みのおの森の小さな物語     

明治の森・箕面国定公園の散策日記から創作した、森と人と自然に関わる短編創作物語集 頑爺<肇&K>

サルの恩返し?(2)

2019-11-01 | 第11話(サルの恩返し)

箕面の森の小さな物語

<猿の恩返し?>(2)

 あれは2年前の夏の暑い日だった・・  

 私は「EXPO90・みのお記念の森」から堂屋敷山を経て天上ケ岳一休みをして後 山伏の修験道箕面ビジターセンターへ向かって歩いているときだった。      

 山道の切り株の上に一匹の親ザルとまだ幼い小猿がちょこん! と 置物のように座っていた。  私は急に横にいるのを発見してビックリしたのだが、私を見ると2匹ともゆっくりと私の後を付いて来た。

  よく見ると2匹とも 何となくやせていて少し哀れな印象をもったが, 親猿の方は左足を引きずっていて少し気にはなっていた。  私が何となく後ろを振り返ると、ある一定の距離を保ちながらず~ と私の後ろをついてくる様子で・・ 群れを追われたはぐれ猿かな? と思ったりした。  何か理由があって群れの中におれないのかな・・?  群れで行動する大家族制の猿族だから、何か理由がありそうだ。  足が悪くて食料調達ができないのか?  小猿は可哀想に・・ いろいろ考えたり, 振り向いてそれとなく観察したりしていた。

  この森の西側には天上ケ谷があり、その谷には「箕面・野猿保護管理センター」(正式名称は? があって専門係官が常駐し、1日の決まった時間に餌をやっているので、ここに群れている限り飢えることはないはずだが・・?   一度私はこの谷を歩いたとき, 丁度餌やりの時間にぶつかった事があるが、約1kmの谷間をバイクに乗った係官が大きなバケツに(雑穀の米粒のようだったが・・)を撒きながらエサをやっていた。  その後を数百匹の猿たちが追いかけながら続いているのを目の前で見たことがある。  どこから出てきたのか?   餌の時間を知っているのか? とにかくすごい数だったが、それが谷間を埋め尽くすようにしていた。(私も一時、その大群の中に埋まってしまったが・・) 一粒一粒を拾って食べている姿は壮観だった。

  餌場があるのに、どうしてあの親子猿はそこにおれないのだろうか? そんなことを思い浮かべながらまた、振り返ってみたらまだ遠くからついてきている・・ 「分かった・・分かった! ちょっと待ってな」  私はリュックを下ろして何か食べ物を探した。  私はいつもお昼を二分して食べるので、まだ残っていたバナナとふかし芋、それに常備して持っているピーナツとチョコレートを全て出して、横の切り株の上に並べた・・ 「よし! これでいいや・・」 私はありったけの食料をだして、遠くから見ている親子猿に指さして・・ 「ここに置くとくからね・・」と指で合図をし、すぐに歩き出した。  しばらくして振り返ったら相変わらずのゆっくりした歩きだが、私の置いた所へ近づいていった・・

 それからの事は分からないし、私はもうとっくに忘れていたのだが・・  でも、あの母親の足の怪我の事は他の事故のことからしばしば思い出すことがあった。  それは、滝上の駐車場で見た悲しい光景だった。 ここには観光客の車から、猿達にお菓子などのエサをやる人々が絶えない・・(サルにエサを与えないで下さい・・)との看板があちこちに立てられているのだが・・ そこでエサに夢中になり、たまに車に轢かれてしまう小猿がいるのだ。 

 私はその日、いつものように沢山の猿群が観光客から餌をもらい、人も猿もワイワイ、キーキーといっている所に、一匹の母ザルの哀しい姿をみたのだった・・ それはもうとっくに皮ばかりになって干からびた小猿の亡骸を大事に抱えながら人間の投げるエサを探る母猿の姿だった・・ さらにそのエサを亡骸に食べさせようとしていたのだった。  私はこみ上げる涙を堪えながら強烈な衝撃を受けた事があった・・ その時に、あの左足を引きずっていた親子猿のことを思い出したのだが・・ そんなわけで余談が長くなったが・・ 話を元に戻すことにしよう。 

  思い出した・・ この迷った森の中で私に道案内をしてくれた? のは、あの時に出会った親子ザルの足の悪かった母猿なのか?  まさか?  普通に解釈すれば、たまたま通りかかっただけで、たまたまそのとき足を悪くしていただけの別の猿で、こじつけにしても程がある・・ と、笑われるのがおちだけれど・・ しかし、良いように解釈すれば、あの時の私を覚えていてくれて、道に迷った私を見て助けてくれたのか? 私は後者を今でも信じている。

 それにしても改めて思い出すと、あの時いた小猿はその後どうしたのかな?  生き延びたのか?  あれから2年を経て、もう立派な大人になって親離れしたに違いない・・ 母猿は子育てを終えて、今は一匹 悠々自適に森の中を駆け回っているのかもしれない・・?  そんなことを勝手に思いながら 時の移ろいを感じつつ、不思議な思いを胸に私はほのぼのとした思いで 箕面の森 を後にしたのでした。

 (完)



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