やぎの宇宙ブログ

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「イトカワ」サンプル分析の最新状況

2010-12-25 00:30:57 | はやぶさ関連
今年地球に帰還を果たした日本の小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰ったカプセルの中に、小惑星イトカワ由来の塵が含まれていたことは、既にお伝えした通りです。
一昨日、仙台市内で開催された市民講座で東北大学准教授で地球宇宙化学が専門の中村智樹先生の講演を聞く機会があったので、かいつまんでご報告いたします。
尚、写真撮影は一切禁止だったので、文章のみです。
内容は主にカプセル開封・サンプル分析についてで、最新の詳しい話が聞けました。


1. カプセル開封

6月13日、オーストラリアのウーメラ砂漠に、「はやぶさ」が放出したカプセルが舞い降りました。電波を頼りにヘリコプターで捜索したところ、カプセルは予定落下地点から500mしか離れていない場所で発見されました。中村先生がまず気になったのが、コンテナの蓋がちゃんと閉じられているかどうかだったそうです。密閉されていなければ、地球由来の物質とコンタミネーションが生じてしまいます。とりあえず閉まっていたことに安堵したそうです。
開封前にCTの撮影が行われました。スライドで実際のCT画像を見せていただきました。とは言え、既に発表されている通り、CTでは何一つ岩石のかけららしき物体は写っていませんでした。
そしてキュレーションにていよいよ開封作業が始まりました。他の物質の混入を防ぐため、中が真空になっているクリーンチャンバーというでっかい機械の中で、開封からサンプルの回収までを行います。カプセル開封を行うRoom1、微粒子ピックアップを行うRoom2が含まれています。開封作業は、数十回もリハーサルを繰り返していたそうです!Room1のコンテナ開封機構に、コンテナをセットし、しゃがんでつまみを操作するとアームが蓋をミクロン単位でゆっくりと持ち上げる仕組みです。開封した瞬間の圧力の変化を捉えるためのモニターを注視しながらの緊張の作業過程です。その様子を写したビデオを実際に見せていただきました。ビデオからも緊張が伝わってきました。開封された瞬間、内部のごく少量のガスが抜けることによって圧力が変化し、その瞬間すぐ一旦蓋を閉めて、再度ゆっくりと蓋を開封していきました。
そしていよいよコンテナの中からサンプルキャッチャーが取り出されました。


2. サンプルキャッチャーの開封

サンプルキャッチャーの内部はA室とB室に分けられており、その間に窓の開いた回転筒があります。小惑星イトカワでのサンプル採集では、サンプラーホーン内部を通って上昇してくるサンプルがまず回転筒の中に入ってきます。1回目の採集の際には回転筒の窓がB室の方向に開いていて、サンプルは回転筒からB室へと入り込みます。採集が終わると回転筒が回転し、今度は2回目の採集のために窓がA室の方向に開いた状態となります。今度はサンプルが回転筒を通ってA室へと入っていきます。1回目の採集で得られたサンプルはB室に、2回目の採集で得られたサンプルはA室に、それぞれ回収されるわけです。
というわけでA室とB室は回転筒を挟んで上側と下側にあり、それぞれの側に蓋があります。コンテナから引き上げられた状態では、上側の蓋を開けるとA室があるので、最初に開封されたのは2回目の採集に使用されたA室でした。
これらの作業には、以外にも外科用鉗子が大活躍したんだそうです。外科手術では鉗子は、針や器具を把持したり、固定したり、糸を結んだりすることにも用いられる万能の器具です。開封には3時間かかったそうです。


3. 粒子の回収

A室を開けて中を覗くと、ピカピカに綺麗でゴミ一つ見えなかったようですが、そういう可能性も織り込み済みではありました。微粒子の大きさは数十ミクロン以下。高純度窒素ガス内で、石英ガラス製プローブと呼ばれる先端が0.1ミクロンしかない細い針を使って一つ一つ回収していったそうです。内部電極に電圧印加して、静電的にハンドリングし、石英ガラス製の台の上にリリースして番号を付けて整理・保管していきます。1粒の回収に2時間もかかる気の遠くなる作業で、1日5粒くらいしかピックアップできなかったそうです。数百個の微粒子が発見されていましたから、全部回収するまでにはとてつもない時間と労力が必要です。
そこで使うことにしたのが、特注のテフロンヘラでした。ヘラでA室内の一部の領域を擦って掃き出し、それを電子顕微鏡で観察したわけです。そうしたところ、ヘラの縁に数千個もの微粒子が付着していました。これで効率が上がりました。


4. イトカワ由来と判明

電子顕微鏡での見た目だけでは、その粒子がどういう成分なのかは分かりません、そこで次に、ヘラの端から順に、微粒子一つ一つに電子線を照射して観察し、微粒子に含まれる元素の組成が分析されました。これによって、3ミクロン以上の微粒子のうち、1500個が天然物、1800個が人工物(主に剥がれおちたアルミニウムのかけら)であることがわかりました。大きさは最大のものが40ミクロンで、90%が10ミクロン以下でした。これらの元素分析により、それぞれの粒子がどのような鉱物なのかが判明しました。カンラン石が最も多く600個、次いで輝石(2種類)、斜長石、硫化物、金属鉄、それらの鉱物の混合物が発見されました。
しかもそれら1500個の微粒子の化学組成はほぼ一定で、このことはもともと同じ由来の岩石が砕けてできたものであることを示しています。
さらに、これらの鉱物組成から岩石の種類がわかります。カンラン石(Mg>Fe)や輝石(Mg>Fe)が多く含まれていましたが、これらは、玄武岩や安山岩等の地球上の岩石でも認められる成分です。しかし、それらに加えて斜長石(Na>Ca)、トロライト(Fe=S)、カマサイト・テーナイト(FeNi)といった鉱物も発見され、これら全てを併せ持つ岩石は地球上には存在しません。すなわち小惑星イトカワから回収したサンプルであることが確認されたわけです。
そしてこのような鉱物組成を示すのはコンドライト隕石です。コンドライト隕石は太陽系始原物質と考えられている物質でもあります。


5. 現在の回収作業、今後の予定

先に説明したように、B室はA室と反対側の下側に蓋があります。そのため、B室の開封時には、サンプルキャッチャーを逆さにしなければなりません。そこで、その際にA室の上にガラス板をネジで固定しておいて倒してみて、ガラス板に微粒子が見つかるかどうかやってみようというアイディアが出されました。実際にこのガラス板の写真を見せていただきましたが、肉眼でも見える程の大きさの塵が、たくさんついている様子が見えました。特に最も大きな粒子は765番の番号が付けられ、通常の光学顕微鏡でも結晶の形状が見える程でした。(是非写真を撮りたいところでしたが、公式発表を待ちましょう)
そしてB室の開封に着手しました。B室は1回目の採集に使われた部屋ですが、1回目の着地の際には速い速度で、しかも数回バウンドするように着地したため、より多くのサンプルが回収されているのではと期待されています。B室開封の作業の様子も写真で見せていただきましたが、残念ながらB室内の状態についてはコメントがいただけませんでした。果たしてどのくらいの量のサンプルが見つかったのでしょうか。
また、年明けには回収されて保管されているサンプルの本格的な分析が始まります。いつまでとは言っていませんでしたが、国内外の学会に合わせて研究成果が報告されるだろうとのことでした。第1報は3月辺りでしょうか???


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