先日、以下のニュースが掲載されていました。
<ウイルス>犬ワクチンに混入 京大など調査
毎日JP
2010年2月7日 09時04分
http://www.excite.co.jp/News/society/20100207/20100207E40.001.html
犬のジステンパーの予防など、国内で広く使われている混合ワクチンに、感染力のある想定外のウイルスが混入していることが、京都大と英グラスゴー大の調査で分かり、米ウイルス学専門誌に発表した。研究チームは「すぐ感染被害が起きる恐れはないが、ワクチンの検査法や混入を防ぐ製造法の検討が必要」と話す。
研究チームは、日欧で販売されているネコワクチン4種、犬ワクチン10種を調べた。混入していたのは、細胞内の染色体に入り込むレトロウイルスと呼ばれるタイプのRD114ウイルス。分析の結果、ネコ1種、犬3種に混入し、感染力のあるウイルスの検出量は、ネコが1ミリリットル当たり1.8個、犬は最大1800個。同じ商品でも、ロットによって未混入のものもあった。
調べたワクチンは生ワクチンと呼ばれ、対象疾患を起こすウイルスの毒性を弱め、生きたまま使う。混合ワクチンでは、製造時にウイルスを増やす際、ネコの細胞を使う。このネコの細胞中のウイルスが混入したらしい。
ネコワクチンの場合は、ネコ自身が持つウイルスのため、混入しても健康被害はないとみられる。一方、犬ワクチンへの混入について、研究チームは「ほとんどの犬に影響はないだろうが、世界で年数百万頭に接種されており、一部が感染してウイルスの変異が起き、感染拡大の恐れは否定できない」とする。
現在、動物ワクチンの製造過程では、RD114混入の検査体制はない。宮沢孝幸・京都大准教授(ウイルス学)は「欧州では行政と製薬会社が、分析と対策について検討している。日本でも、ウイルスの危険性の有無の確認や混入の防止法の検討を始めるべきだ」と話している。【永山悦子】
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最初に。
犬や猫には感染すると死亡率の高い恐ろしい病気があります。
また人獣共通感染症もあります。
以下の情報は、
ワクチン接種を否定するものでは決してありません。
安全なワクチンの供給を一刻も早く望みます。

3年ほど前にも、ネコの3種生ワクチンにウイルスが混入している
というニュースがありました。
RD114ウイルスはすべての猫がうまれつきもっている「内在性レトロウイルス」であり、RD114ウイルスは猫に感染しないと考えられてきたので、ワクチン製造においても検査項目の対象になっていなかったそうです。
しかし、RD114ウイルスが感染するための受容体分子が猫にもあることがその後わかりました。人為的にRD114ウイルスを猫に接種した場合、接種された場所などに感染してしまう可能性があることがわかったそうです。
この3年ほど前の事件では、混入していたウイルス量が極めて微量で
あったため、使用するワクチン量の何百倍もの量を猫に接種しても
感染しないと結論付けられたようです。

さて、ワクチンには生ワクチンと不活化ワクチンがあります。
今回問題となっているのは「生ワクチン」です。
この2種類については、動物病院のコラムでとてもわかりやすく
説明されていたので、引用させていただきました。
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1-3 生(なま)ワクチンと不活化(ふかつか)ワクチン
ワクチンは、使用されている病原体が生きているか、死んでいるかで
生ワクチンと不活化ワクチンに大別されます。
生きた病原体を使うのが生ワクチン、死んだ病原体を使うのが不活化ワクチンです。
犬用ワクチンでは生ワクチンと不活化ワクチンを混ぜて使用することもあります。
◆【生ワクチン】
生きた病原体を使用しますので、病気を起こしてしまうほど強い病原体は困ります。
それで病原性を弱める操作を施します。これを「弱毒化」といいます。
弱毒化にはいろんな方法がありますが、ウイルスの場合
試験管内の細胞などで何代も継代する方法が一般的に用いられます。
継代することにより突然変異が起こり、犬に対して病原性が低くなるのです。
継代のころあいを見計らってワクチン製造用株とします。
このころあいを誤ってしまうと、安全性は高いが効き目が低い“水のようなワクチン”
逆に効き目は高いが安全性にやや問題を残し、使い方に注意しなければならない“ピリ辛ワクチン”
になることもあります。弱毒ウイルスを作り出すには多大な労力と時間を要します。
最近は遺伝子工学技術で人工的に弱毒ウイルスを作ることも試みられています。
生ワクチンの効き目は早く現れ、長く続きます。
また、液性免疫とともに細胞性免疫も誘導でき、総合的な予防効果が期待できます。
移行抗体の影響がなければ、1回だけの接種で十分な免疫を与えることができます。
自然感染経路から接種すると局所免疫(鼻粘膜、気管、腸管など局所で働く免疫)も誘導できます。
ただし、日本で市販されているワクチンには自然感染経路から接種するワクチンは現在のところありません。
全て皮下接種か筋肉内接種です。
こう聞きますと生ワクチンはよいことばかりのようですが、そうはいきません。
犬の感受性、健康状態にもよりますが、生ワクチン接種で発病する危険性があります。
他の犬に伝染することもあります。
また、製造原料、あるいは製造工程中に他の危険な病原体が混入する場合もあります(業界用語では迷入といいます)。
既に知られている病原体であれば、品質管理検査で発見することもできます。
しかし、未知の病原体は現状の検査システムでは検知できません。
◆【不活化ワクチン】
増殖させた病原体を薬品などで殺したワクチンが不活化ワクチンです。
病原体から有効抗原だけを取り出したり、あるいは遺伝子工学を駆使して人工的に
有効抗原を作り出したりして、製造したワクチンも不活化ワクチンの一種です。
有効抗原だけから成るワクチンをコンポーネントワクチン、サブユニットワクチンとも呼びます。
不活化ワクチンは免疫の成立がやや遅く(効き目が直ぐには現れない)、持続も短いのが特徴です。
この不活化ワクチン接種では主として液性免疫が誘導されます。
強固な免疫を得るためにはアジュバント(免疫増強物質)の添加が必要な場合が多く
少なくとも2回は接種しなければなりません。生ワクチンでは体内で病原体が増殖しますので
ワクチン中の抗原量はそんなに多くは必要ありません。
しかし、不活化ワクチンでは体内での増殖がありませんので、大量の抗原を接種する必要があります。
このためアレルギー反応を起こしやすい弱点があります。
なんとなく生ワクチンと比較して劣るように思えますが、なにせ製造工程中に病原体を殺す操作をしますので
発病の危険性、他病原体の迷入の危険性がありません。つまり安全性が高いのです。
さらに移行抗体の影響も比較的受けにくく、二次免疫応答を強く誘起することも長所です。
保存性がよいのも特長です。弱毒化が困難な病原体でも不活化ワクチンにはすることができます。
生ワクチン、不活化ワクチンにはそれぞれ長所・短所があります。
これを知った上で上手に使用することが大切です。
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続いて。。。
RD114ウイルスについての情報を集めてみました。
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The Journal of Veterinary Medical Science 和文要約
第70 巻,第8 号,平成20 年8 月
ウイルス学:LacZ マーカーレスキューアッセイ法によるRD114 ウイルス検出法の確立━坂口翔一1,2)・岡田雅也1)・庄嶋貴之1)・馬場健司1)・宮沢孝幸1)(1)京都大学ウイルス研究所・附属新 799-805 857-859 829-831 825-828 s • vii
興ウイルス感染症研究センター・病態解明チーム,2)帯広畜産大学畜産学部獣医学科)
すべてのネコはRD114 ウイルスという感染性の内在性レトロウイルスをもっている.
ネコの細胞を製造に用いた弱毒生ワクチンには,RD114 ウイルスが迷入する可能性がある.ネコ用ワクチンにおけるRD114 ウイルスの迷入を調べるために,今回我々はLacZ遺伝子をマーカーとしたマーカーレスキューアッセイを開発した.調べた4 種類のヒト由来株化細胞(TE671 細胞,HeLa 細胞,293T 細胞,HT1080 細胞)のうち,TE671 細胞(ヒト横紋筋肉腫由来細胞)がRD114 ウイルスにもっとも感受性が高く,また同細胞においてウイルスが効率よく増殖した.RD114 ウイルスの感染は,ウイルス吸着時にpolybrene を2μg/ml から8μg/ml 添加することにより約5 倍増大した.最大のウイルス力価を得るためのウイルス吸着時間は4 時間で十分であった.LacZ 遺伝子を導入したTE671 細胞に階段希釈したRD114 ウイルスを接種したところ,限界希釈したサンプル(すなわち10 感染ユニット未満)において,ウイルス接種後12 日後にLacZ マーカーレスキューアッセイによりウイルスの検出ができた.今回得られた結果をもとに,感染性のRD114 ウイルスを検出するLacZ マーカーレスキューアッセイの標準法を提唱する.
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附属新興ウイルス感染症研究センター ・病態解明チーム
(2006年の資料より抜粋)
3)ネコ由来株化細胞におけるR114ウイルスの産生およびその受容体の発現:ネコ用3種混合ワクチンへの内在性レトロウイルスの混入
RD114ウイルスは感染・増殖可能なネコ内在性レトロウイルスの1つであり、ネコ属のみに存在する。RD114ウイルスの受容体はNA⁺依存性中性アミノ酸トランスポーターであり、RD114ウイルスはヒヒ内在性レトロウイルスやタイプDサルレトロウイルスなどと同じ受容体干渉グループに属する。本研究で我々は、ネコ由来株化細胞におけるRD114ウイルスの産生とその受容体の発現を調べた。その結果、これまでRD114ウイルスは異種指向性とされてきたが、複数のネコ由来株化細胞に効率よく感染することがわかった。また、RD114ウイルスが感染しないネコ由来株化細胞からは、感染・増殖可能なRD114ウイルスが産生されていた。これらの結果から、RD114ウイルスは多指向性であることがわかった。ネコ用3種混合生ワクチンの弱毒ウイルス株は、ネコ由来株化細胞を用いて製造されているので、もしその細胞からRD114ウイルスが産生されているのならば、ワクチンにRD114ウイルスが混入している可能性がある。市販の4種類の3種混合生ワクチンを調べた結果、1種類にRD114ウイルスが実際に混入していることがわかった。ライオンやピューマなどのネコ属以外のネコ科動物はRD114を内在性レトロウイルスとしてもっていないので、これらの展示ネコ科動物に3種混合生ワクチンを接種することは避けるべきであると考えられた。また、ネコがRD114ウイルスの機能的受容体をもっていることが明らかとなったことから、今後、RD114ウイルスの活性化が白血病などの増殖性疾患を引き起こすか否かを調べる必要があると考えられた。

(2007年の資料より抜粋)
(5)ネコ内在性レトロウイルス
我々はネコ内在性レトロウイルスであるRD114 ウイルスをネコの三種混合生ワクチンから検出した。ワクチン製造でのシードロットシステム導入において、内在性レトロウイルスの問題は大きな障害となっている。現在、農林水産省動物医薬品検査所およびワクチン会社と連絡を取り合い、RD114 ウイルス迷入問題への対応を協議している。RD114 ウイルスの検査方法の最適化を行い、ワクチン検査用の標準プロトコールを作成した。さらに、動物医薬品検査所から研究員を当センターに受け入れ、検査の再現試験、検査方法の講習を行った。今後は、動物医薬品検査所、ワクチンメーカーの協力の下、RD114 ウイルスの動物感染実験を行い、感染性や病原性を調べる。また、ネコ以外の動物用ワクチンにおいてもRD114 ウイルスの迷入試験を行う予定である。
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ネコ用3種混合ワクチンにおけるRD114ウイルスの迷入
岡田雅也1、庄嶋貴之1、馬場健司1、石川美恵子1、宮沢孝幸1(1京都大学ウイルス研究所・新興ウイルス感染症研究センター病態解明チーム)
【背景と目的】
ネコ属には内在性レトロウイルスであるRD114ウイルスが存在し、一部の株化細胞からは感染性ウイルスが産生される。市販のネコ3種混合生ワクチンは、ネコ由来株化細胞から製造されているため、RD114ウイルスが迷入する可能性がある。そこで、市販のネコ3種混合生ワクチンに感染性のRD114ウイルスが存在するか否かを調べた。
【材料と方法】
LacZ シュードタイプアッセイを用いたRD114ウイルスの検出は、第143回本学会で報告した方法に従った。市販のネコ用3種混合ワクチンをLacZ マーカー遺伝子を先に導入したヒトTE671細胞(TE671(LacZ )細胞)に接種し、2週間培養した。その培養上清をTE671細胞またはRD114ウイルス感染TE671細胞に接種し、感染性ウイルスが存在するか否かを確認した。感染細胞のゲノムDNA からPCR にてRD114プロウイルスを増幅し、env 領域の塩基配列を決定した。
【結果と考察】
市販のネコ用3種混合生ワクチンの1つにRD114ウイルスが迷入していることが明らかとなった。env 配列はCRFK細胞由来のRD114ウイルスとアミノ酸レベルで一致していた。迷入していたRD114のウイルス量は1ml 当たり10感染ウイルス未満であり、非常に微量であった。RD114ウイルスの機能的受容体はネコに発現しているが、迷入量は非常に少ないため、RD114ウイルス迷入ワクチンをネコに接種しても、接種場所で同ウイルスが新たに感染する可能性は極めて低いと考えられた。