箕面の森の小さなできごと&四季の風景 *みのおハイキングガイド 

明治の森・箕面国定公園の散策日誌から
みのおの山々を歩き始めて三千余回、季節の小さな風景を綴ってます 頑爺<肇&K>

森の力 GO GO !  (2)

2015-09-03 | *みのおの森の小さな物語(創作短編)

 

森の力 Go Go !  (2)

 

 

 

キンダーガーデン・・・

それは賢治が6歳の時、夫の休暇を利用して一ヶ月間 デンマークの

コペンハーゲン近郊にあるゾーレドードという小さな村の「森の幼稚園」

賢治を入れたときのことだった。

 

キンダーガーデンとは、ドイツのフリードリッヒ・フレーベルによって1837年

創設されたもので、子供達が自然の中で伸びのびと遊び、その遊びを

通して子供同士の社会性を学び、創造性や感性を磨いていくという趣旨の

「森の幼稚園」 だった。

そこには特定の園舎など一切なく、森の中や野山をフィールドとして

大自然のなかを教育施設としていた。

当時、デンマークに60余ヶ所、ドイツには220余ヶ所以上あり、増加中と

言う事で、現在はもっとポピュラーになっているかもしれない。

 

それは毎日、広葉樹林の森の中や牧草地、川のほとりやどこでも自由に

遊ぶもので、子供達には自発的な行動と予想外に発生する諸々の

自然事象に委ねられ、雨の日も風の日も、雪の日もお構いなしに、

夏はパンツ一枚で泥んこになって遊びまわる。

職員は安全対策に専念する姿勢が基本で、子供らが自然の中で

五感を生かして遊ぶ事が尊重された。

この自然の中から学び、成長して大人になった時の心の成長、協調性、

健康性、優しさや人への思いやりなど社会性を備え、人間性の向上に

大きな成果があると実証されていた。

 

賢治もその一ヶ月、健常者と一緒になって遊び、森の環境変化に自ら

身体を保護することなどを体験的に学んだようだった。

それに自然に働きかけて遊びを形成していくことから認知判断能力が

育成された感じがした。

森の中の木の枝、葉、土、石など、自然のものを使って遊ぶ事によって

指に細微動作能力も向上したように思う。

それに何より、昼間の遊びから夜の睡眠がグッスリとなり、生活のリズムが

安定し、ストレスが解消されるのか山歩きの時にパニックが起きることは

一度も無かった。  

内的フラストレーションが発散され、意識が外へ向かうからだと感じた。

 

  「さあ出発しましょうか・・・ ケンちゃん行くよ・・・ 

   あれ?  どこ?  ケンちゃん!」

見ると待ちきれなくなったのか、大分先の方を一人で登っていく・・・

  「これは大変!  急がなくちゃ・・・ 見失ったら困るわ」

瞳はいつになく息を弾ませながら賢治を追った。

 

するとしばらくして賢治が戻ってきた。

  「よかったわ  ありがとう  戻ってくれたのね・・・」

すぐ後ろから、賢治の通う支援学校で同じの石田さんが下ってきた。

  「こんにちわ  今日はこのコースなのね  ケンちゃん速いわね」

  「そうなのよ  もう私付いていくのが精一杯よ 

   あれ 淳ちゃんわ?   ああ来た来た・・・ こんにちわ」

子供二人はそれぞれに会話もなく、別々にウロウロしている。

 

瞳は賢治の通う支援学校の父兄たちと、時々同じ悩みや苦しみを話し合い

共有していたが、この瞳の山歩きを知った石田さんや数人の保護者らも

同じように箕面の山歩きを子供と始めていた。  子供の成長と共に父親と

歩く人もいた。  そしてそれぞれにそれなりの成果を挙げていた。

しかし瞳は、みんながまだ自分より10歳以上も若く、体力がありそうなので

羨ましかった。

 

  「あ! ケンちゃんどこ?  もうあんな所まで行ってしまって・・・

   ごめんね  またゆっくりね  ケンちゃん待ってよ・・・ もう・・・

   今日はどうしちゃったのかしら?」

 

瞳は石田さんと別れると、必死になってまた賢治を追いかけていった。

本当に森の中で賢治を見失って、迷子にでもなったら大変な事になる・・・

しかし 先ほどから賢治の姿が見えない・・・?

 

  「ケンちゃん 待って! もう本当に待ちなさい!」

 

怒り声で叫んでみても、何の反応もない。

 

 

やっとの思いで、尾根道の 「ささゆりコース」 に出たものの、左も右の

「山ノ神コース」 にも、全く人の気配がない・・・

  「少し手前の道を左に曲がったのかしら?  そう言えば賢治はあの先

   にある <望海の丘> から大阪の街を一望するのが好き

   だったわね・・・」

瞳は引き返し、「松騒コース 」を西へ向かった。

 

  「どうしよう・・・ どこへ行ったのかしら?  ケンちゃん ケンちゃん」

 

瞳の胸は急に高まり、心臓は激しく波打ちながらも、必死になって賢治の

名を呼び続けた・・・

 

そして事故は起こった・・・

 

瞳は突然目の前が真っ暗になったかと思うと激しいめまいがし、胸が急に

苦しくなった。

そしていつしか山道から足を踏み外し、南側の谷間へ転げ落ちていった・・・

 

  「ケンちゃん・・・  ケンちゃん・・・  待って・・・  ・・・」

 

 

その頃、英和はニューヨークからのフライトを終え、関西国際空港から

箕面の自宅へ車を走らせていた。

  次のロンドンフライトまで3日休める・・・

瞳はいつもメールで賢治との生活や行動を英和に伝えているので、今日の

二人の予定も把握していた。

いつものように 「今 帰ったよ・・・」 の電話を入れる。

  「あれ? つながらない・・・ なぜ出ないのかな? 

   そうか山の中で電波が届かないのかな?」

 

最近は箕面の山の中にも次々と中継基地が設けられ、少しずつ電波状況

も改善されつつあるのだが・・・

何度かけでも出ないので息子のケイタイへ・・・ と言っても彼は全く操作は

できず使用できないので、何かあったときの為にGPS機能を活用すべく、

服の内ポケットにいつも入れてあった。

英和が双方に電話しながらGPSをみると・・・

  「あれ? 二人の位置が離れている・・・ 瞳は一ヶ所に止まったまま、

   賢治はどんどん離れていく・・・ おかしい? 

   何かあったんだ・・・」

英和は急に何か嫌な予感をつのらせ、車のアクセルを踏んだ。

 

しかし、途中の阪神高速・堺線で大渋滞に巻き込まれてしまった。

高速道では横道にそれることもできず、全く身動きがとれず、気が焦る

ばかりだった。

 

 

その頃、賢治は歩きなれた山道をあちこちと走り回っていた。

山歩きや森の散歩は、賢治にとって最高のレジャーだった。

いつもお母さんと一緒だが、徐々にいつしか自分で自分の世界の中で

自由に歩き回りたい気持ちになっていてもおかしくなかった。

しかし 賢治は、自分がいまどこにいるのか全く分からない・・・?

ただ目の前の自然の中を、気持ちよく翼をつけたかのように自由に歩き

まわっていた。 

それは時には道なき道であったり、藪の中であったり、獣道や岩場、枯葉

に埋もれる谷間だったりした。

しかし 今 いつも後ろにいて話しかけてくれるお母さんがいない・・・

でも賢治の好奇心は、その疑問を通り越して、目の前に広がる自分の

興味に没頭していた。

 

やがて空が急に暗くなり、雲行きが怪しくなってきた。

 

    ピッカ!  ドカン・・・  パリ パリパリ バリ・・・

 

遠くで、季節の移り目のカミナリ音が響く・・・

すぐにでも雨が降りそうな気配・・・

 

  ピッカ!  ドカン・・・  バリ バリバリバリ

 

突然 賢治の頭上で、大音響と共にカミナリ音が響き、近くに落ちた。

賢治は ドキン! とし、ビックリした顔つきで振り返った。

いつもいるお母さんがいない・・・

賢治は急にパニックに陥った。

 

   ワー ワー ワー ワー

 

大声をあげながら母親の姿を探し始めた・・・

しかし いくら大声で叫んでみてもお母さんは応えてくれない・・・

 

やがて ポツリ ポツリ・・・ と雨が降り始めた・・・

そしてそれは、急にバケツをひっくり返したようなものすごい勢いの

ドシャブリ状態となって、激しく森の木々をたたきつけた。

賢治は初めて聞く突然の大音響と激しい大雨に、そのパニックは頂点を

通り越していた。

そして びしょ濡れになりながら大声をあげつつ、森の中を一人さ迷い

続けていた・・・

 

 

その頃、瞳は激しい大粒の雨に打たれながら胸の痛みに呻いていたが、

やがて気を失ってしまった。

そして 山道から6mほど下の谷間に落ちた所で、杉の木の根元に

引っかかり止っていた。

背負っていたリュックには、二人分のランチボックス、水筒、タオルや薬箱、

それに着替えや雨具など、いつもの必需品がぎっしりと詰まっていたが、

何一つ使われることなく雨にたたかれていた・・・

 

 

 

(3)に続く・・・

 


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