レビュー

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動物意識の誕生/シモーナ・ギンズバーグ、エヴァ・ヤブロンカ

2023-07-27 10:30:30 | 日記


太古のむかし、石ころが転がって有機物になり、高分子に結合して自律的な運動システムを構築し、営みを洗練させて、ついに意識を獲得した。
素朴な元素と自然法則のみの世界がいかにして、エントロピーを逆行させるがごとき魔法、すなわち「生命」を手に入れたのか?
・・・と深く深く考え詰めてまして、分子生物学やら、脳神経科学やら、生命発生学やらの、「オカルトやスピリチュアルじゃない」真っ当な自然科学書を読み込んでます。
この本は、生命が獲得した神経系(外界への接触→理解・反応システム)による無制約連合学習・・・つまり、感覚情報の一元化とカウンターアクションの果てしない繰り返しによってもたらされた臨機応変な判断能力こそが意識につながった、と論じてます。
体表面全体にめぐらせた各感覚器が集める単純刺激を中枢部で束ね(インプット)、複雑・緻密化させた情報をもとに外への働きかけを決定する(アウトプット)という繰り返しによって、神経系は精緻化・強大化・高度化していき、ついには外界とわたくしとを区別するようになり、自己に至る、というわけです。
生命とは曖昧なもので、どのメカニズムから先が外世界からの独立と言え、どの振る舞いから先が生きるという営みと言え、自律機械の創発がどの階層に達すると自己が完成したと言えるか、ってラインがわりとあやふやです。
高分子(タンパク質や核酸)の集合体たる細胞をたくさん連結させれば生命か、と言えばそうではなく、もぞもぞと原子的な摂食機械がうごめいて自己完結の循環系をつくればそれはパーソナリティの確立か、と言えばそうでもないようで、そこには難しい哲学的な議論が関わってきます。
この本は、アリストテレスの言う理性霊魂(論理的に思考する能力と、客観的世界の概念形成)を神経系の到達点として獲得することこそが、「わたくし」をつくり出す、と論じてます。
生命の発生の瞬間でも、生きるという活動の開始位置でもなく、生物の中に魂が生じたタイミングはいつか、という部分に論点を絞ってるわけです。
興味深いのは、タンパク質間の電気と化学物質のやり取り(脳活動)がオンラインだからこそ、自分という意識は生じ、維持される、と断じてるところです。
感覚器が外界の情報を、例えば「写真撮影」で取り込んだとしても、そこへの働きかけをする頃には外界の状況は変化してるわけで(外敵を発見した頃にはすでに自分は食べられてる、とか、獲物を見つけた頃にはすでに取り逃してる、とか)、意味がありません。
「ビデオ撮影」として外界の動きを捉えても、それは過去の出来事であるために、まだタイムラグが生じます。
判断活動がオンラインであるとは、つまり「未来を予測する能力を持つ」ことであり、ボールをキャッチするには、ボールの軌道の先回りをし、グローブをひろげたところにボールが落ちてこなければならないわけです。
動物意識は、未来を予知してるのですよ。
考える、とはそういう作業なのです。
意識メカニズムをよくここまで洗練させたなあ、生命進化よ、とうなずかされる一冊です。

東京都練馬区・陶芸教室/森魚工房 in 大泉学園