TOKYO ⇔ SAIGON そしてたくさんの街へ

東京とサイゴン、そして、いろいろな街を巡ります。

夏のお通夜

2008-08-02 | Weblog

いとこの男性がなくなった。心筋梗塞だった。

医者の不養生というけれど、彼はまさしくそれだった。勤務中に病院のなかで突然倒れたらしい。そしてそのまま逝った。

このいとこは妹がまだ小さいので、毎年夏休みになると、ずっと我が家で預かっていた。弟がまだ小さくて相手にならないので、わたしはこの子をあちこち連れまわし、男の子の遊びを教えた。

虫取り、ザリガニ釣り、ベーゴマ、そして自転車で一日中遠出したりもした。私の自転車のスピードに必死になって付いてくる子。朝になると「○○ちゃん、今日は何する?」といって、わたしを起こしに来た。「じゃあ、今日は50メートル走しよう」などといって、大きく差をつけて泣かせたりもした。

読経の間中、必死になって自転車をこいで、わたしについてくるいとこのイメージが頭のなかに浮かんだ。涙が止まらなかった。

喪主は別れた妻が引き取った21歳の長男だった。元妻は来ていなかったが、4ヶ月前に結婚したばかりの20歳以上年の離れた新婚の妻がいた。彼女も医者だった。

肩を落とした彼女に通夜のあとのお清めの席でわたしは言った。こんな席でいうべきではないのかもしれないけれど。

「辛いだろうけど早く気持ちを切り替えてやり直してね。亡くなった人のことは
 もう仕方がない。わたしがこんなこというのも変だけど、忘れてもいいのよ。
 義理立てしないでやり直して。こんなに若くて綺麗なのだから。
 彼もきっとそう思ってると思う」

彼女はその日初めて、涙を見せた。泣きながら彼女は言った。

「心筋梗塞は必ず前駆症状があるから、彼にもあったはずなんです。だけど、
 私にそれを言ってくれなかった。もしかしたら、彼はそれを認めるのが
 怖かったのかもしれない。言ってくれれば、わたしが彼を助けられたのに…」

美しい女性だった。彼女は夫に「なぜ自分に相談してくれなかったの?!」とおそらく心の中で叫んでいる。「言ってくればあなたはわたしを一人にしなくですんだのよ」と。

離婚して養育費のために働きづめで、やっと出会えた若くて美しく賢い同業者のパートナー。いとこはこの幸せを脅かす事実を、認める勇気がなかったのだろう。もう、まったくご都合主義、臆病者。結局こんな美しい奥さんを悲しませるなんてバカだよ。いとこを昔のように、叱ってやりたかった。

命を生み、命を奪う。どちらも夏。


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