あやめちゃん (その1)

2022-02-14 01:51:44 | 随筆
昨晩あやめちゃんが、我が家を訪れた。 彼女は、イスラエルと米国の二重国籍を持つ22歳の女性である。 生まれと育ちはイスラエル。 ロシア系ユダヤ人の父とアメリカ育ちのユダヤ人母の間に生まれた。 本名は「アイリス」だが、私はそれを日本語に訳して、「あやめちゃん」と呼んでいる。 

彼女は日本語を学ぶ為、高校卒業直後、日本へ飛んだ。 約一年近く滞在し、イスラエルへ帰国。 その後、イスラエル国民の義務である女性2年(男性3年)の徴兵期間を経て、現在はアメリカの大学で日本語を学び続けている。

あやめちゃんのお母さん、ハヴィヴァは私の知人で、私がまだ現役の美容師であった30年以上も昔、客となってくれたこともあった。 彼女は後ほどイスラエルへ移住、結婚し、二人の子をもうけたという話を風の便りで聞いていた。 その頃、ある友人の家でハヴィヴァの子供たちの写真を見せてもらう機会があった。 風呂桶の中で遊ぶ幼子たちは、愛らしかった。

初めてあやめちゃんに会った時、あの写真の3歳児がこんなに大きくなったのか、と時間の流れる速さに驚いた。  

「私、日本語大丈夫です。」

長いブルネットの髪を、両手でしごくようにして話すあやめちゃんは清々しく、私はひと目で好感を持った。

「私は日本語を勉強しているですが、なかなか日本語を話す(機会)がありません。 だからフィービーに会えて、うれしいです。」

その後何回か互いにライン交換をし、夕食に招待することにした。

「すみません。 私はベジタリアン。 肉と魚は食べることないです。」
「大丈夫。 野菜で海苔巻きをつくるから。 それから、いなりずし。 みそ汁の具は豆腐とわかめです。」
「ありがとうございます!」

私はルンルンと、味噌汁にわかめを入れながら、「わかめちゃ~ん、あやめちゃ~ん」と鼻歌交じりに料理を楽しんだ。

約束の時間より少し早く、ドアベルが鳴った。 戸を開けいらっしゃいと言うと、あやめちゃんは玄関口でお辞儀をしながらチョコレートの箱を差し出した。 (箱をちゃんと両手で持っている...。 日本人みたい。)などと思いながら私は言った。

「あやめちゃん、こんな気を使わなくてもいいのよ。 私はアメリカに住んで40年以上も経っているから、これからは手ぶらで来てね。」
「いーえ、私は失礼したくない。 だから持ってきます。」

日本人に招かれたら、手ぶらで行くべからずと誰かに教わったらしい。 働きながらの苦学生にこんな心配をさせてしまった、と少し申し訳ない気持ちでダイニングルームへ誘った。 食事の時間なので、マスクを取りましょうと促す。 あやめちゃんがそれを外すと、美しいにこにこ顔が現れた。

「あやめちゃん」(その2)に続く。
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