Mac miniのある生活

連載小説:タイトル未定 第四話(語り:佐々木 崇)

【第一話は、こちらへ】

「理沙のやつ、だいじょうぶやろか?」
悠一がそんなことを言い出すなんて、全く予想外だったので返答に困ってしまった。いや、僕が普段の僕だったら、予想出来ていた範囲だと思ったのかも知れないけど。
他の誰かじゃあるまいし、悠一はそういうことを言わないと思っていた。
そもそも、今回のコンパの幹事は悠一だ。
僕と中道真希をくっ付けるという以外に、どれほどの意味があったか分からないコンパを、自分の彼女と一緒にセッティングしたのは悠一だ。
それ、どういう意味?
「えーと。つまり崇がオレなら、何も心配せんわけよ。でも、崇は崇やんか。だから、理沙が心配というか、理沙に対する崇も心配というか、まーそんなとこやわ。」
意図しないで口をついてしまった台詞に対して、それを取り繕おうとするとき、大抵の場合、人はシドロモドロになるものだけど、この時の悠一はそんなイメージそのものという反応をした。

悠一は親友だし、今回のコンパをセッティングしてくれたんだし、きちんと報告しておくべきだと思った。
真希は、自然に生きている感じがする。
必要以上に僕に合わせることをしないけど、自分勝手な我がままを通さない。
まだ、彼女のことは何も分からないはずなんだけど、でも、分かる気がする。
真希はプログラマなんだけど、それは僕にとっては尊敬の対象でもあり、理路整然とした話し方は、頭の良さを感じさせて、本当にすばらしい。
真希も、僕のことを好きだと言ってくれたので、付き合うことにした。
というような話を聞かせている間、悠一は、僕の話に同調するでもなく、否定するでもなく、複雑な表情を含んだ笑みを浮かべて僕のことを見ていた。
「要するに、惚れたん?」
だから、そう言いよるやん。
そして、変な間をおいて冒頭の言葉だ。

前の彼女とは大学を卒業する少し前に別れたから、僕はそれなりに長い社会人生活を彼女がいないまま過ごしてきた。
でもそれは、理沙のためにそうしてきたわけじゃない。
理沙は、社会人になってから彼氏が出来たことがある。
一年とか一年半とかして別れてしまったけど、僕と理沙との間に、その前後で何かがあったわけでもない。
理沙が悠一と別れた後、何事もなかったのと同じように。
僕らは、ずっと親友だ。おそらく、これからも変わらず。多分そうだ。

「誤解せんで欲しいんやけど。真希ちゃんとのこと、良かったと思っとるよ。それは、嘘やない。」
とりあえず、ありがと。
「理沙のことは、多分、オレの考え過ぎ、つーか。あいつとはしばらく会ってないし、ちょっと理沙の輪郭がボヤけてるんやろ。」
悠一は、「輪郭」というところで、両方の手を使って頭から腰の辺りまでの人型をなぞるようにした。
嘘をつく人は大げさなジェスチャーをしがちだ、という話を聞いたことがある。
何か、上手いこと誤摩化そうとしとるよな?
でも、悠一は黙ったまま、半分くらいは残っていたはずの500ml入り缶ビールを飲み干した後、「悪い、由実を迎えに行く時間やわ。今度絶対、もっとちゃんと話すし、な。」
そう言って客人を残したまま、そそくさと出て行ってしまった。

僕と真希のことを喜んでくれる気持ちがあったのは間違いないだろうし、悠一は、馬鹿げた冷やかしをするタイプでもない。
理沙が、どうなると思ったんだろう。
このことが、理沙にどんな影響を与えると思ったんだろう。
それとも、悠一にとって壊して欲しくない何かを、僕が壊そうとしてしまっているんだろうか。
親友だと思っていた悠一のことも、理沙のことも、僕は何も分かっていなかったんだろうか。
理沙が僕に惚れているなんて、そんな風に思ってるんだろうか。
そう思いながら家路について、しばらく車を走らせていたんだけど、家に着く頃には、結局は真希のことを考えていた。
僕なら30分はかかるだろう文書量を、真希は10分とかそのくらいでメールしてくる。
ケータイでメールするのは苦手なので、こちらからの返信はぶっきらぼうな感じで許してもらっているんだけど、真希はかまわずにどんどんメールを送ってくる。
でも、電話なら話は別だ。帰るなり、すぐにベッドに転がって、充電器を繋いで早速電話する。
何時間もかかって話した僕の話を要約すれば、「どれだけ真希のことが好きか」ということだったし、それは真希の方も同じだった。
真希の声を聞いているだけで、空気の匂いや色まで変わって、身の回りのもの全てが祝福してくれているような気になった。
恋愛が与えてくれる、何物にも換え難い幸福感を、真希も僕も、五感の全てを使って感じていた。



(以下、第五話へつづく)
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