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D cafe

待っている 時間もすてき
手の中に ひらくものが あると思えば
              (中島未月)

幻の...

2010-04-12 17:42:32 | 舞台
土曜日の夜、久しぶりに藤原君の公式HPを覗きに行ったら、新作舞台の案内が出ていました。「黙阿弥オペラ」という作品で、井上ひさしさんの脚本、過去に上演された作品の再演でした。7~8月の上演で、その前に「ムサシ」の海外公演と日本公演もあるのにすごいスケジュールだなぁと、最初に思ったのはそのことでした。さっそくニュースを検索してみると、本来は新作になるはずだったが、井上さんが治療に専念されるので、急遽旧作に変更になったということでした。「ムサシ」をきっかけに竜也さんを気に入って下さった井上さんが、彼を想定して(いわゆるあて書き)「木の上の軍隊」という作品を執筆して下さっていたようなのですが、体調を考え、やむなく旧作に変更になったらしいのです。こちらの作品も「藤原君にぜひやってもらいたい」ということだったので、「井上先生が“こっちの作品を”とおっしゃるのであれば、それで十分。全力投球します」という竜也さんのコメントも載っていました。東京公演のみなので、さてチケットどうするか?などとつらつら考えている内に、いつものごとく深夜。何気なく最新ニュースを見に行くと、井上ひさしさん死去の速報が。唖然としました。ああ、なんてことでしょう!「木の上の軍隊」は永遠に未完成となってしまいました。

今から7年前のことを思い出します。映画「バトルロワイヤル」で大ヒットを飛ばした深作チームは、続編の準備にかかっていました。しかし、撮影に入る直前に監督の癌が発表になり、「バトルロワイヤル2」はご子息に引き継がれました。そして、撮影途中で深作欣二監督は亡くなられました。告別式での悲しさと悔しさの入り混じった藤原君の目は今でもはっきり憶えています。監督の構想の中には、藤原君の主演で「愛と幻想のファシズム」を撮るという計画があったと聞きました。幻の作品…。数奇な巡り会わせを思うとなんとも言えません。いずれも心から見たかったと思う作品ばかりです。癌が憎い...
合掌。

三つの芝居と三人の演出家

2008-03-05 01:12:51 | 舞台
たまにはお芝居のことも書いてみましょう(笑)。2月は2本、そして今日は1本見て来たので。記憶がボケないうちに。
以前「情熱大陸」に唐沢寿明さんが出演された時、最後に彼が言った言葉がとても印象的でした。「どんなに一生懸命やった舞台でも、最後は結局観客の"好み"なんですよ」悔しさと諦めの入り混じった複雑な表情でした。要は好きか嫌いか、ということですね。とてもよくわかります。どんなに腕のいい料理人が作った料理でも、結局好きでないものはおいしくない。私(観客)の本音です。そんなわけで、これから書くことも、好きか嫌いかの次元の感想です。

2月の某日に続けて見た作品の最初の方「恋する妊婦」。これは大森南朋さんが出ていたから見たのですが、一言で言って不完全燃焼のまま終わってしまいました。巷では「難解だ」という噂の高い岩松了さんの演出ですが、「難しい」のではなく、「何が言いたいのかよくわからない」というシーンがいくつかありました。若い頃は、そういうわからないものを面白いとカッコつけたこともありましたが、今はもうないです。南朋さんだけを見に行ったのなら、彼が登場しただけですべてOKとなったのでしょうが(背が高く華もある)、さすがにそこまでミーハーではありません(笑)。登場人物がみんな何かにイライラして腹を立てていました。もしかしたら、今回私が一番(見ていて)辛かったのはそこかもしれません。帰ってパンフレットを読んだら、岩松さんが「人間の常態は不機嫌にある」と話していました。うーん、そこでもう躓いてしまうんだな自分は。そのあたりにすっかり共感しているライターの文章がものすごくひっかかった私は「わからないことは色っぽい」などという境地に至らず、今後も岩松作品は無理かもと思ってしまいました。主演の風間杜夫さんは、さすがに上手かったです。小泉今日子さんはぼちぼち(苦笑)

渋谷から慌てて六本木に移動し、次に見たのは岡田達也さん主演の「ちいさき神のつくりし子ら」という作品でした。こちらは一転して見事なまでにストレートな芝居です。ろう学校の教師と生徒の恋を中心に、人と人が理解しあうこと結ばれることとはどういうことかというテーマを丁寧に描いていきます。実は相手の女優さんが新人ということもあってあまり期待していなかったのですが、これが嬉しい誤算。主役二人の熱演ぶりに、まさに「ぐわーっ」と最後まで引っ張られ、見応え充分。障害を持つ人の気持ちを、簡単に「わかる」なんて言えるわけがない。でも諦めずに、わかりたいと思い、わかろうとする主人公。近づこうとすればするほど相手を傷付け、自分も傷付く。それでも「ダメでした」で終わらない演出が大好きでした。こちらは若手の板垣恭一さんの演出です。長年親しんできた岡田さんの芝居のベスト1が入れ替わりました。

で、今日見た「身毒丸」は言わずと知れた藤原竜也の当たり役。蜷川幸雄演出。もう、ブランド品みたいなものです。でもこの作品は2002年にファイナル公演をやっていました。私は当時東京まで行って最後を見届け、この作品が今後は少年役のみ入れ替えて上演される可能性があるということに納得がいかず、そんな俳優出てくるのかなぁと思っていました。ところが、驚くべきことに、結局封印は解かれ、再び竜也さんで再演となったのです。ワシントンでの上演に招聘されたからという理由があったにせよ、一旦終わったものを見るのは複雑でした。第一、竜也さんがロンドンで初めて舞台に立った時は15歳。実に十年を経て同じ役。実績を積み大きく成長しましたが、あの瑞々しさをどう表現するのでしょう。しかし、彼はすごいです。元々細い体を更にびっくりするほど絞り、まさに一輪の花のよう。子供のような短髪。しかし声はまさにあの腹の据わった声(笑)。変に少年を作って来ない。小細工無しでぐいぐいとその声のまましんとくの世界に引きずり込んでいきます。ラスト近く、目を潰されたしんとくの視点は全く合っていません。母を想って泣くシーンではぼろぼろ泣いていましたが、役者が感情移入して泣くことなど珍しくなく、それより、そのぶわっと涙が溢れる寸前の表情(うーん、うまく表現出来ない)が絶品で、思わず「上手い」と唸りました。理屈ではなく本能で動く動物みたいな役者です。
今回自分でも意外だったのは、上演時間がものすごく短く感じられたこと。全然ダレなかった。そして、今まで何回も「身毒丸」を見たのに、今日初めて、白石加代子さん演じる母(女)の哀しみに心が揺さぶられたことです。私がそれなりに年をとったからなのかもしれません。
結局、藤原竜也出演作であっても野田作品とは相性が悪い私は、駄洒落や言葉遊びを連発しない(爆)、独自の演出はするが原作の台詞をいじらない蜷川演出が「肌に合っている」のだと思います。