nagi-RYTHEM

nagiのブログです。つれづれに綴って行きたいと思います。よろしければお付き合いくださいませ。

中原みすず「初恋」

2006-05-30 21:54:53 | book
 “私の中から取り返しのつかないものを失った感覚が、悲しみとともにいつまでも消えないのは、心の傷に決して時効がないからなのだろう

 こんばんは、nagiです。「初恋」読み終えました。そこまで長くなく、読みやすい本でした。

 切ない・・・その一言につきる気がします。心から家族と呼べる人もおらず、孤独の中にいた少女“みすず”が初めて手に入れた「自分の居場所」と仲間たち、そして愛する人・“岸”。仲間たちにも秘密にしたまま二人だけ(協力者はいたけど)で実行された事件。

 私は「府中三億円強奪事件」の実行犯だと思う。だと思う、というのは、私にもその意思があったかどうか定かではないからだ。”前書きにある著者の言葉です。彼女はお金が欲しくてやったわけではない。ただただ、好きな人の役に立ちたかっただけ。愛する人に必要とされたことが嬉しかっただけなのだ。確かにそこには、行き場のない大人への憎悪があったのだけれども・・・。

 学生運動が盛んな中、若者たちは必死になって権力(大人)への過激な反抗を繰り返していました。学生運動には興味を示さなかった“岸”は・・・ただ、ある人物を慌てふためかせたいという、少々子供じみた考えがあっただけだった。現に新札だった為ナンバーが登録されているこのお金は、一円も使われていないのである。

 この二人は両思いだった。けれど不器用な彼らは、互いにそれを口に出すことは出来なかった。彼が想いを告げたのは、旅立った先からの手紙でだった。しかし愛を告げ、「かならず、帰る」と約束しながらも、“愛する人”は二度と彼女の前に現れることはなかったのだ・・・。そして現在・・・あの頃の仲間のほとんどは空の世界へ旅立ってしまった。おそらくは、岸も。

 なんかまとまらないけれど、nagiは「この話が真実です」と言われても信じると思います。それくらい、矛盾がないように感じられました。実際、あの有名なモンタージュ写真は(確か)他の事件で捕まったすでに亡くなっている人物の写真を使用していたらしいですし。だから本当の犯人の顔なんて分かってないんですよね。犯行に使われたバイクが、何故か引きずっていたシートの説明もしています。話の中で謎のまま残っている部分は、“みすず”が知らされていない部分なので、分からなくても仕方ない、と思えます。

 映画のコピーでは、「三億円事件の犯人」ということを強調していますが、本の内容的には事件はあくまで「おまけ」というか、一つの出来事でしかない気がします。メインは“みすず”と“岸”の(心の)交流です。実際話の中で彼らが恋人同士であるわけではないのだけれど、2人のやり取りは恋人同士のように思えます。お互いが鈍くて不器用なだけで・・・。でも心は通っていたと思う。心は通いながらも離れて。結局、岸は手紙でみすずに告白するけど、みすずにいたっては結局岸に想いを打ち明けることはできなかった。(描写的におそらく)返信をしていないからです。そして手紙が途切れて・・・。彼は帰ってこなかった。18歳という遅い初恋だからこそ、やっと手に入れたはずの自分の居場所だったからこそ、彼女の喪失感は大きいのではないかと思います。

 読んでみて、絶対映画も見ようと思いました。