気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

Only You

2020-10-20 19:05:51 | ストーリー
Only You






ーーー この香り

すれ違った女性に振り返る


冷たい風に流されてしまった香りで想い出す

二年前に別れた彼女が好んでつけていた香りだった



彼女は今どうしているだろう …

彼女との出逢いを思い出す


ショートカットの髪が元気なキャラによく似合う彼女は

毎朝、仕事に向かう途中で立ち寄るカフェで働いていた


美人というタイプではなかったがとにかく笑顔がとても可愛くて

俺はその笑顔が見たくて毎日 通っていた


いつしかカフェの前を通りすぎる時には 自然に彼女を探すようになっていた



ある日の夜

仕事が終わるのが遅くなり閉店後のカフェの前を通りすぎようとした


その時 店の奥に明かりがついていることに気がつき足を止めた


明かりの下に電話している彼女の後ろ姿が見えた


ーーあの子 まだ店にいたんだ


電話で誰かと話をながらしきりに涙をぬぐっているように見えた


ーー泣いてる?


ほんの少しの時間だったと思う

俺は彼女の後ろ姿を見つめていた




ーーーーーーーーー




翌朝もカフェに立ち寄った

「いつもありがとうございます!」

コーヒーを手渡ししてくれるその笑顔はいつもと変わらない


昨夜の後ろ姿が重なって見えた

無性に昨夜の電話が気になったが

「ありがとう」と渡されたコーヒーを手に店を出た


その日の夜も仕事が遅くなり

閉店した店の前を通ると今夜は店の明かりは消えていた

今夜はさすがにいないか


残念なようなホッとしたような
複雑な気持ちで店を通りすぎた時

店の中から誰かが出てきた


振り返ると私服の彼女が帰宅するために出てきたようだった


あっ…!
振り返ってた俺と彼女の目が合った


「あぁ!」
彼女は直ぐに俺に気がついた


「今ご帰宅ですか? 遅くまでごくろうさまです」
笑顔で声をかけてきた


朝に見る笑顔を今 見ているーー

一瞬 少し我を忘れて俺は見とれてしまった


「あっ、、はい、最近忙しくて、、」


俺のことを覚えていてくれてた事が嬉しくて胸が温かくなる




「駅まで行きます?」
俺の隣を歩きながら訊ねてくる


「はい。君も?」

「はい!一緒に歩いていいですか?」
朝と変わらない元気な笑顔



駅がもっと遠かったら良かったのに

そんな事を思いながら彼女と並んで歩く



「君も遅くまで仕事してるんだね」

昨夜の後ろ姿をまた思い出す

どうしたのか聞きたいが… 聞けない



チラッと彼女の方を見ると彼女は真っ直ぐ前を向いて


「いつもはもっと早くに帰れていましたよ(笑)」

朗らかな笑顔で話す彼女


「そうなんだ(笑)」と笑顔で返事をした


俺は気のきいた会話もできないまま駅に着いた


「じゃあ私はここで!また明日もカフェに来てくださいね(笑)」

可愛い笑顔で軽く手を振る彼女



「また明日、、」

緊張気味の笑顔になりながら俺はギクシャク手を振った


彼女の後ろ姿を見つめる


昨夜はどうして泣いてたの…?




翌朝カフェに行くと彼女はいなかった

その次の日も
またその次の日も …


彼女はあの日で店を辞めたと店長から聞いて知ったがそれからも俺は変わらずあのカフェに毎朝通っていた

もうここには戻って来ないんだろうな…

想いを諦めるために…


ーーー


彼女の笑顔を最後に見てから半年が過ぎた頃


駅のプラットホームに彼女の姿を見つけた

駆け寄ろうとした時 到着した電車に彼女は乗り込んでしまった

慌てて俺も電車に飛び乗った


息を整え彼女の元に歩いていく

彼女はイヤホンをつけ車窓から外を見ながら立っていた


なんて声をかけよう…
客の一人だった俺のことなんてもう覚えてないよな…


隣に立っている俺に気づかない

ドキドキしてたまにチラッと彼女を見る事しかできない


彼女が一瞬 俺を見てドキッとした

少し目を見開きイヤホンを取った

「あれ?カフェの…」



覚えてくれていた

可愛い笑顔は変わっていない


「カフェ辞めたんだね」

「事情ができて、田舎に帰っていたんです」

少し残念そうな笑顔になった


ここで連絡先を聞かなきゃもうこんな偶然は二度とない

俺は勇気を出して彼女に連絡先を聞いた


「いいですよ(笑)」

彼女は快諾してくれて連絡先を教えてくれた



ーーー



それから彼女と連絡を取り合うようになった

たまに食事に行ったり映画を観に行ったり


そんな関係が数ヶ月続いた



ーーー 12月


今年の冬は雪が降る日が多い


今日は彼女の誕生日だ
今日こそは彼女に俺の想いを伝えよう


彼女に似合いそうなネックレスを買い
鞄に忍ばせて待ち合わせ場所に向かった


俺たちは本屋で待ち合わせをする事が多い
彼女は本が好きだからだ


ニットの帽子を被り リュックに眼鏡をかけている彼女が本を読んでいた

俺には彼女の周りだけがキラキラ光っているように見えた



彼女に歩み寄る

「待たせた?」


温かい手で俺の頬を暖めるように

「わぁ!顔が真っ赤になってるよ!」
と嬉しそうな笑顔で俺を見る


彼女と食事をしてカフェに向かう途中の公園を歩きながら

俺は勇気を出して彼女の指先に触れてみた


自然に手を繋いできた

拒まれなかった!


俺 今めちゃくちゃドキドキしてる …


お互い手袋をはめているけれど
次第に温もりが伝わってきた


彼女を見ると
彼女は照れながらうつむき歩いている


可愛い…

握る手に力が入る


彼女は肩を少し緊張させた

「潤くん…」


歩みを止め潤んだ瞳で俺を見つめた

「潤くんが好き…」



彼女を抱き締める


「俺から言うつもりだったのに …俺も君が好きだ 」

きっとカフェで初めて君の笑顔を見た瞬間から



「毎日 カフェに来る潤くんを待ってた」


えっ?

彼女の表情を見る

「いつから…」

「潤くんが初めてカフェに来た時からずっと… 好き…だった(笑)」


言いにくそうに真っ赤な顔になっていた


「それも俺のセリフ(笑)」

笑いながら抱き締めそっとキスをした




ーーー 雪が空からちらちらと舞い降りてきた




鞄から彼女へのプレゼントを取り出し彼女に差し出した

彼女は手袋を取り丁寧にリボンをほどき箱を開けた

涙で潤んでいるようにも見える彼女の瞳がキラキラ輝いている


彼女にネックレスをつけると
彼女から優しい香りがした

そして俺が大好きな彼女のとびきりの笑顔を返してくれた





ーーー それから二年



ちょっとした俺の誤解から彼女を疑い
呆気なく俺たちは別れてしまった

後から誤解だったと知った時にはもう彼女は部屋を出て連絡が取れなくなっていた




彼女に似た髪型

彼女に似た帽子

よく待ち合わせた本屋


俺は今でもつい目がいってしまう


俺はまだ彼女が好きなんだ …




ーーー そしてまた12月 の彼女の誕生日


夜空を見上げると
心を通わせたあの夜と同じで

雪が空から舞い始めた


プレゼントを渡したあの公園を一人歩く


また彼女に会えそうな気がして…




ニットの帽子にリュック姿

見慣れた後ろ姿の女性が雪が舞う空を見上げていた



まさか ーー

足を止めた

俺に気づき 振り返ったのは



ーーー 彼女だった



驚いた表情の後

あの元気で可愛い笑顔を見せた




「潤くんっ!私、やっぱり潤くんが好きみたい!(笑)」



なんでいつも先に言うんだよ


駆け寄り 彼女を抱き締めた








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