気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

恋愛小説のように 1

2020-11-03 09:08:00 | ストーリー
恋愛小説のように 1






俺は恋愛小説家

柄にもなく恋愛小説なんか書いているが
実の俺は一度も結婚することなく45歳になった


過去 恋人は何人かいたが
今現在はいない

今は毎日餌を目当てに庭に顔を出す野良猫のミューのように
可愛くて愛でたい子はいる



今日はその子が訪ねてくる日


「こんにちはー!おじゃましまーす!」

「おう。」

「センセ~、またひどく散らかしてますねぇ(苦笑)」

「よろしく頼む。」


彼女は “遊(ゆう)”という

時々 この古民家 一軒家の掃除と俺の飯を作り置きをしに訪ねてくる家政婦の25歳の女の子

誰よりも先に俺の原稿を読ませて欲しいという条件で破格の安さのバイト料となった


遊が来てくれるようになって
洗濯だの 掃除だのに時間を取られなくて済むことは本当に時間が有効活用できて助かっている



「いつになったら洗濯かごに入れてくれるんですかぁ~?」

脱ぎ散らかした靴下を指先で摘まみ俺の顔の前に持ってきた

「あぁっ、よせっ!早くやっちまってくれ。」

「はぁ~い(笑)」



彼女には週2回 火曜と金曜に来てもらっている
それ以外の日は実家の金物屋で店番をしているそうだ

朝9時に来てから洗濯を始めて、掃除や昼飯、作り置きのおかずを作り、洗濯物を畳んで収納し終えるのが午後2時頃

彼女は俺の作品のファンで家事を済ませると4時頃まで俺の本棚の本や原稿を読むのが彼女の日課




彼女と知り合うことになったきっかけは
古い友人と飲み屋で飲んでいた時だった


たまたま隣にいた彼女は俺達の話をこっそり聞いていたようで


“私はセンセのファンで作品は全部持ってます!!”と
あの調子で話しかけてきたのだ





ーー 初めてだったんだんだ



俺の作品が好きだと直接聞いたのは



俺はサイン会もしないしメディアに顔も出さない
作家名も本名じゃない

ファンレターを“読む”ことはするが
直接 ファンだと言ってくれたのは遊が初めてだった


遊は瞳をキラキラ輝かせながら
“あの作品の、あのシーンが特に!”と細かく力説した

俺のお気に入りのシーンを俺と同じように感じてくれている

それに俺は感動した

本当に嬉しかったんだんだ…




「すぇんすぇーっ!!」

パタパタと俺の元にやってきた


「なんだっ!騒がしいなっ!」

「これっ!なんなんですかっ!」

手に持っていたのはクラブでママにもらった名刺だった

「見りゃわかるだろう。ただの名刺だ。」

「センセ、クラブに行ったんですかぁ!?」

鼻息荒く小鼻を膨らませながらその名刺を俺の顔にくっつきそうなほど目の前に突き出した

「ちょっ、なっ、近いわっ!行ったらなんだってんだっ」

「… センセのイメージ崩れますよぅ… クラブに行く人って女遊びが好きなお金持ちのエロオヤジじゃないですかぁっ!」



そのクラブのママが俺のファンだということで
ママと知り合いだった編集者が是非に是非にどうかお願いします、と強引な低姿勢で頼まれ連れて行かれた

その時に貰った名刺だった


「客のみんながそうって訳じゃない。それはお前の偏見だ。じゃあお前の俺のイメージはなんなんだ。」

「少年の心を持った~ … 変態?」

「変態!? 俺のどこが、」


洗濯機から終了した音が流れた

「あ、洗濯終わったみたいですね!」

慌てて洗濯物を取り出しに向かった


直ぐに興味が反れてしまう所は
本当に猫のようだ



縁側から暖かい風が吹き抜け
今年は春らしく過ごしやすい日が続いている

洗濯物を持ってベランダに出てきた彼女を眺めた

物干し竿にシーツを干すとシーツはゆらゆらと揺れ
彼女のスカートも同じように揺れていた


ん? スカートなんて珍しいな


「今日は良いお天気なので洗濯物、良く乾くと思いますよ(笑) もう1回洗濯機回しますから!」

「おう。」

「ミャア… 」
今日もミューが庭木の隅っこから顔を出した

「ミュー、こっちおいで(笑)」

俺が呼ぶと膝の上に乗って来るほど今は懐いてくれている


子猫の頃から俺んちに顔を出すようになったミューは “ミュウ、ミュウ”と鳴いていた

それで俺はその子猫をミューと名付けた



今日も彼女はてきぱきと家事を済ませようと頑張ってる
最後に原稿を読ませろと言うのが日課だからなぁ(笑)



「あ、センセ?今日は家事終わったら直ぐにおいとましますので!」

ん?

「そうなのか。」

「はい(笑) 彼とデートが入っちゃって!テヘッ♡」


は!? デート… だと!!

「お前… 男 いたのか。」

「失礼ですねぇ!それ、セクハラですよぉ! あれ? モラハラ? どっちだ?」


嘘だろ…
ショックだ


「…いつからだ」

「先月です♡ 言ってませんでしたっけ?」

「知らん!俺は聞いてねぇ!」

「なんでお怒り口調なんです?」
「あ、あぁ、すまん… 」


ミューがよそんちの猫になっちまったような
ジェラシーと寂しさを感じている

そんな俺の気持ちも知らず
遊は陽気に大きな声で歌いながら掃除機をかけている


最近綺麗になったなって気付いてたよ
でも そういうことを言うのはアレだから言わなかった



そして遊は早々に家事全般を済ませ
いつもより1時間半早めに帰ることになった


「じゃあセンセ? ちゃんと洗濯物は洗濯かごに入れといてくださいよ?ではまた来週の火曜に~(笑)」

「… お、おう。気をつけて帰れ。」



遊がいなくなっただけで急に静かになった


よし、静かになったことだし仕事に集中集中!

パソコンに向き合ったけれどモヤモヤして 続きが浮かばねぇ…


あいつがデートねぇ…

彼氏の前だともっと淑やかなんだろうか

想像つかねぇな





ーーー




今日は火曜

遊が来る日


雨が降ってるから外に洗濯物は干せない

別室で室内干しできるスペースと除湿機を使って洗濯物を干すだろうと除湿機を出しておいた


「こんにちは~。おじゃまします。」

「おう。」

遊は大きなバッグからエプロンをかけ洗濯物を拾っていく

なんだ?
いつもと様子が違う

いつも騒がしいくらいのヤツなのに今日は静かだ

洗濯物がまた散らかっているのを本気で怒ったのだろうか


「すまん、洗濯物」

「いいんです。」


えっ!?!?
明らかにおかしい


「おいおい、今日は暗いな(笑) 彼氏とでも喧嘩したとか?」

「うっ、、」

顔をぐしゃぐしゃにして俺の顔を見た

マジかよ…
地雷踏んじまったか?


「早く仲直りしろよ(苦笑)」

「ぅわぁーっ!」

いきなり号泣して驚いた


「ちょっと、おい、大丈夫か?」
ティッシュを差し出した

「ずびばぜんっ、うっ、うっ、」
ティッシュで鼻をかんだ

喜ぶのも泣くのも いつもパワー全開だな(苦笑)


「じごどは、ぢゃんと、(グズッ) じまずがら、、」

「お、おう… 」

その言葉通り、きちんと仕事はいつも通りてきぱきとこなしていった

昼飯ができ 向かい合わせに座って一緒に食い始めた
遊の瞼は真っ赤に腫れていた


「… 何が あったんだ?」

「私… 嫌われちゃったみたいです… 」

「…なんでよ。」

「もっとお淑やかな女の子がいいって。うるさいんだって。」


はぁ???


「んなこと、、お前のことわかってて付き合いだしたんじゃねぇのか?」

「私、そんなにうるさいですかね?」


まぁ… そうだな
落ちつきはあんま無いわな


「でもまぁ、お前のそういうとこが好きな男もいるって。まだ若いんだからそういうのも良い経験になるさ。」


遊には悪いが俺は内心ホッとした
どうしてだろう

俺は遊が可愛い


ほんと騒がしいし落ちつきがないやつだけど
裏表の無い天真爛漫で素直なところが良い所

家事もできるし作る飯もなかなかのもの



遊はまだ涙目で昼飯を食ってる


「なぁ。遊はどんな男が好きなんだ。」

「センセみたいな… 」


へ!?

「少年みたいなところがある」

「ほ、ほう… (照)」

「年下の、」

「チッ!結局 女は年下クンかよ。」



一瞬ドキッとした俺は阿保ぅだな



お前なら年下よりも
心に余裕のある大人の男がイイんじゃねぇのか?



たとえば俺みたいな…


いや、俺は付き合うなら色気のある大人の女がいい

40代なんて最高だよな


「くふふふっ…(笑)」

「だからぁ、センセのその気持ち悪い含み笑いが変態みたいですからやめてください~」

「なんだとぉ~!?」


周りの人間は俺に “先生、先生”と媚びへつらう
そんな中でこうして俺にズバズバとモノ言うのは

この遊だけ…



俺にとっては特別な存在で
唯一俺が俺らしく
こうしてくだらないことで笑えるのはこの子のおかげだ


それでも遊はあくまでもミューみたいな
手元で愛でるだけで

ただ それだけで
幸せな気分になるような存在だった





ーーー



「センセ、原稿。」

「あぁ、そうだったな。」


パソコンの画面を遊の方に向けた



いつもこの瞬間は少し緊張する

どんな感想が聞けるんだろう



遊の真剣な表情は
この瞬間だけだ


すると
遊の瞳から綺麗な涙がポロポロとこぼれだした


… あ

「センセ… 良かったです… またこの二人の気持ちが通じ合えて、、(笑)」

「そっ… か、ははっ(笑)」



こうして
読み手の生の声が聞けるのはこの瞬間だけ


「私もこんな恋愛したいなぁ…(グズッ)」



だったら俺と

「そういう恋愛、してみるか?」









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