気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

Inside Your Head 2

2020-02-03 18:25:00 | ストーリー
Inside Your Head 2






私と海人が知り合ったのはクラブ

あの日は一日中 いろんなトラブルが重なって
ずっとイライラしていたから

気晴らしにクラブに躍りに行った


音に合わせて無心で踊る


時々 声をかけてくる男はチャラいし
タイプの男もいなかった

カウンターでドライマンハッタンを受け取り
グラスを見つめる



やっぱりつまんないわね …
帰ろうかしら



そんな時 フロアが沸き立ってきた

フロアの方に視線を移すと
真ん中でダンスをする一人の男がいた


その男を周りが囲み盛り上げながら見ている


レベルの違う凄いダンス ーーー

へぇ、格好良いじゃない



その男が“海人”だった


彼はフロアからカウンターに向かって歩いてきた





「水とビールください。」

カウンターの男にオーダーする

グラスを持つ綺麗な手指

汗をかいている横顔
その汗が首にまで流れる


喉仏がはっきり出ていて
水を飲むと上下するのがはっきりとわかる



ーー セクシーに見えた


さっきのダンスを見ていた可愛い娘が数人
彼に話しかけてきた


「さっき凄くカッコよかった!一人なら私達と一緒に飲まない?」

「俺はもう帰るから。ごめんね?(笑)」


あら? 可愛い女の子なのに断った


「残念!じゃあ連絡先だけでも教えて~ 」

「ごめん(笑) また来るから(笑)」


爽やかな笑顔で受け流していた


ビールを飲みながらフロアを見る彼が
ふと私の方を見て歩み寄ってきた


「あの、、さっきのダンス、見てくれました ?」

「あなたのダンス?」

「ん… (笑)」

「格好良かったわ。」

「ほんとにっ!?」
嬉しそうな笑顔に変わった


笑うと可愛い


「実は君にアピールしたつもりだった(笑)」


そうなの?
なに?? 言うことも可愛い

私は久しぶりに 胸がキュンとした



「君に色んな男が声かけてるのを見てた。

俺も君に声をかけてみたかったんだけど
きっと俺もあんな風にスルーされるんだろうなって思って(笑)」


子供みたいな無邪気な笑顔で
変に格好つけたり駆け引きしたりせず

素直な想いを打ち明ける彼に好感を持った



「ねぇ、私と ここ出ない?」

それから私がたまに使う落ち着いたバーに入った



彼は若いのに意外紳士的
そして 私の気を引きたくて

一生懸命 話題を振ってくる


その一生懸命な姿が凄く可愛らしくて
眺めてるだけで癒される


随分と若いわね
まだ大学生くらいかしら?


「莉桜さんには彼氏とか… いるのかな」


ドキドキしながら聞いてるのが手に取るようにわかりやすい



付き合ってる男はいない

たまに食事をする男は みんな仕事関係者


付き合うとか
誰かの女になって男に束縛されるのが

面倒でもうイヤ



「男はいないわ。私、そういうの面倒なの。」


そういうと彼は目を丸くした



「じゃあ今は特定の男はいないってことだね?」

嬉しそうな笑顔をする



「今は誰とも付き合う気はないの。」

「 !!… そう、か」

シュンとなる所もまた可愛い(笑)



でも若い彼は諦められないのか

「でも… でも、また会えない?」



純粋に瞳をキラキラさせて真っ直ぐ私を見る



まるで仔犬を見ているみたいで
またキュンとなる



「いいわよ」



連絡先を交換した

こんな風に 仕事とは関係のない男に
連絡先を教えたことはこの数年間 全くなかった



朝と晩、一日3通

毎日 彼からメールが届くようになった



私が返信しなくても 毎日毎日欠かさず

しつこくならないよう
彼なりに気遣いをしているのか

その3通以上は来ない




気遣う内容だったり
応援?と思われる内容や

自分の近況や趣味 オススメの映画とか



きっと

明日は何を書こうかと考えているような
何度も書いては消し、を繰り返したかもしれない

そんな誠実な印象を受ける丁寧なメールと感じる



そこに彼の人柄が感じられる

まさか 本気で私のこと好きなのかしら…?



まだあの夜しか会ってないのに?


私は信じた男に裏切られた過去がある

それから懸命に仕事に打ち込んで今がある


あれから 本気で男を好きにならないと誓った





私は経営者だから

人に愚痴やプライベートの悩みとか言えないし
簡単に心の内側を見せたくないのもある



ーー でも

この彼の純粋な誠実さなら

もしかしたら…



ずっと一方的に来ていた彼からのメールが
ある日を境いに来なくなった

今まではあんなに長い文章を送ってきていたのに

最後に来たメッセージは


“莉桜さんに会いたいよ”


ただ その一言だけだった




何かあったのかしらーー



今日もメールは来なかった



昼間にメールが来たことはないけど

気付くと一日に何度もスマホをチェックするようになっていた



私が返信をしないから
迷惑なのかもしれないと思ったのかもしれない



彼は若いし 女には困らないだろう

それでいい …



それで …

今までの受信メールを読み返した


下心があって近づいてきた訳ではなく
純粋に私の事が好きなんだと

好きという言葉以外の言葉を使って伝えてきている


… なんだか

胸の奥が何かにぎゅっと掴まれているみたいに苦しい

今頃 彼は何を思っているだろうかと
考えるようになった

もう私のこと 諦めたのかしらと思うと
また胸がチクッと痛くなる

気になって 気になって

私は彼にメールを送った




すると 彼から直ぐに返事が返ってきた


“俺 君に嫌われてるのかと思ってた。返事、ありがとう。君に会いたいよ。”



その言葉に
私も無性に彼に会いたくなった




“明日の夜 会わない?”

その返信に彼は即答してきた



“ 会いたい! 今直ぐでもいいくらい。 明日どこに行けばいい?”



彼の嬉しさが文面から伝わってくる

やっぱり可愛い



気づけば…

私自身も彼に会うのが楽しみになっていた




ーーー




翌日の夜

食事をしに行った





「嬉しいな。また会えるなんて…」

ずっと微笑みながら私を見つめる彼





「ねぇ、海人くん。」

「海人でいいから。くん付けじゃ年下ってことが気になる。」


だって本当に年下じゃない
そこを気にするなんて ほんと可愛いわね(笑)



「わかったわ。じゃあ海人ね。海人はなんで私なの?

あんなにダンスも上手いし 色んな女の子から声もかけられてたじゃない? モテてるんじゃないの?」


「…そんなこと、なにも意味はない

俺が… 莉桜さんに一目惚れしたんだから、莉桜さんから想われたいよ。」

視線を外し はにかみながら告白をした



なぁに~?
もう、可愛い(笑)


ダンスをする姿や
流れる汗のセクシーな横顔を思い出した


あんなセクシーな所もあるのに…

あのセクシーな彼がまた見たくなった



「海人… 今夜一晩 私と付き合わない?」

「もちろん!どこか行きたい所あるの?」

子供みたいなウキウキした表情で聞いてくる



そういう意味じゃないんだけど(笑)

「私のこと 知りたくない?」

「莉桜さんのことなら何でも知りたいよ!(笑)」

嬉しそうに笑う



まだわかってないのね
無邪気で可愛い




ーーーーー





「莉桜さん、、、あの… 」


帝国ホテルのフロントで鍵を受け取る私に彼は戸惑っている


「部屋で飲みましょ?」

「あ、うん 、、、」


エレベーターに乗り込む



彼は一言も話さない

彼の緊張感が伝わってくる



こんな時 肩も抱いてくれないのね(笑)

その純粋さが良い



部屋のドアを押し開くと広く落ち着いた部屋で夜景が綺麗に見える


ルームサービスでワインやチーズを頼んで乾杯した

食事の時とは別人みたいに口数が少ない



そこまで分かりやすく緊張する?(笑)

もしかして… 初めて、とか?

まさかね(笑)






「莉桜さん、 その 、 、いいのかな 」

私は言ってる意味に気付かないフリをした


「何を?」


真っ赤な顔になって
「 だから、その、俺が、さ? その、君を、抱いても… いいのかなって、思って 」


言葉を詰まらせながら
真面目な顔で私を真っ直ぐ見つめた


なに!?
この可愛いさ!!

私 今まで年下と付き合ったことはなかったけど

この子
ほんと可愛い


つい笑ってしまった

「ごめん(笑)」


「 俺、からかわれてる…?」
少し拗ねた顔も可愛い

「そうじゃないわ(笑) 可愛いから… つい(笑)」



彼の傍に歩み寄り頬に触れる

彼がソファから立ち上がり私の腰を引き寄せ見下ろした


その目がキラキラと潤んでいる


「可愛いって言葉… 俺は嬉しくない。莉桜さんに男として見られてない気がする。」

「莉桜でいいわ。」

「 …莉桜」

切なそうな表情で私の名をつぶやいた


可愛いだけじゃなくて
こんな表情もするのね


「本気なんだ… 俺 」

「わかってたわ」

「振り向いて欲しかったし 俺のことも知って欲しかった。 君のことも知りたい。好きになって欲しいってずっと思ってた。」


それはあなたのメールから伝わっていた


「あなたは誠実な男ね… あなたみたいな男
久しぶりに会ったわ(笑)」


「俺はまだ君のこと全然知らない。なのに心は君ばかり思い出させる。

これが一目惚れなんだって初めて知った。」


少し顔を赤らめながら頑張って想いを伝えようとしている


ドキドキする自分に気付く


ーー私 今ときめいてる?



この感覚 何年ぶりだろう…


ずっと可愛いと思っていた彼が
セクシーな大人の男の表情に変わった


初めて唇を重ねた


ーー 上手なキス


私はキスが上手な男が好き



はじめは何度か触れるだけのキス

それがゆっくりと大人の甘いキスに変わっていく





海人 慣れてる ーー

直感的にそう感じた



それは私には良い意味のギャップだった



誠実さと私への想いも伝わるキス

キスだけでこんなに伝わるんだと知った




ーーー



「先にシャワー浴びたいわ。」

「そうだね、うん、わかった(笑)」


私がシャワーを浴びて出てくると
ワインのボトルが半分近くまで減っていた



「じゃあ俺もシャワーしてくる」

私を見ず 照れくさそうな表情をして
シャワールームに向かった


ワインを半分も飲むなんて
相当緊張してるのかしら


「かわい… ふふっ(笑)」


20分ぐらいで出てきた

急いで出てきたのかまだ髪が乾ききれていなかった


「髪 、まだ乾いてないわよ(笑)」


髪に触れる私の手首を掴んで
真剣な表情で私を見つめる


また鼓動が早くなってきた

彼は私を抱き締めてきた


広い胸
力強い腕

可愛いと思ってた彼の男らしさを感じる



私を抱き上げベッドに降ろすと
私のバスローブの紐を優しくほどいた

バスローブの前を開けることなく
ゆっくりバスローブの中に手を差し入れ

首筋から鎖骨 そして肩へと優しく指先で撫で
唇を合わせてきた


彼の柔らかな唇の感触


若いのにガツガツしていない


やっぱり“女”を知ってる …


どこが感じるのかを知りたいように
丁寧に探って確認ような愛撫



こんなに大事にされるのも
こんなに心臓が高鳴るのも
こんなに開放的になれるのも

もしかしたら初めてかもしれない


大事にされているのを感じる




「とても綺麗だね…」


耳触りの良い優しい声
心地いい言葉

男に抱かれるって
今まではこんなんじゃなかった ……




ーーー




しばらく放心していた私を
タオルで顔や身体の汗をぬぐう

枕元に水を用意して私の頭をまた撫でた


なんでこんなに慣れてるの?
なんでこんなに優しいの?


虚ろに彼を見ると
優しく微笑んで私を見つめている


「海人… 」

「うん?」 優しい笑顔の彼



こんなに 誰かに誠実に想われるの

初めてかもしれない


気持ちが入ったセックスって
本来はこんなに良いものなのね

そんなことを静かに思った



「莉桜のこと少しだけわかった(笑)」

またあの無邪気な可愛い笑顔をした




彼は私より6歳も年下だけど

彼の優しさは


独りで戦っていた私には堪らなく心地良く感じた





ーーーー




疲れた…

一瞬 眠ってた



彼の優しい声で目が覚めると
外は薄明るくなっていた

眠っていたのは一瞬ではなかった


「莉桜… シャワー浴びに行こうか」


私の身体をバスローブでくるみ支えるようにシャワールームに私を連れていくと

良い温度のシャワーを優しく肩にかけ身体を撫でた



「少し眠れたみたいで良かった。」

優しく微笑みながら身体をボディソープで撫で洗う

ここまで してくれた男なんていなかった




「海人… 本気なの…?」

「え? 何が? 」

「私への気持ちよ。」

「それは… 俺の想いが伝わらなかったってこと、かな、、 」


笑顔だったのが 一瞬でシュンとなった






「俺の気持ち… 君に伝わってるって思ってたんだけど… 想いを伝えることって難しいね(笑)」


切ない気持ちを抑え 笑顔を返す彼



私たち…
会ってまだ二度目なのに

なんでそこまで真剣に誰かを想えるのか
私には理解し難いけど


少なくとも彼の気持ちは伝わっていたし
私も好意を持ったからこそ誘った


この男を知りたくて ーー



始めは恋とかそんな感情じゃなくて

ただ興味が湧いたからで




「髪も洗ってあげるね(笑)」

微笑みながら優しく話しかけてくる



この耳障りの良い 優しい声が

心地良い…


私…
やっぱり

この若い男に 堕ちかけてるのかしら




ーーーー



三度目に彼と会った夜は
私の要望でドライブをすることになった


迎えにきた彼の車に驚いた

アウディA3のホワイトカラー


「意外といい車に乗ってるわね」

「あっ 、うん… ありがと」
微笑み返してきた



海人はなんの仕事してるのかしら

私は男の職業は気にしない方だから聞いてなかったな




「どこ行きたい?」

「 どこでもいいの。あなたが行きたい場所なら。」

「俺の行きたい場所?」

「どこかある?」

「んー。あっ、じゃあさ、観覧車に乗らない ?」


ニコニコしてチラッと私の顔を見た




夜の観覧車に乗りに行った

雨上がりの東京の街


観覧車の窓についた水滴が光を乱反射させ
東京の街をより一層ロマンティックに魅せいた



「…隣に座ってもいい?」


彼が微笑みながら聞いてきた

わざわざ伺いを立てるところも本当に可愛い



隣に座ると私の手を握り
緊張してるかのように口元をきゅっと閉じ

視線は外の景色に向けられていた



「海人…」

「ん?」

私の方に向いた瞬間 彼の唇にキスをした



「莉桜からキスしてくれるなんて…」
驚きながらも嬉しそうな表情に変わる


「ロマンティックだからかな?なんとなく… (笑)」


「何となくでも嬉しい… 少しでも俺に好意を持ってくれてるって思えるから 」



彼のこういう駆け引きのない素直な性格が
一緒にいて気が楽で心地いい



「ねぇ、何か、歌ってみて 」


綺麗な優しい声だから
どんな歌声なんだろうと思って言ってみた




「えっ? 歌!? ここで!?」

「…ダメ?」

ちょっと拗ねたフリをしてみた




「あっ!いや、わかった!」

焦りながら了承した彼が堪らなく可愛い





少し考えた後
口ずさむように静かに歌いだした


洋楽… ?




歌声は話声よりも綺麗…


優しい歌い方
そして凄く上手くて甘い…

彼の魅力がそのまま歌声から
表現されているみたい


甘いキスを思い起こさせるような
セクシーなブレス使いに


鳥肌が立った





「なんて曲?」



“Human Nature”


「 君を想いながら歌った 」
優しく微笑む




"Human Nature"


Looking out
ネオンが瞬く

Across the night-time
眠らない街を

The city winks a sleepless eye
ホテルの部屋から見下ろしていた

Hear her voice
彼女の

Shake my window
声に

Sweet seducing sighs
心が震えた

Get me out
僕をここから

Into the night-time
連れ出してよ

Four walls won't hold me tonight
今夜は部屋にいたくない

If this town
この街の名が

Is just an apple
アップルなら

Then let me take a bite
その甘さを味わってみたい

If they say, "Why? Why?"
なんでって

Tell 'em that is human nature
僕だって人間だから

Why, why does he do it that way?
孤独が定めでも


Reaching out
出会いを求めて

To touch a stranger
僕は街に出た

Electric eyes are everywhere
どこもかしこもキラキラしていた

See that girl
僕はそこで君を見つけたんだ

She knows I'm watching
君も僕に気が付いて

She likes the way I stare
僕の視線を感じていた


If they say, "Why? Why?"
なんでって

Just tell 'em that is human nature
僕だって人間だから

Why, why does he do it that way?
孤独が運命だとしても

If they say, "Why? Why?"
なんでって

(Do you really like me to be around?)
本当にそばにいてほしいの?

I like livin' this way
こうやって生きるしかないのさ

I like lovin' this way
こうやって愛するしかないのさ

Looking out Across the morning
朝を迎えて

The city's heart begins to beat
街はまた活気づく

Reaching out I touch her shoulder
手を伸ばして彼女の肩に触れた

I'm dreaming of the street
僕は夢を見ているんだろう


If they say, "Why? Why?"
なんでって

Tell 'em that is human nature
僕だって人間だから

Why, why does he do it that way?
孤独が運命だとしても

If they say, "Why? Why?"
なんでって

(Just tell me you like me to be around.)
ただそばにいてほしいって言ってよ








「俺の気持ちに近いかなって(笑)」


観覧車は下に到着した

「もう到着しちゃった 残念(笑)」


彼は私の手をひき
エスコートしてくれながら観覧車を降りた



彼の一途で真っ直ぐな優しさや
何気ない思いやりに

私は彼に少しずつ心が傾いていくようだった ーー


車に乗り込みエンジンのスタートのボタンを押す


「もし君が構わなければ 君のウチ見てみたいな」

「え?」

「ダメならいいよ」 苦笑いする

「…その内、ね」

「うん…」


“凄く残念” って顔に書いてあるわよ(笑)



「あの… さ 俺のこと… どう思ってる?」


どうって ーー
私にもわからない


「素敵な人と思ってるから こうして会ってる」

「俺のこと… 好き?」


やっぱり聞きたいわよね


「わからない… 少なくとも会いたいから会ってる。」



「…そっか 、、うん 、 今はそれだけでも嬉しい。 ありがと。」

彼は優しく微笑んだ



あなたが欲しがる言葉はわかってる

でも あなたに恋愛感情がある 、とは今は言えない


あなたは優しい

一緒にいて癒される


女として とても大切にしてくれる

それが嬉しいし
私も一人の女でいられる



あなたとキスしたり抱きあうことを
私はまた求めてしまうだろう

でもそれは割りきった 冷めた感情で
あなたにそんなことを求める訳じゃない

あなたにときめいて 心が高揚して
またあなたに触れられたいと思う



それは恋だろうか?


恋の感情がどんなものだったのか
もう思い出せないほど私は恋をしていないから




恋の確証が持てた時

“好き”という言葉をあなたに伝えようと思う


それまでは この距離感でいたい



この距離感は
私にとって居心地がいい…

あなたにはもどかしい距離感とわかってるけど…







ーーーーーーーーーーーーー



Inside Your Head 1

2020-02-03 10:52:00 | ストーリー
Inside Your Head 1





『 海人 、会いたいの。』


深夜0時を過ぎた頃
莉桜から電話がかかってきた



『明日行くよ』

『 今すぐ会いたいから必ず来て。待ってるわ。』



俺の言葉を無視して 電話は切れた


直ぐに着替えてコートを羽織り
車に乗り込んでエンジンをかけた





「遅い。」

俺の首に手をまわす彼女




莉桜は俺より6歳年上の“彼女”

多分… 彼女



少なくとも俺は付き合ってると思っている



膝上まである大きなTシャツに
中は下着をつけない

部屋ではいつもこのスタイルの彼女



寝室に入ると

俺を待ちわびたかのように
俺の服を脱がせていく


俺を呼び出す理由は いつもこれ …




「海人だって… 好きでしょ?」


彼女はセックスのことを言ってるんだとわかってるけど …


「…莉桜が好きだよ」


そう
俺は莉桜にめちゃくちゃ惚れてる


莉桜に求められたら
こんな夜中でも飛んでくるほど


でも彼女は俺を好きだと一度も言ったことはない

彼女の心には俺がいないと感じてた



ーー 君の心を 俺だけでいっぱいにしたい



大きなTシャツを脱がせベッドに倒れこむ


求められたくて
俺じゃなきゃダメだと思わせたくて

彼女が言葉にしなくても
彼女が求めることを察して俺は要求に応える

彼女が身体の相性が良いと思っているのは
俺には彼女の要求がわかるからだ


でも ーー

こんなに 何度も身体を重ねても

いつまで経っても
俺と莉桜との距離は縮まらない


俺達は身体の繋がりしかないのかーー




「今日はどうしたの? いつもと違うわね 」
莉桜が顔を覗きこんできた


「そうかな。どう違う?」

「んー。 どうと聞かれたらわからないわ(笑)」



彼女に優しくキスをする

微笑みながら彼女の汗で濡れた髪を優しく整える


すると甘えるように俺に抱きついてきた



こんな甘える仕草
初めて …


「どうした… うん… ?」

「ちょっと眠くなってきた… 」

「そっか… 寝ていいから 」


彼女の肩に布団をかけ頭を撫でると
直ぐに寝息が聞こえてきた


夜中に突然呼び出されては 求める彼女



いつもの突然の呼び出しが
その夜から無くなった




ーーー




ーー 午前0時前

莉桜から電話が鳴った


久しぶりにまた今から会いたいと言うのかな


『明日 休みなら朝10時に迎えに来て。』

「え!? どういうこと? 」

『買い物に付き合ってよ。』

「買い物… ? わかった… 」



昼間に彼女と会うなんて
初めて… だよな??



なんだか恐い
もうこれが最後… なんて言わないよな


まさか、な

ドキドキしながら彼女の部屋のチャイムを鳴らすと彼女が出てきた



えっ?
いつもの莉桜と… 違う


真っ白のシンプルなフレアのワンピース

そん清楚な装いの彼女に別人を見てる感覚になる


「今日は一日付き合ってね。」

「あ、うん… 」



彼女はオーダーのランジェリーショップのオーナーをしている

その仕事で着る服や靴 、バッグなどを次々と買っていく


見事なまでの 彼女の買い物の仕方に驚いた


何を選ぼうかと迷うことも
俺にたずねることもなく


試着もせず
一切 悩まず
値段を見ることもなく

直感で決めているような早さで
買う品物を次々と決めていく


こういう部分も初めて知った



「試着とかしなくて良かったの?」

「服?見れば自分のサイズかどうかわかるもの。」



あぁ そうか…
.
彼女は仕事柄、身体のサイズを計り慣れてるからか服も見ただけでわかるようで

彼女の職人的 才能を知った


購入した品物を車の後部座席に乗せる

「買い物は済んだから お昼ご飯食べにいきましょうよ。」



時計を見ると1時半を回っていた



「何がいい?」

「あ、 私が決めていい?」

「いいよ?」



ーーー



「え? ここ??」

彼女が決めた店は昔から営まれているような定食屋だった

俺は動揺しながら彼女の後から店に入った


「おばちゃん 、久しぶりー!」


店には初老の夫婦がいた

おばさんに親しげに話しかける彼女




「あらー 莉桜ちゃん、久しぶりねぇ!(笑)」

「最近 仕事が忙しくてね! いつものやつまだ残ってる?」

「あるよ(笑) おにいさんは?」

「あっ、じゃ、じゃあ、えっと… 」


壁に貼ってあるメ沢山のニューを見渡す




「アジフライの定食で… 」

「はいはい(笑)」


おばちゃんは笑顔で店の奥に入って行った



彼女がこういう定食屋に出入りしていて
店のおばちゃんと親しげに話をしている


この光景 不思議で現実とは思えない


彼女は洒落た店で洒落た物しか食べないイメージが俺の中で勝手にできあがっていた

それは俺と彼女が会うのは 常に夜だったからだ


イタリアンとかスペイン料理とか

ワインが置いてあって
旨くて洒落た店に行く記憶しかなく

他は ほぼ彼女の部屋で過ごすことが多かった



「どうしたの?」

「いや… 」

俺は朝から俺の知らない彼女に動揺していた


その服装もそうだし
驚異的な買い物の仕方とか


おばちゃんと楽しそうに話しナチュラルに笑うその横顔


こんな一面 見たことない


なんか俺 ーー
めちゃくちゃ嬉しいんだけど(笑)


莉桜の人間らしい温かみのある一面を目にして
俺は嬉しさを隠すために唇を硬く閉じた



「莉桜ちゃんの彼氏さん?」
おばちゃんがふいに莉桜に尋ねた


ドキッとした

莉桜は なんて答えるんだろう…



「彼氏に見えるってこと~?(笑)」


あぁ… またはぐらかした

今の今まで嬉しかったのに…


上げといていきなり落とされた気分だ




「あら、違うの?(笑)」

「いいえ!俺達、付き合ってます!」


俺が咄嗟にそう答えるとおばちゃんは
「そうなのね(笑)」 と嬉しそうに微笑んだ



ーーー



「また来るからね(笑)」

彼女は笑顔でおばちゃんに挨拶をして店を出た


さっきの食堂のおばちゃんには
随分と親しげに話してたな…


俺にはいつもクールなのに …


莉桜は目力のある大きな瞳に

優しい笑顔というより
妖艶でセクシーな微笑みを返す

俺には そんな表情しか見せない


だから
彼女と俺の間には

どこかいつも見えない壁というか

俺が越えられないボーダーラインがあると感じていた


それが今日は俺が知らない素の彼女を見たようで

二人の距離が縮まった感じが嬉しい




「莉桜。どうして今日 俺を誘ったの?」

「どうしてって… 理由が必要?」

「必要。俺には重要なことだよ。」


真剣な顔でそう言った俺に彼女は突然吹き出した


「 ふははっ!重要って…そんなことで? くくくっ(笑)」

「そんなことってなんだよ! 俺、真面目に聞いたんだけど」

「だって、昼間に買い物と食事をする理由が “重要”?(笑)」



ーー またはぐらかすの?



こういうはぐらかし…
やっぱり距離感を感じる


拗ねて運転する俺の横顔を覗きこんできた


「拗ねたの?海人は可愛いわね(笑)」

「その可愛いってのやめてくれ。拗ねてなんかない。ただ… 寂しいだけだ。」

「寂しい?(笑)」


また笑いだす


「深い意味なんてないわ。いつも会うのは夜ばかりだったし?

デートっぽいことしてなかったな、と思ってね。」





デッ、デート!?


“デート” というパワーワードが俺の不愉快な気持ちを一気に帳消しにした


「これ、デート… だよなっ…!」

「そうよ?これはデートよ?(笑)」

彼女が笑いをこらえながら答えた




絶対これ、彼女に弄ばれてるなとわかってても

よくやく彼氏として認められたようで
叫びたいくらい嬉しい!






「これからどこに行きたい?♪」

テンションの高い俺に彼女は微笑む




「海人はどうしたい?」

「俺!? 莉桜と一緒ならどこでも!」


俺、嬉しさを隠せなくてずっと笑ってる
わかってても顔の弛みが戻らない



「国立新美術館で開催してる絵画展に行きたいわ。

あぁ!その後、海人の服も見に行きましょうよ。

それから… そうね。今夜は海人の部屋に連れてってよ。」




お、俺の部屋!?
莉桜が俺の部屋に来たことは今まで一度もない

まさか莉桜が俺んとこに来たいなんてことを
言うとは思いもしなかった


やばっ… ちゃんと掃除しとけば良かった


「わ、わかった。 そうしよ。」



彼女が絵画に興味があったとは… 意外だ

一点 一点 絵画を静かに丁寧に見ている彼女の横顔を見つめる



その顔 やっぱり綺麗だ…

今 何を感じ取っているのだろう


俺の視線を感じ 俺の方を見る
「なに?」


「絵画に興味があるなんて知らなかったなって。」

「絵画から刺激をもらえるから… 」

また作品に視線を移す


「私の仕事も物作りの仕事でしょ? 感性を刺激してくれるの。」



そうか
莉桜の見つめる作品に視線を移す

彼女の感性はこういう所からも影響を受けていたのか


知らないことだらけだ

まだ俺の知らない莉桜がいっぱいいるんだろうな



その後、俺の服を見に向かった

自分の服を買っていた時のように
彼女は直感で俺の服を選んでいく


「ちょっ、ちょっと、俺、試着しなくていいの? 」

「あぁ、そうね。着てみたい? じゃあ着て見せて?(笑) 」


試着をしてみた


なんだ!? サイズはピッタリ
男の身体のサイズまでわかるのか?


「似合ってるわよ(笑)」


ほんとだ

莉桜は俺にこういう服装にして欲しかったの?


トラッド系で紺のジャケットスーツに
中のシャツは赤に細い黒のチェックが大きく入ってる

靴は明るい茶系の革靴

爽やかな青年といった感じだった


いつもは黒とかグレーとか無難な色で
ジーンズとトレーナーみたいなラフな格好の俺

ジャケットを着ることがない



「似合って… る?」

「綺麗な色味も似合うわね(笑)じゃあ次はこっちも着てみて。」

今度は黒の洋服を手渡された


普段着ている黒い洋服とは違い
質の良い生地で地模様が入ったジャケットに白シャツと黒のパンツ

それと黒に白が入った革靴



今度はさっきのとは全く違う大人の男に見える


…気がする



「やっぱりこれも良いわね。じゃあこれも全てもらうわ。」


店員の男性に購入する意思を伝えている

なに!? 全部買うってこと!?


「 今、彼が着ているのはこのまま着て帰るから。これでよろしくね。」

クレジットカードを店員に渡した

えっ!? 待って!!


「莉桜、ちょっと!」


戸惑う俺を無視して
俺の服を莉桜が全て購入してしまった


なんで!?
これ、俺へのプレゼント!?



また買い物袋を車に積み込むと
後部座席には莉桜の買い物と俺の物でいっぱいになった


「なんで俺の服を莉桜が買うんだよっ」

年上の莉桜から子供扱いをされたような気分



「初めての“デート”の記念よ(笑)」

初めての“デート” …


クソッ! また嬉しくなる単純な俺!



「じゃあさ、俺からも初めての“デート”の記念になるものをプレゼントしたいんだけど。」



莉桜は目を丸くした
そして何か考えだした


「んー。あ!良いこと思いついたわ!」


彼女はどこかに電話をかけ 誰かと話し始めた


「急だけど今から大丈夫?

あっ、そう!ラッキー!ありがとう。じゃあ今からそっちに向かうわ。」



莉桜の誘導で車を走らせる


「どこに行くつもり?」

「行けばわかるわ」


住宅街に入っていく

行けばわかると言われても全く検討もつかない

広い庭がある大きな屋敷の前で車を停めて降りた


さっき購入した二人の服や靴の買い物袋を持って行くことになった


彼女がチャイムを鳴らすと門扉のロックが開き

広い庭の中を通って奥の大きな玄関ドアのチャイムを鳴らすとドアが開いた



「やぁ、リオ!」

40代なかばだろうか
オシャレな渋い男性が俺達を出迎えた


「ようこそ。君はリオのボーイフレンドだね」

日本人に見えたけど、外国人なんだ…



まだ俺は誰の家に何のために連れてこられたのかわかっていない


「ジェフ、準備はできてるのかしら 」
さっきの男性に尋ねている

「O K だよ」

「海人 、こっちよ」
俺に手招きをする

階段を登って2階の部屋に入って行く


「ここは…?」
写真の撮影スタジオになっていた


「ここ、ウチの商品の撮影でいつもお願いしてるの。」

「そうなんだ… 」


…で?なんで来たの?


「海人」
こっちに来て、とまた手招きしてる


「今から私達、写真を撮ってもらうから。」

「え?」


驚く俺にジェフがニコニコしてる

「カイト、リラックスね!」


言われるがまま 俺と莉桜は写真の被写体になった


始めはぎこちなかった俺も何十枚と次々とシャッターを切られるたび徐々に慣れてきた


またいろんな角度で撮影

まるでモデルにでもなったかのような気分になってくる



「一端 チェックね」

撮影した画像をパソコンで直ぐにチェックする

プロの撮影ってこんな感じなのか…


「いいんじゃない? これとか。」
莉桜がパソコンの画面を指差している


ジェフは もうちょっと二人のセクシーな画が欲しいと言っている


「これで十分良いわよ?(笑)」

「んー。いや、物足りないね。」


信頼し合った仕事仲間といった関係なのは
見ていてわかる

結局 ジェフの欲しがる画を撮影することになった

ジェフに指示され動くアシスタントさんらは俺の髪をいじったり

ネクタイを弛めて シャツのボタンを開けたり


戸惑う俺は
まるで着せ替え人形のようにされるがまま


照明が暗くなり流れるBGMがセクシーなR&B系に変わった


やはりジェフの要求通り俺と彼女のセクシーな画を撮ることになったようだ



何が起きるのかわかんないけど

なんか この空気 めっちゃ 恥ずかしい …


スタッフ皆に見られてるし
ほんとにめちゃくちゃ恥ずかしい ……


莉桜は俺とは対照的に乗り気になっていた

俺の知っているセクシーな表情で
俺を誘うような視線を向けてきて

ドキマギする俺の大きく開いた胸元に
ゆっくり手を少し差し入れてきた


心臓がバクバクして

こんなの俺 無理!!と心の声だけが内側で虚しく響く


キスを誘うような表情で俺を見つめる莉桜



彼女は俺に小さな声で話かける

「周りは気にしないで… 私だけを見て… 」



そんなこと言ったって…

彼女の言葉に従い 彼女だけを見つめる



「…ね、海人、私にキスして 」

はっ!? こんな人前で!?


周りはカメラマンやスタッフのみんなが俺達をじっと見てる


「…早く」


いやいや、でも…

躊躇している俺のシャツの胸元を彼女が引っ張り

前のめりになる俺に唇を重ねてきた





ちょっと… !

キスしながらジャケットを脱がせようとする彼女

その間も次々とシャッターが切られていく



「次、 ソファーに座ってみようか!」


ソファーに座る俺の背後から彼女が腕を俺の胸にまわし

莉桜の方に顔を向かされる


恋しい人を見つめるような
見たことのないその表情と潤んだ瞳


まさか 本当に俺に惚れてるんじゃーー



ーー 莉桜 大好きだ



背後の彼女の頭に手を回し
引き寄せてキスをした


今まで感じたことのない感覚


…莉桜も俺と同じ想いだと唇から伝わってくる






「ハーイ! オッケー!!」

その言葉にハッと現実に引き戻された


莉桜は何事もなかったかのように
パソコンの画像を見にスタッフに歩み寄る




ーー 俺

撮影だったことを完全に忘れてた


さっきの莉桜のあの表情は …



撮影が終わり その大きな屋敷を出たら
もう外は日は暮れていた

なんでプロのカメラマンに撮影してもらったんだろう

今日は一日初めてのことばかりだった ……




「海人、どうしたの? ずっと黙ってるけど」

「なんか、 疲れちゃって…」


ちゃんと言葉で 君の口から聞きたい
一度でもいいから

俺のこと“好き”だって



「そう。じゃあ もう帰ろうか。海人の部屋に。」


ーー え?

あっ、、そうだった!!



「ホントに、、来るの?」

「もちろんよ?」


二人でワインを買ってチキンをテイクアウトし俺の部屋に着いた



「ちょっとー なぁにぃー!?」

俺の部屋に入った開口一番の言葉がそれだった


「え!? なに!?」

やっぱちゃんと掃除しとけば良かったか!?


「 思ってた感じと違って 部屋は洒落てるじゃない(笑)」


部屋は、って …
いつもは俺のことどんな風に思ってたんだよー!


今、莉桜が俺の部屋にいる


ただ それだけで
正式に恋人になれたような気がした



一緒にワインを飲みながら くつろぐ



「…莉桜 今日はいつもとちが… 」

莉桜は唇を重ねてきた


「撮影の時の海人、素敵だったわ… 」

「あの撮影って… なんのためだったの?」

「あなたが私に記念になるものをプレゼントしたいと言ったからよ?」

「確かに言ったけど… 撮影と関係ある?」

「フォトブックにしてもらうの。記念になるでしょ?」



あぁ、そういうこと ……


「俺、あの写真はちょっと 、、恥ずかしい 」

「なぜ?素敵だったわよ?」

俺とは感性が違う彼女には素敵に思えたのか




「セクシーだったわ…」

俺の知っているいつもの莉桜の表情になる


俺のシャツのボタンを外しはじめた



「昼間の莉桜 可愛かった。 初めてそう思った(笑)」


莉桜の鼻筋を指先でなぞった



「撮影中は… セクシーだった… 」

指先で唇をなぞる

顔を近づけキスをするふりをして
鼻先だけをくっつけた



「焦らさないでよ(笑)」

「好きでしょ? 焦らされるの(笑)」

「…好きよ …海人が」


え…?


「今 なんて?」

「もぅ、海人早く(笑)」

僕のシャツのボタンを開こうとする莉桜の手を遮って掴んだ




「今、好きって言ったよね?俺のこと!」

めちゃくちゃ嬉しくて 莉桜の瞳を覗きこんだ



「ふふっ(笑)ん。好き… 海人のこと。今日 また好きになったわ…」

また、って事はもっと前から好きになってくれてたってこと?


「俺も… 莉桜のこと今日 身近に感じた
俺の知らなかった莉桜も全部好きだよ 」

「 海人が知らなかったと言うより私が見せなかったの(笑)」


そう

彼女は俺には彼女の一面しか見せなかった


そして心も見せてはくれなかった


何故 急に見せてくれる気になったんだろう






「それよりも… 今は… 」

また彼女は俺を溺れさせる











ーーーーーーーーーーー


Stay With Me 22 最終話

2020-02-03 10:04:00 | ストーリー
Stay With Me 22  最終話






それから4ヶ月 ーー
季節は春


僕らが交際を始めて5年

理奈ちゃんは28歳
僕は44歳になった



今日は結婚式

明け方まで降っていた雨は夜明けと共にやんで明るい日差しが差し込んでいる

窓の外の初夏の木々が昨夜の雨露で光っていた


私の控え室を訪ねてきた行さんに
スタッフの女性が気をきかせてくれて

15分ほど席を外してくれた


「行さん、ありがと。」

ウェディングドレス姿の私と
タキシード姿の行さん


二人きりだとなんだか 照れくさいな


「困ったな(笑) 本当に綺麗だ。」
嬉しそうに顔にシワを作った

「行さんも素敵でドキドキしちゃう(笑) 」

「僕なんか君の引き立て役にすぎないよ(笑) 」



私を見つめる行さんの横顔が鏡に映っている

ほんと 行さんは長身でスタイルが良いからテレビから出てきた人みたい



「ちょっとだけ、抱き締めていい?」

セットした私の髪が崩れないよう軽くハグをした

いつもの行さんのフレグランスの香りで
少し緊張気味だった気分が落ち着いた


「行さん、今日までありがと(笑) 」

「これからだよ。これからもっと幸せになろうな(笑) 」


私の手が行さんの綺麗で大きな手で包まれ
優しく微笑む行さんのまつげに優しい日差しが当たっている



カシャッ!

シャッター音が聞こえた




「良い“画”だね(笑) 」



斉藤さんは約束通りカメラマンとして
今日の写真を撮ってくれることになった


「斎藤!理奈ちゃんとびきり綺麗だろう(笑) 」



いつもはラフな服で長身の斉藤さんも
今日は洒落たブラックフォーマル

いつもよりもっと格好良い


「ああ(笑)とても綺麗だ。結婚、おめでとう(笑)」

斎藤さんは私のことを
お亡くなりになった斎藤さんの妹のように思っていると行さんから聞いた


私に向けるこの眼差しには

妹さんを送りだす兄のような特別な想いが含まれているのかもしれない


「ありがとうございます。斎藤さん。」

「そうだ(笑) まだ俺の番号ちゃんと残してある?こいつに泣かされたらいつでも連絡しておいで(笑) 」


あははっ(笑)
前にも同じこと言ったね

本当にお兄ちゃんみたい



「またそんなことを!泣かせないから理奈ちゃんがお前に連絡することは絶対にないぞ。期待はするな。」

「はははっ(笑) 嬉しい報告はお前じゃなく理奈ちゃんから聞きたいもんだね(笑) 」


嬉しい報告?
あ、妊娠の報告とか?


「私から連絡します(笑) 」


本当に二人は親友なんだな
お互いに信頼し合ってる

笑顔で話す二人を
こっそりスマホで写真を撮った


ほんとに“良い画” ーー


スタッフさんが呼びに来て
最終の段取りの確認を聞いている私達を斉藤さんは写真に納めてくれていた


光がキラキラと差し込む厳かな教会のバージンロードを父と歩く

子供の頃からいつも仕事で不在にしていた父

私はお前に父親らしいことは何もしてやれなかった
本当にすまなかったと言った父の言葉


あんなに長年

父に対する不信感が
こんな 一瞬に晴れるなんて思いもしなかった

その父と歩く今のこの瞬間のことは
忘れられない思い出になるだろう


あんなに行さんに不満があった
あの兄も参列してくれた

兄は今 タイで親友と店を開き
そこそこ繁盛しているらしく


多忙の中 結婚式にかけつけてくれた

ウェディングドレス姿を見た兄は目を赤くして私に嬉しそうに微笑んだ


お兄ちゃんも 父親みたい(笑)



行さん側の親族参列席に人目を惹くほど綺麗な女性がいた

行さんの妹さん(お義姉さん)だと直ぐにわかった

その微笑んでいる表情が
本当に行さんによく似てる


私はあの時
お義姉さんを行さんの新しい彼女だと思いこんだ

こんなにもよく似ているのに



あの時の心がそう思わせたのかもしれない


父の手から彼の手に代わる

見上げると光輝いている彼が微笑んでいて



まるで夢の中にいるみたいな光景だった


ーーー



結婚式と披露宴が終わって新婚旅行

大きなイベントが終わって
私達はよくやく日常生活に戻った


休日は掃除機をかけて洗濯物を干す私と窓拭きとお風呂掃除をする行さん

分担すると終わるのが早いからと
半分 (もしかしたら半分以上?) 手伝ってくれる





“必ず娘さんを幸せにします”

私の両親にはそんなオーソドックスな言葉を言ってくれたけど


生真面目なくらい
その言葉通り有言実行してくれる

それが信頼できる誠実な人だなって
常々実感させてくれて

幸せを感じる


掃除が終わると一緒にスーパーマーケットで食材の買い物をして冷蔵庫に詰めた


「今 帰ってきたばかりなんだけど 天気も良いしちょっと出掛けないか。」

「どこに?」

「ちょっと、ね(笑)」



行さんがいつもよりオシャレな服を着るから私もそれに合わせたけど…



車を運転する行さんの横顔
前髪が風で揺れてる

チラッと視線を私に向けてまた前を向いた


「そんなに見ないでくれ(笑) 」


そういえば ずっと前も運転する行さんを見つめると同じことを言ってたことを思い出した


「どこ行くの?」

「前に行ったところ(笑) 」


実は
まだ行さんに話してないことがある


昨日 仕事の合間に産婦人科に行った


月のものが来なくて
また病気が再発したのかと心配になって行さんには内緒で受診した


“寺崎さん、良かったですね。おめでたですよ。”



信じられなかった

まさか… 私が子供を授かることができるなんて


本当は 諦めていたから



直ぐに行さんに電話をしようと思って電話をかけたけれど

まだ仕事中で電話は繋がらなかった



明日の休日 落ち着いて話をすることにした


行さんは どんな顔をするかな
きっと喜んでくれるだろうな



ゆっくりお店の駐車場に車を停車させた

あー!ここ!



「初めてスイーツ巡りしようって言って来たお店だね(笑)」

「ん… (笑) 」

「私を太らせる作戦?(笑) 」

「それは考えてなかったな(笑)」


口元を手で覆ったから図星だろうなぁ(笑)

行さんはとても感情が分かりやすい人

本人は自覚はないけど(笑)


お店に入ると 前に座った席が空いていたからその席に同じ位置に座った

このお店のチーズケーキ
とても美味しかったんだった


チーズケーキと珈琲が運ばれてきた時の行さんの嬉しさを隠した口元や表情はあの時と同じだった


「本当に甘い物が好きだね。可愛い(笑)」



急に大人の男性の表情に変わった

「甘い物好きだよ。君も甘いんだよ?」



ん? それはどういう …

えっ!!



「 (そういうことは、ちょっと、、) 」

周囲を見渡した


「ん?そういうことって?(笑)」
爽やかに微笑んだ


「理奈ちゃんと一緒にいると本当に楽しいよ(笑) 久しぶりのデートだね(笑)」









“デート”


「久しぶりにスイーツデートだね(笑)」




「初めてデートに君を誘う時。凄く緊張したなぁ(笑) ふふっ(笑)」


頭を掻くこういう仕草は変わらない


“初めてのデート” という言葉で
お互いに出会った頃の事を思い出したのか

行さんは当時のことを話し始めた



私が同じマンションに引っ越ししてきた日

修二くんが引っ越しを手伝ってくれた

行さんはその引っ越し作業をしている男(修二くん)を見かけたという

その若い男が引っ越してきたと思い
その後は忘れていたようで


エレベーターで初めて会った時のことは私は全然覚えていないけれど

行さんはちゃんと覚えていた

毎朝同じ時間に家を出る私に合わせて行さんも家を出ていたこととか


「なんか、あらためて話すと僕ってヤバい行動を取ってないか? ストーカーじゃないからね(笑)」


今さらそんなことわかってると笑うと彼も笑った


この人は出会った頃から今と比べると
見た感じはすっかり変わったけれど

私に対する想いはずっと変わらないでいてくれている


「行さん。今までありがとう。 これからもその想いは変わらないまま 一緒に変わっていこうね。

赤ちゃんができてもデートしてくれる?」


少し驚いた表情をして また微笑んだ



「もちろん(笑)もし子供ができてもね。

その時は母さんに頼むよ。喜んで見てくれるさ(笑)」



「赤ちゃん、欲しい?」


私のその言葉に 行さんは一瞬答えるのをためらった


「できなくても僕は全然構わないよ。君さえいれば。」



あなたはずっと
そんな風に私に気を遣ってきた



「来年ね。 赤ちゃんができるよ。」



「…え?」キョトンとした



報告することにドキドキする ーー


深呼吸した



「私。妊娠してた(笑) 」



その瞬間

行さんの目は飛び出しそうなくらい
大きく見開いた



「 ーー ほんとに?」




「昨日病院に行って、先生に確認してもらってきた(笑)」



私が話し終わらない内にいきなり立ち上がった


その椅子の音に周囲にいた女性客が一斉に行さんの方に視線を移した




「 ーーできたのか… ? 」


私が頷くといきなり行さんは叫んだ



「 ぅおぉーっ!(笑) 」



大きな声で人目もはばからず喜ぶ行さんに驚いた


周囲の女性は驚きながらも
微笑ましい眼差しで私達を見ていた




「座って、ちょっと、座って、行さん(笑)」




座り直すと食いぎみに

「で!? で!? どっちなんだ!」



男の子なのか女の子なのか性別を聞いてきたから
そんなのまだわからないよと微笑むと

元気ならどちらでもいい!とまだ興奮気味に喜んでいた


やっぱり
本当は凄く子供が欲しかったんだね


きっと この人は子煩悩な父親になるんだろうな



「なんだか… 幸せ過ぎて恐いなぁ(笑)」

「良いことがあると次は悪いことが起きると思ってるならそれは違うよ、理奈ちゃん。

そんな風に思ってしまうのは過去のトラウマ?そりゃこれから苦難はあるかもしれないけど大丈夫。

その時は僕も一緒だから。一緒に乗り越えていこうよ。

幸せなことはこれからもっと沢山あるよ(笑)」



あぁ… この人は
こういう人だったなぁ ーー




「ありがとう」

「変わらず ずっと一緒にね」



私の手を握った行さんの手が感じたことのないくらい大きく暖かく感じた ーー




「子供ができて家族が増えても

いつまでも僕は君の“男”でありたいと思ってる。

それに君はいつまでも僕の“愛する女”であることも変わらない。

だからこれからもこうしてデートしよう(笑)」



行さん…


「 (そういうことここで言う?恥ずかしいよ(笑)) 」

「 (聞かせてるんだ(笑)) 」



もう、バカっプルみたいじゃない(笑)


そういう言葉を口にする真っ直ぐな彼にいつも戸惑うけど


「ありがとう。家族が増えて
もっと幸せになるねーー 」


「もちろんさ。これからも毎日楽しいよ(笑)」




私は この人にこれからもずっと恋をしてるだろう








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