ブログはじめました!(仮)

政治、経済、歴史、その他

サンフランシスコ講和条約第11条と歴史認識の呪い

2014年02月06日 | 歴史
サンフランシスコ講和条約第11条と歴史認識の呪い

2月1日に行われた、維新の会の党大会の橋本共同代表による冒頭あいさつで、彼自身の歴史認識について以下の主旨を述べていました。
「日本はサンフランシスコ講和条約を受け入れたのだから、東京裁判を認め、侵略戦争をしたという事実を世界に向けて受け入れた事になる。もしこの事実を受け入れないのであればこれを破棄するしかない。破棄できないのであれば、先の大戦は日本の侵略戦争だったという評価は受け入れざるを得ず、そうではないとする歴史認識の主張を為政者としてするのは無駄であり、自衛戦争だったなどという主張は歴史家にまかせれば良い。」

私は、彼のこの発言は、非常に見識が狭い意見で、この問題をミスリードするものだと思います。

橋下氏が取り上げているサンフランシスコ講和条約の原文には、第11条に次の様に書かれています。
”Japan accepts the judgments of the International Military Tribunal for the Far East~”
上記原文の外務省訳では「日本は極東国際軍事裁判所の裁判を受諾する」となっています。

橋下氏は、この外務省訳の「裁判の受諾」という表記をもって、サンフランシスコ講和条約で日本が極東国際軍事裁判所(いわゆる東京裁判)の正統性を世界に向かって認めた証拠だ、と主張しているのです。
ちなみにこの論法は、田原総一郎がよく使い、「サンフランシスコで東京裁判を日本は受け入れたのだから、A級戦犯が祀られる靖国神社へ首相が参拝するべきではない」というテンプレに続きます。(参拝はしましたが、小泉元首相も同様の主旨の発言をしています。)

しかしこれには対論が存在します。
それは原文中の”judgments”という単語の解釈に端を発します。
judgmentsという複数形では、通常「裁判」とは訳さず「諸判決」と訳す方が自然だからです。そもそも裁判を受諾した、なんて言い方は変です。
この解釈では、「日本は東京裁判は認めないが、判決は受け入れる。」という姿勢を示すことができ、つまり東京裁判を丸ごと受け入れていない、という事を主張することができます。
これをもっと具体的に言えば「東京裁判の判決は決まったことだから執行はするが、東京裁判の正統性や、先の大戦は日本の侵略行為だったとする、いわゆる東京裁判史観は認めてない」という事になります。
ご存知の方も多いと思いますが、この東京裁判は、勝者の政治ショーとも呼ばれ、その法的根拠が一切なく、平和に対する罪(いわゆるA級犯罪)等、当時は存在しない犯罪を事後にでっち上げ、不十分な証拠で罪人を作り上げた、裁判とは名ばかりの単なる敵国の復讐劇です。
では本当に当時の日本人が東京裁判史観を受け入れていたのでしょうか?

くだんのサンフランシスコ講和条約の第11条の条文の意味について、当時の日本の外務省は以下のように発言し見解を示しています。
「平和条約(サンフランシスコ講和条約)の効力発生と同時に、戦犯に対する判決は将来に向かって効力を失い、裁判がまだ終わっていない者は釈放しなければならないというのが国際法の原則であります。従って、11条はそういう当然の結果にならないために置かれたものでございまして、第1段におきまして、日本国は極東軍事裁判所その他連合国の軍事裁判所によってなした判決を受諾するということになっております」(西村熊雄外務省条約局長 昭和26年10月17日)

つまり、日本の連合国による占領が終わり日本が独立を回復したら、当時の国際法の原則では、当然に、占領下政策の一環であった東京裁判の「判決」は効力を失うため、この条文を入れて「判決」の効果(=刑の執行)のみを縛っただけだ、と「当時の外務省」が国会において答弁しているのです。
これでもサンフランシスコ講和条約を締結した当時の日本は、東京裁判史観を丸ごと認めた、侵略戦争を認めたと言えるでしょうか?

話しは戻りますが、橋下氏の主張を要約すると「日本は侵略戦争をした事を外交上認めなければだめだ。」という事になります。
彼の主張は、サンフランシスコ講和条約などを引用し、一見歴史的な事実のような印象をあたえていますが、実際には上記の疑義には一切触れず、単に彼の持論の補強に利用しているだけです。
日本が侵略戦争をした事を認めろ、という彼の主張は、まるでアジアの何処かの国々の主張のようです。
(なお、仮に「サンフランシスコ講和条約で日本が侵略戦争を認めた」という文脈にのったとしても、このアジアの何処かの国々は、そもそもサンフランシスコ講和条約に参加すらしていません。)

確かに戦後世界の中で、日本が安全保障を外国に依存している現状や、国内でも多くの日本国民が戦後教育に洗脳されているようでは、今の日本が、その正統性を世界に認めさせること(少なくとも日本の主張を知ってもらうこと)は、可能が低く、やる気もないため、橋下氏が言うように無駄な事かもしれません。
また、世界が統一的な歴史認識を持つことは不可能に近く、それは近代に近づけば近づくほど難しい作業となります。

しかし、本当に平和を求めたいのであれば、戦争の原因は日本の侵略行為によるものだとする、戦争を善と悪という幼稚な2元論で評価することをやめ、何故先の大戦が起こってしまったのか、という事を当時の世界や国内情勢を踏まえ、その原因を真剣に考えない限り、また同じ過ちを繰り返すことになるでしょう。(私が思うに、戦争を誘引した世界的情勢は、列強国による帝国主義、グローバリズムの深化、経済不況、理性主義の席巻。国内的には経済事情、マスコミや言論人の猛烈な煽りによる国内世論誘導、だと思います。このことを少しでも知っていれば、単なるグローバル主義であるTPPやマスコミの偏向, 扇動報道に対して、耐性を持つことができるのですが・・。)
橋下氏の主張は、戦勝国の歴史観にすり寄る行為に等しく、戦争の真実や原因を知る可能性を永遠に閉ざすことになりかねません。

橋下氏の主張は問題があると思います。
この彼の主張を大勢の人が疑問を持たず、信じてしまえば、戦後日本の歴史認識という呪い、戦後レジームからの脱却は永遠にできなくなるでしょう。


3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
何故? (幹太郎の父)
2014-02-10 22:51:08
サンフランシスコ講和条約が締結され、国内では社会党や共産党も含めて、名誉回復と恩赦が成立したのに、橋下氏はなぜそんなことを言うのか、今更。
論争や解釈の相違があることは、徹底的に自国有利に、が国際的常識。こんなことを国民に指摘されるようでは、橋下氏は政治家失格ではないですか?
返信する
Re:何故? (mikisonson)
2014-02-13 00:05:29
幹太郎の父様、コメントありがとうございます(笑)
戦後日本は、それまでの正義を捨て、アメリカが世界平和そのものだと盲信して、独立回復後も戦後体制に邁進し、先の大戦の総括をまともにせず、侵略戦争をしたと教育し、戦後レジームの維持に努めてきました。
つまり、どちらかというと橋下氏の発言は、今の日本の世論のスタンダードで、万人に耳障りの良い主張だと思います。
そういう意味で彼は政治家です。
エントリーでは触れませんでしたが、取り上げた発言の後半で、「戦場における売春行為はどこの国でやっている事で、日本だけが従軍慰安婦で非難されるのは不公平だ。主張すべきことは主張する。」と強弁しています。
これも一見正論のようですが、従軍慰安婦の問題は、旧日本軍による「強制連行の有無」がそもそもの問題で、戦場の売春行為に対する事が問題ではなかったはずです。(もちろん私は売春行為が問題ないと言いたい訳ではありません)
そして彼のこの発言もまた、国民をミスリードしかねないものです。売春行為の問題に終始してしまうと強制連行は無かったと主張する機会を失なってしまうからです。
サンフランシスコ講和条約といい、何故か彼は問題の中心をズラそうとしています。彼の不見識から来るものなのか、意識的なものなのかわかりませんが、大衆の気持ちを代弁するという才能には長けていると感じます。
私は、本当の問題は、彼の論点ズラしに気づかず、彼に心酔し、彼を選んだ浅薄な国民であると思います。幹太郎はそうならない様に真っ直ぐ育てやって下さい。
返信する
何故? (幹太郎の父)
2014-02-13 13:10:31
早速コメント頂きありがとうございます。なるほど、論点ズラしは意図的にやってる可能性がありますね。いきなり正論でいくと、人気もそこそこになると踏んでいるのか…
それにしても、彼はタレント弁護士時代に相当稼いでいたらしく、一説には年収3億とか。そのポジションを捨て、政治の世界に飛び込んだ勇気は凄いと思います。既得権益に安住しない姿勢とか。
返信する

コメントを投稿