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LONELY DEVIL

every day thinking...

ことば

2008-01-06 | 
日々浮かんでは消える言葉の数々。
色々とね。創作したいなーとは思っているのですが、形にまとまらないの。
エマ小説も、書いてはいるんだけどイマイチ納得できなくて、お目見えが遅れる遅れる。
とりあえず、浮かんでくる言葉や場面を書き留めてみる。






●テーマ:俺様男のツンデレもどき(?)



「何故だ?」

彼は言った。
さも「聞いてやる」といった、尊大なる上から目線。
無言を許さないような強い視線が私に注がれる。

「嫌になったから…です」

何を、と目的語をはぐらかしてみたり、何故か敬語になっていたり。
私はなるべく彼と目線を合わせないように俯く。
この言葉を紡ぐだけで、一生分の勇気を要したと思う。
それだけでも大進歩なのだから、これ以上は無理。

チッという舌打ちが聞こえてしまい、思わず身体を竦ませた。
彼がどういった顔でいるのか確認すらできない。
見たらきっと私は心臓が止まって死んでしまうかもしれない。
……死んでしまえたら楽になるのだろうか。

そんな事を考えていたから、気配に気付かなかった。
突然顎を持ち上げられ、無理矢理上を向けさせられる。
慌てて視線を逸らしたら、今度は首に手をかけられる。
嗚呼、これで私も終わりかと、食い込む痛みだけを感じながら目を閉じた。

「嘘だろう?」

目を閉じているから余計に感覚が研ぎすまされて、それだけが際立つように。
その声だけがやけに優しくて、涙が出た。

「……や、も、終わ…っ」

苦しい。身体も、心も、何もかも。
終わりにしたい。
終わりにして欲しい。
貴方の手にかかって、死んでしまったとしても。
抵抗らしい抵抗もせず、ただ、私は待った。

「ほら、言ってみろ。今なら聞いてやる」

そんな風に優しく囁かれても、無理。
喉の隙間から僅かに空気を吸い込むことしかできなくて。
クラクラして。だんだん力が抜けていって。

それに気付いたのか、彼は手を緩めた。
途端に大量の空気が流れ込んできて、肺を侵す。
噎せて、崩折れて、座り込んだ私を見下ろす彼。

「…っ……せ…に」

苦しくて、涙で視界が滲んでいたから、私は視線を上げてみた。
ぼやけている彼の表情がわからなくて安心したら、
何故だか急に怒りが沸いてきた。

聞いてやる、だなんて。
心にもない言葉を吐く彼。
どこまでも私を傷つける。

だから、普段なら絶対に言えないような事を言ってみようと思った。

「どうせ、聞…っ気もないくせに…!」

言葉が喉に詰まる。
ゆっくりと思いきり息を吸い込んで、これでもう最後だと言わんばかりに、勢いだけで言った。

「愛してるか、聞いても答えてくれないでしょ。
 自分が望む時だけ奪っておいて、私には何ひとつ残してくれない。
 そんな人、私は要らない! 聞いてもらう事なんて、何もない!」

思いきり吐き出したら、少しだけスッキリした。
もう終わりにするんだから、最後ぐらい強気に出てもいいじゃない。

「――言いたいことはそれだけか?」

温度の感じられない言葉。
嗚呼、怒らせた。
条件反射のように身体が震える。
日常的に刷り込まれた感覚を、覚えているから。
自分の身体を抱きしめるようにして蹲ったまま、何とか頷くことだけはできた。

そうか、という彼の声が頭上で聞こえたかと思ったら、
引き上げられ、腕に攫われ、唇に噛みつかれた。
息をする間もないぐらいに吐息を奪われる。

「馬鹿かお前は。」

朦朧とした意識の中で、彼の呟きを聞いた。

「俺が欲しいと思った瞬間から、お前に拒否権なんてないんだよ」
「酷…っ」
「……やっぱり馬鹿か、お前は。」

痛みを感じるほど締め付けている腕とは逆に、声だけが優しい。

「ギブアンドテイク? ふざけるな。
 与えられるのを待つなんて馬鹿馬鹿しい。
 欲しけりゃ奪えよ」

…それが出来たらこんなにも悩んでない。

「…欲しがったら、くれるの?」
「どうなろうな?」

鼻で笑って一蹴された。
いつだってそうだ。彼は彼のやりたいようにしかしない。
私はそれに翻弄されるだけ。
私が何を言おうが、彼には関係のないことで。

「だったら頂戴。私のものになってよ。」



「…とっくにお前のもののつもりだけど?」



――え?



何を言っているのか、一瞬わからなかった。
だから思わず目線を上げてしまった。
彼と目が合う。

強い視線に捉えられる。縛り付けられる。
さも当然と言った風に。
今更何を言っているんだと訝しむように寄せられた眉。

「俺がお前に執着した時点で、そういう事だろう?」

解れよ、と呟いて、やっぱりお前は馬鹿だと言われた。



ちょっと待って。
じゃぁ何。



私は悩む必要なんて、なかった?
いや、でも、私には何もなくて。
言葉は貰えてないけれど。
それ以外は…彼の執着とやらは私に向いていて。
つまり、それは。

「私、愛されてるの?」
「さぁ?」

はぐらかされたけれど、いつもより優しい声。
こめかみに落ちる唇も、髪に差し込まれる手も。
震える身体をあやすように与えられる体温も。

「私のものだって、思っていいの?」
「自惚れてろ。」

それはどういう意味なのか、私には理解できないけれど。
一つだけ解ったことがある



もうどうにでもなれと思って決めた覚悟が
跡形もなく消し去られていた。




嗚呼もう。




離れられないじゃない。









以上でーす。
俺様男。現実に暴力的なのは嫌いだけど、狡いのも嫌だけど、
創作物で読んだりする分には、Sな感じは結構好みです。
でもそれって僕の愛なのーです。(ぴぴるぴるぴる…)

旦那様みたいな甘ーいのと、サディスティックなのと、
妄想するだけなら極端になってしまいますねー。
現実を見ろって感じです私(゜¬゜)

『春の嵐』前編

2006-04-04 | 
『春の嵐』前編


どーして。
どーしてこうなったのよ?理解できないわ。

どーして。
私は、こんなところ…体育館裏に拉致されてるの!?




漸く落ち着いてきた4月の終わり。もう桜も花を散らせて新芽を出し始めている。
何かが始まる期待感に浮かれた雰囲気も薄らいできた頃。
生活に適応しなくてはいけない新入生と違って、受験勉強というかったるいことに一歩を踏み出した三年生とも違って、私は2年生。
一番中途半端な時期、と言ってしまえば聞こえは悪いけれど、実際はそうなんだよね。
少し新しい友達とかができるぐらいで、生活自体は変わらない。
授業を受けて、部活したり放課後のお喋りを楽しんだりして、帰り道に友達と別れた後ちょっとだけコンビニに寄ったりして。
そんな感じの「普通」な日々。


ああでも、昨日は委員会があったんだ。
運動は苦手だし、文科系クラブも興味の持てるものがなくて、私は帰宅部。
あ、ちょっとだけ文学部とかには興味あったんだけど……部活見学の時に歴史オタクの顧問が諸葛孔明とやらの素晴らしさを説いているのを見てから入部を止めた。中国文学は趣味じゃない。
だから私の放課後は専ら図書委員の仕事。
毎日5時までカウンターに座って、好きな本を読みふけっているの。
時々本棚の整理とかの仕事もあるけれど、利用する人が少ないからすぐに終わっちゃう。
うるさい人に注意しなくちゃ、とかいうイメージがあったんだけど、、そもそも図書室に通う人は、そんなアタリマエのことは心得ているし。
今まで一度もそんな経験がなかったし。


でも昨日は違った。
毎週水曜日の放課後、私はカウンターに座っている。
外は雨。しかも春の嵐。
風が吹き荒れて、わずかばかりの桜の名残りも全部吹き飛んでしまったかもしれない。
こんな日に部活をする人も少なく、夕方4時半の校内は閑散としていた。
もしかしたら早目に図書室も閉めた方がいいかもしれないねと、一緒に水曜日を担当している子と相談していた。
その子はバス通学で、4時40分のバスに乗って帰ろうかなぁとか言っていたので、じゃぁ鍵はかけておくから早く帰りなよと、笑顔で請負った。
先週は風邪をひいて休んでしまって迷惑かけたし、これぐらいはお安い御用だーっ
って言ったら、その子はクスッと笑ってくれた。可愛いなぁ。
じゃぁよろしくね、ありがとーと言って彼女は雨の中を帰っていった。

あと20分弱。もう人は来そうにない。
ちょっと早いけれど閉めてしまおう。そう思って私も帰る準備をした。
バッグを肩にかけて、忘れ物チェック。
あ、閉館の札を吊さなくちゃ。
プラスチックの札を持って、扉の外に出た。廊下は湿っていてちょっと寒い。
早く帰ろうと思って鍵を差し入れた時、階段を下ってくる騒がしい声が聞こえてきた。


「えー、図書館なんかに何の用なのー?」
「超意外ー。いっつもマンガばっかじゃーん」


ギクリ、とした。図書室に来るつもりなの?
あれ、でも図書「館」とか言ってたから、ここじゃないかも?
ああ、こんな細かい言い回しが気になってるってどうよ私!?
とか少しテンパってたと思う。とりあえずあの声の主が通りすぎるまでは部屋を開けておいた方がいいかも…

ガチャガチャと鍵を開けた時にはもう、その「集団」は私のすぐ後ろまで来ていた。


「えー、閉館だってー。閉まるの早くなーい?」
「時間5時までって決まってるんだからさー、まだいいよねー?」
「てゆーか、開けてー」


独特の気だるい喋り方をするお姉様達。雰囲気でわかる、3年生だ。
今流行りの黒髪ストレートだの、茶髪の巻き髪だの、ざっと見たところ6〜7人はいるかも。
美人さんばかりのその迫力に圧されつつ、私はコクコクと頷いて扉を開けた。
閉館の札は吊したままにしておこう。きっとこの人達が最後になるだろう。

カウンターの中に戻って振り返ると、まだお姉様達は入口付近でまごついていた。
図書室に入るのにどうしてそうも時間がかかるのだろう。
やっと入ってきたかと思ったら、すごく、うるさい。


「図書館なんて入るの超ひさしぶりなんだけどー」
「えー私、初めてー」
「うっそ! 初体験だ初体験!」


キャハハ、という姦しい笑い声が響く。
ああ、これが普段の日で、室内に利用者がいた時だったら、図書室は静かにしてくださーい、とかいう事をしなければいけなかったのだろうか。
それこそ初体験だわ。
でもあまり関わり合いたくないかも。だってこういう集団になると気が大きくなってるんだもん。
絶対文句言われそう。
ああ、他に人がいなくてよかった。


そんな事を考えているうちに、目の前に影。
あのお姉様達が「超意外」って言ってるぐらいだから、すっごく今どきのギャルっぽい人が本とか借りるのかなと思い込んでいた私は、顔を上げた瞬間に意識をぶっ飛ばしてしまった。

なに、これ。

目の前には、超美形。
紺のブレザーを纏った姿は、ちょっと前にやっていた学園ドラマの主人公みたいなジャニーズ系。
茶色のサラサラした髪とか、ちょっと薄めの瞳の色とか、うわー、肌きれいー。
思わず見とれちゃったじゃない。
ぼーっとして反応を返していない私に、彼はにこりと微笑みかけた。
頭のネジが外れそう。ダメよ私、ちゃんと考えなくちゃ。


「な、何でしょう?」


そういうのがやっとだったけれど、彼は気にした風でもなく、一冊の本をカウンターに置いた。
有名な中国の歴史物語り……「史記」。


「3年5組、セナハルヒト。で、よろしく。」


ええと、自己紹介でしょうか。
私も答えなくてはいけないのでしょうか。
でも、喉の奥まで声が出かけた時に漸く気付いた。全力で声を止めたから、うぐっ、とか言っちゃったけれど。

カードね、図書カード。
全校生徒のカードは、カウンターの棚に全部保管してあるの。
組と名前を言って、委員がカードを出して、本のバーコードとカードのバーコードを読み取って、おしまい。
返却期限を書いた紙を栞代わりに挟んで渡す。それが図書委員の仕事。

3年5組、セナハルヒト。
しっかり覚えちゃったじゃない。
棚の中を漁ってカードを探す。
……あった、セナハルヒト……瀬名脩仁。


あれ?


その名前に何故か私は見覚えがあった。
どこで見たんだろう。もしかしたら校内でとても有名な人だったのかも。
ちらり、と彼を横目で見ると、彼はあのお姉様達に囲まれていた。
ああ成る程、あのお姉様た達はセナハルヒトさんのお取り巻きですか。

先程切ってしまったパソコンを立ち上げる。
ピロリーン、という機動音が鳴ったので少し注目を集めてしまったけれど、パソコンなんて珍しくもない時代、すぐにまた姦しい会話だけが繰り広げられた。


「シキ? ああ、授業でやったやつね。ええと、ショカツコウメイ?」
   ──史記は司馬遷でしょ。
「ショカツコウメイって、三国志とか書いた人だっけ?」
   ──諸葛孔明は三国志の登場人物でしょ。
「HEROとかLOVERSとかの時代のやつ?」
   ──あれは現代の映画だ。


私が心の中でツッコミを入れるお姉様方のトンチンカンな質問にも彼は笑顔で真面目に答えていた。
ああ、パーフェクト。フェミニスト。流石だねセナハルヒトさん。
だからそんなにも取り巻きが多いのね。鬱陶しくても追い払わないタイプ。
ちょっとだけ冷静になれたわ、ありがとうセナハルヒトさん。
あまりにも理想通りのパーフェクトな人を見ると、私は一歩引いてしまうから。
自分の立場というものを心得ているの。凡人が惹きこまれたら大変なことになるから。

私は目線を逸らし、作業に没頭することにした。
本のバーコードを読み取ると、画面には本の情報が表示された。
史記。タイトルオッケー。コードナンバーオッケー。
あとは個人カードを読み取ってエンターを押すだけ。
時間は4時55分。丁度いい時間だね。



ピ──────────────────────────ッ



いきなり電子音が鳴り響いた。
思わずびっくりして、バーコードリーダーを落としちゃったじゃない。
3年生の皆様も、驚いて声を失くしているしっ!


画面には「貸し出し不可」という赤い文字。
エラーコード、E10053 ………本の未返却?
慌てて操作して、彼の過去の履歴を調べた。

3月2日、三国志、春秋戦国志、国士無双。未返却。

脱力したね。中国歴史マニアですか?
というかこれ思いっきり2年生の時のじゃない。
学年が上がっても持ったままですか。
貸し出しの決まりでは、2週間が限度。もうこれは1ヶ月以上経過している。

───思い出した! 瀬名脩仁!
そういえば3月の終わりに、2年生の教室まで返却を促しに行ったんだった。
その時彼は風邪で休んでいて、言付けだけ頼んだんだ。
その時私は1年生だったから、すごく緊張した。
2年生の委員さんとか担任の先生がやればいいじゃんって思うんだけど、これは顧問の先生が思い立ったように決めて、その日の図書委員がすることが決定してしまうの。だから逃げられなかったし…。
そんな思いまでさせて私に肩透かしを喰らわせたセナハルヒトさん。
当時は「瀬名脩仁」って漢字のメモしかなかったから、ハルヒトって読めなかったわ。
それにしても言付けた人、ちゃんと伝えてくれたのかな。まだ返してなかったとは…。


不安そうにこちらを見ている彼に、私は尋ねた。


「3月2日、三国志などを借りたことになっていますが、返却はされましたか?」
「………3月2日……あ…。」


どうやら思い出したようだ。バツの悪そうな顔をして目を彷徨わせる。


「返却期限が過ぎていますので、これ以上の本の貸し出しは本の返却がされた後でしか受け付けできません。また来てください。」
「…わかった、ごめん。」


素直に謝った彼は、そそくさと図書室を後にしようとした。
しかし私は忘れていた。彼ではなく、その周囲にいる存在を。


「ちょっと!!」


かなり強い調子で呼ばれて、驚いて振り向くと、例のお姉様方が怖い目でこちらを見ていた。
その大きな声にセナハルヒトさんも立ち止まる。


「わざわざ折角ここまで来たんだからー、貸し出してあげてもいいじゃない?」
「借りた本は明日返せばいいんだしー。1冊ぐらいいいじゃん?」
「融通利かせてよねーお役所じゃないんだからー」


相変わらず喋り方は間延びしているが、含まれている威圧感がものすごい。
とはいっても、こちらも規則があるので譲れないんだけど。
言い返した方がいいのかなぁ、でも後が怖いなぁ。
何とかしなさいよと言われても、どうしよう。
バーコード認識しないで本を貸し出して、返ってきた時にこっそり処理すればいいか…
ああでもその前に発覚しちゃったらどうしよう。あのお姉様方が教室でのお喋りしている時にポロっとバラしちゃって、それが先生に伝わって…
どうやっても被害と責任を被るのは私だし。

そんな感じでぐるぐる考えていた間に、効果的な助け舟が入った。


「ダメだって。規則を守らなくちゃ、俺が怒られるじゃん」


鶴の一声。
セナハルヒトさんがそう言うだけで、彼女達の怒りが鎮んでいく。
えー、でもー、そう? ハルヒト君がそう言うなら… とか言ってるし。
その割には目線がこちらに八つ当たりしているような。あんたの所為よって?
あーはー。本を借りれたのは自分達が働きかけたおかげだっていう恩を売りたかった?
そんなチンケな気の惹き方してどーすんの。
三国志でしょ、史記でしょ、立派な中国史マニアじゃない。そのあたりを勉強して気を惹いた方がよっぽど効果的だと思わない?

…なーんて、お姉様方に言えるわけないけど。


「ごめんね、鍵とかパソコンとか、未返却とか………色々。また来るから。」


色々、の部分には、色々含まれているのだろう。
フェミニスト、セナハルヒト。最後までいい人だ。
そそくさと先頭に立って去っていく彼をお姉様方が追い掛ける。
後を濁さない手際に脱帽。
パソコンの電源を落として、鍵をかけて、時計を見るともう5時10分。
ちょっとタイムオーバーしちゃったな…。

まぁいいやと、今日の私の学校生活は終了した。



to be continued...

『春の嵐』後編

2006-04-04 | 
『春の嵐』後編





ええっと。


今日も一日普通の生活をして、放課後の掃除のゴミを焼却炉に捨てればあとは帰るだけって時に、焼却炉前から拉致られました。
目の前には昨日見たばかりのお姉様方。


「ぶっちゃけて言うけどー。ハルヒト君に近付かないで貰えないー?」


昨日とは打ってかわって晴天の下で、いきなりこんな事を言われた。
何? わけわかんないんですけど。
近付くなって言われても、会話したのなんて昨日のアレだけだし。


「委員だからって調子こいてない? 周りに誰もいないんだったらさ、こっそり手配してもいいじゃん?」


次は昨日の八つ当たりですか。
だって私にそんな権限もなかったし、借りようとした本人だって不本意そうにしてたじゃない。


「ていうか、ムカツいたんだよねー」


…あ、これだけはわかりやすい。
どうやらお姉様達に恨まれてしまったようだ。
今日のイケイケ女子高生。世界の中心は自分。アイアムナンバーワン。
気に入らない事があればムカツク。何も考えないで。


「でー、約束してくれるー? ハルヒト君に近付かないってー」

「……図書委員の仕事は、回避不可能ですけれど、それ以外なら。」


とりあえずこう言っておけば大丈夫かなぁ。
元々関わりなんて持っていなかったしー。3年生の教室付近に行かなければいいしー。
見かけたら気付かいフリすればいいんだよね。
貴女達と違って、別にお近づきになりたかったわけじゃない。
イレギュラーな出来事の結果だし。


「そう? いい子ねー。でも図書館に行く時は私達もついて行くしー。抜け駆けしようとしても無駄無駄ー」


…抜け駆けなんてしませんし。
図書館じゃなくて、図書室ですし。
とりあえず引き攣った笑顔でやり過ごそう。素直に従っておけば害はないと見た。
多分これで大丈夫な筈だ。


しかし、何ていうか、そのイレギュラー要素満載のお方は、颯爽と登場してくれる。



「そんなのダメだよー。俺の苦労が水の泡になっちゃう。」



嘘。嘘嘘。全部嘘。私は何も関係ゴザイマセンーって言いたい。
ドラマティックなのかは知らないけれど、振り向いた先には輝く笑顔。
ああもう、もうちょっとでやり過ごせるところだったのに。
ていうかたった今現在、貴方に近付かないように宣言したところだったのに。
どうして現れるのー!

そんな私の胸中も知らず、セナハルヒトさんはゴミ箱を抱えてこちらに近付いてきた。
ああ、誰かが知らせてくれたわけじゃなくて、単なる偶然なのね。
絡まれるヒロインの危機をタイミング良く救いに来るなんて、ドラマの中でしかあり得ないもん。


「そう簡単に諦められると、すっごくヘコむし。」


……ええと。諦める以前に、何の挑戦すら始まっていなかったんですけどー。
ねぇ、お姉様方、オロオロしてないでちょっと助けてよ。
自惚れかもしれないけれど、何かこの人の目が、すごく獲物を狙っているようにしか見えないんだって。
危険だって本能が告げている。関わっちゃダメだって言ってる。
早く逃げなくちゃいけないのに、逃げられない。
突破口があるとしたら、きっとそれはお姉様達が声を上げて色々言い出した時のゴタゴタの最中。
だから、早く、お姉様方、文句を言ってってば!


でも、願いは届かずに、お姉様方の目は狼狽えているばかり。
どうしてよ?


「ハルヒト君……もしかして、この子、なの?」

「うん、そう。俺をこうしたのは、この子。」


私が、いつ、貴方を、そんなにしたって言うんですか!
わけがわかんないです!
でも、セナハルヒトさんはさらにわけのわからない事を言ってくれた。


「俺ねー、前に一回キミに会ってるんだよね。」


…はい?
いつ、私が、貴方に、会ったんですか?


「ヒントは、3月の終わり、2年生の教室で。」


3月の終わり、2年生の教室。
それだけのヒントだと、貴方が休んでいて、本の返却を言付けた時のことしか出てこないじゃない。それ以外、怖くて近付いてないし。


……ん?


本の返却を、言付けた。
確か、上級生に直接言うのが怖いから、黒髪で眼鏡の、怖くない大人しそうな人を選んで、本を返却して欲しいと瀬名さんに伝えて欲しいと言付けて…
今日は無理だけど伝えておくって言われて…

伝えた人は、ふんわりと微笑んで…



「ぁぁああああーーーーーーーーーーーーーっ!?」

「思い出した?」

「ほんっ…本の返却を言付けた人っ!!?」


大当たりー、と、彼は微笑んだ。
そう、この微笑み。
髪は茶色になってるし、眼鏡もしていないけれど、この人だ!


「でもっ…言付けてって…貴方がセナハルヒトさんで……何で!?」

「俺の友達がね、本の虫なんだけど、一度に借りられる本が3冊じゃ足りないっていって、俺の名前を使って勝手に借りたらしいんだよねー。いやー、あの時はいきなり本の返却を、とか言われるからビビったー。」


名前を使って? 借りたのは別人?


「で、いきなりでテンパったけれど、セナハルヒトをいない事にしてさ。キミをやり過ごしたわけ。」


……はぁ、そうですか。


「で、その時キミにヒトメボレ。」


……はぁ、そうですか。ヒトメボレ。ヒトメボレ?


「────はぁっ!?」

「いやー、可愛かったよ? 見るからに1年生で怯えててさ。誰かを探しているのかなと思ったから声をかけてみようとしたら、俺を見て明らかにほっとしたの。それがまた可愛くて。人畜無害なナリしてて良かったなーと思ったわけ。」


確かに怯えてはいたけどさ。
人畜無害って……確かに優しそうなナリはしていたけれど。


「それがキッカケ。あとはどんどん転がり落ちちゃって、どっぷり。」


…………。


「それから絶対キミとお近づきになるんだーって思ってね。外見から女性の扱いから、勉強して、春休みの間に変身〜」


あまりにも完璧過ぎて、逆に引いちゃったわ。


「で、チャンスを狙っていたんだけどね。最愛の妹から「今日がチャンスだよー」ってメールを送ってもらったわけで。」

「妹?」

「そう、妹。セナナツキ。色々とキミの事を知るお世話になりマシタ。」


…瀬名那月って、昨日一緒に委員に入っていた彼女だ。
うわ、やられた。


「なのにさ、途中で邪魔者に捕まっちゃって。」


邪魔者って…怒るよお姉様方。
……って、あれ、居ない。逃げられた。


「だから出直して、また明日ーって思ってたのに、キミは彼女達に拉致されてるしさ。俺に近付かない宣言とかさせられてるしさ。偶然見付けられて良かったよ。」


はぁそうですか。阻止されなくても良かったんだけど別に。


「でもまぁこれで言える。……俺は、貴方が好きです。」


……うわ、キタ。いきなりきちゃった。
何でこんな人になったのかも、何で私なのかっていう理由もわかった。
理論的なのが好きだーって、彼の妹(図書委員の那月ちゃん)に話したことがある。
漏れているじゃないか、なにもかも情報が。

で、どうしよう私。
外見は好みだし、きっと妹から私の好みなんて聞いてるから合わせてくれそうだし。
でもそうやって条件で選ぶっていう行為は好きじゃない。
俺、好きなんだ… 私も… とかいう相思相愛のシチュエーションが好きだなんて、これは那月ちゃんにも話してないけれど。
ていうか! もう那月ちゃんと腹割って話せなくなるじゃない! 何てことしてくれるの!

戸惑ったり迷ったり怒ったりして忙しい私を後目に、彼はふわりと微笑む。
顔も性格もすっかり変わってしまった彼だけど、この笑顔だけは変わっていない。
リアリティーのない完璧フェミニストっていうイメージは…お姉様方への邪魔者発言で消えていった。(面と向かって言ってないけれど)
それらの事が、私の前に張ってあった踏み越えてはいけない有刺鉄線を消し去った。

でも彼は私のことを聞いて知っているかもしれないけれど、私は彼のことを知らない。
恋愛感情の前に存在すら知らなかったんだから。
好きじゃないのに、付き合えない。


ごめんなさい


そう言おうと思った矢先に、頭の上にポンっと手を乗せられた。
近くで見ると、意外と背が高い。


「今日は、俺のことを印象づけることが目的だから。返事はいらないんだ。お友達からってことで。」

「…それって、すごく、やりにくいんですけれど。」


特に那月ちゃんとの友情が、という部分も言外に含ませつつ言った。
自分のことが恋愛感情として好きだって言う人と、これからお友達になれって無理だよ。


「うん、わかってる。でも、そうやって気にして貰えたら、俺は嬉しい。」


いつもそうやって俺との関わり方を悩んでくれていると、すごくキミの気持ちを独占している気分になれる、と彼は微笑んだ。


……ヤラレタ。


これは、彼の作戦。
私の気持ちがつかず離れず、ただいつも気にしているように仕向ける罠。
意外に策士だね、セナハルヒトさん。
きっとそれは成功していると思うよ。
他はともかく、貴方のそのふわりとした笑顔だけは好きかもだから。
そうやって、どっぷりと私を惹きこんでいく、罠。



ああ、貴方が言っていた「それがキッカケ。あとはどんどん転がり落ちちゃって、どっぷり。」って、こんな感じなのかな?


「わかりました…とりあえず、お友達というより、那月ちゃんのお兄さんっていう視点で見るようにしてみますから」


素直じゃない私の最大の譲歩。
どう転ぶかわからない微妙なところに立ってみる。
でも、この頭に置かれている手に嫌悪感を感じない時点で、相当キてるかも?


手厳しいなと苦笑したその姿に、私も微笑みを返す。



「とりあえず、よろしく。瀬名 脩仁さん。」
「こちらこそ、よろしく。木之本 絢さん。」



強い風が吹き抜けた、春の嵐。

いつもの「普通」から抜け出して、新しい生活への一歩を、今、踏み出す。




End
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この物語はフィクションですよ?(笑)

何かいきなり書きたくなった恋愛未満物語。
色んな要素を盛り込んでみました。
エマ小説も全然進んでないのに何やってるんだ私。(゜¬゜)

ドリーマー(?)な女の子視点からのお話です。
最近の高校生の考えとか言葉遣いとか文化がわからないので、超適当ですが。
最後だけ名前を出しました木之本 絢。キノモトアヤ。
真面目な読書家。平和に暮らしたい小市民。
彼女に関する表現は、一人称の性格表現のみ。姿形はあまり書いてない。
あくまで彼女視点。

瀬名脩仁さん。元地味男君。現在フェミニスト詐欺師(待て)
絢のことが気になって、妹の那月ちゃんから情報を手に入れ続けていた。
報酬はケーキ1ピースとかいう細かい設定まで頭の中にある(何)
何か裏がありそうな胡散臭さをちょっとだけ加えつつ。

というところで、このお話は終わりってことで(中途半端?)
次を書くとしたら、瀬名脩仁視点かなぁ。やるかどうかはわからないけど。
この先の物語を書いたら終われそうにないや。

ていうか私、元々小説書きじゃないし(゜¬゜)