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              (中島未月)

夜明けのスキャット♪

2011-12-16 11:49:04 | こだわり
由紀さおりさんの再ブレイクのおかげで、懐かしいあの名曲に触れる機会が増え、忘れていた思い出がたくさん蘇ってくる日々である。

「夜明けのスキャット」は、「夜のバラード」という深夜ラジオのテーマソングだった。その番組はリスナーの投稿した詩を俳優さんが朗読してくれるもので、私がもっぱら聞いていた頃は寺尾聡さんだったので、私はずっと彼の番組だと思っていた。今回ついでに調べてみたら他にも何人かいらっしゃったようで、そういえば吉田日出子さんの時もあったことを思いだした。
試験勉強と称して、インスタントラーメンやお菓子を用意し、それなりに参考書を広げつつも勉強は一向に進まず、もやもやとラジオを聴いていることが多かった高校時代。体験談などをべちゃくちゃしゃべるうるさい番組が苦手で、この「夜のバラード」とFMの「ジェットストリーム」と、森繁さんの朗読と、上方古典落語がお気に入りだった。特に夜のバラードは採用される作品が素敵なものばかりで、番組が発行していた作品集も欠かさず購入していた。自分も採用されたい、こんな田舎から出たい、泥臭いのは嫌いだ、文章で食べて行きたいが出来るわけがない…、そんな思春期特有の閉塞感に満ちた私の心を、一時でも解放してくれたのが由紀さんの「夜明けのスキャット」だったのだ。美しい声で歌われるメロディが、先に向かってふわぁ~っと広がっていくことが魅力で、後に発表された小椋佳さんの「さらば青春」と共に、二つの曲はまぎれもなく私の心の曲であった。

それから何年か経ち、今の会社に就職して知り合った同期の同僚が、相変わらずせっせと詩を書いている私に一つのチャンスをくれた。彼女の知り合いが出演している早朝のラジオ番組で詩の朗読をするコーナーがあり、そこで読んでもらえるよう頼んでみると言ってくれたのだ。私は舞い上がり、何点か作品を渡した。意外にも即採用になり、何日か後の番組で紹介された。自分の作品が新しい旅に出たことを夢見心地で聞いていた私は、しかし直後に大きく驚かされた。「作者は○○女子大学の○○さんです」と、名前だけは私の名前で、会社員ではなく関西では有名な女子大の学生として紹介されたのだ。私は一瞬で奈落の底に落ちたような気分になった。どうして会社員ではいけなかったのだろう?朝のおしゃれな番組には女子大生の方が良かったのだろうか?とあれこれ詮索したりした。嬉しさはもう全く残っていなかった。出勤して「良かったね」と言ってくれた同僚に、申し訳なかったが、なぜプロフィールが変えられたのかと私は尋ねた。彼女は、何かの手違いかもしれないから一度尋ねてみると言ってくれた。そして、返ってきた答えは、「その方が番組に合っている」というものだった。なぜそんなことにこだわるの?と言いたげなニュアンスが感じられた。私は関係者のデリカシーを疑った。遠い遠い昔の話である。

そんな古くてほろ苦い出来事を鮮やかに思い出させてくれた「夜明けのスキャット」。由紀さんの昔と変わらない伸びやかな声は、今も私を遠い世界に連れて行ってくれる。


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