国益ってなんでしょうか?
前回のエントリーに引き続きTPPの話題です。
前回の選挙では、TPP交渉参加に非常に慎重だった自民党が大勝したわけですので、普通に考えれば、今回の交渉参加表明は多くの有権者にとって少なからず不安を与えるはずです。
事実、自民党内ではTPP交渉参加に反対する議員連盟が200人を超えたのに対し、賛成派はわずか30人余りです。
ところが翌日以降、何故かマスコミは安倍首相のTPP交渉参加を大半が支持していると一斉に報じています。
例えば3月19日付のウォールストリートジャーナルに朝日新聞や読売新聞の世論調査の結果が出ています。
”安倍内閣支持率さらに上昇―TPP交渉参加、過半数が支持”
http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887324823704578369181944546510.html
記事によれば朝日の調査では71%、読売では60%、毎日では63%の国民が支持をしているそうです。
前民主党政権が交渉参加するよりは民主党より安定感のある自民党が交渉する事や、アベノミクスへの期待感から市場が久しぶりに活気を呈している事からも、TPPへの不安感が払しょくされ、支持にまわった人は少なからずいるでしょう。
しかし何か違和感を覚えるのは私だけでしょうか?とにかくマスコミの印象操作にだけは踊らされないことが大事だと思います。
ところで、マスコミはこれまでの「TPPに参加をしないと世界経済から取り残される」という主張から、「日本の国益を守る事を前提に交渉参加すべき」という主張へ重心をシフトしてきていているように思いますが、そもそも「国益」ってなんでしょうか?
このことを考えるにあたり、現在わかっているTPPの中身についてまずは確認したいと思います。
ポイントは大きく2つです。
まず一つ目のポイントは、TPPでは一切の関税を認めない事を原則とする事です。
(ここが他の経済連携:EPAや貿易協定:FTAと大きく違うところです。先般の日米首脳会談ではこの原則に対し例外がある事が確認できた、と安倍総理がコメントしていた訳です。)
この点は、マスコミでも農業を中心に「関税率」が取り上げられていたのでご存知の方も多いと思いますので深くは触れません。
ただ、一つだけ言えば日本の平均関税率は決して高いものではありません。G20の中で5番目に低い関税率です。
(ちなみに日本より関税率が低い国は、オーストラリア・アメリカ・カナダ・サウジアラビアです。ユーロより日本は関税率が低いのです。http://tppbot.jp/archives/381)
すでに関税率については十分開かれています。
続いて二つ目のポイントは、TPPは参加国内でヒトモノカネが自由に行きかえるように政府調達(公共事業など)、知的財産権、独占禁止法、サービス(法務、会計、医療、運送、小売、不動産、電気通信、金融)医療保険、電子商取引、環境規制、食品などの安全基準等、非常に広範囲かつ多岐に渡り、各国のルールや仕組みの統一を目指すという取り組みであるという点です。
そしてこれを担保するために悪名高いISD条項などを始めとした国家主権を揺るがしかねない取り決めがTPPという条約には含まれています。
国家主権を揺るがす、というとわかりにくいので、想定されている一例をあげます。
工業製品を代表する自動車で、日本独自の規格として「軽自動車」というカテゴリーがあります。
日本で自動車の販売を増やしたいアメリカの自動車メーカーは、この軽自動車という日本の規格がアメリカメーカーの自動車が売れない原因だ、不当である、といちゃもんをつけます。
彼らの言い分は「軽自動車は、税制面や高速道路料金も安いなど、普通自動車よりも優遇されているためアメリカ産の普通自動車の参入を阻害している。」と言ったものです。
日本で軽自動車を販売しないでも売れているドイツ車はどうなのか、単に日本で売れる普通車や軽自動車の開発能力がないだけではないのか、という事は彼らは基本的に考えません。
そしてもし、アメリカ自動車メーカーが勝訴した場合、日本が多額の賠償金を支払った上で制度を変えなくてはいけません。
賠償金の財源は私たちが払っている税金です。
日本で自分たちの製品が売れないのは、製品が悪いのではなく日本の制度が悪いのだ、と彼らは考えます。
そして彼らはこれをアメリカにとって不当な非関税障壁だとして日本を訴えるのです。
鈴木修スズキ会長兼社長は、アメリカがこの日本独自規格の軽自動車の優遇税制を「非関税障壁」と問題視していることについて、「TPPとは無関係。米国メーカーが軽自動車を作って輸出してもらって結構だ」とコメントしています。
まったくそのとおりだと思います。
ほかにも、狂牛病(BSE)で規制されていた牛肉の輸入制限の撤廃、遺伝子組換作物使用表示の撤廃など、日本が国民のために維持してきた法律や制度がTPPに参加することで「非関税障壁」として撤廃を迫られる可能性が濃厚で、正に国家主権の侵害と言えます。
さてもう一度考えてください。
上記を踏まえ、本当に農業品目の関税を守るだけで国益は守れるのでしょうか?
TPPは「経済新自由主義」,「市場主義」,「グローバリズム」と言った思想を根拠に生まれた制度です。
これらの思想は、そもそも国・政府は「効率が悪いもの、悪いことをするもの」であり、効率化のために市場を自由にさせて、国・政府は小さくてよい(場合によってはいらない)と考えるものです。
つまり国を大事にする、国益を考える、という視点がそもそもありません。
「TPPに参加する」ことと「国益を守る」ことを同時に言うことは確実に矛盾しているのです。
TPPで潤うのは、国ではなくグローバル企業です。
TPPの枠組み下でグローバル企業は更に国外での稼ぎに走ります。
こうした一部の企業のために、軽自動車の制度をなくすことや牛肉輸入の規制撤廃を行うことや遺伝子組み換え表示を撤廃することは、国民にとってプラスでしょうか?
そしてもう一つTPPについて指摘をしておきたいことですが、TPP参加により日本のGDPはほとんど増えません。
これは政府も公式に認めているところです。
TPP参加による日本のGDPに対する押し上げ効果として2013年3月15日に政府内閣官房が発表した「関税撤廃した場合の経済効果についての政府統一試算」によれば、そのマクロ経済効果は10年間で3.2兆円(対GDP比0.66%増加)しかありません。
10年かかって3.2兆円しか押し上げ効果しかないとは、もう笑うしかありません。
参照 ”内閣官房HP内 「マクロ経済効果のイメージ」”
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2013/130318_keizaikouka.pdf
日本のGDPがほとんど増えないのに、国民には何のメリットがあって国の制度を大きく変えてまで参加しなければならないのでしょうか。
2/18西田昌司参議院議員が国会で安倍総理へTPP参加メリットについて質問した際、安倍総理は次のように回答しました。
「TPPについてはですね、今政府からお答えさせていただきましたが、少しでもプラスになるようなことがあったら、また基本的な姿勢なんですね、TPPに参加となったあと、たとえばEUそして東南アジアとどんどん広がっていくことになっていくわけであってトータルで考えなくてはならない」※回答中の政府からの答えとは上記の内閣官房作成資料のことです。
控えめに言ってこれまでのアベノミクスとは違い、随分抽象的なコメントだと思います。
但し、一般人の私と安倍総理では持っている情報量や視野の広さに雲泥の差であるので、(前回のエントリーで触れましたが)だから即、自民党批判や安倍叩きをするつもりはありません。
そうではなく、これまであまり考えられてこなかった国益という問題に焦点をあて、日本の国益とは何か、ひいては日本の将来はどうあるべきか、という事を国民が真剣に考えることこそが、現段階では国益になるのではないかと思います。
前回のエントリーに引き続きTPPの話題です。
前回の選挙では、TPP交渉参加に非常に慎重だった自民党が大勝したわけですので、普通に考えれば、今回の交渉参加表明は多くの有権者にとって少なからず不安を与えるはずです。
事実、自民党内ではTPP交渉参加に反対する議員連盟が200人を超えたのに対し、賛成派はわずか30人余りです。
ところが翌日以降、何故かマスコミは安倍首相のTPP交渉参加を大半が支持していると一斉に報じています。
例えば3月19日付のウォールストリートジャーナルに朝日新聞や読売新聞の世論調査の結果が出ています。
”安倍内閣支持率さらに上昇―TPP交渉参加、過半数が支持”
http://jp.wsj.com/article/SB10001424127887324823704578369181944546510.html
記事によれば朝日の調査では71%、読売では60%、毎日では63%の国民が支持をしているそうです。
前民主党政権が交渉参加するよりは民主党より安定感のある自民党が交渉する事や、アベノミクスへの期待感から市場が久しぶりに活気を呈している事からも、TPPへの不安感が払しょくされ、支持にまわった人は少なからずいるでしょう。
しかし何か違和感を覚えるのは私だけでしょうか?とにかくマスコミの印象操作にだけは踊らされないことが大事だと思います。
ところで、マスコミはこれまでの「TPPに参加をしないと世界経済から取り残される」という主張から、「日本の国益を守る事を前提に交渉参加すべき」という主張へ重心をシフトしてきていているように思いますが、そもそも「国益」ってなんでしょうか?
このことを考えるにあたり、現在わかっているTPPの中身についてまずは確認したいと思います。
ポイントは大きく2つです。
まず一つ目のポイントは、TPPでは一切の関税を認めない事を原則とする事です。
(ここが他の経済連携:EPAや貿易協定:FTAと大きく違うところです。先般の日米首脳会談ではこの原則に対し例外がある事が確認できた、と安倍総理がコメントしていた訳です。)
この点は、マスコミでも農業を中心に「関税率」が取り上げられていたのでご存知の方も多いと思いますので深くは触れません。
ただ、一つだけ言えば日本の平均関税率は決して高いものではありません。G20の中で5番目に低い関税率です。
(ちなみに日本より関税率が低い国は、オーストラリア・アメリカ・カナダ・サウジアラビアです。ユーロより日本は関税率が低いのです。http://tppbot.jp/archives/381)
すでに関税率については十分開かれています。
続いて二つ目のポイントは、TPPは参加国内でヒトモノカネが自由に行きかえるように政府調達(公共事業など)、知的財産権、独占禁止法、サービス(法務、会計、医療、運送、小売、不動産、電気通信、金融)医療保険、電子商取引、環境規制、食品などの安全基準等、非常に広範囲かつ多岐に渡り、各国のルールや仕組みの統一を目指すという取り組みであるという点です。
そしてこれを担保するために悪名高いISD条項などを始めとした国家主権を揺るがしかねない取り決めがTPPという条約には含まれています。
国家主権を揺るがす、というとわかりにくいので、想定されている一例をあげます。
工業製品を代表する自動車で、日本独自の規格として「軽自動車」というカテゴリーがあります。
日本で自動車の販売を増やしたいアメリカの自動車メーカーは、この軽自動車という日本の規格がアメリカメーカーの自動車が売れない原因だ、不当である、といちゃもんをつけます。
彼らの言い分は「軽自動車は、税制面や高速道路料金も安いなど、普通自動車よりも優遇されているためアメリカ産の普通自動車の参入を阻害している。」と言ったものです。
日本で軽自動車を販売しないでも売れているドイツ車はどうなのか、単に日本で売れる普通車や軽自動車の開発能力がないだけではないのか、という事は彼らは基本的に考えません。
そしてもし、アメリカ自動車メーカーが勝訴した場合、日本が多額の賠償金を支払った上で制度を変えなくてはいけません。
賠償金の財源は私たちが払っている税金です。
日本で自分たちの製品が売れないのは、製品が悪いのではなく日本の制度が悪いのだ、と彼らは考えます。
そして彼らはこれをアメリカにとって不当な非関税障壁だとして日本を訴えるのです。
鈴木修スズキ会長兼社長は、アメリカがこの日本独自規格の軽自動車の優遇税制を「非関税障壁」と問題視していることについて、「TPPとは無関係。米国メーカーが軽自動車を作って輸出してもらって結構だ」とコメントしています。
まったくそのとおりだと思います。
ほかにも、狂牛病(BSE)で規制されていた牛肉の輸入制限の撤廃、遺伝子組換作物使用表示の撤廃など、日本が国民のために維持してきた法律や制度がTPPに参加することで「非関税障壁」として撤廃を迫られる可能性が濃厚で、正に国家主権の侵害と言えます。
さてもう一度考えてください。
上記を踏まえ、本当に農業品目の関税を守るだけで国益は守れるのでしょうか?
TPPは「経済新自由主義」,「市場主義」,「グローバリズム」と言った思想を根拠に生まれた制度です。
これらの思想は、そもそも国・政府は「効率が悪いもの、悪いことをするもの」であり、効率化のために市場を自由にさせて、国・政府は小さくてよい(場合によってはいらない)と考えるものです。
つまり国を大事にする、国益を考える、という視点がそもそもありません。
「TPPに参加する」ことと「国益を守る」ことを同時に言うことは確実に矛盾しているのです。
TPPで潤うのは、国ではなくグローバル企業です。
TPPの枠組み下でグローバル企業は更に国外での稼ぎに走ります。
こうした一部の企業のために、軽自動車の制度をなくすことや牛肉輸入の規制撤廃を行うことや遺伝子組み換え表示を撤廃することは、国民にとってプラスでしょうか?
そしてもう一つTPPについて指摘をしておきたいことですが、TPP参加により日本のGDPはほとんど増えません。
これは政府も公式に認めているところです。
TPP参加による日本のGDPに対する押し上げ効果として2013年3月15日に政府内閣官房が発表した「関税撤廃した場合の経済効果についての政府統一試算」によれば、そのマクロ経済効果は10年間で3.2兆円(対GDP比0.66%増加)しかありません。
10年かかって3.2兆円しか押し上げ効果しかないとは、もう笑うしかありません。
参照 ”内閣官房HP内 「マクロ経済効果のイメージ」”
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/pdf/2013/130318_keizaikouka.pdf
日本のGDPがほとんど増えないのに、国民には何のメリットがあって国の制度を大きく変えてまで参加しなければならないのでしょうか。
2/18西田昌司参議院議員が国会で安倍総理へTPP参加メリットについて質問した際、安倍総理は次のように回答しました。
「TPPについてはですね、今政府からお答えさせていただきましたが、少しでもプラスになるようなことがあったら、また基本的な姿勢なんですね、TPPに参加となったあと、たとえばEUそして東南アジアとどんどん広がっていくことになっていくわけであってトータルで考えなくてはならない」※回答中の政府からの答えとは上記の内閣官房作成資料のことです。
控えめに言ってこれまでのアベノミクスとは違い、随分抽象的なコメントだと思います。
但し、一般人の私と安倍総理では持っている情報量や視野の広さに雲泥の差であるので、(前回のエントリーで触れましたが)だから即、自民党批判や安倍叩きをするつもりはありません。
そうではなく、これまであまり考えられてこなかった国益という問題に焦点をあて、日本の国益とは何か、ひいては日本の将来はどうあるべきか、という事を国民が真剣に考えることこそが、現段階では国益になるのではないかと思います。