やぎの宇宙ブログ

宇宙の最新情報ヽ( ・◇・)人(・◇・ )ノ世界の愛と平和

はやぶさ論文解説Part. 1

2011-08-31 22:28:43 | はやぶさ関連
2011年8月26日版の米科学雑誌サイエンスに、探査機はやぶさが持ち帰った小惑星イトカワのサンプルの分析結果を報告した6本の論文が掲載されました。
その詳しい内容を大雑把にまとめてみようと思います。
ただし、正確なところは原文を読んで下さい。
まず一つ目はこちらです。


小惑星イトカワの微粒子:S型小惑星と普通コンドライト隕石を直接結び付ける物的証拠
中村智樹(東北大)他


この研究の意義について

この論文は、探査機はやぶさが小惑星イトカワの地表から持ち帰った粒子を分析した結果を報告したものです。これまで、小惑星を作っている成分を直接詳しく分析することはできないので、小惑星のかけらである隕石を分析して小惑星の様子を推定する、という方法をとってきました。いわば間接的にしか小惑星を調べることができなかったわけです。しかし、実際にイトカワの地表の成分が分析できたことによって、イトカワの構造や、イトカワが形成された過程についての手がかりを得ることができました。今回の発見の意義はそれだけではありません。イトカワの粒子と、これまで地上で発見された隕石とを比較すれば、同じような成分でできた隕石がイトカワと同じ種類の小惑星から飛来したものだという確証が得られます。つまり、イトカワの構造や歴史だけではなく、他の数多くの小惑星についての情報も得られるということです。


イトカワのサンプル回収に成功

ご存じ探査機はやぶさは、日本が打ち上げた小惑星探査機です。2005年9月に小惑星イトカワに接近して詳細な観測を行い、最後に地表のサンプル採取のためのタッチダウン(接地)を試みました。1回目は降下の途中に姿勢制御不能に陥って落下し、地表をバウンドした後に着陸しました。2回目はタッチダウンには成功したものの、地表の物質を採取するためのサンプラーが正常に作動しませんでした。しかし、着陸や着地の衝撃で舞い上がった物質がサンプルキャッチャーと呼ばれる部屋に入り込んだ可能性があり、それを地球に持ち帰るべく地球帰還を目指しました。
しかし、通信途絶や相次ぐエンジンの故障が待っていました。それでも2010年6月13日にはやぶさは奇跡の帰還を果たし、はやぶさが分離したサンプルキャッチャーの入ったカプセルが地上で回収されました。
大きな塊は一つも入っていませんでしたが、数多くの微粒子が確認されました。テフロンへらでこすったところ多くの微粒子が回収され、また容器を逆さまにしてタッピング(=軽く叩くこと)したところ比較的大きめの粒子が多数回収されました。電子顕微鏡を使った初期の確認作業の中で、イトカワ由来の物質であることが確定しました。


隕石の分類

本題に入る前に、隕石の分類について簡単に解説します。これを先に解説しておかないと話が進まないので、多少ややこしいですが、「そんなものか」と思って読み流して下さい。
隕石とは、宇宙空間から地上に落ちてくるもので、もともとは太陽系内をさまよっていたものです。そのほとんどは小惑星が由来です。隕石はその成分によって分類されていますが、今回話題となるコンドライトもその中の1グループです。コンドライトとはコンドリュールという小さな球状の構造を含むケイ酸塩鉱物を主成分とする隕石です。
隕石には様々な種類の鉱物が含まれています。鉱物は種類によって結晶構造や化学組成が異なります。化学組成が同じでも結晶構造が異なれば別の種類の鉱物になります。コンドライトの主成分はケイ酸塩ですが、ケイ酸塩の結晶構造によって、かんらん石や輝石、長石等の多くの種類のケイ酸塩鉱物が存在します。隕石の組成にはこのように鉱物組成と化学組成があり、一対一の関係ではないので注意が必要です。
コンドライトは、化学組成によって普通コンドライト、炭素質コンドライト、エンスタタイトコンドライト等に分類されます。今回の話題で出てくる普通コンドライトは、その名の通り最も豊富に存在するグループです。さらに鉄の量が多い順に、H、L、LLに分類されています。
一方これとは別に、コンドライトはコンドリュールの量や構造によってタイプ1~6に分類されます(岩石学的分類)。上で出てきた普通コンドライトはこのうちタイプ3~6に分類されます。例えば、LL6コンドライトとは、コンドライトのうち化学組成はLL型で、岩石学的分類は6型である隕石のことです。


小惑星の分類

一方、小惑星もその組成によって分類されています。と言っても、小惑星の成分を直接分析することはできないので、反射スペクトルを観測して成分を推定します。私達も、ものの色を見て、それが金属でできているのか、木でできているのか、を知ることができますが、これと同じです。
小惑星のスペクトル分類には多くの種類がありますが、中でもC型、S型、M型の順に多く、イトカワはこのうちS型に属しています。
多くの隕石の起源は小惑星なので、小惑星のスペクトル分類と隕石の分類との間には何らかの関係があるはずです。現在までのところ、炭素質コンドライトはC型小惑星由来、普通コンドライトはS型小惑星由来、鉄隕石・石鉄隕石はM型小惑星由来と推定されています。


イトカワ粒子の鉱物組成

へらに付着していた1537個の岩石粒子について分析が行われました。何れも大きさは0.003mm~0.04mmと極めて小さな粒子です。うち1087個は単一の鉱物から成り、その種類は下のグラフのように、かんらん石が過半数を占めています。一方残りの447個は複鉱物で、やはり主にはケイ酸塩鉱物から成ります。

一方、タッピングで回収された40個の粒子は0.03mm~0.18mmと比較的大きく、うち38個について詳細な分析が行われました。回収された粒子は全てカタログ化されています。下は、4つの微粒子の後方散乱電子像で、全体的な形態が分かります。RA-QD02-0030とRA-QD02-0024は典型的なイトカワ粒子の特徴を示しています。中にはRA-QD02-0013のようにサッカーボールのような形状のものもあります。また、RA-QD02-0024は、イトカワ粒子の中では珍しくトロイライト(Tr)が主成分となっています。このようにタッピングで回収された粒子は複数の鉱物粒子が集まった複鉱物ですが、やはり最も多く含まれているのはかんらん石で、輝石や斜長石がそれに続きます。その他、クロム鉄鉱、塩素燐灰石、メリライト、トロイライトが含まれます。また、ケイ酸塩鉱物の中に、テーナイト、カマサイト、トロイライト、クロム鉄鉱の小さな包有物が含まれています。
また、3種類のケイ酸塩鉱物が接合している箇所が見られ、過去に熱アニーリングを受けていたことを示唆します。また、ケイ酸塩鉱物の中には亀裂の名残りと思われる小さな孔も見つかっており、こうした亀裂は天体衝突等の衝撃によってできたと思われます。



イトカワ粒子は、LL4コンドライトとLL5・6コンドライトに類似

タッピングで回収された粒子はさらに化学組成の分析が行われました。
かんらん石におけるFa(鉄かんらん石)成分の量、低Ca輝石及び高Ca輝石におけるFs(鉄珪輝石)成分及びWo(珪灰石)成分の量、斜長石におけるAb(曹長石)成分の量が測定されました。その結果、かんらん石のFa成分は28.6±1.1、低Ca輝石のFs成分は23.1±2.2、Wo成分は1.8±1.7、高Ca輝石のFs成分は8.9±1.6、Wo成分は43.5±4.5、斜長石のAb成分は83.9±1.3、Or成分は5.5±1.2でした。また、カマサイトとテーナイトに含まれる金属成分は、カマサイトでニッケル3.8~4.2wt%、コバルト9.4~9.9wt%、テーナイトではニッケル42~52wt%、コバルト2.0~2.5wt%でした。一方、岩石学的タイプ4~6のLLコンドライトでは、かんらん石のFa成分が26~32、低Ca輝石のFs成分が22~26、カマサイトのニッケルが約4.98wt%、コバルトが1.42~37.0wt%であり、イトカワ粒子とよく似ています。このことから、MUSES-C領域はLLコンドライトで覆われていることが示唆されます。これは、はやぶさが観測機器によってイトカワ表面の組成を分析した結果とも一致します。

イトカワの鉱物化学組成を調べたところ、熱変成の程度が弱い粒子(6個)と熱変成を大きく受けている粒子(32個)に分かれることが分かりました。
熱変成の程度が弱い6個の粒子のかんらん石のFa成分は24.4~28.9、低Ca輝石のFs成分は11.2~23.8でした。RA-QD02-0060(下の画像A)は低Ca単斜輝石の大きな結晶を含み、膜状の鉄-マグネシウム区画を持っています。また、3つの粒子にはコンドリュールメソスタシスが認められました(下の画像B)。メソスタシスとは、粒子と粒子の間を埋めるように最後に形成された物質です。これらは岩石学的タイプ4の普通コンドライトの特徴を示しています。
一方、熱変成の程度が強い32個の粒子では、かんらん石のFa成分が29.0±0.7、低Ca輝石のFs成分が24.0±0.6、Wo成分が1.4±0.3、高Ca輝石のFs成分が8.6±0.8、Wo成分が44.8±0.9と、非常に均質な組成を示しています。元素組成もほぼ一定でした。さらに、メソスタシスは認められない、粗い透輝石や斜長石が豊富(下の画像C及びD)、かんらん石に含まれるCaOやCr2O3が0.02wt%未満と非常に少ない、単斜輝石よりも斜方輝石が優勢(下の画像E)等の特徴が見られます。これは強い熱変成を経験したことを示しており、岩石学的タイプ5~6に相当すると考えられます。
これらの結果から、イトカワは、LL4コンドライトとLL5~6コンドライトが集まってできた角礫岩と考えられます。上述のように、イトカワはS型小惑星に分類されています。普通コンドライトの起源がS型小惑星であるというこれまでの予想が証明されたことになります。



イトカワの歴史

鉱物学的データを使って、その岩石がどの程度の温度を経験してきたのかを推定することができます。まず、5個の粒子に含まれる斜長石の三斜度からピーク結晶化温度が求めたところ、570℃、560℃、570℃、575℃、820℃と幅があり、これらの温度で結晶化が起こったと推定されます。一方、3個の粒子に同時に含まれる低Ca及び高Ca輝石から地質温度測定法によってピーク変成温度を求めたところ、783±12℃、814±21℃、837±10℃でした。これはLL6コンドライトで報告されている(875~945℃)よりもわずかに低い温度です。さらに、その後の冷却段階での温度が、かんらん石及びクロム鉄鉱を含む3個の粒子でかんらん石-スピネル地質温度計により、636℃、625℃、595℃と求められました。クロム鉄鉱の平均サイズを20μmとし、平衡温度として計算すると、800℃から600℃まで、1000年間に約0.5Kというゆっくりとしたスピードで冷却されたことになります。
ところで、イトカワのような小さな小惑星では、内部で熱変成が起こる程の高温にはなりません。したがって、イトカワを構成するLL5・6コンドライトは、少なくとも直径20km以上の大きさの小惑星の内部で形成されたと考えられます。それが大規模な天体衝突等でバラバラになり、その破片が再び集まって現在のイトカワになったと思われます。探査機はやぶさによる観測でも、イトカワは大きな一つの岩石ではなく、そうした大小の破片がゆるく集まった「ラブル・パイル」と呼ばれる構造だと推定されています。
また、イトカワの粒子には衝撃ステージS4以下の天体衝突の痕跡が見られます(上の画像F)。衝撃ステージとは、隕石中に見られる衝突の痕跡から推定される衝撃の規模を6段階に分類したものです。過去に天体衝突を経験した証拠です。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿