に生まれたのである。
マスク不足と価格高騰の原因
 このようなマスク不足と価格高騰の原因として考えられることは、ます1つ目に、主として供給を依存している中国でマスクの需要が急拡大し、中国以外への輸出がその分急減速したことがあげられる。
 また原料への需要拡大による原料不足と価格上昇により、中国のマスクの生産は1月下旬の月当たり6億枚から3月には2億枚まで減少した。
転売の問題
 日本でのマスクの不足と価格高騰の2つ目の原因は、マスクの買いだめ・買い占め・転売である。
 店頭でマスクが売られるチャンスが減ると、客がマスクを店頭で見かけた時に多く買ってしまうことが増えた。また、転売屋がマスクを買い占め、そのマスクをより高い価格で他の人に売るという転売もひどくなった。
転売禁止
そこで、3月15日からマスクの買い占めや転売が禁止されることになった。
 小売店舗やECサイトなどから購入したマスクをより高い価格で、ネットや店舗などを通して転売することが禁止されたのである。
商店や路上でのマスク販売
 ところが、マスク製造業者や卸業者から直接に仕入れたマスクによる通常の販売は禁止されなかった。
その結果、マスクを販売する、飲食店や衣料品店などの商店が目立つようになってきた。また(立ち止まると無許可の路上販売になるので)路上でカートを引いてマスクを売る者も出現し始めたのである。
なぜ急に、街角でのマスク販売が増えたのか。
その最大の理由は、中国での新型コロナ感染拡大が沈静化してきたからだと考えられる。そのため中国での需要が急減したので、(一時は中国などからの輸入はほぼなくなっていたが、2月中旬ごろから入り始め)4月には中国からのマスクの輸入は平時の4割ほどに回復した。これに対応して、4月中旬から日本に対する中国側のマスクの売り込みが盛んになってきた。 
また、これ以外に、政府が、一住所あたり2枚ずつ布製マスクいわゆるアベノマスクを配布することを決めた(4月7日に閣議決定)ことや、日本でマスクの生産を開始したシャープが、一般消費者向けマスクを4月21日から発売し始めた(1箱50枚入り、税込み3,278円、別途送料660円)ことがあるだろう。
これらの理由の結果、マスクの不足感が和らぎ、価格上昇の程度が下がってくるのではないかと恐れた転売屋や(将来の価格上昇を期待して売り惜しんでいた)商社が手持ちのマスクを早く売り始めようと考えたのだろうと思われる。
高値販売
ところが、問題はマスク1枚の価格が70円から100円という高値で売られていることである。
その理由として、欧米でもマスクを需要するようになったこと、そしてそれにより原料価格が上がったことにより、感染拡大以前は4円から7円であったマスク1枚の仕入れ価格が、4月の初めごろには70円(税込み)前後まで上がったことがある。
それ以外にも、世界的に大きな需要があるため、マスクの製造業者や販売者が価格をつり上げている要因もあると考えられる。
転売範囲の拡大
問題はさらに、マスク以外の消毒剤や体温計、人気のゲーム機、ホットケーキミックスやバターや人気店の餃子(正規価格の3倍以上)などにも転売がひろがっていることがある。
マスクの国内生産
マスクに関しては、国内で生産する動きが高まってきているとはいえる。
マスク生産工場を中国から日本国内に移したり国内の生産設備を増強しようという動きがでてきている。これは、政府が設備投資に補助金を出すことを約束したり(アイリスでは30億円のうち20数億円が補助)、(製造業者が一番恐れるのは感染症終息による売れ残りだが)売れ残れば政府が備蓄用として買い上げることを約束したことがある。
この結果、ユニ・チャームや興和は1月中旬から増産し、異業種のシャープ、トヨタ、日清紡、ヘリオス、DMMもマスク生産に参入した。
マスクバブルの崩壊
 5月に入るころから、どうやら日本のマスク不足・価格高騰の問題は少しずつ解消され始めたようである。
 中国などにおける新型コロナ収束による需要急減、中国製粗悪品の返品による在庫増、売れ残り懸念の中国製マスクの日本への輸出増、日本国内の生産増などの要因により、
 日本の飲食店や衣料品店などドラッグストア以外で売られるマスクが急増したため、不足感がなくなり、マスクの価格が低下し始めたのである。
 このまま進むと、マスクバブルの崩壊という事態になるだろう。



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