逍遥日記

経済・政治・哲学などに関する思索の跡や旅・グルメなどの随筆を書きます。

映画『チップス先生さようなら』Goodbye, Mr. Chips

2021-07-11 15:35:18 | 映画
★映画『チップス先生さようなら』Goodbye, Mr. Chips
                                                                   山下景秋

 名門校に新任の先生としてやってきたチップス先生。やんちゃな生徒達にお決まりのいたずらをされたり、生徒の扱いに苦心する。ある時、親友に誘われて行ったスイスの山で美しい女性と知り合い、英国に帰ってその女性と結婚する。その女性は先生という職業の素晴らしさ・楽しさを語るのであった。そのおかげでチップスは先生という職業を楽しむことができるようになり、ジョークを言って生徒達を和ませることもできるようになる。
 こうして人気の先生になったが、妻は病気で亡くなってしまう。また戦時中教え子や同僚の先生が戦死する知らせを受け、生徒達にその知らせを伝えることもあった。しかしついには戦時で教師不足になった学校の校長になることができた。亡き妻も望んでいた念願の地位だった。
 63年間教師生活を続けることができたチップス先生だったが、とうとう退職の日を迎える日がやってきた。
 部屋の中にいるチップスを訪ねて来た少年が去る時、「チップス先生、さようなら」と言った。その後チップス先生は長い人生を終えるのであった。亡くなる刹那、自分には子供がいなかったが、何千人の教え子たちがいるという思いが頭をよぎるのであった。
 主役の先生を演じた俳優ロバート・ドーナットは34歳だったが、63年間の教師生活の先生の役を1人で演じきった。

「勝者の世界分割~東西の冷戦はヤルタ会談から始まった~」(NHKBS『映像の世紀(7)』)を観て

2021-05-10 22:14:51 | 政治
勝者の世界分割~東西の冷戦はヤルタ会談から始まった~」(NHKBSテレビ『映像の世紀(7)』)を観て
                                                         山下景秋

 第2次大戦終戦(1945年8月)直前のヤルタ会談(1945年2月)は、戦後の国際秩序をどのように形成するかという、米国、英国、ソ連3か国の会議だった。しかし、米国のルーズベルト大統領が明確に述べたように、この3国が世界をどのように分割して支配するかを話し合う会議であった。
 ルーズベルトはソ連のスターリンと親和的であったため、米国はソ連に武器を供与した。これもありソ連はドイツ軍に対し反撃を加えて東側からドイツに攻め入って、ドイツのヒットラー政権打倒を(米英軍の西側からのドイツ侵攻とともに)可能にした。
 また東欧は、英国のチャーチルとスターリンの間のその地域の支配をめぐる協議があったこととソ連軍の侵攻によりソ連の支配下に入った。
 一方、米国は対日戦争で多数の米兵が亡くなった(特に硫黄島)ので、日本軍の勢力を太平洋とは反対方向にも割くため、ルーズベルトはスターリンとの間で、北方領土のソ連支配を認める代わりに、ソ連が日ソ中立条約を破棄して対日参戦し、ソ連軍が中国の満州に進軍するよう要請した。
 ソ連軍の東方進出は、原爆投下とともに日本を敗戦に追い込む大きな要因になった。
 またソ連軍の東方進出により朝鮮半島の北部が金日成傀儡政権の誕生を促したばかりか、1949年の中華人民共和国の成立にも大きくプラスした可能性がある。
こうして、米国ルーズベルトとソ連スターリンが親和的な関係であったところに、米国が対独、対日戦争を有利に運ぼうとするための、ソ連に対する武器供与とソ連軍の東アジア進出が、戦後のソ連、東欧、中国、北朝鮮という社会主義圏の拡大につながり、その拡大がその後のソ連と米国の間の緊張、すなわち冷戦の下地になったのである。
 
(key word)
第2次大戦 ヤルタ会談 東西冷戦 冷戦 政治 歴史
World war II
Yalta Conference
East-West Conflict
Cold war
Politics
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新型コロナ対策―休日・勤務日の分散(Countermeasures for New Coronavirus -Dispersion of holidays and working days)

2021-04-23 19:03:00 | 病気
  新型コロナ対策―休日・勤務日の分散( Countermeasures for New Coronavirus-Dispersion of holidays and working days)
                                                   山下景秋(KAGEAKI YAMASHITA)

1.3密対策としての休日・勤務日の分散
 新型コロナ感染者数増加の原因として、飲食店や観光地(また電車の混雑もあるかもしれない)の3密(集団感染防止のために避けるべきとされる密閉・密集・密接)が指摘されている。都会の3密は都心で働く社員数が大きく関係している(勿論、都心に娯楽などで来る人もいるが、本稿ではその側面よりも通勤に重点をおいて検討する)。
ならば、この3密を避けるための方策として、会社などの事業体(や学校)の休日、したがって勤務日(通学日)を分散させる方法を提案したい(既に他の人が提案しているかもしれないが)。以下では、問題を簡単にするために、その社員が電車で都心に通勤するものと考えて会社員が通勤する場合を中心に考えることにする。
 この方法は、各日の人流を分散させることにより人流を減らすために、会社(学校)毎に休日・勤務日の曜日を分散させて勤め人(学生)の各日の通勤(通学)数を分散させるという方法である。
 本稿では、3密だけでなく、会社、飲食店、観光地のビジネスに与える影響もみておきたい。
 本稿は、4月22日、23日の私のツイート(@kageyamashita)の内容を具体的な数値例を使ってまとめたものです。

2.通勤電車の3密
 まず、休日・勤務日を分散させることによって通勤電車の3密が軽減するかどうか検討してみよう。
 ここでは、問題を単純化して、2社あるいは3社の社員のみが通勤しているものとする。
(1)2社の場合
A社、B社(この2社のみ考える)が共に土、日が休日であり、平日1日当たり1社では10人通勤しているものとする。
●休日・通勤日が同一の場合
(A社、B社の休日が共に土日の場合)



 1日当たりの通勤者数が20人の日数5日

●休日・通勤日を分散させる場合
では、A社のみ休日を月火に移せばどうなるだろうか。
(A社の休日が月火、B社の休日が土日の場合)


 1日当たりの通勤者数が20人の日数3日(残りの4日はそれぞれ10人)
 → 1日当たりの通勤者数20人の日数が(5日から)3日に減少
(結論)2社の休日・勤務日が同一である場合に比べると、2社の休日・勤務日を分散させる方が、会社の仕事は変化しないのに、電車の1日当たり20人通勤の3密状態は週当たり5日から3日に減らすことができる。

 (注)休日になった会社の家族が電車を利用して観光地に行く人数を考慮するならば、月火土日の電車利用者数は通勤者数10人を超えるが、(仕事に行くことは必要なことだが、観光や娯楽で電車を利用するのは必ずしも必要なことではないので)20人を超えない可能性が高い。

(2)3社の場合
 次に、まずA社、B社、C社が共に土、日が休日であり、平日1日当たり1社では10人通勤しているものとしよう。
●休日・通勤日が同一の場合
(A社、B社、C社の休日が共に土日の場合)

 1日当たりの通勤者数が30人の日数5日

●休日・通勤日を分散させる場合
(A社の休日が月火、B社の休日が水木、C社の休日が土日の場合)


 1日当たりの通勤者数が30人の日数1日(残りの6日はそれぞれ20人)
 → 1日当たりの通勤者数30人の日数が(5日から)1日に減少

(結論)3社の休日・勤務日が同一である場合に比べると、3社の休日・勤務日を分散させる方が、会社の仕事は変化しないのに、電車の1日当たり30人通勤の3密状態は週当たり5日から1日に減らすことができる。

3.飲食店の3密と客数
 では、次に飲食店の3密に関してはどうだろうか。 
上の例と同じように、1日当たり1社では10人通勤しているものとし、飲食店の客数はその半分の5人/日であるものとする。
(1)2社の場合の客数
●休日・通勤日が同一の場合
(A社、B社の休日が共に土日の場合)


 (1週間の客数=10人×5=50人)
 1日当たりの客数が10人の日数5日

●休日・通勤日を分散させる場合
 では、A社のみ休日を月火に移せばどうなるだろうか。
(A社の休日が月火、B社の休日が土日の場合)


 (1週間の客数=10人×3+5人×4=50人→同数)
 1日当たりの客数が10人の日数3日(残りの4日はそれぞれ5人)
 → 1日当たりの客数10人の日数が(5日から)3日に減少

(結論)2社の休日・勤務日が同一である場合に比べると、2社の休日・勤務日を分散させる方が、飲食店の客数の総数は変化しないのに、飲食店の1日当たり10人の3密状態は週当たり5日から3日に減らすことができる。

(2)3社の場合の客数
●休日・通勤日が同一の場合
(A社、B社、C社の休日が共に土日の場合)


 (1週間の客数=15人×5=75人)
 1日当たりの客数が15人の日数5日

●休日・通勤日を分散させる場合
(A社の休日が月火、B社の休日が水木、C社の休日が土日の場合)


 (1週間の客数=10人×6+15人=75人→同数)
 1日当たりの客数が15人の日数1日(残りの6日はそれぞれ10人)
 → 1日当たりの客数15人の日数が(5日から)1日に減少

(結論)3社の休日・勤務日が同一である場合に比べると、3社の休日・勤務日を分散させる方が、飲食店の客数の総数は変化しないのに、飲食店の1日当たり15人の3密状態は週当たり5日から1日に減らすことができる。

 このように会社の休日を3種類に分けることにより、会社の仕事量と飲食店の客数の総数は維持したままで、電車と都会の飲食店の3密を軽減することができる。
休日・勤務日の分散により3密が軽減するうえに週7日共会社通勤の客の来店が可能になるので、飲食店の来店客を一定数確保しやすくなるかもしれない。

4.観光地の3密と観光客数
会社の休日にはその社員の半数が(都会の外の)観光地に行くものとすれば、休日・勤務日の分散により観光地の3密はどうなるだろうか。
(1)2社の場合の観光客数
●休日・通勤日が同一の場合
(A社、B社の休日が共に土日の場合)


 (1週間の観光客数=10人×2=20人)
 1日当たりの観光客数が10人の日数2日

●休日・通勤日を分散させる場合
(A社の休日が月火、B社の休日が土日の場合)


 (1週間の観光客数=5人×4=20人→同数)
 1日当たりの観光客数が5人の日数4日
 → 1日当たりの観光客数10人の日数が(2日から)0日になり、1日当たり観光客数は5人だけになる。

(結論)2社の休日・勤務日が同一である場合に比べると、2社の休日・勤務日を分散させる方が、観光客の総数は変化しないのに、観光地の1日当たり10人の3密状態はなくなり、1日当たりの観光客数を半数に減らすことができる。

(2)3社の場合の観光客数
●休日・通勤日が同一の場合
(A社、B社、C社の休日が共に土日の場合)


 (1週間の観光客数=15人×2=30人)
 1日当たりの観光客数が15人の日数2日

●休日・通勤日を分散させる場合
(A社の休日が月火、B社の休日が水木、C社の休日が土日の場合)


 (1週間の観光客数=5人×6=30人→同数)
 1日当たりの観光客数が5人の日数6日
 → 1日当たりの観光客数15人の日数が(2日から)0日になり、1日当たり観光客数は5人だけになる。

 2つの場合を比較して、
(結論)3社の休日・勤務日が同一である場合に比べると、3社の休日・勤務日を分散させる方が、観光客の総数は変化しないのに、観光地の1日当たり15人の3密状態はなくなり、1日当たりの観光客数を1/3に減らすことができる。

 このように会社の休日を3種類に分散することにより観光地の3密も軽減できる。
親の休日が土日以外になれば、子供の休日とは異なる休日になる可能性があるので、そうなると家族で旅行に行きづらくなる。この面でも観光地の3密が回避される。

(4)修正案
 上の3社の例ならば、約3分の1の家族は親子の休日が一致するが、残りは一致しない。そのため観光地に来る客が減り過ぎるのも困る。また、いつまでたっても親子そろって観光地に行けない家族があるのも困る。
 ならば、それぞれの会社の休日の曜日を固定するのではなく、周期的に回せばよいのではないか。
 たとえば、極端に1週間単位で変更するとすれば、
第1週→ A社の休日が月火、B社の休日が水木、C社の休日が土日
第2週→ A社の休日が水木、B社の休日が土日、C社の休日が月火
第3週→ A社の休日が土日、B社の休日が月火、C社の休日が水木 
 以上を1つのサイクルとし、次の週からこのサイクルを繰り返す。
 1週間単位では目まぐるしく変わり過ぎるならば、2週間単位で変更しても良いし、1か月単位で変更しても良い。

5.学校
 電車通学の学生・生徒が多い大学や高校が対面授業にこだわるなら、電車による1日当たりの通学者数を減らすためには、会社と同じように、各校の休日の曜日を均等に分散させても良いかもしれない。

 親と子供の休日が異なると、子供の休日の子供の世話をどうするか。小学生や中学生の場合は学校の校庭を開放し、昼の食事が必要な子供には学校において給食で食事できるようにしたらどうか。その場合の食事の世話は、地域の大人が交代で担うことも考えられる。

6.まとめ
 会社などの休日・勤務日を分散させると、会社、飲食店、観光地のビジネスに対する影響はほとんど変化しないが、通勤電車、飲食店、観光地それぞれの3密の程度を下げることができる。したがって失業者を増やすことなく、感染者数をある程度減らすことができる。経済をできるだけ損なわず、感染者数抑制と経済をできるだけ両立させる方法ではないだろうか。
 さらに言えば、政府による政府支出増というコストはほとんど不要であると思われる(休業要請の場合は政府や自治体による巨額の補償が必要)。また、会社、飲食店、観光地が休日・勤務日を移動させるコストはそれほど大きくないかもしれない。


7.政策提言
 政府や自治体などの政策当局は、各社(各事業体)や各大学・高校に対して休日の移動を要請し、たとえば、土・日を休日にする会社(学校)、月・火を休日にする会社(学校)、水・木を休日にする会社(学校)の3種類に均等に分かれるように指導・要請してはどうか。
 それぞれの会社(学校)に自主的に変更してもらってもよいかもしれない。どうしても土日でなくてはならない会社(学校)を除けば、月・火を休日にする会社(学校)と水・木を休日にする会社(学校)はほとんど同数かもしれない。(予め希望調査をして、偏よるようであれば要請する必要がある)

 今日は4月24日であるが、政府や東京都などによる緊急事態宣言の発出に伴い飲食店やデパートなどに休業を要請する方針が明らかにされた。勿論、感染者数を大きく抑制するためには休業要請の方が効果的なことは言うまでもない。休業要請よりも前の段階や後の段階で、休業要請よりも緩い方法として検討してみる価値はあるかもしれない。


政治主導の問題

2020-08-16 11:57:47 | 政治
政治主導の問題
                                                        山下景秋

 官僚は選挙で選ばれたものではないのに対し、政治家は国民から選ばれたものである。
 だから、民主主義国家では、政府・内閣が官僚を支配するのは当然であり、人事を支配するのも当然であるという考え方がある。しかし、政治家の言動に官僚が100%従ったり、内閣が官僚の人事を支配するのは、問題があるのではないか。
 確かに、政治家は選挙で選ばれたものであるが、国民はその政治家の信条や公約に基づいて投票したものであり、その選挙の結果国民の多数の意見がその部分で反映されたものであると言える。
 しかし、国民は、選挙の後予想もできない事柄が起こった場合の政府の政策や、政治家が倫理的道義的に許されないことを将来行うことまでを含めて投票したわけではないことに注意しなくてはならない。たとえば、前者の例として政府のコロナ対策など、後者の例として森友問題や河井氏の汚職問題などがある。
 これらの問題が将来発生するだろうことを予想して国民が過半数の支持を与えているのならまだしも、そうとは思えないことに問題がある。
 しかし、内閣が官僚人事に介入している体制の下では、政府の政策が国民の過半数から支持されない場合や問題が多い事柄であっても、政府は人事をちらつかせて官僚に対してその同意や推進を命じる可能性がある。また官僚が政府の感情を害さないように忖度した対応をせざるをえなくなることが問題なのである。
 官僚を巻き込んで、国民多数の同意を得ない政策が実行・実施されるに至ったり、国民の多くが疑念をもつ事柄が放置されるような事態は、本当に民主的で望ましい政治主導といえるのだろうか。だから、私は官僚人事に対する政府・内閣の過剰な介入は、批判されてしかるべきものだと考えるのである。
 

転売の問題(2)―その問題とは何か―

2020-05-21 21:41:31 | 経済
転売の問題(2)―その問題とは何か―
                                                       和洋女子大学・山下景秋

 最近、日本のマスク不足・価格高騰の問題は解消されつつある。しかし、他の製品・商品でも品薄や価格高騰の問題が起こる可能性があるし、これからもまた同じような事態が起こる可能性もある。そこで、マスクの不足・価格高騰の問題を例に、特に転売に焦点をあててこの問題を検討してみたい。
1.マスクの不足問題
買い急ぎ・買い占め
 マスクの品不足の問題の1つの原因として、買い手が品不足になると思い込んで買い急ぐということがある。「買い急ぎ」とは、現在の使用ではなく将来の使用のために商品を早めに買っておこうとすることである。
 また、もう1つの品不足の原因として、買い占めというものがある。「買い占め」とは、他の多くの人が買うのが難しくなるぐらい買い手1人が市場や店にある多くの商品を買い集めることである。一般の消費者が買い急ぐために買い占める場合があるし、業者が(後で述べる)転売のために買い占める場合がある。
 需要(買う、買おうとする)と供給(生産したものを売ろうとする)の大小関係によって価格が自由に動くメカニズムを価格メカニズムというが、価格メカニズムが働いているならば、商品を買い急いだり買い占めることによって価格が上昇する。
 マスクなどでは感染症の拡がりによりますます需要の増加が予想される場合や、需要の大きさに対して生産が追い付かない場合は、ますます商品の品不足が進行し、またしたがってますます価格が上昇する。
売り惜しみ
 価格上昇が予想される場合は、売り手の方が売り惜しむという可能性もある。「売り惜しみ」というのは、価格の上昇が予想されるとき、売り手が現在商品を売るのではなく、将来価格が上がるときに売ろうとして現在は売ることを控える行為のことである。
業者は現在の市場に供給しないので、品不足、価格上昇の一因になる。
品不足と価格上昇の深刻化
 買い急ぎ、買い占めや売り惜しみが始まると、品薄と価格の上昇が起こる。そうなると、ますます他の多くの消費者も買い急ぐ。
 問題は、品不足と価格上昇が、これらの原因のうち転売によって引き起こされる部分である。以下では、この転売についてもう少し詳しく検討してみよう。

2.転売問題
 転売はなぜ問題なのだろうか。ふつうの流通や貿易と同じなのだろうか、あるいは異なるのだろうか。また、なぜ転売は許されない行為なのだろうか。
(1)通常の流通、貿易
流通と貿易
 ある商品に関して、需要に対して供給が大きい余剰地と、供給に対して需要が大きい不足地があるとしよう。通常は、その双方のぞれぞれの土地で需要と供給の関係により商品の価格が決まる。需要と供給がバランスする水準で決まる価格を需給均衡価格と称することにしよう。
 通常は、不足地の需給均衡価格は余剰地の需給均衡価格よりも高い。すると、相対的に低い価格の余剰地から相対的に高い価格の不足地に向かって商品が流れる。余剰地で相対的に低い価格で買って、不足地で相対的に高い価格で売ることにより利益を稼ごうとして、商品を運ぶ者が出現するからである。
 余剰地において生産者から商品を購入し、不足地に向かって消費者にこの商品を届けるだけの行為は、転売とは言わず、ただの流通であり貿易である。
 この行為によって不足地で供給が増え価格が下がるので、不足地の人にとってありがたい行為であるから好ましい行為なのである。(ただし、余剰地では供給が減る分いくぶんか価格が上がる)
 流通や貿易は両地の商品数の過不足や価格差を調整するという効果がある。
 なお、余剰地として、生産国や輸出国、生産企業などを想定して良い場合がある。また、不足地として、輸入国、購入企業、消費者などを想定して良い場合がある。
余剰地から不足地への商品の移動の例
 ここでは、簡単な例を用いて、両地の間の調整について見ておこう。 
マスク余剰地をX地とし、そこではマスク1つの価格が20円とする。一方、マスク不足地をY地とし、そこではマスク1つの価格が30円とする。
 相対的に商品の供給数が多い場所(ここの例ではX地)で相対的に低い価格(この例では20円)でその商品を購入して、相対的に供給数が少ない場所(ここの例ではY地)で相対的に高い価格(この例では30円)でその商品を販売することにより、その価格差の利益(ここの例では、30円-20円=10円の利益)を得ることができる。
 このような動きは、場所(あるいは時間)によって商品の需要数や供給数に差があり、したがって価格差があるから生じる現象である。この価格差がある限り利益を得ようとしてこのような動きが続くことになる。価格が需要と供給の関係によって自由に動く場合は、この動きにより商品が吸収されるX地では価格が上がり、商品の販売数が増えるY地では価格が下がる。単純に考える場合は、最終的に両地の価格が同じ水準、たとえば25円になるだろう。両地の価格差がなくなれば、このような動きによる利益がなくなるためこの動きが終息する。またしたがって価格はこの25円で動かなくなる。
 以上が、ふつう「経済」の常識とされる考え方である。

(2)転売の問題
売とは 
通常、転売とは、需要が大きい商品を小売業者から購入し、自分は使用しないのに商品を他へより高い価格で売って利益を得ようとする行為のことであると定義されている。
本稿では、転売とは、自己の使用のためでなく利益獲得のために商品を市場(小売業者)から購入し販売する行為のうち、消費者に対して品不足と価格上昇の被害を与える行為である、と定義する。
 このような転売行為を行う者を転売屋(転売ヤ―)と称することにする。
 転売の対象になるものは、マスクだけでなく消毒剤などの医療関連製品、米など農産物や食品、チケットなどがある。
通常の流通・貿易との違い
 ただの流通・貿易は、需要が多く、それに対して供給が少ない場所に向かって商品を移動させる行為であるのに対し、転売は逆に、需要が多く、それに対して供給が少ない場所から商品を吸収する行為であり、これによりさまざまな問題を生じさせる行為である。
 転売屋は仕入れ業者からではなく、与えられた一定の供給数の範囲内で小売業者から買うので、転売は供給を増やす行為ではない。したがって転売は、生産を誘発し生産増に寄与するものではない。
株式投資との違い
 転売は、株式投資とも異なる。
 株式投資の場合は株式は投資対象であり、株を購入する者は投資家だけであるが、転売対象となるマスクなどは消費対象の消費財(特に感染症が深刻な場合は生命に関わる必需財)であり、商品の購入者は転売屋だけでなく当然ながら一般の消費者もいるところが異なる。
 そして株式の場合は株価の上昇により株主は利益を得るが、これにより株主以外の一般の人達が損することはない。むしろ株価が上昇すれば発行主体の企業は資金調達が増える。
それに対して、転売屋は転売商品の価格上昇により利益を得るが、この価格上昇により一般の消費者は逆に損をする。
通常、株は余裕のお金を使って購入するものであるが、マスクなどは余裕のお金がなくても買わざるを得ないものである。
(ただし、マスクなどの転売屋と同じく、株を買った者が予想外の価格下落により損する点は共通している)
転売の種類
 転売行為は同じ場所で行われる場合(この場合の転売を同地転売と称することにする)と、他の場所に向かって行われる場合(異地転売)と、将来の時間帯に向かって行われる場合(異時転売)がある。
 同地転売と異地転売を合わせて空間転売と称し、異時転売は時間転売とも称することにする。
以下では、余剰地をX地、不足地をY地とし、ある特定の商品たとえばマスクを対象に考えるものとする。
①空間転売
異地転売
 通常は、余剰地X地から商品が不足地に流出しても、X地で供給が十分にあればX地で価格(需給均衡価格)が上がることはない。しかし、転売屋によってX地から商品が過剰に流出し、X地でその流出を補う供給がなければ、X地で商品価格が上昇し始める。その価格は、自然な状態における需要と供給が均衡する需給均衡価格というよりも、商品をY地でより高い価格で販売して利益を得ようとする転売屋(の過剰な流出行為)によって引き上げられた結果による価格であることに注意しなくてはならない。この価格と本来の需給均衡価格の差が、転売屋によって引き上げられた価格の部分である。
 この価格上昇は、X地の消費者の利益を損なうのは勿論である。もしX地からY地への商品流出が過剰であるため、X地の消費者が以前購入できた数の商品を買えなくなれば、この減少した商品数(X地の消費者の本来の需要が満たされない部分の需要=転売屋により吸収されたために買えなくなった商品数+転売屋により引き上げられた価格の上昇により買えなくなった商品数)も、X地の消費者の利益を損なう。
 異地転売によってX地の消費者のこの商品の購入数が減っても、価格の上昇により支出が増える場合もある。
 転売の対象の商品に関して、1個当たりの価格が上がって消費者の支出が増える一方で転売屋の利益が増えるということは、実質的に転売屋はX地の消費者から不当に貨幣を奪い取ることを意味する。
空間転売から時間転売へ
 X地で価格が上昇すれば、Y地との価格差が少なくなるため異地転売が減る可能性があるが、X地(や需要が多い場合のY地)で次に述べる時間転売が始まる可能性がある。

②時間転売(異時転売)
 X地やY地で需要が大きく増える場合は、異時転売が起こる可能性がある。
 需要が非常に大きくなると、X地でもY地でも需要増の程度に応じて商品の価格が上昇し始める。
そうなると現在の価格と将来の(予想の)より高い価格の差を利用する、時間を通じての転売が始まる。(場所の違いによる価格差を利用した異地転売が止まる場合でも、異時転売が始まる。
転売の転化)
 両地で転売需要増によりさらに価格が上がり、価格が上がるから転売需要が増えるという悪循環が始まり、この過程のなかで転売の対象になった商品の価格が異常に上昇する。
 価格の上昇が予想される場合は、買い急ぎや売り惜しみが起こる可能性もある。

(3)定価販売と自由価格販売
 ここでは、定価で売られる場合と、価格が需要と供給の関係で自由に決まる自由価格で売られる場合を比べてみょう。
①完全な定価販売 
価格上昇の回避
 需要が大きくなってもある商品が全て定価で売られる場合(完全な定価販売)は、消費者は需要増による商品価格の上昇に苦しめられることはない。

②定価販売から自由価格販売へ
転売の始まり
 マスクのような製品は生命に関わる重要な製品であると考えられている。感染症が深刻になればなるほどその必要度が高くなるためその需要が非常に大きくなるにもかかわらず、生産数が急に増えない場合は、定価で買った商品(製品)を定価よりも高い価格で売って利益を得ようとする転売が始まる。
定価販売の消滅
 定価で売られている店から転売用に購入され続けると、店頭にある商品数が減ってくる。すると、一般の消費者が将来この商品が手に入らなくなるのではないかという不安感をもつようになるので、消費者による買い急ぎが始まる。
 転売屋による転売のための買い占めと、一般消費者の買い急ぎにより一気に定価で商品を売る店頭から商品が消えてしまう。
 また更に、需要が多くて商品価格が高騰すると、この商品の仕入れ価格もまた高騰する。高価格の仕入れでは定価で販売する店は利益がでなくなるから、仕入れをしなくなる可能性がある。これもまた店頭から商品が消え続ける理由になる。
 そうなると、商品の販売は定価販売の店を通じて行われる部分はほとんどゼロに等しくなるので、実質的に定価販売は消滅する。
自由価格販売へ
 その代わりに商品の大部分は、自由価格の高い価格で売買されるようになる。

③自由価格
自由価格
 自由価格の場合は、その(転売需要を含む)需要(と供給)の変化の程度に応じてマスクの価格が上昇する。
 自由価格の下では需要が多い場合は価格が上がり、この価格上昇を期待して時間転売が起こる(注★)。そしてこれにより価格がさらに上がるという悪循環になる。
時間転売による価格の高騰 
 この結果、消費者は非常に高い価格で商品を買わなくてはならなくなる。あまりにも価格が高いと、買えない人もでてくる。
(注★、異地転売がある場合は、自由価格ならば[自由価格が上昇して両地の価格が同一になるので]異地転売はやがて消滅するが、その代わりに時間転売が起こることになる(空間転売から時間転売への転化))。
自由価格の問題点
 この自由価格が自然な状態の需給均衡価格なら、たとえ高い価格でも正当な価格と考えるべきかもしれない。
商品の売買が定価販売から自由価格販売に移行すると、定価販売で購入していた需要数が自由価格による需要数に加わるうえに、「需要」の中に正当な需要でない転売による需要が加わるので、それがない場合の需給均衡価格よりも高い価格に上昇してしまう。さらに、不足感が強く人々の不安感が強い場合は、買い急ぎによる需要も付加される。
また「供給」の中にも、正当でない部分がある。業者が将来の値上がりを予想して現在の販売をしない売り惜しみを行う場合がある。この売り惜しみにより現在の供給数が減少してしまう。
このような正当でない部分を含む需要過多・供給不足が深刻な時期には、消費者は定価で商品を買えないうえに、自由価格が正当な需給均衡価格ではなく、不当に歪められた需要と供給による自由価格であることに注意しなくてはならない。

(4)転売の問題点
 過大な需要があるにも拘わらずその需要を満たす供給数がない商品(特に必需的な商品や生命に関わると認識されているマスクなど)に関して、買い急ぎ、転売、売り惜しみの問題が現れる。
 需要面では、買い急ぎは消費者の(将来の)使用のために行われるが、転売は消費者の使用のために行われる行為ではない。供給面では、転売(時間転売)は将来その分供給(販売)されるという主張もあるが、価格の上昇が続くと予想する将来まで売らなかったり、売ったとしても、より高い価格で買って得た利益でさらに転売のために購入しようとすると、転売需要と同数が将来供給されるわけではない。つまり、転売対象商品が投資商品化すると、(多数の転売屋が価格上昇を予想する)将来の長い期間にわたって、転売による供給よりも転売による需要が上回る可能性がある。
 買い急ぎは店頭における品不足と価格上昇を促進させるので、ますます買い急ぎを促進するという悪循環を引き起こす。転売も同様である。また、販売側も、品不足による価格上昇が始まると売り惜しみをする場合があり、これによる品不足と価格上昇の進行により、更なる売り惜しみを進めるという悪循環を起こす。
 このそれぞれの悪循環の過程で、買い占めの数量とこの悪循環に参加する参加者が増加・拡大する。それに加えて、この3つの悪循環は互いに影響を与え合うので、更に悪循環が深刻化する。
 買い急ぎだけや売り惜しみだけの悪循環に加えて転売による悪循環が加わると、転売による悪循環が買い急ぎと売り惜しみによる悪循環を1つの巨大な悪循環に巻き込み、転売はその中心の構成要素となる。
 またさらに、転売が進行すると、(定価販売の商店で買えなくなって、正規以外の商店やネットで)消費者は転売屋から商品を購入せざるをえなくなる。そのため、転売屋は恣意的に商品価格を引き上げることが可能になる。
 この結果、対象商品の自由価格が自然な需要と供給の均衡価格よりも高い価格になり、消費者が手に入れることができる消費数は、その均衡価格における自然な需要数よりも過少になる。
 (需要側では)転売と(供給側では)売り惜しみは、このような問題を引き起こす。そしてこの両者の行為の根底には、この対象商品を自己の利益の追求のために利用するという悪意がある。
転売屋の利益と消費者の損失
 転売屋の転売行為によって、消費者は商品の購入可能数の減少と価格上昇との被害を受ける。一方、その損失に対応して転売屋は利益を得る。消費者の保有貨幣が転売屋の意図的な転売行為によって不当に奪われるのである。もしこの転売行為が無ければ、消費者は価格上昇や品不足の被害を受けることはなかったのである。 
 特に問題になるのは、商品が不足しているのに、買い占めにより転売が過剰に行われる場合である。転売は緊急時には転売屋による悪質な(犯罪的な)利己的行為と言わざるをえない。
 転売屋により引き起こされた高価格で買えない消費者を生み出すため、転売は貧しい消費者を排除する。特に経済が落ち込んだ時ほど収入が低下した消費者を排除してしまうことが問題である。