東北地方太平洋沖地震から明日で1か月。日本史上最大級の地震が、戦後最大の被害をもたらしました。死者・行方不明者は昨日の時点で2万7000人を超えていますが、行方不明者の把握が依然難しく、さらに増えることが確実です。
仙台市内の私の自宅もライフラインがまだ完全ではなく、家族は県外に一時的に避難している状態です。家族全員無事だったことは何よりもありがたいことですが、我が子にも1か月会っていません。まして、より被害が甚大な東北地方の太平洋沿岸地域の被災者の方々にとっては、安否確認も一向に進んでおらず、過酷な避難生活が続いており、さらに原発事故への不安も重なり、精神的・肉体的疲労は察するに余りあります。
2010年度、小惑星探査機「はやぶさ」の帰還や、根岸・鈴木両氏のノーベル賞受賞等、科学の話題が日本中を活気づけ、日本国民に夢と希望をもたらしました。しかし年度も終わろうとしていた3月11日以降、東日本大震災は日本を危機に陥れ、日本の将来に暗い影を落とし始めています。「東日本大震災と『はやぶさ』」と題して、今回の震災を科学の視点から捉え直したいと思います。
1.国内観測史上最大
2011年3月11日14時46分、私は仕事のため車で気仙沼市に入ったところでしたが、車が上下に弾むような強い揺れを感じました。直後にラジオで緊急地震速報が伝えられ、車を路肩に停止させた頃には横揺れが強くなり、その後揺れは収まるばかりかさらに強くなっていきました。非常に長い時間にわたって続きました。電信柱が左右に大きく揺れ、建物のガラスが割れていました。
思い出したのは2008年6月の岩手・宮城内陸地震。奥州市や栗原市で震度6強を観測し、恐らく一関市の一部地域では震度7相当の揺れがあったとされた地震です。しかし、揺れ方から今回の震源は少し離れた場所だろうと感じたので、あの時よりもずっと大きな地震だと思い、仙台に残した妻に急いでメールを送りました。ラジオで流れてくる各地の震度は想像を絶するものでした。東北から関東の広い範囲で震度6弱が観測されました。宮城県栗原市で震度7を観測しましたが、後の分析で福島県や栃木県でも局地的に震度7相当の揺れがあったということです。
当初この地震のマグニチュードは7.9と発表されましたが、その後各地の地震波のデータや海外のデータ等を合わせた結果、最終的にモーメントマグニチュード9.0とされました。日本での観測史上最大とされていた北海道東方沖地震のM8.2をはるかに上回るエネルギーです。世界的にも、観測史上4番目に大きな地震でした。
今回、モーメントマグニチュードという少し聞きなれない言葉が出てきました。マグニチュードとは地震の規模を示す値です。地震のエネルギーをEとすると、E = 10^( 4.8 + 1.5M ) となります。マグニチュードが1上がる毎にエネルギーは10^1.5 = 32倍になります。通常気象庁から発表されるのは気象庁マグニチュードと呼ばれるものです。今回使われたモーメントマグニチュードは地震によって起こる断層運動のモーメントから計算されるものです。マグニチュードには色んな種類の計算法がありますが、従来の方法ではM7を超える大地震では、規模が大きくなってもマグニチュードの値があまり変わらない「飽和」と呼ばれる現象が起きることが知られていました。モーメントマグニチュードはこうした大地震の規模をより的確に反映する値として用いられるようになってきています。
2.東北地方太平洋沖地震の発生メカニズム
震源は三陸沖で深さは24㎞でした。しかし実際の震源域は三陸沖南部海溝寄り~宮城県沖~福島県沖~茨城県沖まで、南北500kmにわたる長大なものでした。さらに三陸沖中部をも含む可能性もあります。三陸沖で断層のずれが起こり、連鎖的に広範囲の断層が一気にずれた結果と考えられます。
今回の地震はプレート境界型地震と考えられています。地球の表面を覆う地殻は、十数枚のプレートと呼ばれる岩盤に分かれており、これがゆっくりと時間をかけて動いています。プレートを動かしているのは地球内部の熱です。海嶺と呼ばれる場所で内部から高温のマントルが上昇し、表面に現れると冷やされてプレートの一部となります。一方、プレートとプレートがぶつかる場所では、一方のプレートが他方のプレートの下に沈み込み、海溝と呼ばれる深い溝を作っています。このようなプレートの運動によって地球内部の熱を表面に逃がしているわけです。
日本はこのようなプレートとプレートが衝突する場所にあります。今回の地震は北アメリカプレートの下に太平洋プレートが沈み込む場所で起きました。北海道~東北~関東地方は北アメリカプレートの上に乗っており、西北西へと動く太平洋プレートがその下へともぐりこんでいるのです。ところが、プレートとプレートの間はつるつると滑るわけではありません。プレートとプレートとの間にはところどころ強くくっついている部分があるため、沈み込もうとする太平洋プレートと一緒に北アメリカプレートも引きずられます。そうした強くくっついている部分をアスペリティと呼びます。歪みによるストレスが蓄積されていき、限界を超えるとアスペリティが破壊され、太平洋プレートと一緒に引きずり込まれていた北アメリカプレートは反動で元の位置に戻ります。このようにして起こるのがプレート境界型地震です。実際に今回、震源近くの海底が地震によって東南東へ24m移動し、3m隆起したことが観測によって明らかになりました。
北アメリカプレートと太平洋プレートとの境界では、国内でも、1918年ウルップ島沖の地震(M8.0)、1933年昭和三陸地震(M8.1)、1952年十勝沖地震(M8.2)、1963年択捉島沖地震(M8.1)、2003年十勝沖地震(M8.0)と、M8以上の地震が繰り返し起こっています。このようにプレートは一枚岩というよりも、いくつかの部分に分かれています。今回のように複数の震源域で連鎖的に地震が起こるのは、国内の観測史上初です。しかし、近年になって東北地方の太平洋沖では過去にも同じような地震が起こっていたことが分かってきました。869年に起こった貞観地震の震源域は、今回の地震とほぼ同じだったと推定されています。このように複数の震源域でプレート境界型地震が連鎖する例は、東海・東南海・南海地震でも過去に起きており、その再来が危ぶまれています。
3.誘発地震の可能性
また、この1か月の間に、新潟・長野や、静岡、秋田等、東北地方太平洋沖地震の震源域から離れた陸側のプレート内での大きな地震も相次いでいます。これらは誘発地震である可能性が指摘されています。大地震による地殻の変位が、その周辺地域で新たな歪みを生み出し、それがまた新たな地震を引き起こしていると考えられるのです。こうした誘発地震は、内陸だけではなく、同じプレート境界でも今後起こる可能性があります。2004年12月のスマトラ島沖地震(M9.3)の後、2005年3月にニアス島沖地震(M8.8)が発生しました。これは2004年の震源域のすぐ南側の領域で起きた地震であり、誘発地震の一種と思われます。今回の場合も、三陸沖中部~茨城県沖の地殻が地震の結果東南東に動いた結果、今回動かなかった隣接する三陸沖北部や房総沖との間に新たな歪みが生まれ、これらの領域でも大地震が起きる恐れがあります。特に房総沖は、北アメリカプレートの下に、太平洋プレートとフィリピン海プレートの2つが重なるように沈み込むという、非常に複雑な構造が見られます。
4.巨大津波
こうしたプレート境界型地震の特徴は、震源が海底にあることです。そのため陸側のプレート(今回は北アメリカプレート)が跳ね上がる際に、海水が持ち上げられ、大きな津波が発生することがあります。震源が海底のため陸地から少し離れており、兵庫県南部地震(阪神大震災)のような直下型地震とは違って地震そのものによる被害は比較的少ないのですが(今回は地震の規模が巨大だったため揺れそのものによる被害も大きい)、大きな津波による被害が甚大です。よく似た例が2004年スマトラ島沖地震でした。インド・オーストラリアプレートがユーラシアプレートの下に沈み込む場所で、やはり長い震源域で巨大地震が発生しましたが、巨大津波によって多くの被害がもたらされました。今回の東北地方太平洋沖地震では、北海道から千葉県にかけての太平洋沿岸を3mを超える巨大な津波が襲い、多くの人や建物等が呑み込まれました。福島第一原子力発電所の事故も、大津波をきっかけに起きたと考えられます。
三陸沿岸では、過去に何度も大きな津波を経験しており、住民も津波に対して非常に高い意識を持ってそれに備えてきました。ただ、今回はこれまでの想定をはるかに超えた規模だったため、多くの犠牲が出てしまいました。さらに遠く離れたアメリカのカリフォルニアやインドネシアでも津波による犠牲者が出ました。福島県の相馬で7.3mの津波を観測したのが最大ですが、多くの地点では観測データの送信が行えず、後に回収されたデータによると岩手県宮古では8.5m以上の津波が観測されていました。さらに、水の跡等の分析から、岩手県や宮城県の沿岸では15~20mの津波であったことが分かっており、斜面を駆け上がった津波が宮古では38mに達していたことが確認されました。このように三陸沿岸では軒並み高い津波が観測されましたが、これはリアス式海岸の特徴とされています。リアス式海岸には小さな湾がたくさんあります。そうした湾に沿って多くの街が作られています。まず津波は浅瀬に来ると減速します。これによって波の間隔は狭まり、高さが増していきます。さらに湾に入ると湾の奥へ進むにつれて津波のエネルギーが狭い範囲に集中していき、湾の奥で巨大な壁のようになって街を襲います。
一方、今回の大津波では平野部でも甚大な被害がでました。名取川河口付近を襲う津波の様子をテレビ等で見た方も多いのではないでしょうか。リアス式海岸とは違い、平野部では津波が一点に集中して巨大な高さになるということはありませんが、どこまでも平坦なため、陸地の奥へ奥へと勢いを落とすことなく進んでいき、海岸から遠く5km以上離れた地域にまで津波が到達しました。平野部では高台があまりありません。そのため長い距離を移動しなければならず、車等の移動手段がなければ避難は困難です。
それに加え、今回の大きな地殻変動によって、東北地方の太平洋沿岸は大きく沈下しました。このため津波が引いた今でも、地震前は陸地だった多くの地域が海面より低くなり、海水が引かないという状況が続いています。
5.緊急地震速報システム
地震波は、最初に来るP波と呼ばれる小さな縦波と、後から来るS波と呼ばれる大きな横波とから成ります。P波とS波は震源で同時に発生しますが、P波は約7km/s、S波は約4km/sで伝わるため、時間的なずれが生じます。例えば震源から112㎞の距離では、P波は16秒後に、S波は28秒後にやって来るので、12秒の時間差が生まれます。複数の地点でP波を観測すれば、震源の位置と地震発生の時刻を推定でき、そこからS波の伝わり方を予測することによって、主要動を含むS波の到達時刻と震度をある程度予測することができます。このような処理を短時間で行って各地に発信することによって、主要動の到達を直前に知らせようというのが緊急地震速報です。2007年に実用化され、一般向けの緊急地震速報は推定される最大震度が5弱以上の場合に発信されます。多くの場合、速報を受けてから実際の揺れが来るまでの時間はわずかしかないため、身の危険を回避するための瞬時の対応しかできませんが、適切な対応を取ることによって少しでも事故を防ぐことができると期待されます。
しかし限界もあります。まず当然のことながら、震源に近い地域ではS波の到達が早い上に、P波とS波の間隔も狭く、主要動の到達前に速報を受けるのは困難で、間に合わない場合が多いです。また、この緊急地震速報は、最初に気象業務支援センターを介して各部署に伝えられ、さらにラジオやテレビで音声や字幕として反映させるための処理が行われるため、実際に速報を受信するまでには遅れが生じます。数秒の遅れが命取りとなるため、今後さらなる短縮のための技術開発が期待されます。また、少しでも早く速報を知らせる必要があるため、時刻や震度の精度は高くなく、大きく予測とずれることがあります。
今回の東北地方太平洋沖地震でも、宮城県、岩手県、福島県、山形県、秋田県に緊急地震速報が出ました。しかし、実際には北海道、東北6県、関東7都県、甲信越3県、静岡県、岐阜県、愛知県で震度4を観測しました。各地の震度も実際よりも小さい予測となりました。可能性としては、上述のように今回の地震では複数の地震が連鎖的に起こったため、そのうちの一つをもとに推定した結果、実際より規模の小さい予測となってしまった可能性があります。大津波警報についてもこれと同様に当初は宮城県で6m等といった予想でしたが、やがて青森県から茨城県まで10m以上と変更されました。
また、その後に起こった地震についても、実際と大きく異なる予測が相次いで発信されました。これは、東北地方の地震計の多くが地震によって被害を受けて使用できず予測の精度が落ちたこと、活発な地震活動によって異なる地域で同時に地震が発生したこと、等によると思われます。実際に、思ったほど揺れなかった、震源が全く違っていた、等のケースが多々ありました。そのような影響により、小さな揺れで緊急地震速報が発表されることが多く、速報が頻発する現象も起きました。東北地方太平洋沖地震の前までに発表された速報は計17回でしたが、その後に発表された回数は昨日の時点で48回にのぼります。
しかし、やはり緊急地震速報は有用だと感じました。確かに誤報も多いですが、ある程度大きな地震では確実に発表されており、慣れたせいもあるかと思いますが、緊急地震速報を受けてストーブを消したり、家具から離れたり、避難路を確保したりと、体が自然に反応するようになりました。ただ、4月7日深夜の宮城県沖で起こった余震の際には、縦揺れの段階から大きかったので、緊急地震速報が出た時点では既にストーブを消して避難用バッグを持って身構えていました。
6.予知は可能だったか
プレート境界型地震は、過去にも周期的に大きな地震を繰り返していることが知られています。これは、太平洋プレートがおおよそ一定の速度で沈み込んでいくので、だいたい同じくらいの時間の間隔で歪みが限度に達して地震を起こすためと思われます。そのような過去の地震活動等に基づき、各震源域で地震が発生する確率が示されています。東北地方の太平洋沿岸では、2011年1月の時点で30年以内に想定される地震が起こる確率が、宮城県沖で99%(想定M7.4前後)、三陸沖南部海溝寄りで80~90%(想定M7.7前後)、福島県沖で7%程度以下(想定M7.4前後)、茨城県沖で90%程度以上(想定M6.7~7.2)、三陸沖~房総沖の海溝寄り(明治三陸型)で20%程度(想定M8.2)、三陸沖~房総沖の海溝寄り(昭和三陸型)で4~7%(想定M8.2)とされていました。特に宮城県沖地震は近く再来する可能性が高いとされていました。この震源域では2003年に大きなアスペリティの一つに破壊が起こり、宮城県南部地震が発生しました。残る2つの大きなアスペリティの破壊による宮城県沖地震の発生が近いのではないかという予想がありました。
しかし今回起こった東北地方太平洋沖地震は、これらの複数の震源域で連鎖的に地震が発生した結果、それらの想定をはるかに超える規模となりました。上で述べたように貞観地震等、過去にも同様の地震が発生した歴史があります。堆積物の分析から、他にも数回の同様の地震が450~800年周期で起きていたことが分かりました。最も最近のものは1500年頃と推定されており、それから約510年がたっているため、周期的に起こっている地震が再来したものである可能性があります。
しかし、より短期的な地震の予測は可能なのでしょうか。
今回の東北地方太平洋沖地震の2日前に、前震と思われる地震が三陸沖で起こりました。この前震から本震を予測できたのではないか、というのは非常に興味深い点です。しかし実際には、地震大国の日本では各地で多くの地震が日々起こっており、その中から大地震の前震を見分けることは現時点では不可能です。また、そもそも前震を伴う地震は1割程度しか存在しません。仮に前震による予知ができたとしても、全体の9割は予知できないということです。
それ以外に、大地震の前に起こる前駆的地震活動と呼ばれる現象を捉えることによって、予知しようという研究があります。プレート境界型の大地震は、前述のようにある程度大きなアスペリティの破壊をきっかけに広範囲のアスペリティの破壊が引き続き起こることによって発生します。このような広範囲の破壊に先駆けて起こる部分的な破壊がプレスリップと呼ばれる現象です。また、プレートとプレートを結びつけるアスペルティと、結びつきが弱く滑らかに滑る安定すべり域との中間にあたる、遷移領域と呼ばれる領域が存在し、大地震の前には遷移領域での低速の滑りが起こるとされています。これをスロースリップと呼びます。このようなプレスリップやスロースリップを事前に捉えることができれば、予知が可能だというのです。
しかし実際には、これまで科学的に地震の予知に成功したことはありません。今後起こるであろう東海地震に備えるためにも、今回の地震の詳細な分析が行われることに期待しましょう。
7.震災で活躍する宇宙開発技術
ここまでは、今回の地震に関連したこれまでの研究結果、分析結果等を主にみてきました。ここからは今回実際に防災に役立てられた宇宙開発技術について紹介します。
東日本大震災は、東北地方の広範囲で甚大な被害をもたらしました。このような被害の把握、被災者の支援等に、日本の宇宙開発は大きな役割を発揮しています。
陸域観測衛星「だいち」は、被災地の詳細な観測を行い、他国の観測衛星のデータとともに、被害の把握や地震による地殻変動の分析等が行われています。これらのデータは、災害救助や復興計画に役立つものです。
また、超高速インターネット衛星「きずな」や技術試験衛星Ⅷ型「きく8号」を用いた衛星回線を被災地に提供することによって、情報の共有や安否確認等に役立っています。
防災対策における宇宙開発の役割は、今後さらに高まっていくと思われ、この分野で世界をリードするような技術開発に期待したいと思います。
尚、詳しくはこちら
東日本大震災のJAXAの対応について
Supersite Tohoku-oki
8.東日本大震災の科学や技術開発への影響
今回の地震では、東北から関東にかけて広い地域で大学や研究施設も被災しました。宮城県仙台市にある東北大学には、地震や津波の研究の拠点となっていた地震・噴火予知研究観測センターがありますが、ここも大きな被害を受けました。これまで三陸沖の津波や来たるべき宮城県沖地震の研究が盛んに行われてきましたが、今回の地震についての分析・解析が困難な状態となってしまいました。その他、各研究施設の被害によって、多くの科学研究が中断を余儀なくされています。各分野の研究が当面遅れをとってしまうことは確実です。しかしもっと恐ろしいのはより長期的な影響です。研究が行えない研究施設にいても実績を積めないため、研究者達が他の研究施設へと流出してしまうことが心配されます。さらに海外からの留学生を中心に、原発事故への恐怖から他の地域や日本国外へと逃れる人もいます。また、地震そのものによる被害に加え、首都圏では電力不足による電力制限も、実験施設にとっては打撃となります。このような状況が続けば、東日本からの人材の流出が避けられません。
さらに原発事故によるもう一つの悪影響が心配されます。それは、日本の技術力や安全性に対する信頼が失われ兼ねないということです。日本が今後福島原発事故をいかに早く、いかに被害を少なく収束させられるかに、世界中の注目が集まっています。
結局暗い話になってしまいましたが、最後に。
2011年3月5日、東京-新青森間を1本で結ぶ新型のE5系新幹線「はやぶさ」の運転が始まり、3月12日には九州新幹線の全線開通で新青森-鹿児島中央間が新幹線で結ばれるはずでした。また、日本時間の3月10日から11日にかけて、アメリカで開かれた月惑星科学会議の場で、小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った小惑星のサンプルの分析結果が発表され、全世界の注目を集めました。新型新幹線「はやぶさ」と小惑星探査機「はやぶさ」、日本の技術力の高さを改めて示すとともに、日本国民に大きな夢と希望を与えました。大地震の発生は、まさにその直後のことでした。
東北新幹線の復旧にはもうしばらく時間がかかりそうです。また、つくばの高エネルギー加速器研究所等の被災で「はやぶさ」粒子の分析は一部中断を余儀なくされています。致命的なトラブルに何度も見舞われながら、技術者達の知恵と技術の結集によって奇跡の帰還を果たした探査機「はやぶさ」のように、悲しみや苦難を耐え乗り越えた先にはきっと明るい未来が待っていると信じています。そして今月にも全線運行が期待される新型新幹線「はやぶさ」が、東北地方の復興と未来への希望のシンボルとなることを願っています。
仙台市内の私の自宅もライフラインがまだ完全ではなく、家族は県外に一時的に避難している状態です。家族全員無事だったことは何よりもありがたいことですが、我が子にも1か月会っていません。まして、より被害が甚大な東北地方の太平洋沿岸地域の被災者の方々にとっては、安否確認も一向に進んでおらず、過酷な避難生活が続いており、さらに原発事故への不安も重なり、精神的・肉体的疲労は察するに余りあります。
2010年度、小惑星探査機「はやぶさ」の帰還や、根岸・鈴木両氏のノーベル賞受賞等、科学の話題が日本中を活気づけ、日本国民に夢と希望をもたらしました。しかし年度も終わろうとしていた3月11日以降、東日本大震災は日本を危機に陥れ、日本の将来に暗い影を落とし始めています。「東日本大震災と『はやぶさ』」と題して、今回の震災を科学の視点から捉え直したいと思います。
1.国内観測史上最大
2011年3月11日14時46分、私は仕事のため車で気仙沼市に入ったところでしたが、車が上下に弾むような強い揺れを感じました。直後にラジオで緊急地震速報が伝えられ、車を路肩に停止させた頃には横揺れが強くなり、その後揺れは収まるばかりかさらに強くなっていきました。非常に長い時間にわたって続きました。電信柱が左右に大きく揺れ、建物のガラスが割れていました。
思い出したのは2008年6月の岩手・宮城内陸地震。奥州市や栗原市で震度6強を観測し、恐らく一関市の一部地域では震度7相当の揺れがあったとされた地震です。しかし、揺れ方から今回の震源は少し離れた場所だろうと感じたので、あの時よりもずっと大きな地震だと思い、仙台に残した妻に急いでメールを送りました。ラジオで流れてくる各地の震度は想像を絶するものでした。東北から関東の広い範囲で震度6弱が観測されました。宮城県栗原市で震度7を観測しましたが、後の分析で福島県や栃木県でも局地的に震度7相当の揺れがあったということです。
当初この地震のマグニチュードは7.9と発表されましたが、その後各地の地震波のデータや海外のデータ等を合わせた結果、最終的にモーメントマグニチュード9.0とされました。日本での観測史上最大とされていた北海道東方沖地震のM8.2をはるかに上回るエネルギーです。世界的にも、観測史上4番目に大きな地震でした。
今回、モーメントマグニチュードという少し聞きなれない言葉が出てきました。マグニチュードとは地震の規模を示す値です。地震のエネルギーをEとすると、E = 10^( 4.8 + 1.5M ) となります。マグニチュードが1上がる毎にエネルギーは10^1.5 = 32倍になります。通常気象庁から発表されるのは気象庁マグニチュードと呼ばれるものです。今回使われたモーメントマグニチュードは地震によって起こる断層運動のモーメントから計算されるものです。マグニチュードには色んな種類の計算法がありますが、従来の方法ではM7を超える大地震では、規模が大きくなってもマグニチュードの値があまり変わらない「飽和」と呼ばれる現象が起きることが知られていました。モーメントマグニチュードはこうした大地震の規模をより的確に反映する値として用いられるようになってきています。
2.東北地方太平洋沖地震の発生メカニズム
震源は三陸沖で深さは24㎞でした。しかし実際の震源域は三陸沖南部海溝寄り~宮城県沖~福島県沖~茨城県沖まで、南北500kmにわたる長大なものでした。さらに三陸沖中部をも含む可能性もあります。三陸沖で断層のずれが起こり、連鎖的に広範囲の断層が一気にずれた結果と考えられます。
今回の地震はプレート境界型地震と考えられています。地球の表面を覆う地殻は、十数枚のプレートと呼ばれる岩盤に分かれており、これがゆっくりと時間をかけて動いています。プレートを動かしているのは地球内部の熱です。海嶺と呼ばれる場所で内部から高温のマントルが上昇し、表面に現れると冷やされてプレートの一部となります。一方、プレートとプレートがぶつかる場所では、一方のプレートが他方のプレートの下に沈み込み、海溝と呼ばれる深い溝を作っています。このようなプレートの運動によって地球内部の熱を表面に逃がしているわけです。
日本はこのようなプレートとプレートが衝突する場所にあります。今回の地震は北アメリカプレートの下に太平洋プレートが沈み込む場所で起きました。北海道~東北~関東地方は北アメリカプレートの上に乗っており、西北西へと動く太平洋プレートがその下へともぐりこんでいるのです。ところが、プレートとプレートの間はつるつると滑るわけではありません。プレートとプレートとの間にはところどころ強くくっついている部分があるため、沈み込もうとする太平洋プレートと一緒に北アメリカプレートも引きずられます。そうした強くくっついている部分をアスペリティと呼びます。歪みによるストレスが蓄積されていき、限界を超えるとアスペリティが破壊され、太平洋プレートと一緒に引きずり込まれていた北アメリカプレートは反動で元の位置に戻ります。このようにして起こるのがプレート境界型地震です。実際に今回、震源近くの海底が地震によって東南東へ24m移動し、3m隆起したことが観測によって明らかになりました。
北アメリカプレートと太平洋プレートとの境界では、国内でも、1918年ウルップ島沖の地震(M8.0)、1933年昭和三陸地震(M8.1)、1952年十勝沖地震(M8.2)、1963年択捉島沖地震(M8.1)、2003年十勝沖地震(M8.0)と、M8以上の地震が繰り返し起こっています。このようにプレートは一枚岩というよりも、いくつかの部分に分かれています。今回のように複数の震源域で連鎖的に地震が起こるのは、国内の観測史上初です。しかし、近年になって東北地方の太平洋沖では過去にも同じような地震が起こっていたことが分かってきました。869年に起こった貞観地震の震源域は、今回の地震とほぼ同じだったと推定されています。このように複数の震源域でプレート境界型地震が連鎖する例は、東海・東南海・南海地震でも過去に起きており、その再来が危ぶまれています。
3.誘発地震の可能性
また、この1か月の間に、新潟・長野や、静岡、秋田等、東北地方太平洋沖地震の震源域から離れた陸側のプレート内での大きな地震も相次いでいます。これらは誘発地震である可能性が指摘されています。大地震による地殻の変位が、その周辺地域で新たな歪みを生み出し、それがまた新たな地震を引き起こしていると考えられるのです。こうした誘発地震は、内陸だけではなく、同じプレート境界でも今後起こる可能性があります。2004年12月のスマトラ島沖地震(M9.3)の後、2005年3月にニアス島沖地震(M8.8)が発生しました。これは2004年の震源域のすぐ南側の領域で起きた地震であり、誘発地震の一種と思われます。今回の場合も、三陸沖中部~茨城県沖の地殻が地震の結果東南東に動いた結果、今回動かなかった隣接する三陸沖北部や房総沖との間に新たな歪みが生まれ、これらの領域でも大地震が起きる恐れがあります。特に房総沖は、北アメリカプレートの下に、太平洋プレートとフィリピン海プレートの2つが重なるように沈み込むという、非常に複雑な構造が見られます。
4.巨大津波
こうしたプレート境界型地震の特徴は、震源が海底にあることです。そのため陸側のプレート(今回は北アメリカプレート)が跳ね上がる際に、海水が持ち上げられ、大きな津波が発生することがあります。震源が海底のため陸地から少し離れており、兵庫県南部地震(阪神大震災)のような直下型地震とは違って地震そのものによる被害は比較的少ないのですが(今回は地震の規模が巨大だったため揺れそのものによる被害も大きい)、大きな津波による被害が甚大です。よく似た例が2004年スマトラ島沖地震でした。インド・オーストラリアプレートがユーラシアプレートの下に沈み込む場所で、やはり長い震源域で巨大地震が発生しましたが、巨大津波によって多くの被害がもたらされました。今回の東北地方太平洋沖地震では、北海道から千葉県にかけての太平洋沿岸を3mを超える巨大な津波が襲い、多くの人や建物等が呑み込まれました。福島第一原子力発電所の事故も、大津波をきっかけに起きたと考えられます。
三陸沿岸では、過去に何度も大きな津波を経験しており、住民も津波に対して非常に高い意識を持ってそれに備えてきました。ただ、今回はこれまでの想定をはるかに超えた規模だったため、多くの犠牲が出てしまいました。さらに遠く離れたアメリカのカリフォルニアやインドネシアでも津波による犠牲者が出ました。福島県の相馬で7.3mの津波を観測したのが最大ですが、多くの地点では観測データの送信が行えず、後に回収されたデータによると岩手県宮古では8.5m以上の津波が観測されていました。さらに、水の跡等の分析から、岩手県や宮城県の沿岸では15~20mの津波であったことが分かっており、斜面を駆け上がった津波が宮古では38mに達していたことが確認されました。このように三陸沿岸では軒並み高い津波が観測されましたが、これはリアス式海岸の特徴とされています。リアス式海岸には小さな湾がたくさんあります。そうした湾に沿って多くの街が作られています。まず津波は浅瀬に来ると減速します。これによって波の間隔は狭まり、高さが増していきます。さらに湾に入ると湾の奥へ進むにつれて津波のエネルギーが狭い範囲に集中していき、湾の奥で巨大な壁のようになって街を襲います。
一方、今回の大津波では平野部でも甚大な被害がでました。名取川河口付近を襲う津波の様子をテレビ等で見た方も多いのではないでしょうか。リアス式海岸とは違い、平野部では津波が一点に集中して巨大な高さになるということはありませんが、どこまでも平坦なため、陸地の奥へ奥へと勢いを落とすことなく進んでいき、海岸から遠く5km以上離れた地域にまで津波が到達しました。平野部では高台があまりありません。そのため長い距離を移動しなければならず、車等の移動手段がなければ避難は困難です。
それに加え、今回の大きな地殻変動によって、東北地方の太平洋沿岸は大きく沈下しました。このため津波が引いた今でも、地震前は陸地だった多くの地域が海面より低くなり、海水が引かないという状況が続いています。
5.緊急地震速報システム
地震波は、最初に来るP波と呼ばれる小さな縦波と、後から来るS波と呼ばれる大きな横波とから成ります。P波とS波は震源で同時に発生しますが、P波は約7km/s、S波は約4km/sで伝わるため、時間的なずれが生じます。例えば震源から112㎞の距離では、P波は16秒後に、S波は28秒後にやって来るので、12秒の時間差が生まれます。複数の地点でP波を観測すれば、震源の位置と地震発生の時刻を推定でき、そこからS波の伝わり方を予測することによって、主要動を含むS波の到達時刻と震度をある程度予測することができます。このような処理を短時間で行って各地に発信することによって、主要動の到達を直前に知らせようというのが緊急地震速報です。2007年に実用化され、一般向けの緊急地震速報は推定される最大震度が5弱以上の場合に発信されます。多くの場合、速報を受けてから実際の揺れが来るまでの時間はわずかしかないため、身の危険を回避するための瞬時の対応しかできませんが、適切な対応を取ることによって少しでも事故を防ぐことができると期待されます。
しかし限界もあります。まず当然のことながら、震源に近い地域ではS波の到達が早い上に、P波とS波の間隔も狭く、主要動の到達前に速報を受けるのは困難で、間に合わない場合が多いです。また、この緊急地震速報は、最初に気象業務支援センターを介して各部署に伝えられ、さらにラジオやテレビで音声や字幕として反映させるための処理が行われるため、実際に速報を受信するまでには遅れが生じます。数秒の遅れが命取りとなるため、今後さらなる短縮のための技術開発が期待されます。また、少しでも早く速報を知らせる必要があるため、時刻や震度の精度は高くなく、大きく予測とずれることがあります。
今回の東北地方太平洋沖地震でも、宮城県、岩手県、福島県、山形県、秋田県に緊急地震速報が出ました。しかし、実際には北海道、東北6県、関東7都県、甲信越3県、静岡県、岐阜県、愛知県で震度4を観測しました。各地の震度も実際よりも小さい予測となりました。可能性としては、上述のように今回の地震では複数の地震が連鎖的に起こったため、そのうちの一つをもとに推定した結果、実際より規模の小さい予測となってしまった可能性があります。大津波警報についてもこれと同様に当初は宮城県で6m等といった予想でしたが、やがて青森県から茨城県まで10m以上と変更されました。
また、その後に起こった地震についても、実際と大きく異なる予測が相次いで発信されました。これは、東北地方の地震計の多くが地震によって被害を受けて使用できず予測の精度が落ちたこと、活発な地震活動によって異なる地域で同時に地震が発生したこと、等によると思われます。実際に、思ったほど揺れなかった、震源が全く違っていた、等のケースが多々ありました。そのような影響により、小さな揺れで緊急地震速報が発表されることが多く、速報が頻発する現象も起きました。東北地方太平洋沖地震の前までに発表された速報は計17回でしたが、その後に発表された回数は昨日の時点で48回にのぼります。
しかし、やはり緊急地震速報は有用だと感じました。確かに誤報も多いですが、ある程度大きな地震では確実に発表されており、慣れたせいもあるかと思いますが、緊急地震速報を受けてストーブを消したり、家具から離れたり、避難路を確保したりと、体が自然に反応するようになりました。ただ、4月7日深夜の宮城県沖で起こった余震の際には、縦揺れの段階から大きかったので、緊急地震速報が出た時点では既にストーブを消して避難用バッグを持って身構えていました。
6.予知は可能だったか
プレート境界型地震は、過去にも周期的に大きな地震を繰り返していることが知られています。これは、太平洋プレートがおおよそ一定の速度で沈み込んでいくので、だいたい同じくらいの時間の間隔で歪みが限度に達して地震を起こすためと思われます。そのような過去の地震活動等に基づき、各震源域で地震が発生する確率が示されています。東北地方の太平洋沿岸では、2011年1月の時点で30年以内に想定される地震が起こる確率が、宮城県沖で99%(想定M7.4前後)、三陸沖南部海溝寄りで80~90%(想定M7.7前後)、福島県沖で7%程度以下(想定M7.4前後)、茨城県沖で90%程度以上(想定M6.7~7.2)、三陸沖~房総沖の海溝寄り(明治三陸型)で20%程度(想定M8.2)、三陸沖~房総沖の海溝寄り(昭和三陸型)で4~7%(想定M8.2)とされていました。特に宮城県沖地震は近く再来する可能性が高いとされていました。この震源域では2003年に大きなアスペリティの一つに破壊が起こり、宮城県南部地震が発生しました。残る2つの大きなアスペリティの破壊による宮城県沖地震の発生が近いのではないかという予想がありました。
しかし今回起こった東北地方太平洋沖地震は、これらの複数の震源域で連鎖的に地震が発生した結果、それらの想定をはるかに超える規模となりました。上で述べたように貞観地震等、過去にも同様の地震が発生した歴史があります。堆積物の分析から、他にも数回の同様の地震が450~800年周期で起きていたことが分かりました。最も最近のものは1500年頃と推定されており、それから約510年がたっているため、周期的に起こっている地震が再来したものである可能性があります。
しかし、より短期的な地震の予測は可能なのでしょうか。
今回の東北地方太平洋沖地震の2日前に、前震と思われる地震が三陸沖で起こりました。この前震から本震を予測できたのではないか、というのは非常に興味深い点です。しかし実際には、地震大国の日本では各地で多くの地震が日々起こっており、その中から大地震の前震を見分けることは現時点では不可能です。また、そもそも前震を伴う地震は1割程度しか存在しません。仮に前震による予知ができたとしても、全体の9割は予知できないということです。
それ以外に、大地震の前に起こる前駆的地震活動と呼ばれる現象を捉えることによって、予知しようという研究があります。プレート境界型の大地震は、前述のようにある程度大きなアスペリティの破壊をきっかけに広範囲のアスペリティの破壊が引き続き起こることによって発生します。このような広範囲の破壊に先駆けて起こる部分的な破壊がプレスリップと呼ばれる現象です。また、プレートとプレートを結びつけるアスペルティと、結びつきが弱く滑らかに滑る安定すべり域との中間にあたる、遷移領域と呼ばれる領域が存在し、大地震の前には遷移領域での低速の滑りが起こるとされています。これをスロースリップと呼びます。このようなプレスリップやスロースリップを事前に捉えることができれば、予知が可能だというのです。
しかし実際には、これまで科学的に地震の予知に成功したことはありません。今後起こるであろう東海地震に備えるためにも、今回の地震の詳細な分析が行われることに期待しましょう。
7.震災で活躍する宇宙開発技術
ここまでは、今回の地震に関連したこれまでの研究結果、分析結果等を主にみてきました。ここからは今回実際に防災に役立てられた宇宙開発技術について紹介します。
東日本大震災は、東北地方の広範囲で甚大な被害をもたらしました。このような被害の把握、被災者の支援等に、日本の宇宙開発は大きな役割を発揮しています。
陸域観測衛星「だいち」は、被災地の詳細な観測を行い、他国の観測衛星のデータとともに、被害の把握や地震による地殻変動の分析等が行われています。これらのデータは、災害救助や復興計画に役立つものです。
また、超高速インターネット衛星「きずな」や技術試験衛星Ⅷ型「きく8号」を用いた衛星回線を被災地に提供することによって、情報の共有や安否確認等に役立っています。
防災対策における宇宙開発の役割は、今後さらに高まっていくと思われ、この分野で世界をリードするような技術開発に期待したいと思います。
尚、詳しくはこちら
東日本大震災のJAXAの対応について
Supersite Tohoku-oki
8.東日本大震災の科学や技術開発への影響
今回の地震では、東北から関東にかけて広い地域で大学や研究施設も被災しました。宮城県仙台市にある東北大学には、地震や津波の研究の拠点となっていた地震・噴火予知研究観測センターがありますが、ここも大きな被害を受けました。これまで三陸沖の津波や来たるべき宮城県沖地震の研究が盛んに行われてきましたが、今回の地震についての分析・解析が困難な状態となってしまいました。その他、各研究施設の被害によって、多くの科学研究が中断を余儀なくされています。各分野の研究が当面遅れをとってしまうことは確実です。しかしもっと恐ろしいのはより長期的な影響です。研究が行えない研究施設にいても実績を積めないため、研究者達が他の研究施設へと流出してしまうことが心配されます。さらに海外からの留学生を中心に、原発事故への恐怖から他の地域や日本国外へと逃れる人もいます。また、地震そのものによる被害に加え、首都圏では電力不足による電力制限も、実験施設にとっては打撃となります。このような状況が続けば、東日本からの人材の流出が避けられません。
さらに原発事故によるもう一つの悪影響が心配されます。それは、日本の技術力や安全性に対する信頼が失われ兼ねないということです。日本が今後福島原発事故をいかに早く、いかに被害を少なく収束させられるかに、世界中の注目が集まっています。
結局暗い話になってしまいましたが、最後に。
2011年3月5日、東京-新青森間を1本で結ぶ新型のE5系新幹線「はやぶさ」の運転が始まり、3月12日には九州新幹線の全線開通で新青森-鹿児島中央間が新幹線で結ばれるはずでした。また、日本時間の3月10日から11日にかけて、アメリカで開かれた月惑星科学会議の場で、小惑星探査機「はやぶさ」が持ち帰った小惑星のサンプルの分析結果が発表され、全世界の注目を集めました。新型新幹線「はやぶさ」と小惑星探査機「はやぶさ」、日本の技術力の高さを改めて示すとともに、日本国民に大きな夢と希望を与えました。大地震の発生は、まさにその直後のことでした。
東北新幹線の復旧にはもうしばらく時間がかかりそうです。また、つくばの高エネルギー加速器研究所等の被災で「はやぶさ」粒子の分析は一部中断を余儀なくされています。致命的なトラブルに何度も見舞われながら、技術者達の知恵と技術の結集によって奇跡の帰還を果たした探査機「はやぶさ」のように、悲しみや苦難を耐え乗り越えた先にはきっと明るい未来が待っていると信じています。そして今月にも全線運行が期待される新型新幹線「はやぶさ」が、東北地方の復興と未来への希望のシンボルとなることを願っています。
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