小池都知事の不安煽り政治

現在の環境基準値のおかしさを 読み取ってほしい

経済コラムマガジン

17/6/19 小池都知事の不安煽り政治

問題がない豊洲の地下水

築地市場の豊洲への移転が揉めて来た。また小池都知事が移転を延期したことで、さらにこの混迷の度は増した。原因は想定されていた盛土がなされていなかったことや、地下水に含まれるベンゼンが環境基準値の100倍だったことが影響している。このため昨年11月に予定されていた豊洲移転が見合わせられたままになっている。

これ以降、地下水の再検査を行ったり、豊洲移転を再検討するプロジェクトチーム(PT)を立ち上げたりして小池都政はさらに迷走した。ただ都の専門家会議は、豊洲は市場として安全と結論を出している。つまり安全面で豊洲への移転に障害はないと考えられる。


問題を複雑にしたのは、小池都知事の「安全」だけでは不十分であり、「安心」が必要というセリフであったと筆者は考える。これはマスコミ受けするかもしれないが、政治家として極めて無責任な発言と筆者は捉える。この発言をきっかけに事態の収拾が困難になった。

特に築地の業者の中には移転そのものに反対している者がいる。都知事の「安心」発言はこの反対派を勢い付けた。さらに大きな問題は、小池都知事の「安心」発言が豊洲市場が汚染されているかのような印象を世間に与えたことである。


そもそもこの環境基準値は、地下水を飲料に用いたケースを前提にしている。しかし豊洲市場では、地下水を飲料水にしないだけでなく清掃にも使わない。つまり全く使用しない地下水の環境基準値を検査することは本当に意味がなかったのである。これは環境オタクだった石原元都知事が、念のために地下水も検査するよう移転条件に付け加えたことが始まりだったようだ。しかし石原氏本人は、これが完全に間違いだったと反省し、今では豊洲移転を急ぐように訴えている。

ところで環境基準値は、毎日2リットルの地下水を70年間飲み続けた場合、10万人で1人がガンに罹るリスクがあるというレベルである。ちなみに豊洲は経費を掛けて除染作業を行ったが、除染前、ベンゼンは環境基準値の43,000倍もあったという。つまりこれまでの除染作業によって汚染物質はほとんど除去されたと見て良い。ただわずかに汚染物質が残り、またこの汚染物質が時々移動するので値は検査する度に変わるようである。このように安全性に問題のない豊洲市場であるが、小池都知事が何を勘違いしたのか風評被害を広めたことになる。知事が「無害化」とか言っているが、全く意味のないことである(未だに解っていないようだ)。

もし小池知事が本当の政治家なら「安全」なんだから「安心」して下さいと言うべきであった。ところが「安全」だけでは不十分で「安心」を求めるといったトンデモない発言をしたのである。何故、このようなバカげた発言を行ったか謎であるが、これを石原元都知事への攻撃材料の一つに使おうとしたのではないかと筆者は推測する。

近々、都知事は市場移転について結論を出すという話である。おそらく追加の安全対策を施すといったことで、豊洲移転を決断すると予測される。ただ説明して来た通り、追加の安全対策と言ってもほとんど意味の無いものである。だいたい豊洲の地下水は汚染されていることになっているが、この程度ならミネラルウォーターとして販売可能という話さえ出ている(環境基準値が過剰に安全サイドに片寄って設定されているといった指摘がある・・名水100選でもこの基準ではアウトになるものがある)。

また築地市場を残すという構想が出ているというが、これは豊洲市場の安全問題とは無関係である。またこれらついて都知事は「アウフヘーベン」といった全共闘時代の左翼活動家が好んで使っていた言葉を持出している。筆者はこのように奇妙な言葉を使って自分の不見識を誤魔化していると見る。筆者は、この都知事のままでは東京オリンピックの準備は危ういと思っている。


マスコミ出身の政治家は不安を煽る

これまでも「安心」を売り物にした無責任な政治家はいた。例えば民主党政権時代の小宮山厚労大臣である。小宮山大臣は「暫定基準の年間5ミリシーベルトでも安全は確保されていたが、子どもを持つお母さん達が心配していたので年間1ミリシーベルにしなければならなかった」と放射線被爆の環境基準値を唐突に厳しくした。

それまでKg当りの放射線セシウムの基準値は食品500ベクレム・飲料水200ベクレムであったが、これに伴い食品100ベクレム・飲料水10ベクレムと訳の分らないくらい厳しくなった。ちなみに欧米の一般食品の基準値は米国1,200ベクレム、EU1,250ベクレム(乳製品1,000ベクレム)である。特にEUの基準値は、1986年のチェルノブイリ原発事故後に設定したものであった。これで何も問題が起っていないという事実が重要である。


小宮山大臣のこの決定に対して、ICRP(国際放射線防護委員会)は驚くと同時に怒った。自分達が専門家として示した安全基準値がないがしろにされたのである。これも「安心」といった「まやかし」を実現するためであった(小宮山大臣が熱心な反原発活動家だったことを考えると筆者は解る)。

「安全」は科学的根拠を元に確保されるものであり、そのための基準値は科学的に設定されるべきである。もしその基準値にまだ人々が不安を覚えるなら、責任者や政治家は「安心して下さい」と諭すことが仕事である。この非科学的な1ミリシーベルへの基準変更は、その後様々な問題を起こしている。例えば除染作業はこのばかげた1ミリシーベルを目標に行われることになった。1ミリシーベルとは自然状態での放射線量の目安であり、世界を見渡せばこれを遥かに越える放射線量の地域はどれだけでもある(例えば花崗岩からは常に放射線が出ているのでどうしても石造り街は放射線値は高い)。

またこの非科学的な「安心」指向は、深刻な風評被害を生む原因になっている。被災地からの移転して来た生徒に対する「原発いじめ」はその一つである。これは「いじめ」を行っている生徒の問題というより、これらの生徒に影響を与えている周囲の大人(教師や親)の問題と筆者は考える。大人でありながら、放射線や放射性物質の危険性に関する正しい知識が決定的に欠除しているのである。

小池都知事と小宮山厚労大臣の共通点がある。両者は共にマスコミ(テレビ界)出身である(小池氏はテレビ東京のキャスター、小宮山氏はNHKのアナウンサー・解説者)。二人の言動にはこのマスコミ人の特徴がよく現れている。マスコミ人は「安全」が売り物にならないことを知っている。反対に視聴者や読者が「危険性や不安」に大きく反応することを彼等は熟知している。

マスコミの中でも特にテレビ界出身の政治家は「危険性や不安」を煽る傾向があると筆者は見ている。つまりこの二人は、人々の不安を煽ることによって自分に注目が集り、政治力を持てることを知っていてこれを実践したと言える。またこれによってテレビのようなメディア・マスコミが自分に近寄って来ることも熟知している。TBSテレビなどは「小池劇場」とかいった無内容の放送を毎日続けている。

しかし非科学的な「不安煽り政治」はいずれ壁にぶつかる。例えばどういうわけか除染作業では汚職が頻発している。また豊洲問題では、結局、何ごともなく移転が決まると思われる。では、これまでの大騒ぎは一体何だったということになる。

筆者としては「要するにから騒ぎに過ぎなかった」と言う他はない。しかしこれまでも非科学的な「不安煽り政治」を筆者達はよく見てきた。「日本の財政は危機的である」と人々の不安を煽り、「だから消費増税は急務」といった話なんかはその典型であろう。今日の本当の日本の危機は、他でもない北朝鮮情勢である。

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