シューズにはチームメイトからのメッセージ 初代MVP&金栗杯、青学大・野村昭夢の背中を押した言葉
◇第101回東京箱根間往復大学駅伝競走復路(3日、神奈川・箱根町芦ノ湖スタート~東京・千代田区大手町読売新聞社前ゴール=5区間109・6キロ)
青学大の6区・野村昭夢(4年)が、区間新記録となる56分47秒での区間賞。復路で勢いをつけ、総合2連覇に導いた。大会後に野村は、優勝チームから選ばれる新設の初代「大会MVP」と、全チーム対象で最も活躍した選手に対して贈られる「金栗四三杯」をダブル受賞した。
異次元の走りだった。箱根駅伝6区を野村が完全に攻略した。ポイントは序盤5キロの上りと傾斜が緩やかになる残り3キロだった。
下りの走りは得意で自信もあった。20年に館沢亨次(東海大)がつくった57分17秒の区間記録を更新し、さらには初の56分台に突入するため、野村は今季、5区の選手並みに上りの走りを強化した。そして、レースでは大胆に攻めた。
「(標高最高点の)5キロがゴールのつもりで飛ばしました。その後、下るので心肺は回復する」
残り3キロは傾斜が緩やかになる。それでも、約40メートルは下っている。「上っているように感じる」といわれるが、下り坂が得意で地力がある選手は、下り傾斜通りにスピードを落とさずに走ることができる。
野村は3年時まで故障が多かったものの、4年時は練習を継続して地力がついたことで残り3キロも攻略した。「1年間、56分台を目標に練習してきて、ラストランで出せて良かった。4年目は、けがすることなく順調に練習を積めていた成果です」。区間記録を30秒も更新する56分47秒で20・8キロを走破した野村は会心の笑みを見せた。17年に9区で区間賞を獲得した東洋大の兄・峻哉さんに続く“兄弟区間賞”も実現した。
101回目を迎える伝統の継走の新しい見どころが「初代MVP」だった。04年の第80回記念大会から最も活躍した選手に対し「金栗四三杯」が贈られている。これとは別に優勝チームの選手を対象にした「最優秀選手賞(MVP)」が新設された。圧巻の区間新記録をマークした野村がダブル受賞。「どちらかを取れたらいいなと思っていたので本当にうれしい」と笑った。今春の卒業後は、住友電工で競技を続ける。箱根から世界へ。本当の戦いはこれから始まる。(竹内 達朗)
〇…野村は、往路5区で区間新記録をマークした若林らから「転がり落ちろ!」などと寄せ書きされたシューズで区間新をたたき出した。「昨日(2日)の夜に若林や(マネジャーの)徳丸涼大が書いてくれました」と野村はチームメートに感謝。まさに「転がり落ちる」ような激走だった。
◆野村 昭夢(のむら・あきむ)2002年11月10日、鹿児島・志布志市生まれ。22歳。有明中から鹿児島城西高に進み、21年に青学大文学部に進学。3年時に出雲1区6位、箱根6区2位、4年時に出雲2区6位、全日本1区4位、箱根6区区間新で区間賞。自己ベストは5000メートルが13分33秒88、1万メートルが29分39秒23。168センチ、54キロ。
アンカー抜てきの1年生・小河原は区間賞 さえた青学大・原監督の調整力、選手起用…一方で数年後の「バトンタッチ」も示唆
往路優勝の青学大が復路も新記録の2位と安定し、10時間41分19秒の新記録で、2年連続8度目の総合優勝を果たした。復路スタートの6区で野村昭夢(4年)が区間新で勝利を引き寄せ、今春から地方局でアナウンサーになる9区・田中悠登主将(4年)も「引退レース」で区間2位と力走。今大会に向けて「あいたいね大作戦」を発令した原晋監督(57)は「300%大成功」と胸を張った。5時間20分50秒の新記録で復路優勝した駒大が総合2位。初優勝と学生駅伝3冠を狙った国学院大は総合3位だった。(晴れ、0・8度、湿度88%、北西の風0・3メートル=スタート時)
大一番に向けての調整力、選手起用がさえた。原監督の真骨頂だった。主力が直前で故障して理想のオーダーを組めなかったライバル校に対し、青学大は万全の10人がスタートラインに立った。最後まで迷ったのが10区。小河原陽琉(ひかる)、佐藤愛斗、安島莉玖の3人のルーキーの中から小河原に優勝アンカーの大役を任せた。過去に1年生をアンカーに起用したこともなかったが「小河原が一番、落ち着いていた」と決断。区間賞で期待に応えた小河原は両人さし指を頬に当てるパフォーマンスで「全く不安はありませんでした」と強心臓ぶりを見せつけた。
原監督は来季に向けて意欲満々だ。「(16年度以来)2度目の大学駅伝3冠と箱根駅伝3連覇を狙いますよ」と力強かった。
一方で、大学駅伝界のライバルの力を認める。「勝つことは簡単ではない。来季は駒大も国学院大も早大も中大も強い。大学駅伝ではどの監督も真剣。勝てなければクビになりますから。それに比べると、実業団の監督はサラリーマン指導者ばかり。負け続けても監督を続けている人が多いじゃないですか」と強い口調。自身の今後については「近い将来、バトンタッチします。強化を続けながら引き継ぎをしていきます」と数年後の退任を示唆した。
8度目の優勝にちなんだ胴上げに「私は重いので、6回目で(胴上げが)上がらなくなってきた」と苦笑いしつつ、「こんなに幸せなことはありませんよ」としみじみ。大学駅伝界の名物監督は今回も異彩を放った。(竹内 達朗)
「勝つだけでは満足しない」渡辺康幸氏、青学大の強さの根底にあるのは「志の高さ」
青学大は箱根駅伝の勝ち方を熟知していた。原監督が1年間、植え付けてきた速さと強さが見事に発揮された。復路5区間も攻めの姿勢を貫き、前半速く入り、終盤もペースを上げていた。それができたからこその総合新記録。今大会は2日間とも好天で風も弱かった。特に復路は薄曇りで肌寒く、好記録が出ていた。
6区の野村君の走りが圧巻だった。前人未到の56分台を出すには前半から突っ込み、ほぼ全区間でアクセルを踏み続けないといけない。1年間下りの準備を積み、区間2位だった昨年から前半の入りが速く改善されていた。調子も良くて自分が決める、という強い覚悟が走りから伝わってきた。下りの方が(前方への反発力が高く)厚底シューズの恩恵も受けやすい。トラックでスピードがある選手。厚底シューズの進化に頼るのではなく、それを生かす練習やトレーニングを積み、走力が上がったことが大きかった。56分台はなかなか出ない記録だと思う。
青学大は直近、11年で8度目の箱根総合優勝。選手たちの志の高さが強さの根底にある。毎年、勝つだけでは満足せず、新記録も狙ってくる。原監督の指導は厳しい。厳しさがないと強いチームはできない。ただ、厳しさだけでは今の若者には通用しない。オンとオフを使い分け、寄り添った愛情のある指導で、厳しい練習にも耐えられる強い信頼関係が築けている。
そして、区間配置を毎日、考えている緻密(ちみつ)さも大きい。選手の個性や性格など細かい部分も見ながら、青学大が箱根10区間で最高のパフォーマンスを出すためのオーダーを1年間追求し続けている。将棋の藤井聡太さんのように、何手も先のことを想定して先読みし、変化を受け入れて進化できる監督だ。前向きで常に上を見ていく姿勢が毎年、選手が入れ替わる学生スポーツでも長く強さを維持できている青学大の最大の強みだ。(元早大駅伝監督、住友電工監督・渡辺康幸)
給水“乾杯”の盟友明かした「田中が寮で泣いている姿をよく見ました」連覇の青学大主将、前哨戦完敗の不安振り切り力走
箱根の強さがまたも際立つ快勝だった。青学大は昨年樹立した大会新記録をさらに6秒短縮し、この11年で8度目の頂点。4連覇した2018年以来の連続優勝となり、原監督は「もし今年勝てなかったら、箱根で戦う『原メソッド』を根本から変えないといけないと思っていた」と安ど。ゴール後には歓喜の胴上げで、優勝回数と同じ8度、宙を舞った。
強さと総合力を象徴するシーンだった。9区14・4キロの給水地点。首位を走る青学大の田中主将と給水係の片山宗哉(4年)がボトルで乾杯。盟友の力水を受けて田中は最も苦しい残り約9キロを走り切った。
「みんなでつかみ取った優勝です。最高の仲間と最高の景色が見られた」。9区を走り終えた後、電車に飛び乗り、優勝のゴールテープを切った1年生アンカー小河原を出迎えた田中は目を潤ませた。給水の乾杯については「スポーツマンシップに乾杯!ですね」とテレビCMのように笑った。
前哨戦の出雲と全日本は国学院大、駒大に完敗した。「負けて不安な気持ちもありました」と田中は振り返る。結果が出ず、盟友の片山は「田中が寮で泣いている姿をよく見ました」と明かした。決して腐らず、選手だけのミーティングを重ねた。どうすれば強くなるかを議論した。エースの太田蒼生(4年)が「エース頼りのチームでは勝てない」と仲間を叱咤(しった)することもあった。その様子を遠目に見ていた原監督の妻で寮母の美穂さん(57)は「4年生には箱根で勝つという気迫がありました」と回想。最上級生を中心に、箱根路へ徐々にチームはまとまっていった。
4年間で一度も選手として箱根駅伝を走れず、給水係として50メートルだけ走った片山は「他のチームだったら箱根駅伝を走れたかも、と思うこともありました。でも、今は青学大に入って良かったと心の底から思います」と話した。
本番直前には大ピンチもあった。区間エントリーが行われた昨年12月29日、寮外生の複数の女子マネジャーがインフルエンザに感染。しかし、原監督、片桐悠人主務(4年)を中心に危機管理は完璧だった。普段は練習記録の管理などのマネジャー業務を選手寮内で行っているが、例年12月に入ると、感染予防のため、練習グラウンドにテーブルを設置して屋外で行う。その取り組みのおかげで選手寮で暮らす選手の感染者はゼロ。出場した10人は完璧な体調で箱根路を駆けた。
原監督は「インフルエンザが大流行しているので、電車で練習グラウンドまで通って外で仕事をしている女子マネジャーが感染してもしようがありません。普段からチームのために頑張ってくれています」とチームを支えてきたことに最大限の敬意を表した。
選手、マネジャー、スタッフ、全員の総合力で連覇を果たした。「今季のチームスローガンは『大手町で笑おう』。優勝して大手町で笑いあいたい」と狙った原監督の大作戦は、今回も大成功した。(竹内 達朗)
◆青学大 1918年創部。箱根駅伝は43年に初出場。2004年に原監督が就任。09年大会で33年ぶりに本戦出場を果たし、15年から4連覇。20、22、24、25年も制して優勝8回。出雲駅伝は優勝4回。全日本大学駅伝は優勝2回。16年度は学生駅伝3冠。練習拠点は東京・町田市と神奈川・相模原市。タスキの色はフレッシュグリーン。長距離部員は選手46人、学生スタッフ15人。主なOBは「3代目・山の神」神野大地(M&Aベストパートナーズ選手兼任監督)、ハーフマラソン日本記録の小椋裕介(ヤクルト)、24年福岡国際マラソンで日本歴代3位の2時間5分16秒で優勝した吉田祐也(GMOインターネットグループ)。
【駅ペン】青学大“偵察メンバー”の弟から兄へ「朝日が2区を快走してくれてうれしかった」2大会連続で兄弟による当日変更
箱根駅伝のルールとして「当日変更」がある。開催前の12月29日に1~10区と補欠6人が登録され、往復路とも当日朝に補欠選手を変更で投入できる。各校の駆け引きも見どころの一つとなっている。
当日変更で出場する選手がいる以上、出番がなくなる選手がいる。欠場が前提の選手は、「偵察メンバー」と呼ばれる。
優勝した青学大では当初2区に黒田然(ぜん、1年)が登録されていたが、事実上の「偵察メンバー」で往路当日に兄でエースの黒田朝日(3年)が投入された。朝日は2年連続の2区で区間新記録の区間3位と好走した。昨年11月の全日本大学駅伝でも4区で然が「偵察メンバー」で当日に朝日が起用された。2大会連続で兄弟による当日変更について、朝日は「原監督は面白いことをしますよね」と笑いつつ、「偵察メンバーはそのままその区間の付き添い係になってくれる。然が付き添いをしてくれるとやっぱり一番、落ち着きます」と感謝した。
然は「朝日が2区を快走してくれてうれしかったです。序盤、遅れていましたけど、全く心配していませんでした。来年、僕は5区を走るつもりで練習をしていきます」と前向きに話した。その隣で朝日は「然はまだまだ成長しているので、来年は若林(宏樹)さんが抜ける5区をしっかり走ってもらえると思います」と期待を込めて話した。
黒田兄弟の父・将由さんも法大時代に箱根駅伝で活躍した名選手だった。「2人とも頑張っています。然は今回、青学大の登録メンバーに入っただけでもすごい。偵察メンバーの役割を立派に果たしてくれたと思います」と柔和な表情で話した。
◇第101回東京箱根間往復大学駅伝競走復路(3日、神奈川・箱根町芦ノ湖スタート~東京・千代田区大手町読売新聞社前ゴール=5区間109・6キロ)
青学大の6区・野村昭夢(4年)が、区間新記録となる56分47秒での区間賞。復路で勢いをつけ、総合2連覇に導いた。大会後に野村は、優勝チームから選ばれる新設の初代「大会MVP」と、全チーム対象で最も活躍した選手に対して贈られる「金栗四三杯」をダブル受賞した。
異次元の走りだった。箱根駅伝6区を野村が完全に攻略した。ポイントは序盤5キロの上りと傾斜が緩やかになる残り3キロだった。
下りの走りは得意で自信もあった。20年に館沢亨次(東海大)がつくった57分17秒の区間記録を更新し、さらには初の56分台に突入するため、野村は今季、5区の選手並みに上りの走りを強化した。そして、レースでは大胆に攻めた。
「(標高最高点の)5キロがゴールのつもりで飛ばしました。その後、下るので心肺は回復する」
残り3キロは傾斜が緩やかになる。それでも、約40メートルは下っている。「上っているように感じる」といわれるが、下り坂が得意で地力がある選手は、下り傾斜通りにスピードを落とさずに走ることができる。
野村は3年時まで故障が多かったものの、4年時は練習を継続して地力がついたことで残り3キロも攻略した。「1年間、56分台を目標に練習してきて、ラストランで出せて良かった。4年目は、けがすることなく順調に練習を積めていた成果です」。区間記録を30秒も更新する56分47秒で20・8キロを走破した野村は会心の笑みを見せた。17年に9区で区間賞を獲得した東洋大の兄・峻哉さんに続く“兄弟区間賞”も実現した。
101回目を迎える伝統の継走の新しい見どころが「初代MVP」だった。04年の第80回記念大会から最も活躍した選手に対し「金栗四三杯」が贈られている。これとは別に優勝チームの選手を対象にした「最優秀選手賞(MVP)」が新設された。圧巻の区間新記録をマークした野村がダブル受賞。「どちらかを取れたらいいなと思っていたので本当にうれしい」と笑った。今春の卒業後は、住友電工で競技を続ける。箱根から世界へ。本当の戦いはこれから始まる。(竹内 達朗)
〇…野村は、往路5区で区間新記録をマークした若林らから「転がり落ちろ!」などと寄せ書きされたシューズで区間新をたたき出した。「昨日(2日)の夜に若林や(マネジャーの)徳丸涼大が書いてくれました」と野村はチームメートに感謝。まさに「転がり落ちる」ような激走だった。
◆野村 昭夢(のむら・あきむ)2002年11月10日、鹿児島・志布志市生まれ。22歳。有明中から鹿児島城西高に進み、21年に青学大文学部に進学。3年時に出雲1区6位、箱根6区2位、4年時に出雲2区6位、全日本1区4位、箱根6区区間新で区間賞。自己ベストは5000メートルが13分33秒88、1万メートルが29分39秒23。168センチ、54キロ。
アンカー抜てきの1年生・小河原は区間賞 さえた青学大・原監督の調整力、選手起用…一方で数年後の「バトンタッチ」も示唆
往路優勝の青学大が復路も新記録の2位と安定し、10時間41分19秒の新記録で、2年連続8度目の総合優勝を果たした。復路スタートの6区で野村昭夢(4年)が区間新で勝利を引き寄せ、今春から地方局でアナウンサーになる9区・田中悠登主将(4年)も「引退レース」で区間2位と力走。今大会に向けて「あいたいね大作戦」を発令した原晋監督(57)は「300%大成功」と胸を張った。5時間20分50秒の新記録で復路優勝した駒大が総合2位。初優勝と学生駅伝3冠を狙った国学院大は総合3位だった。(晴れ、0・8度、湿度88%、北西の風0・3メートル=スタート時)
大一番に向けての調整力、選手起用がさえた。原監督の真骨頂だった。主力が直前で故障して理想のオーダーを組めなかったライバル校に対し、青学大は万全の10人がスタートラインに立った。最後まで迷ったのが10区。小河原陽琉(ひかる)、佐藤愛斗、安島莉玖の3人のルーキーの中から小河原に優勝アンカーの大役を任せた。過去に1年生をアンカーに起用したこともなかったが「小河原が一番、落ち着いていた」と決断。区間賞で期待に応えた小河原は両人さし指を頬に当てるパフォーマンスで「全く不安はありませんでした」と強心臓ぶりを見せつけた。
原監督は来季に向けて意欲満々だ。「(16年度以来)2度目の大学駅伝3冠と箱根駅伝3連覇を狙いますよ」と力強かった。
一方で、大学駅伝界のライバルの力を認める。「勝つことは簡単ではない。来季は駒大も国学院大も早大も中大も強い。大学駅伝ではどの監督も真剣。勝てなければクビになりますから。それに比べると、実業団の監督はサラリーマン指導者ばかり。負け続けても監督を続けている人が多いじゃないですか」と強い口調。自身の今後については「近い将来、バトンタッチします。強化を続けながら引き継ぎをしていきます」と数年後の退任を示唆した。
8度目の優勝にちなんだ胴上げに「私は重いので、6回目で(胴上げが)上がらなくなってきた」と苦笑いしつつ、「こんなに幸せなことはありませんよ」としみじみ。大学駅伝界の名物監督は今回も異彩を放った。(竹内 達朗)
「勝つだけでは満足しない」渡辺康幸氏、青学大の強さの根底にあるのは「志の高さ」
青学大は箱根駅伝の勝ち方を熟知していた。原監督が1年間、植え付けてきた速さと強さが見事に発揮された。復路5区間も攻めの姿勢を貫き、前半速く入り、終盤もペースを上げていた。それができたからこその総合新記録。今大会は2日間とも好天で風も弱かった。特に復路は薄曇りで肌寒く、好記録が出ていた。
6区の野村君の走りが圧巻だった。前人未到の56分台を出すには前半から突っ込み、ほぼ全区間でアクセルを踏み続けないといけない。1年間下りの準備を積み、区間2位だった昨年から前半の入りが速く改善されていた。調子も良くて自分が決める、という強い覚悟が走りから伝わってきた。下りの方が(前方への反発力が高く)厚底シューズの恩恵も受けやすい。トラックでスピードがある選手。厚底シューズの進化に頼るのではなく、それを生かす練習やトレーニングを積み、走力が上がったことが大きかった。56分台はなかなか出ない記録だと思う。
青学大は直近、11年で8度目の箱根総合優勝。選手たちの志の高さが強さの根底にある。毎年、勝つだけでは満足せず、新記録も狙ってくる。原監督の指導は厳しい。厳しさがないと強いチームはできない。ただ、厳しさだけでは今の若者には通用しない。オンとオフを使い分け、寄り添った愛情のある指導で、厳しい練習にも耐えられる強い信頼関係が築けている。
そして、区間配置を毎日、考えている緻密(ちみつ)さも大きい。選手の個性や性格など細かい部分も見ながら、青学大が箱根10区間で最高のパフォーマンスを出すためのオーダーを1年間追求し続けている。将棋の藤井聡太さんのように、何手も先のことを想定して先読みし、変化を受け入れて進化できる監督だ。前向きで常に上を見ていく姿勢が毎年、選手が入れ替わる学生スポーツでも長く強さを維持できている青学大の最大の強みだ。(元早大駅伝監督、住友電工監督・渡辺康幸)
給水“乾杯”の盟友明かした「田中が寮で泣いている姿をよく見ました」連覇の青学大主将、前哨戦完敗の不安振り切り力走
箱根の強さがまたも際立つ快勝だった。青学大は昨年樹立した大会新記録をさらに6秒短縮し、この11年で8度目の頂点。4連覇した2018年以来の連続優勝となり、原監督は「もし今年勝てなかったら、箱根で戦う『原メソッド』を根本から変えないといけないと思っていた」と安ど。ゴール後には歓喜の胴上げで、優勝回数と同じ8度、宙を舞った。
強さと総合力を象徴するシーンだった。9区14・4キロの給水地点。首位を走る青学大の田中主将と給水係の片山宗哉(4年)がボトルで乾杯。盟友の力水を受けて田中は最も苦しい残り約9キロを走り切った。
「みんなでつかみ取った優勝です。最高の仲間と最高の景色が見られた」。9区を走り終えた後、電車に飛び乗り、優勝のゴールテープを切った1年生アンカー小河原を出迎えた田中は目を潤ませた。給水の乾杯については「スポーツマンシップに乾杯!ですね」とテレビCMのように笑った。
前哨戦の出雲と全日本は国学院大、駒大に完敗した。「負けて不安な気持ちもありました」と田中は振り返る。結果が出ず、盟友の片山は「田中が寮で泣いている姿をよく見ました」と明かした。決して腐らず、選手だけのミーティングを重ねた。どうすれば強くなるかを議論した。エースの太田蒼生(4年)が「エース頼りのチームでは勝てない」と仲間を叱咤(しった)することもあった。その様子を遠目に見ていた原監督の妻で寮母の美穂さん(57)は「4年生には箱根で勝つという気迫がありました」と回想。最上級生を中心に、箱根路へ徐々にチームはまとまっていった。
4年間で一度も選手として箱根駅伝を走れず、給水係として50メートルだけ走った片山は「他のチームだったら箱根駅伝を走れたかも、と思うこともありました。でも、今は青学大に入って良かったと心の底から思います」と話した。
本番直前には大ピンチもあった。区間エントリーが行われた昨年12月29日、寮外生の複数の女子マネジャーがインフルエンザに感染。しかし、原監督、片桐悠人主務(4年)を中心に危機管理は完璧だった。普段は練習記録の管理などのマネジャー業務を選手寮内で行っているが、例年12月に入ると、感染予防のため、練習グラウンドにテーブルを設置して屋外で行う。その取り組みのおかげで選手寮で暮らす選手の感染者はゼロ。出場した10人は完璧な体調で箱根路を駆けた。
原監督は「インフルエンザが大流行しているので、電車で練習グラウンドまで通って外で仕事をしている女子マネジャーが感染してもしようがありません。普段からチームのために頑張ってくれています」とチームを支えてきたことに最大限の敬意を表した。
選手、マネジャー、スタッフ、全員の総合力で連覇を果たした。「今季のチームスローガンは『大手町で笑おう』。優勝して大手町で笑いあいたい」と狙った原監督の大作戦は、今回も大成功した。(竹内 達朗)
◆青学大 1918年創部。箱根駅伝は43年に初出場。2004年に原監督が就任。09年大会で33年ぶりに本戦出場を果たし、15年から4連覇。20、22、24、25年も制して優勝8回。出雲駅伝は優勝4回。全日本大学駅伝は優勝2回。16年度は学生駅伝3冠。練習拠点は東京・町田市と神奈川・相模原市。タスキの色はフレッシュグリーン。長距離部員は選手46人、学生スタッフ15人。主なOBは「3代目・山の神」神野大地(M&Aベストパートナーズ選手兼任監督)、ハーフマラソン日本記録の小椋裕介(ヤクルト)、24年福岡国際マラソンで日本歴代3位の2時間5分16秒で優勝した吉田祐也(GMOインターネットグループ)。
【駅ペン】青学大“偵察メンバー”の弟から兄へ「朝日が2区を快走してくれてうれしかった」2大会連続で兄弟による当日変更
箱根駅伝のルールとして「当日変更」がある。開催前の12月29日に1~10区と補欠6人が登録され、往復路とも当日朝に補欠選手を変更で投入できる。各校の駆け引きも見どころの一つとなっている。
当日変更で出場する選手がいる以上、出番がなくなる選手がいる。欠場が前提の選手は、「偵察メンバー」と呼ばれる。
優勝した青学大では当初2区に黒田然(ぜん、1年)が登録されていたが、事実上の「偵察メンバー」で往路当日に兄でエースの黒田朝日(3年)が投入された。朝日は2年連続の2区で区間新記録の区間3位と好走した。昨年11月の全日本大学駅伝でも4区で然が「偵察メンバー」で当日に朝日が起用された。2大会連続で兄弟による当日変更について、朝日は「原監督は面白いことをしますよね」と笑いつつ、「偵察メンバーはそのままその区間の付き添い係になってくれる。然が付き添いをしてくれるとやっぱり一番、落ち着きます」と感謝した。
然は「朝日が2区を快走してくれてうれしかったです。序盤、遅れていましたけど、全く心配していませんでした。来年、僕は5区を走るつもりで練習をしていきます」と前向きに話した。その隣で朝日は「然はまだまだ成長しているので、来年は若林(宏樹)さんが抜ける5区をしっかり走ってもらえると思います」と期待を込めて話した。
黒田兄弟の父・将由さんも法大時代に箱根駅伝で活躍した名選手だった。「2人とも頑張っています。然は今回、青学大の登録メンバーに入っただけでもすごい。偵察メンバーの役割を立派に果たしてくれたと思います」と柔和な表情で話した。
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「光る君へ」でも注目 人口8万弱の福井・越前市から箱根駅伝に2人の主将が参戦 青学大・田中と国学院大・平林の強い絆
箱根駅伝で覇権を競った青学大の田中悠登主将(4年)と国学院大の平林清澄主将(4年)は、ともに、福井・武生市(現越前市)の出身。毎年11月3日に開催される地元の「菊花マラソン」で小学校時代から同じレースで競い合っていたライバルであり、盟友だった。6年生の時は田中が7分59秒で9位、平林が8分46秒で43位(出場268人)という記録が残っている。
中学生になると、田中は武生二中で県トップクラスの選手に成長。平林はバドミントン部に所属しながら陸上、駅伝の大会にも出場していた。中学3年時に県駅伝南越地区大会で2人が1区でデッドヒートを繰り広げたことは地元では語り草になっているという。
越前市の山田賢一市長は両主将に最大限の賛辞を贈った。「箱根駅伝の優勝を争う強豪チームのキャプテンを越前市出身選手が務めていることが大変、誇りに思います。同じふるさとで育った2人が大舞台で輝く姿は市民に大きな感動を与えてくれると思います」
越前市の人口は8万人弱。それほど大きくない町から優秀なキャプテンがなぜ2人も誕生したのか? 山田市長は「長い間伝統を守ってきた強さ、ひたむきさ、勤勉さが市民には備わっているからだと確信しています。長い冬を耐え抜く粘り強さもあり、物事に誠実に取り組む姿勢も特徴です」と言葉に力を込めた。
戦いを終えた田中と平林は大手町で顔を会わすと、がっちり固い握手を交わした。田中は「出雲駅伝、全日本大学駅伝は本気で勝ちにいって国学院大に完敗しました。国学院大のおかげで青学大は強くなれました。国学院大チーム、そして、キャプテンの平林に感謝したい」と熱い口調。最後に「福井で平林とうまい酒が飲みたい」と話すと、平林も満面の笑みで「間違いない」と笑顔で返した。
2024年は越前市ゆかりの紫式部を主人公としたNHK大河ドラマ「光る君へ」が放送され、越前編も話題になった。田中と平林は、まさに「光るキャプテン」だった。(竹内 達朗)
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駒大・佐藤圭汰が復活の7区区間新!故障明け10か月ぶりレースも異次元の57秒更新で復路新V導いた
2年ぶりの覇権奪還を狙った駒大は総合2位だったが、復路は5時間20分50秒の新記録で青学大を上回り優勝した。故障明けの7区・佐藤圭汰(3年)が激走。約10か月ぶりのレース出走も覚悟を持ってハイペースで走破し、1時間0分43秒の区間新記録をマークした。今年はトラックで東京世界陸上(9月)の代表入りを視野に入れる日本の有望株は“箱根から世界へ”を体現していく。
駒大の怪物・佐藤はやっぱり強かった。10か月ぶりの復帰戦でも関係なし。7区で従来の記録を57秒更新する区間新を樹立し「区間記録を一つの目標にしていた。確実に力がついたと実感できましたし、復路優勝に貢献できたことが良かった」と大粒の汗を拭った。
6区の伊藤蒼唯(3年)が4位から3位に押し上げ、仲間からの熱いタスキを受け取った。「絶対にいい流れをつくってやろう」と力強く走り出すと、速さは異次元。すぐに中大を抜いて順位を2位に上げ、4分7秒あった首位・青学大との差も一気に1分40秒まで詰めた。藤田敦史監督(48)は大黒柱の圧倒的な強さに「大丈夫かなって心配しながら見ていたが、私の杞憂(きゆう)に終わりました。彼の走りに勇気をもらった」と目を細めた。
2024年は成長の年だった。1月に5000メートルで13分9秒45、2月は3000メートルで7分42秒56と連続で室内日本新記録を樹立するなど勢いに乗っていた中、4月に恥骨を故障。復調して向かった約1か月間の米国合宿後の9月にも、同箇所に違和感が出た。そこで改善点が浮き彫りになった。故障の原因は内転筋とでん部の筋肉が弱さと判明。継続的に鍛え「(足の)接地の仕方が良くなったし、腕振りもコンパクトにバランスも良くなった。体を見つめ直すいい機会になった」と糧にした。
栄養面も見直した。米国で出会った海外選手は「みんなゴツくて、今の自分の体では全然太刀打ちできない」と刺激を受けた。帰国後はタンパク質を多く摂取。体重は67キロから69キロまで増え「質のいい筋肉になった」と進化を実感する。11月から本格的に練習を再開し、箱根路に間に合わせた。
箱根駅伝で区間新記録を樹立しても、復路Vに導いても序章に過ぎない。「まだ(本調子の)70%」というから末恐ろしい。次の目標は「東京の世界陸上で悔しさを晴らしたい」と5000メートルでの出場を狙う。「明日からは1500、3000、5000メートルで日本記録を目指してやっていきます」。箱根で進化し、駒大のエースは世界へと飛び出していく。(手島 莉子)
◆佐藤 圭汰(さとう・けいた)2004年1月22日、京都市生まれ。20歳。小学4年時に陸上を始め、洛南高3年時に1500~5000メートルで高校日本記録を更新。22年、駒大経済学部に進学。23年11月に1万メートルで27分28秒50を記録し、U20日本記録を更新。24年1月に5000メートルでマークした13分9秒45も室内日本記録。3大駅伝は1年時に出雲2区区間新、全日本2区2位。2年時に出雲2区区間賞、全日本2区区間新、箱根3区2位。184センチ。
〇…佐藤を指導する大八木弘明総監督(66)は、教え子の見せた区間新記録に驚く様子はなかった。「持久力の練習は少しやりましたけど、スピードトレーニングはあまりやっていなかったからね。まだ8割程度です」と淡々。故障明けだったため、レース前は「あんまり気負わずに、気楽に。でも誰にも負けられないぞ」と送り出した。
駒大・佐藤圭汰の素顔は「寂しがり屋です。恥ずかしいですけど」米国合宿時は時差見計らい日本に電話かけまくり
2年ぶりの覇権奪還を狙った駒大は総合2位だったが、復路は5時間20分50秒の新記録で青学大を上回り優勝した。故障明けの7区・佐藤圭汰(3年)が激走。約10か月ぶりのレース出走も覚悟を持ってハイペースで走破し、1時間0分43秒の区間新記録をマークした。今年はトラックで東京世界陸上(9月)の代表入りを視野に入れる日本の有望株は“箱根から世界へ”を体現していく。
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日本トップレベルの実力を持ち、駒大の怪物と呼ばれる佐藤。レース中は真剣な表情を崩すことはないが、実は意外な素顔がある。「自分は寂しがり屋です。恥ずかしいですけど」。世界を目指す逸材は、昨夏は単身では2回目となる約1か月間の米国合宿を敢行。海外に行くことは「慣れました」と頼もしいが、とにかく寂しさだけは薄れない。
「日本とアメリカの時差がちょうどいい時間に、日本に電話かけまくっています。チームの人にもしています」。特に同学年の山川拓馬、山口真玄がよく話し相手になるという。184センチの長身を生かしたダイナミックな走りが特徴の怪物。その素顔は繊細な大学3年生だ。(手島 莉子)
第101回箱根駅伝(2、3日)で総合2位、復路では新記録で優勝した駒大が一夜明ける前の4日の午前5時40分、東京・玉川キャンパスの陸上競技場で新チームでの練習を開始した。日の出前、気温0度の競技場で、藤田敦史監督は「復路優勝はしましたが、総合優勝を目指していた中で2位でした。今回3大駅伝全て2位というところから脱却して、チーム一丸となってやっていく。新たなスタート、しっかり頑張っていきましょう」と熱く声をかけ、再始動した。
次期主将には今回5区の山川拓馬(3年)、副主将には同1区の帰山侑大(3年)が就任した。山川は「来年しっかり笑って優勝できるように。この最初の練習をしっかりこなして、チームに良い流れを作りましょう」と主将あいさつ。「今季がすごく良いチームだったので、それをちゃんと紡いでいけるように。まだまだ力はないですが、しっかりとチームを作っていって、一丸となれるチームにしていきたいです」と抱負を語った。今季、チームを第一優先に考えて引っ張った主将の篠原倖太朗(4年)についても、「篠原さんの姿を見て、学んでいます」とはにかんだ。
第101回箱根駅伝を走った10人のうち、卒業するのはエースの篠原のみ。篠原の存在は大きいが、7区区間新記録の頼れる佐藤圭汰(3年)、1年時から主力を担う山川、伊藤蒼唯(3年)らトリプルエースが健在。今回は3区6位の谷中晴(1年)、4区4位の桑田駿介(1年)ら下級生の活躍も目立っており、藤田敦史監督は「どこからどう見ても狙えるチームにできると思うので、この1年勝負をかけたいと思います。ただ油断はできません。みんなしっかり(チームを)作ってくると思うので、そこは油断せず、我々は我々なりの育成で自信を持って臨みたいです」ときっぱり話し、山川は「箱根の悔しさを晴らせるようにっていうのはもちろんですし、全日本と出雲も今回はとれなかった。次はとれるようにしたいです」と気を引き締めた。駒大は、一丸となって勝利を求めていく。
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3冠逃すも「3強」の意地!国学院大が3位…アンカー吉田蔵之介が早大との駆け引き制す
出雲駅伝、全日本大学駅伝を制し、史上6校目の3冠を懸けて挑んだ国学院大は、10時間50分47秒で20年大会に並ぶ過去最高の総合3位だった。青学大、駒大との「3強」の一角として注目されるも往路は6位。復路では7区でタスキが落ちるハプニングがありながら、最終10区で人気音楽グループ「ケツメイシ」のリーダー・大蔵を父に持つ吉田蔵之介(2年)が早大との駆け引きを制し「3強」の意地を見せてフィニッシュした。
同じ最高順位でも価値が違う。国学院大のうれしかった3位は5年後、悔しさに変わった。昨年、初マラソンで日本最高&日本学生新記録を出した平林清澄(4年)中心の史上最強メンバーも、箱根はやはりひと味違う。優勝とは9分28秒差の3位。前田康弘監督(46)は「5年前は大喜びで胴上げしてもらいましたから。本気で優勝を狙い、これだけの差。私も勉強不足で力不足」と結果を受け止めた。
「3強」として迎えた大会。6位から逆襲を狙う復路は、序盤7区でアクシデント発生。8区につなぐ直前で辻原輝(2年)の手からタスキがこぼれ落ちた。急いで取りに戻るも「あれがなければ15秒速く走れていた。悔しい」。それでも区間2位タイ。辻原の執念に応えるように、後続が順位を徐々に上げた。
9区から10区は、3位争いで早大と同時リレー。運命の23キロは「ケツメイシ」大蔵の息子・吉田に託された。17キロ過ぎ、並走していた早大・菅野雄太(4年)の動きが「崩れた」と見るや一気に前へ。けがで苦しんできた吉田は、父からの「そっちの方が絶対きつかった。楽しんでこい」という激励で力走。だが、「3強ではまだないのかなと感じた」。名曲「夏の思い出」ならぬ、今回も「苦い冬の思い出」となった。
「3冠」に挑戦できたことは紛れもない成長の証し。けん引し続けてきたエースで主将の平林は「復路メンバーは魂込めた走りを見せてくれた。最後の最後まで、助けられっぱなしの一年」と仲間に感謝。指揮官は「新生・国学院を作っていきたい」と誓った。近くて遠い箱根の頂点。悔しさを糧にここから再出発する。(小林 玲花)
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早大が4位 8区・伊福陽太、アンカー菅野雄太ら「一般組」も奮闘
早大が4位で名門復活ののろしを上げた。往路3位から6区で順位を1つ落とすも、8区で中大を逆転。10区の菅野雄太(4年)は国学院大・吉田のスピードに屈し、10秒差でフィニッシュした。8年ぶりの3位以内を逃した一方、総合タイムは7位の昨年より5分43秒短縮。花田勝彦監督(53)は「3位の目標は見えてたので悔しい。でも、4位で悔しいと思えるのは成長を感じる」とかみしめた。
高校時代からのエリート選手だけでなく、一般入試の菅野や指定校推薦の8区・伊福陽太(4年)ら「一般組」が好走した。「箱根や世界を目指す選手は推薦組や一般組という意識を取り除き、激しい争いをしないと」と指揮官。2連覇した青学大を引き合いに「自分でリミッターを外し、状況判断する走り」と求めた。
今大会は1~6区まで3年生以下で上位に。今年は千葉・八千代松陰の鈴木琉胤(るい)ら超高校級選手が入学する。花田監督は「来年は優勝を掲げてチームづくりする」と11年大会以来の頂点を見据えた。(星野 浩司)
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中大、往路2位から粘って5位 10区・藤田大智が順位を一つ上げてゴール
総合5位の中大は、下級生の躍進を4年生が底から支えた。6区・浦田優斗(4年)は「序盤に差し込み(脇腹痛)がきて、下りでうまく切り替えられなかった。したかった走りとはかけ離れた」と悔しい顔を見せた。それでも、「15キロあたりから動きが戻り、気持ちを乗せて走れた」と区間6位と粘り、往路のメンバーがつないだ2位の順位を守った。
藤原正和監督(43)が「新陳代謝がテーマ」と語るように、全10区間で4年生の出走は5区・園木大斗と浦田の2人。24年の新チーム結成時、浦田ら4年生は「下級生がのびのび走れるチーム」の方針を固め、練習などで意見が言いやすい雰囲気づくりを心がけた。
1区・吉居駿恭(3年)の大逃げ区間賞で幕を開けた今大会。2年生の本間颯が3区で区間賞、藤田大智が10区で順位を1つ上げてゴールテープを切った。「新しい力で一歩を踏み出す。よくやってくれた」と指揮官。全学年が一丸となり、チームに好結果をもたらした。(松永 瑞生)
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城西大6位 2年ぶり出走の9区・桜井優我が区間賞「次は往路で勝負できるように」
前回3位の城西大は総合6位で箱根路を終えた。2年ぶりに出走した9区の桜井優我(ゆうが、3年)が1時間8分27秒で区間賞を獲得。残り3キロの20キロ付近で櫛部静二監督(53)から「区間賞ペースでいってるぞ。もう少し頑張ったら本当にいける」と励まされ「きつかったけど、ペースを落とさずに走れた」と胸を張った。9区で1つ順位を上げ、3大会連続のシード確保と力を示した。
桜井は前回、大会直前に肺に気胸を患い入院。「人生で一番悔しくて、夢に出てきた。次こそはやってやろう」。だが、体のバランスが崩れた影響から両アキレス腱(けん)のけがにも見舞われ、ようやく走れるようになったのは昨年7月。「人一倍、練習をやらないと。自分が練習から引っ張って、箱根でしっかりと悔しさを晴らそう」。懸命に調整を重ね、この日は思いを乗せて走った。勲章、そして自信を手にし、1年後へ「次は往路で勝負できるように頑張りたい」と力を込めた。(岩原 正幸)
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「横溝さん、やったよ」8位・東京国際大、昨年11月に亡くなった監督に捧げる3年ぶりシード権
上位10校に与えられるシード権は最終10区まで大混戦だった。終盤まで8位から11位の4チームが並走。8位には東京国際大が入った。
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22年以来3年ぶりにシード復帰が決まると、東京国際大の中村勇太監督代行(38)は安堵(あんど)した。「横溝さん(シード権)取りました。やったよ」。昨年11月に肝臓がんで亡くなった横溝三郎監督(享年84)にささげる力走だった。
横溝さんは11年の創部時から指導し、16年の初出場に導くなど礎を築いた。喪章をつけた選手たちは、感謝の思いを力に変え、箱根路を駆け抜けた。10区・大村良紀(3年)はシード圏内の10位と21秒差の11位でタスキを受けると、6キロ付近で8位・帝京大に追いつき東洋大、順大とともに並走。残り約1キロ付近でスパートをかけて集団から抜け出すと、懸命に腕を振り総合8位でフィニッシュした。殊勲の大村は「(横溝さんは)ずっと気にかけてくださっていた。しっかりシードをとったよ。やり切りましたと笑顔で報告できます」と胸を張った。
横溝さんの写真を持って運営管理車に乗り込んでいた中村監督代行は「いいお土産を用意できたのかな」と静かに語った。(大中 彩未)
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東洋大、歴史つなぐ20年連続シード権…15キロ超の4校大激戦耐え抜いたアンカー薄根大河「恐怖心との闘い」
上位10校に与えられるシード権は最終10区まで大混戦だった。終盤まで8位から11位の4チームが並走。9位に滑り込んだ東洋大は2年生アンカーの薄根大河が力走し、継続中では最長となる20年連続シード権獲得に貢献。往路で4年生エース2人が欠場した危機を、チームで乗り越えた。
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鉄紺の歴史を何とかつないだ。東洋大は10時間54分56秒の9位でフィニッシュ。継続中では最長となる20年連続のシード権獲得を決めた。重責の10区で粘った薄根はゴール後、酒井俊幸監督(48)を前に「ありがとうございます」と声を振り絞ってうれし泣き。指揮官は「(シードを)取ったんだから泣く必要ないだろ。でも怖かったな。よく、頑張ったな」と言葉を返し、薄根の肩を優しくたたいた。
圏内8位でタスキを受けた2年生。だが、後続の4チームとの差は40秒もなかった。5キロ過ぎに帝京大、順大、東京国際大との“四つどもえ”。「恐怖心との闘い。ずっと、怖かった」。こぼれた1人だけがシード落ちとなる極限状態。15キロ以上も我慢し、最後は死力を尽くしてトップ10の座を守った。「4年生が待っていると思って絞り出せた。本当にホッとした」。大手町で待つ上級生への思いだけで競り合いに勝った。
2日の往路では、エース格の石田洸介、梅崎蓮主将(ともに4年)が不調のため当日変更。アクシデントをチーム力で乗り越え、9位で復路にタスキリレー。薄根は「つないで来てくれたものを、守りきらなくちゃダメだ」と奮起。レースを控え、手袋には「4年生のために」と書いていた。
スタート直前まで薄根に付き添ってサポートした梅崎主将も、その手袋に自分の名前を記して「勝ってこいよ」と送り出した。
最後は下級生が東洋大の魂を受け継いだ。梅崎主将も「しっかり、自分の分まで走ってくれた」と後輩をねぎらった。次回大会で目指すはシード争いの先だ。「来年は(今年)走ったメンバーも残っている。東洋の定位置と言われた3位以内、そして優勝を目指して頑張りたい」と薄根。強豪の完全復活は近い。(大谷 翔太)
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「台本があったら楽なのにな」10位でシード死守の帝京大・中野監督が教え子の俳優からのメールに返信
上位10校に与えられるシード権は最終10区まで大混戦だった。
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混戦を抜け出して、帝京大が総合10位でシードを死守した。同11位の順大とは、わずか7秒差。10区の小林咲冴(1年)の姿を頼もしそうに見つめた中野孝行監督(61)は「彼ら(争った4チーム)は最高のレースをした。4人を称賛したい」とたたえた。
往路を14位で終え、「早いうちにつかまえて、9、10区あたりで勝負したい」と描いていた指揮官もしびれる展開だった。「誰が見ても、あんな場面なかなか経験できない」。し烈なレースが繰り広げられる中、教え子で俳優の和田正人からメールが届いた。「『盛り上げてますね』って。冗談じゃねえよ(笑)。『シナリオとか台本があったら楽なのにな』って終わってから返したんだけど」と明かしつつ、「ないからスポーツっていいんだなって。これって二度とない瞬間だから」としみじみ語った。
駅伝の魅力を再確認した指揮官は、引退する4年生に向けて「本当に良いところも悪いところも経験した年代。社会に出た時に役立たせてくれるかな」とエールを送った。(臼井 恭香)
道産子たちが力走…北海道栄高出身の帝京大・広田陸が6区で4位…上富良野町出身の山梨学院大・大杉亮太朗は7区で16位
道産子たちがナイスランで2025年の箱根路を終えた。帝京大の広田陸(2年)=北海道栄高=は補欠から当日変更で復路6区(20・8キロ)を走り、58分13秒の区間4位と健闘した。14位でスタートし、山下りでの激走で順位を一気に押し上げた。チームは総合10位。シード権の獲得に大きく貢献した。
7区(21・3キロ)では、上富良野町出身の山梨学院大・大杉亮太朗(1年)=札幌山の手高=が1時間4分48秒の区間16位。17位でタスキを受け取ると、湘南海岸を軽快に駆け抜け、順位を1つ上げ、タスキをつなげた。
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順大、歴代4位タイの僅差でシード獲得ならずも「未来につながる」名門復活の予感
上位10校に与えられるシード権は最終10区まで大混戦だった。終盤まで8位から11位の4チームが並走。11位の順大は、圏内10位・帝京大に7秒差で涙をのんだ。
目の前で夢が散った。順大の10区・古川達也(2年)は、10位でゴールした帝京大の背中を見て、うつむいた。その7秒後に走り終え、仲間に抱えられると肩を震わせた。2年ぶりのシードに届かぬ総合11位。「悔しい。勝てる好機が回ってきたが、逃してしまった」。10位とは、歴代4位タイとなる僅差。昨年10月の予選会では最小1秒差の10位で出場権を得て笑ったが、本戦では7秒差に涙した。
往路13位から巻き返した。11位でタスキを受けた7区の吉岡大翔(2年)が、区間2位タイの力走でシード圏内の8位まで押し上げた。10位で耐えて挑んだ10区は、東洋大、東京国際大と並走し、序盤で帝京大に追いつくと向かい風の中、4校のうち、3校がシードを得る激戦。残り1キロで東京国際大が抜け出し、他の2校も続く。古川も加速したが、「スピード負け。覚悟を持っていけなかった」と振り切られた。
かつて5区で大活躍した今井正人氏(40)が、昨春からコーチに就任。「山の神」を育てるだけでなく「駅伝の心得」を伝授。長門俊介監督(40)も「チームはすごく上向き」と成長を実感する。
優勝11度を誇る名門復活を感じさせる復路の力走は、下級生が担った。「未来につながる駅伝。1秒で救われたこと、7秒の悔しさを感じながら励みたい」と指揮官。古川も「箱根でリベンジしたい」と涙をぬぐった。(宮下 京香)
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「もう完全に蚊帳の外」13位で63年ぶりのシード権逃した立大・高林監督「いろんな思いを込めて10人は走ってくれた」
往路8位から出た立大は、復路は5時間30分54秒の12位となり、合計10時間58分21秒の総合13位で、史上最長ブランクの63年ぶりシード権獲得はならなかった。当日変更で7区を走った小倉史也(3年)が区間17位のブレーキ。昨年4月に就任した高林祐介監督(37)はレース後「大変悔しい結果となった。復路では他大学の選手のすごい力を見せつけられた」と唇をかんだ。
10月の予選会は1位で通過。シード権獲得が有力視されたが、10位の帝京大に3分23秒届かず悲願はならなかった。指揮官は「惜しかったというよりは、もう完全に蚊帳の外だった」と、復路での他校との競り合いについていけなかったと振り返った。それでも、部員一丸となって10位以内を目指した今大会。高林監督は「いろんな思いを込めて10人は走ってくれた」と選手たちをたたえた。(富張 萌黄)
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アディダスがランナーの“足元シェア”総合V 8万2500円のシューズが人気 ナイキ2位
往路、復路合わせ、アディダスのシューズを76人が使用。8万2500円(税込み)の「アディオス Pro EVO 1」が人気を呼んだこともあり、往路の2区区間新の東京国際大・エティーリらが使用するなどナイキ1強時代を完全に打破した。
復路は出走105人のうち33.3%(35人)がアディダスを着用。往路も合わせシェア1位で“完全制覇”だった。ナイキは27.6%(29人)で2位。続くアシックスは23.8%(25人)、プーマは13人で12.4%。オンが2人、ミズノは1人。
(以上 報知)
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