ダダダダダダッ!! バンッ!!
慌てふためいた足音と、壊れそうなほどの轟音をたてるドア。
「大丈夫か、ばあちゃん!? ・・・って、あれ??」
メガネをかけた青年が、流れる汗もそのままに、立ち尽くす。
彼の眼前には、びっくりしたあと、大笑いする彼の祖母と、
一緒に声をあげて笑う、施設の女性職員。
「意識が、なくなったって・・・れ、連絡、受けて・・・あ、あれ??」
まだ呼吸も荒く、状況を把握できていないせいもあって、うまく言葉が出ないらしい。
「ばかだねえ。そんな状態になったら、普通は施設じゃのーて、病院におろうが」
けらけらと笑いながら、老女は優しい眼差しを青年に向ける。
「こうでもせんと、お前、ここに来られやせんだろう、ん?」
彼が多忙でなかなか外出できないのを見越しての、老女の作戦である。
「おばあちゃんに頼まれて電話しました、騙してごめんなさいね」
女性職員は、口では謝っているが、肩がまだ震えている。
必死で笑いを堪えているらしい。
「・・・なんでこんなことしたんだよ! 僕を騙してそんなに楽しい!?」
「なんで、って、まだわからないのかい」
「何がだよ」
「・・・今日は何日だい?」
「2月19日だろ? ・・・・・・あっ」
そこまで言って、青年は何か思い出したらしい。
「やっぱり忘れてたんだねえ。いくら忙しいからって、自分の誕生日くらい覚えときな」
ふっ・・・と微笑んだあと、壁のほうをあごで指す。
「ほれ、お前に似合うスーツ、この人が見立ててくれたんだよ。持っていき」
女性職員の肩をぽん、と叩きながら。
「な・・・そんな金、どっから・・・」
「馬鹿にするんじゃないよ。私だってね、これくらいのことはできるさ。ただ、安物だがね」
「大好きなタバコを我慢して、貯めてたみたい」
青年にこそっと、女性職員が耳打ちする。
「こりゃ、玉さん、告げ口するんじゃないよっ!!」
「あ、聞こえちゃった? ごめ~ん!」
玉と呼ばれた職員は、肩をすくめながら舌を出す。
「おばあちゃんね、私にもプレゼントくれたんですよ」
「・・・え?」
「実は、私もあなたと同じで、今日が誕生日なんです」
「うわっ、すごい偶然だな」
青年の誕生日が近いことを、老女が女性職員に相談していたらしい。
誕生日が2月19日であることを告げると、自分も同じ日だ、と。
老女は、他の職員に毛糸を買ってきてもらい、せっせとマフラーを編んでいたのだ。
もちろん、彼女の目の届かないところで。
「玉さんには、いつも世話になってるからね。私の絵まで描いてくれて・・・」
スーツの横に、彼女が描いた、微笑む老女の姿が飾ってあった。
「・・・これからどうしよ。会社に戻るわけにもいかないし・・・」
照れ臭いのを隠すように、青年が頭を掻きながら呟く。
「せっかくお休みもらえたんですから、おばあちゃんと一緒に食事でもされたらどうですか?」
女性職員が提案する。
「外出許可証、もらってきますから」
「それなら、玉さんも一緒についてきてくれると、嬉しいんだがねえ」
「え、私は仕事中だし・・・」
「行ってきなさい、施設長には、私から言っておくから」
廊下から様子を伺っていた、女性職員の上司が入ってきた。
「その代わり、今夜、私たちにも付き合ってもらうわよ?」
彼女の誕生日会と称して、飲みに行くつもりなのだろう。
その後、青年と女性職員の間に、恋心が芽生えたか否かは、当人のみぞ知る・・・
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完全なるフィクションです。
偶然にも同じ誕生日の、お玉さん、そして、Yさんへ。
お誕生日おめでとう!!
注:
Yさんのお祖母様は、既に他界しておられます。
こんな方だったのかな・・と、思いを巡らせながら、書かせていただきました。
もし、お気を悪くされたらごめんなさい・・Yさん。
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♪お玉つれづれ日記♪ ~沖縄★美人画報~:空の神兵
Yのめがね:ことしも・・・
文章すごく素敵です。
昨日の夜、涙が出てきてうろたえました。
実際に、私はそういった施設で働いているので
なんだかリアルに『自分』をみているようなのです。
毛糸玉がすきなおばあちゃんが、私の職場にも
いらっしゃるもので、なんだか
そのひとの雰囲気が重なりました。
お話の中で、
ユウさんと共演できたのも、うれしかったりする。
(年齢はお玉の方が、ずっと上ですが/笑)
ありがとう。
うれしいプレゼント、大切にします。
でも、一気に書き上げてしまえたんですよ。
お玉さんのお人柄と、Yさんのことを交えてたら、本当に、一気に。
私にしては異例のことです。
お玉さんという、素敵な人に出会えたからこそ。
こんなプレゼント、ずっと、贈りたかった。
誕生日は、単なるきっかけに過ぎなかったかも(笑)
喜んでもらえて、私も嬉しいです。
これからもよろしくね、お玉さん^^