さらば、グゥフィー (その1)

2021-12-04 10:21:53 | 随筆
「肥溜め」の記事に載せたが、我が家の隣には凶暴な犬がいる。 グゥフィーという名で、朝から晩までギャンギャン吠える。 足は短いが、軽々とフェンスを飛び越え、近所の住民達を脅かす。 私は庭仕事をしていた時、2回襲われそうになった。 斜め向かいの奥さんは、子供を学校へ連れて行く為、車のドアを開けようとしたところ、すぐ後ろでこいつが構えていて、もう少しで危ないところだった。 我々が通報したので、飼い主は200ドルの罰金を科せられたが、事は少しも改善されなかった。 ここに引っ越してきてから、近所中の嫌われ者となってしまったが、当の本人達はどこ吹く風である。 彼等が疎まれる様になったのは、グゥフィーだけが原因ではない。 その理由を並べると、

ゴミのポイ捨て。 風に吹かれて近所中の庭を汚す。
夜中過ぎまで、大音響で音楽をかける。
庭中に壊れた家具、子供のおもちゃなどガラクタを置きっぱなしにする。 この様な見たくないもの、醜いものを指して、アメリカでは「eyesore」と言う。
大人数でシェアハウスをしているのでゴミの量が多く、廃棄物処理会社から支給されたゴミ箱の蓋が閉まらない。 (このゴミ箱は、trash bin と呼ばれ、大人一人がすっぽり入るほど大きい。) そこでまた風が吹き、 bin からはみ出したゴミが空を飛ぶ。 そうして、ピーチロード全体が eyesore となってしまった。

この年の夏(2021年)、隣に住む二人の青年が庭でくつろいていたが、私はいつものように苦虫を嚙み潰したような顔でごみ拾いをしていた。 彼等は南米からの移民で、このばあさんにはスペイン語などわかるまい、といった様子でわざと大声で話している。 腹が立ったので、じろりと鋭い視線をくれてやると、くちばしの黄色い輩は、「フ、フゥーイ!」と素っ頓狂な声を出して、ヤジった。 これを、「jeering」 という。 

後ほど次男のシェインにこの件を話すと、烈火のごとく怒った。 隣に怒鳴り込むような勢いだったが、嫁のダイアナとなだめすかし、何とかやめさせた。 やれやれ、何でもかんでも息子に話すもんじゃないわい、と反省する。

さて、この半年ほどの間、彼等はありとあらゆる問題を起こし、我々の住むピーチロードをしょっちゅうパトカーが行き来していた。 

ある初秋の早朝、窓からフロントヤードを眺めると、思わず舌打ちをした。 またゴミが...。 忌々しい思いでゴム手袋をはめ、庭に出る。

「まったくもう...。」

私にヤジを飛ばした青年は、青いセダンを持っている。 いつものことだが、車の周りにはチュウインガムの嚙み捨て、たばこの吸い殻、ビールの空き缶などがごろごろしている。 私は眉間にしわを寄せたまま、ひとつづつ拾ったが、タイヤのすぐわきに落ちているものを見て、ぎくりとした。 そこには、テレビのドキュメンタリー番組などで見たことのあるものが落ちていた。 数センチ四方ほどの、小さなビニール袋が二つ。 中には白い粉。 

「ドラッグだ!」

コカイン? ヘロインか? 一瞬どうしようかと思ったが、とっさの思いでそれをつまみ上げ、ごみ袋へ入れた。 朝早かったので、おそらく誰にも見られていないだろう。 察するところ、この車の持ち主は夜遅く、酒かドラッグに酔ってふらふらと帰宅し、ポケットから落とした、というようなところか。 私はこれを見つけた時に一瞬、「これで、彼らをこの住宅地から追い出せるかもしれない。」という希望を持ったのだ。 警察に通報し、検挙してもらおう。 もしかしたら、この家の住人全員が麻薬常習犯かもしれない。 ゴム手袋をしていたので、私の指紋はついていない。 この袋の持ち主のものは、ついているはずだ。 私は少しばかりの恐怖心と期待で、ドキドキしながら警察に電話を掛けた。

「というわけで、これは隣の住人の物に間違いありません。」
「では、すぐお宅へ警官を向かわせます。」

私はあわてて言った。

「いいえ、こちらへ来ないでください。 もしポリスがうちへ来ているところを隣の人たちに見られたら、私が通報したことがわかってしまいます。 そのあと、どんな報復をしてくるかわかったものではありませんから。 私がそちらへ届けます。」
「ではお願いします。」

今に見てろ。 年寄りをバカにすると、ろくな目に合わないということを教えてやる。 私は「獲物」が入ったごみ袋を助手席に放り出し、車のエンジンをスタートさせた。  

「さらば、グゥフィー(その2)」に続く
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