「 気骨の判決
東条英機と闘った裁判官 」
清水聡 著(新潮新書)
昨年の夏に
NHKスペシャルでドラマ化されたのを
覚えている人も多かろう。
昭和17年の
翼賛選挙(第21回衆議院議員選挙)
このとき
反体制と見られた候補者に対して
露骨に選挙活動妨害が行われ、
組織的・全般的に行われた不法選挙活動を理由に
選挙の無効を訴える訴訟が数多く提起された。
翼賛選挙を有効であるとする判決が続出する中
唯一「選挙無効」の判決を出したのが
大審院第三民事部(吉田久裁判長)だった。
国全体が、さあこれから行くぞ~っと
突入体制に入っているときに
現実的な命の危険をも顧みず、
鹿児島への出張尋問を行い、
無効判決を下した。
この吉田久裁判長が東京法学院
つまり中央大学の出身であった。
吉田久裁判長は、
高等小学校尋常科卒業後に
裁判所の給仕や
弁護士の書生をしながら東京法学院に学び
判事検事登用試験に次席合格した(2番で合格)
といういかにも中大っ!という感じの法曹である。
ところで、
大審院は現在の最高裁判所と
言われることがあるが、
正確には、それは間違いで、
明治憲法下では、
大審院は検察庁と同じく
司法省の傘下つまり行政権の支配下にあった。
三権分立してなかったのだ。
だから、翼賛選挙を無効とすることは、
上司に逆らうのと同じこと
だったのだ。
そういう制度上の問題と
あの時代ということを考えたときに
翼賛選挙を無効とする判決を出した
ということが
いかに凄まじいことかが
おわかりいただけよう。
吉田久裁判長は、戦後、
中大に戻られ教授となり
民法などを講義していたらしい。
あの時代に唯一ということが
法学のみならず司法の歴史に
燦然と輝いているといえる。
そして、東京法学院なくば、
つまり中央大学なくば
「気骨の判決」も存在しなかったと思うと
ここでも「法科の中央」ここにあり
ということになる。
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気骨の判決―東條英機と闘った裁判官 (新潮新書) 価格:¥ 714(税込) 発売日:2008-08 |