親中メルケルの集大成「EU・中国投資協定」で中国依存は修正不可能に 欧州議会が待ったをかけてくれたら…

親中メルケルの集大成「EU・中国投資協定」で中国依存は修正不可能に(川口 マーン 惠美) @gendai_biz

 

メルケル首相の中国尊重姿勢

昨年12月30日、大筋合意となったのが、今や悪名高き「EU・中国投資協定」。EUと中国の間ですでに7年も交渉が続いていたものだが、年の瀬も押し迫ったこの日、メルケル独首相、マクロン仏大統領、フォン・デア・ライエン欧州委員長、ミシェル欧州理事会議長、習近平主席が、オンライン会議で、ついに合意にこぎつけた。これまで不平等であったEUと中国間の投資条件の是正が、主な目的とされる。

欧州理事会はEU各国の指導者で構成され、EUの司令部といった機能を果たす。議長国は半年ごとの輪番制で、昨年後半はちょうどそれがドイツに回ってきていた。つまり、12月30日というのは、ドイツが議長国としての影響力を行使できる最後のチャンスだった。

ただ、この時点ですでに、同協定には欠陥があり、中国の人権侵害を黙認することになると指摘する声が挙がっていた。それでもメルケル首相は怯まず、正式な起草はのちに行うということで強引に押し通したという。この頃、バイデン新政権の対中姿勢がまだ不透明だったこともあり、何が何でも合意に持っていきたかったと思われる。

2005年以後、16年間、政権を守り続けているメルケル首相が、中国にとっての最大の支援者であることを知らない者はいない。

2007年に一度だけ、ダライ・ラマと首相官邸で会見したことで、中国の激しい反発を招いたが、それ以後、メルケル首相は態度を一変させた。以来、今日まで中国に対しては、恭順といって良い態度を貫いている。ほぼ毎年、中国を訪問し、また、中国首脳の訪問を受けているばかりか、中国の指導者とは結構、馬が合うらしく、特に、温家宝首相との関係は心からのものだったと言われる。

その間に中国はメキメキと力をつけ、「一帯一路」を展開し、そして、EU分断作戦である「17+1プロジェクト」も進めた。17+1プロジェクトというのは、ヨーロッパの比較的貧しい国を中国の大々的な投資でまとめたもので、参加国17ヵ国のうち12ヵ国がEU加盟国だ。つまり、今やEUの中に、明らかに中国の影響下にある国が12ヵ国もできてしまっていることになる。その領域は、エストニアから東欧、ギリシャを通り、バルカン半島に至る。

 

指導者が習近平に変わってからは、中国は静かに、しかし、はっきりと独裁に向かい始めた。2015年には製造強国を目指す国家戦略「メイド・イン・チャイナ2025」が打ち立てられ、ついに2017年、習近平の「皇帝」化も決定した。

メルケル首相と習近平国家首席の関係は、当然、過去の指導者とのそれとは違っているかもしれないが(あるいは、たいして変わらない?)、産業界に支えられたメルケル首相の中国尊重は、巌の如く盤石だ。独中関係はすでに深く、修正はおそらく不可能だが、メルケル首相はおそらく修正する気もないのだろう。

EUの中国依存はますます強くなる

ただ、よりによって昨年は、香港やウイグルで中国の深刻な人権侵害が露呈した年だった。それでも、EUが投資協定の締結を諦めないのは、これにより「中国とEUの間の信頼が深まり、経済の相互発展が促がされるから」とされる。

なお、EUの外交官の多くは親中派で、彼らは、中国が協定に託すのは、「開かれた市場と国民の安寧。つまり、中国はEUとの友好的な関係を求めているに過ぎない」と主張して憚らなかった。この大筋合意の後まもなく、世界中の政治家や中国問題専門家の間で、批准凍結を求める抗議運動が起こったことについては、当コラム2021年1月29日付で取り上げた。

https://gendai.ismedia.jp/articles/-/79739

 

そうするうちに、3月、アラスカで開かれたブリンケン米国務長官と楊潔篪氏の会見が破綻し、中国が牙を隠さなくなった。それを見たEUは、天安門事件以来30年ぶりの制裁を中国の個人4人と1団体にかけ、それに対する報復手段として、中国もEUの個人10人と4団体に制裁をかけ返した。ただ、おそらくどちらも何の痛みも感じていない。

その間にも投資協定の起草作業は滞りなく進んでいたらしく、正式な内容が、ようやく今になって漏れ伝わってきている。協定には、人権侵害を是正するよう中国に強制する文言はなく、それどころか付録として、中国で活動するNGOの現地代表は、中国国籍の人間でなければならないということが付け加えられたという。これが事実なら、ドイツの税金の補助を受けたNGOが、中国では将来、中国共産党の意向に基づいて活動するようになる。協定の批准は来年に予定されている。

ドイツ政府の中枢にも親中派は多く、「批准に際して生じるであろう多々な問題にもかかわらず」、投資協定は「非常に重要な案件」であり、「ドイツ政府は基本的にこの協定を支持する」との意見が今も強い。

また、力強い応援団長の一人が、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長だ。欧州委員会とはEUの内閣に相当し、委員長はいわばEUの首相。そのフォン・デア・ライエン氏はメルケル首相の盟友であり、12月の協定の大筋合意を、「我々(EU)の対中関係にとって(略)最も大切な一里塚」と絶賛した人物である。

 

実はEUとはそれほど民主的な組織ではなく、最重要案件は欧州理事会がたいてい密室で決める。そして、彼らが決めたことが欧州議会に回されて、たいていそのまま承認される。ところが今回に限っては、欧州議会では、さすがにこの投資協定に抵抗する声も上がっているため、これまでほどすんなりとはいかないかもしれない。

ちなみに、欧州議会の議員は、EUの組織の中では、唯一、選挙で選ばれた人たちだ。一方、もし、無事に批准となれば、もちろん、EUの中国依存はさらに強くなるだろう。

全てが茶番に見えて仕方がない

5月3日~5日にはロンドンで、G7の外相サミットが、久方ぶりに対面で開かれた。蛇足ながら、ドイツの第1、第2テレビはゴールデンタイムのニュースでこれについて報道したが、どちらの映像にも茂木外相の顔は1秒も出なかった。世界で日本の影がどんどん薄くなっているようで悲しい。

そのG7では、中国の東シナ海や南シナ海などでの横暴を非難する共同声明が採択された。もちろん、それ自体は評価すべきことではあるのだろうが、だからと言って中国が民主的な国際ルールに従うようになるとも思えない。

この頃、世界中がやおら中国に注目し、皆が中国のやり方を非難し始めたが、残念ながら、実態はなかなか見えない。例えば米国は、ウイグルでの人権抑圧をジェノサイドと認定したが、米企業は中国での投資をどんどん進めており、国民の中国製品の購入も落ちない。口では非難しながら、中国との経済関係はバイデン大統領になってから絶好調。それなりに中国依存は深まっている

マクロン仏大統領は、しかめっ面をしながらも、実は、メルケル首相とともに投資協定を押した一人だ。ただ、フランス国民はこの投資協定に反発しており、マクロン大統領に付いてこない。ひょっとすると仏政府は中仏関係の修正を余儀なくされるかもしれない(マクロン大統領のしかめっ面は国内向け)。とはいえ、どう転んでも、フランスも中国への経済的依存を解消できるとは思えない。

では、日本は? 今さら言うには及ばない。G7の会合で茂木外相は、「『海警法』の施行を含め、一方的な現状変更の試みが継続・強化されているとして深刻な懸念を表明した」らしいが、現実には、日本政府が中国政府を刺激することを嫌い、日本の漁船が尖閣諸島に近づくことすら極力妨害している。その結果、今や、尖閣周辺は中国の海となっているが、これを他の外相たちが知らないとでも思っているのだろうか。

また、中国とは関係がないが、G7の報道で腹が立ったのは、「拉致問題の早期解決への理解と協力を求め、各国の外相が支持を表明しました」(茂木外相)といういつもの決まり文句。他国に「理解と協力」を求めるのは、自分たちで何らかの努力をしてからだ。何もしないで、「こんなことが起こっています。どうにかしてください」と言い続けて40余年。何の理解と協力か!

 

最近、外相会議も、EUサミットも、国連も、全てが茶番に見えて仕方がない。対中包囲網やら対中制裁は口だけで、影では皆が抜け駆けを狙っている。そして、肝心の中国は皆に大事にされ、ますます元気ですくすく。せめて今回の「EU・中国投資協定」ぐらいは、欧州議会が待ったをかけてほしい……と思ってみたが、よく考えたらこれもやはり他力本願だった。

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