覚書あれこれ

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『華の王』

2007年06月12日 | ギリシア・ローマ神話

『本で見つけたヘラ様』第2回目。
今日は、ヘラ様ご本人、ではなく、見習いの想像するところのヘラ様とゼウスに限りなく近い二人の出てくるコミックを紹介したいと思います。

市川ジュン『華の王』 これ

いいくにつくろう鎌倉幕府、のまさに当事者、源頼朝さんと北条政子さんご夫婦を、政子さんを中心に描いた傑作。政子の少女時代の頼朝との出会いから始まって、結婚、出産、育児の合間に政治、頼朝の死後、いい加減引きこもりたいのに出来の悪い息子たちのせいで表舞台に引っ張り出されるところまでを描いています。後の尼将軍を予感させるナレーションが入ってシメ。今なら文庫版がお買い得です。


●ビジュアル

 この漫画の政子さん…も、もちろん、気の強そうな美人でヘラ様っぽくて大変結構なのですが、それより秀逸なのが頼朝です。ロングヘアで目元の涼しげな美形です。頼朝といえばちょび髭のおっさんと思っていたわたくし、一目見た瞬間のけぞりました。悪そうないい男ですよ☆



●政子の性格 「わたし、世捨て人を夫に持つつもりはありませんわ!」

 一般的に政子さんといえば、キツイ性格の女で義経ファンには蛇蝎のごとく嫌われていたり、ゲームに登場したかと思えば悪役だったり、と散々な印象しかもたれていないのではないかと思うのですが、この漫画の政子さんはとても魅力的、野心家で、情熱的で、自分の足ですっくと地面から立っている気持ちのいい女性です。
 中盤の、

「これからも散々人の恨みを買うのだろうな」と苦笑する頼朝に、

「あら、半分はわたしが引き受けてあげるのだもの、いいじゃない」

と返す台詞もお気に入り。

 

●頼朝の性格 「男はみなそうでしょう?」

 罪人の子として地方に流され、爪も牙ももがれつつ、飄々とした遊び人の顔の裏で虎視眈々と情報を集める若き頼朝さん、頭の切れる、出来る男です。しかし、その一方で地元の美人に手を出す事も忘れません。
 
一途に頼朝一筋の政子さんと対照的に、頼朝さんの方は、多情な人で、しかも悪びれない。どうしてそのことで政子さんが彼を責めるのか不思議な顔をします。

「だって政子どのではないもの
 別の婦人への別の想いですよ?

この人、天然のタラシです。この辺りの愛情の形の違いとかもヘラ様とゼウスっぽい。
ちなみに頼朝さん、作中で何度も政子さんに叱られます(女性関係で)。



●頼朝と政子の関係 「あなたはほかの誰でもない 比類ない ただひとりの 北条政子なのですね」

 そんな多情で浮気性の頼朝さんですが、確かに政子さんの事だけは特別なのです。
 この頼朝さんのお気持ちは、政子に対して申し訳ながる愛人の亀の前を宥める次の台詞に一番現れていると思います。

「わたしはただ浮かれて婦人と睦む主義は無いよ 
 そのときそのひとに本気で恋しているのだからね
 でも奥方のことはそなたが気に病まなくていい 
 あの人のことを考えていいのはわたしだけだから
 他のどんな婦人もあの人と自分の身を比べて思ってはいけないのだよ
 あのひとは誰とも同じ場所にはいない―特別なひとなのだから」

お前、そこまで言うなら浮気スンナよ!!!!
…と、盛大にツッコミを入れたいところですが、それはさておき、頼朝さんにとっての政子さんの重みをよく表している台詞ではあります(さりげに、彼女のことを考えていいのはわたしだけ、とSな気質も垣間見せ、ますますいい感じです。お前、愛人に惚気んなよ~)。
ヘラ様とゼウスもこんな関係なんだろうな、という、推測の元にご紹介。


●特筆すべき行動 「ひとの夫に手を出すなら 妻の座の権利も責任も賭けて勝負に来なさいよっ わたしに勝てるものならね」

 一度は他の男に嫁がされかけたところを寺へ逃げ込んで力技で頼朝さんと結ばれる展開や、後に静(義経君の恋人)が義経君を慕う舞を待って皆の気持ちが静に傾きかけた時のとっさの頼朝さんとの連係プレーなど、政子さんのアグレッシヴな素敵言動は枚挙に暇がありませんが、わたしが作中で一番好きな政子さんの行動、それは、

「うわなりうち」

うわなり-うち うは― 【〈後妻〉打ち】<

(1)前妻が後妻をねたんで打つこと。
「あさましや、六条の御息所(みやすどころ)ほどのおん身にて、―の御ふるまひ/謡曲・葵上」

(2)室町末頃から近世初期にかけての習俗。離縁された先妻が親しい女たちなどに頼んで、予告して後妻の家を襲い、家財などを荒らさせたこと。相当打ち。騒動打ち。
(C・大辞林 第二版 (三省堂))

 
これです。政子さんが妊娠・出産・育児に精を出しているというのに、頼朝さんときたらちゃっかりその裏で以前の愛人亀の前を囲ってやがったのです。それを継母からチクられた政子さんは激怒、

「軽々しく主人の情人をあずかった伏見広綱の屋敷におもむき 
 門など壊してもかまわないから
 亀の前とかを引き出してくるように!
 わたしが教育しなおしてやります!」

と命じ、その通りにさせてしまうのです。
ねちねち陰湿ないじめでなく、ストレートにこんなに素直に嫉妬を表現されて、先ずビックリ。
どうやら史実らしいので二度ビックリ。(亀の前は相当怯えたようです)
このエピソードを知ってわたくし、政子さんのことが大好きになりました。
 さておき、まさにヘラ様的な行動じゃありませんか!「かかっていらっしゃい、勝てるものならね」という強気な姿勢も素敵でございます。


●総括・ヘラ様語り

 どうです、どこを切ってもヘラ様っぽいでしょう!(え?お前の目が歪んでるって??)
 この時代も古代ギリシアも(若干現代もだけど)圧倒的に女性に不利だったのだと思うのです。
 
なので、主導権が男性に行きがちなのは不公平だと分かっていつつ、頭のいい女性なら表立って反抗せず裏からご主人を操ると思うんですよね(ペネロペイアはこのタイプ)(でも裏から操らなきゃならん時点でやはり不公平)。こうやってヘラ様や政子さんみたいに正面きって堂々と渡り合うのは、結構デメリットも大きくて、男性側は煙たがるし、女性側だって気力体力要るわけです。
 でも、だからこそ、そんな環境であくまでも自分の意地を貫き通すヘラ様は、嫉妬深いといわれようと権高いとヒかれようと、

最高に輝いているのです!

(まあ、ヘラ様がそんな性格設定になっちゃった裏には、ギリシア神話が体系化するにあたっての、ヘラとゼウスの位置づけやらもともとの神格やら色々あるんでしょうが、その辺の歴史についてはこの際考えないことにします。わたしは体系化された後、それに色々神話が付け足された後の嫉妬深くて気の強いヘラ様が好きだ)
 
 ま、そのヘラ様を受け止められるゼウスも大した器ですよね。やっぱりこの二人、お似合い夫婦なんですね♪


(というわけで、鎌倉夫婦風ヘラ様とゼウス。…結局コレが描きたかっただけだろうって?イエッサー!

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