レビュー

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ダンケルク/クリストファー・ノーラン監督

2017-10-12 08:17:40 | 日記


クリストファー・ノーラン監督は、かの名作「バットマン/ダークナイト」を撮った、美意識の高い職人さん。
この「ダンケルク」では、ドイツ軍によりフランス北端の海岸に追い詰められたイギリス兵たち(このへん、歴史的にわかりにくい)が、ドーバー海峡を渡って撤退する模様を描きます。
ナチスドイツは一時フランスを征服するんだけど、そんな劣勢のフランス軍を援護したのがチャーチルのイギリス軍、って構図です。
だけど敗走して、何十万という兵が海岸に追い詰められるわけです。
追い詰められると言っても、敵軍との直接のドンパチが繰りひろげられるわけでもなく、ただただ本国からの船を延々と待ちわびる、って超地味な画づら。
ノーラン監督は、このやんなるくらいに長い場面を、彩度を落とした色彩と、底の重い音楽とで、ものすごい緊張した空気感に仕上げてくれます。
その臨場感ね。
リアルな表現、ってのとも一線を画す、胃が痛くなるようなマジ戦争(本物の戦争は派手じゃなく、もっとずっと疼痛みたいに意地の悪いものなのだ)の現実に引き込みます。
ストーリーらしいストーリーはなく、ディテールがあるのみ。
登場人物は、背景や履歴もろくに説明されてない多くの一般兵たちで、それぞれが必死に「ここから逃げのびる」ことだけを考え・・・というよりは乞い願い、ただ待ち、こらえ、動いては水泡と帰し、あきらめ、また待ちわびる、って延々のループ地獄に置かれて、それを見せられる観客側もただただ耐えるしかありません。
とにかくデフォルメもなにもなく、面白みもなく、ああこれが戦場の現実かあ・・・という、つまり、息詰まらされては、息を呑み、息を殺し、息をつかせない、という場面の連続。
音楽はずっと底暗いのが流れつづけてるし、こちらの心理状況も完全にあちら側(戦場)に連れていかれたまま、戻ってこられません。
窒息しそう。
ところがついに後半で、劇的な開放がやってくるのです。
それはもう、見事な対比。
二度の泣かせどころが用意されてるわけですが、解き放たれた瞬間の胸をすく感動ときたらない。
その鮮やかさ、のびやかさ、清浄すぎる静けさ・・・
ずっと、ずーっと、延々ととどめ置かれてきたそれまでの重苦しい気持ちを一気に吹き飛ばす、素晴らしい滑空感!
目が潤んで、その美しさに陶然としました。
ノーラン監督史上、最も地味な作品、と言われてますが、その手際と美意識には度肝を抜かれます。
胸を突かれました。
つか、戦争したがってるやつ、全員これを観て苦しんでみろ〜。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園

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