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キ上の空論

小説もどきや日常などの雑文・覚え書きです。

星月夜

2021年01月03日 | 二次創作・短文
 月のいない澄んだ夜空を星月夜というそうだ。
 いないのに月と呼ばずにはいられないのだから、きっとそれだけ恋しいのだろうね。

 主不在の館には、いつも通りの静けさと、いつも通りの家人。
 ただ、みんな主の帰りを待っている。
 カティは一人分の食事をいつも通りワゴンに載せてくる。
 フレディスには大きすぎる足音を窘められた。
 オスタラは庭を窺っていた者をさりげなく誘導して追い出した。
 ファラーダは武器と大きな調理具の手入れに余念がない。
 ジークリンデは居残った飛竜を次の戦いに向けて訓練している。
 ナーチャは馬の世話と馬車の確認。
 ライマとフロレットは何故か多い客間の掃除を。
 ディキシー、アルナ、カーリンは書庫、地下室、食堂を。
 ミア、モリー、リア、マーヤは炊事と食料の品定め。
 ロスヴァイセは宮城、特に近衛とのやり取り。
 全員の正確な名前は知らない。多くは戦場に立てなくなった者だ。彼らの戦場がどこだったのかも、何人かは知らない。今もなお戦う敵があり、それぞれに役割がある。
 カティには右の膝下が、フレディスには左目が、オスタラには十分な視力が、ファラーダには声が、ジークリンデには右手の小指が、ライマには動かせる左足が、フロレットには嗅覚が、アルナには味覚が、ミアには肩より上に上がる右腕がない。共に行動をとらざるを得ないリアとマーヤ。雨が降ると脇腹を気にするカーリン。ナーチャは馬の体温を感じることでわけもなくやってくる不安をやり過ごし、ディキシーは大きな音が気になりすぎる。
 家令のノラは傷を負ってない方の顔を半分、仮面で覆っている。
 みんないつも通りだ。主が機嫌良くいられる場所を、いつも通りに守っている。その末席にいられることを嬉しく思うと言ったら、客人扱いなのだからと、きっとみんなに叱られるので、いつも通りにそわそわと、主の帰りを待つことにしている。

■■■星月夜は秋の季語。本名なのはノラだけ。女性名だからと言って、女性とは限らない。
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