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知らないことや気になることをいろいろと調べて記録していきます
 




ふだん何気なく音楽を聴いているが、それは基本的に録音をされたものを再生している形だ。
そして録音ということをもはや意識することはないが、世の中の音を記録して、好きな時に再生するということは改めて考えるとものすごいことだ。当然のことだが、録音ができるようになる以前の世の中の音を我々は知らない。

それでは我々はいつから音を記録できるようになったかというと、それは1857年のことである。
フランス人のエドアード・レオン・ スコット (Édouard-Léon Scott de Martinville、1817 - 1879) が発明したフォノトグラフ (phonautograph) が、最初の録音装置だ。



フォノトグラフ
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%8E%E3%83%88%E3%82%B0%E3%83%A9%E3%83%95

ススを塗布した紙の上に樽状の箱を設置し、この箱の底が音によって振幅したものを針に伝え、この針で紙を引搔いて音声を記録することができる。のちに改良され、回転するドラム状になった紙の上に振幅を残すようにした、地震計のような装置となった。音の性質を図形で記録ことで、研究するためのものだった。
さらにその後、ガラス板の煤の上に記録を残すようになった。この改良は、写真フィルムのように一瞬で撮影できるものはない写真乾板を使用していた時代に、音の振幅を写真の形で複製をとることにも向いていたのである。これらは音を波形図として記録することに便利がよく、当時の学術雑誌への発表に用いられた。

しかし、フォノトグラフは「録音専用機」だった。すなわち音の振幅具合を波形の強弱によって表すのみで、音の記録を読み取らせることができなかった。
記録されたフォノトグラムは以下のようなものだ。



これでは片手落ちで全く意味がないように考えるが、そこには時代的な背景がある。

株式会社日立コンサルティング Doublethink 第5回 再生できない録音機
http://www.hitachiconsulting.co.jp/column/doublethink/05/index.html

ここで重要なのは、記録オンリーだったのは再生機能の開発に失敗したからではなく、音を波形として記録するだけで装置として完結していたから、という点です。なぜ録音装置までたどり着いたのに、再生装置に向かわなかったのか。
当時「音声を記録する」といえば、速記を意味しました。速記者が音や声を聴き、それを文字に変換して記録する――スコットはまさにこの役割を、機械に置き換えようとしたわけです。そしてちょうど速記者が特殊な印を使って音声を記録し、それを後から解読するように、フォノトグラフが記録した波形も、後から「読んで」解析できるだろうとスコットは考えました。オーディオレコーダーの祖先としてフォノトグラフを位置づければ、確かに中途半端な装置という評価になってしまうかもしれません。しかし速記者を機械化するものと位置づければ、フォノトグラフは画期的なイノベーションであると評価することもできるでしょう。
ただし現代の人々が評価しているのは、フォノトグラフと発明者のスコットではなく、そのフォノトグラフも参考にしながら1877年に蓄音機を発明した、トーマス・エジソンであるわけですが。
最先端のテクノロジーに携わっていながら、過去にとらわれた思考をしてしまう――スコットが陥った落とし穴は、決して珍しいものではありません。


この記録した結果を、どのように後から読もうとしたのかは定かではない。正直無理だと思う。
このような経緯の末で、録音の歴史は1877年にトーマス・エジソンが円柱型アナログレコードを開発したことがはじまりと評価される。これも実際には、フランス人シャルル・クロスが、円盤を使ったほぼ同機構の録音装置に関する論文を、エジソンよりも約4ヶ月前の1877年4月に発表していたが、実際に利用できる実物を完成させたのはエジソンが先であったため、「録音装置の発明はエジソン」となっているものだ。 (エジソンは以前取り上げた白熱電球を含めてこのような事例が多い)

さて、そのフォノトグラフの録音内容は2008年に現代の技術によって再生することがかなった。

AFP 2008年03月28日 18:40 世界最古の録音音声、最新技術でよみがえる
http://www.afpbb.com/articles/-/2370877?pid=2782722

フランス皇帝ナポレオン3世の統治時代に録音された歌声が、148年の時を越えて再生された。フランス科学アカデミーが発表した。
再生に成功したのは、パリの発明家エドアール・レオン・スコット・ドマルタンビルが発明した音声記録機により1860年4月9日に録音されたフランス民謡「Au Claire de la Lune(月の光)」。女性の声で約10秒間にわたり録音されている。
録音状態は素晴らしいとは到底言い難く、聴く人によってはイルカの鳴き声としか思えないかもしれない。だがフランス科学アカデミーによれば、これこそが世界最古の録音音声だという。
トーマス・エジソン(Thomas Edison)が蓄音機で「メリーさんのヒツジ(Mary Had a Little Lamb)」を録音する17年も前の記録だ。 ただ、 フォノトグラフはエジソンの蓄音機と違い、再生はできなかった。しかし、21世紀の技術と米国の音声史学者、録音技師、科学者などの知恵を結集し、紙に刻まれたわずかな溝をデジタル画像で処理することで、その音はよみがえった。
この取り組みは、米国のファーストサウンズ(First Sounds)の協力の下に行われた。長い間失われていた初期の録音を復活させるプロジェクトを推進してきたファーストサウンズは、「まさかスコットも、この録音が再生されるとは夢にも思わなかっただろう」との声明を出している。




この音は以下のサイトで聞くことができる。これが我々が確認することができる最古の音だ。

First Sounds The Phonautograms of Édouard-Léon Scott de Martinville
http://www.firstsounds.org/sounds/scott.php

現代の技術で、時代を超えて当時にはできなかったことができるというのはとても素晴らしいことだ。
音としては正直かなりひどく、当時のライヴでは違う様子だったとは思うが、それは技術的な"程度の問題"と考えよう。現在の録音も必ずしも世の中の全ての音を再現できるわけではないのだから。



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