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本日モ晴天ナリ

松田内科クリニックのサイト管理者oku-muがいろいろ書いてます

予想外の収穫

2009-07-06 | 読書
事情があって(汗)先月中旬から1ヶ月ほど、車の運転ができません。仕事の上ではかなり不自由なのですが、思わぬ収穫もありました。

移動に公共交通機関を使用したり、徒歩や自転車に乗るようになったため、とても良い運動になっています。地下鉄の階段が、足腰を鍛えるのにとても良いこともわかりました。車に頼りきった生活はやはり考えものですね。
また乗り継ぎの待ち時間や車内で読書ができるのも嬉しいことです。さらに余分な外出をしないためますます本に向かう時間を確保することができました。

また先日東京の演奏会に出かけた折も、往復の新幹線でたっぷり読書を楽しみました。そのうちの1冊が、画像の本です。

コリン・ジョイス/谷岡健彦訳:「ニッポン社会」入門 英国人記者の抱腹レポート

ジョイス氏は1970年生まれでオックスフォード大学卒、ニューズウィークやデイリー・テレグラフの記者として長く日本に住んでいた経験から、この本を書いたそうです。イギリス人らしいユーモアと意外な切り口、何より日本社会に対する愛情も伝わってくる、とても楽しい1冊でした。
2007年からはニューヨークに移り住み、今度はそこでの経験をもとに

コリン・ジョイス/谷岡健彦訳:「アメリカ社会」入門 英国人ニューヨークに住む

を書いています。こちらも大変おもしろい本です。どちらもすぐにページが進む、とても読みやすい本ですので、興味のある方は通勤のお供にどうぞ。

さて私はあと2週間、二本足中心にがんばりたいと思います

1Q84

2009-05-27 | 読書
5月29日、5年ぶりに村上春樹の新刊が発売されます。タイトルは「1Q84(いちきゅうはちよん)」。発売前から予約が殺到し、初版で上巻25万部!だそうです。春樹人気はすごいですねえ。決して読みやすい小説家じゃないのに。

このニュース、今日の報道ステーションでも取り上げられていました。村上春樹の紹介なのか、エルサレム賞(イスラエルの文学賞)の授賞式における彼のスピーチについて言及していました。スピーチの全文はこちらで見られます。このスピーチはもちろん英語でされたもので、多くの人が日本語に訳しています。検索するといろいろな訳がみつかりますので、興味のある方はどうぞ。リンクは読売新聞にしておきました。読売のはあまり文学的とは言えませんが、一応最大手のメディアということで選んでみました。

さて話はもどって報道ステーションです。「この授賞式で村上春樹はイスラエルを“壁”、パレスチナを“卵”にたとえてイスラエル批判を行った」と言い切ったテレビ朝日には本当に仰天しました。以前、こちらで記事にしたように、村上氏はそんなことを言いにエルサレムに行ったんじゃありません。大丈夫なのか、朝日…
キャスターの古館伊知朗が相変わらずの○○ぶりを発揮して「本当にそうですよね。イスラエルの大統領の前ではっきりとイスラエルを批判するなんて、立派だと思います!」


・・・・・


読解力がないのか?(そもそもスピーチの内容を知っているのか?)
古館氏はまあ置いとくとして、朝日はどうなの?と思って家人に話してみると「それは朝日に読解力がないんじゃなくて、わかってやっているんだ」との返答、なるほど。それならわかる、情報操作っていうの?
どちらにしても、報道された内容がかならずしも真実と一致しないことが大変よくわかる事例でした。

やっぱりメディア・リテラシー(media literacy)っていうのが必要ですね。

僕はなぜエルサレムに行ったのか

2009-03-13 | 読書
画像の文藝春秋4月号、タイトルの記事を読みたくて久しぶりに買いました。
作家の村上春樹氏がイスラエルのエルサレム国際ブックフェアから、エルサレム賞という文学賞を受賞した、というニュースはご存知の方も多いと思います。昨年秋のイスラエルによるガザへの空爆により、世論はイスラエル批判に傾いていますから、この賞を受賞する村上氏は当然非難の対象になりました。「あのようなひどいことをする国から文学賞を嬉しそうにもらうなんて、けしからん」というわけですね。受賞を辞退するように各方面から圧力がかかったり、親しくしている周囲の人々も一斉に彼に賞の辞退を勧めたことは、このインタビュー記事の中で村上氏が明らかにしています。

それでも結局彼はイスラエルに行き、エルサレム賞を受賞しました。この賞を受賞した人は授賞式の会場でスピーチをすることになっているようで、村上氏ももちろん15分ほどのスピーチを英語で行ないました。スピーチのタイトルは"Of Walls and Eggs"「壁と卵」、報道ではスピーチの内容がほんの短く紹介されていました。紹介されたのはだいたい以下の部分ですが、日本語訳は違っていたかもしれませんのであしからず。

「だからこそ私はここにいます。来ないことよりは、来ることを選んだのです。何も見ないよりは、何かを見ることを選んだのです。何も言わずにいるよりは、皆さんに話しかけることを選んだのです。----------------------
もしここに硬い大きな壁があり、そこにぶつかって割れる卵があったとしたら、私は常に卵の側に立ちます。」

この短い文章を読んだ人はどんな感想を持つでしょうか。これだけから判断すれば、当然壁は圧倒的な軍事力のイスラエル、ガザに封鎖されたパレスチナ人が卵だということになるでしょう。だとすると村上春樹は弱いものいじめをしているイスラエルを批判するために、わざわざ賞を受賞してエルサレムに乗り込んだということになります。そしてお祝いをしに来てくれたイスラエルの大統領はじめ大勢の前で「君たちのしていることは本当にけしからん。」というスピーチをしたのでしょうか。もしそうなら、村上春樹という作家はずいぶん傲慢な人間ですね。無礼と言ってもいいでしょう。私は国家としてのイスラエルを支持する気にはとてもなれませんが、もし批判するならもう少しフェアなやり方があるのではないかと思います。村上氏は本当にそんな人間なのでしょうか。それとも一部アラブ系の新聞が批判したように、ノーベル文学賞を将来もらうための重要な足がかりと思って受賞したのでしょうか。
今までの村上氏の発信するopinionからは、どうしてもそういった野心のようなものを感じることができないのです。
そこで「僕はなぜエルサレムに行ったのか」を読めば疑問が解けるのではないかと考えました。

結論から言うと、彼の真意はまったく別なところにありました。
この賞を受けるべきか否か、ずいぶん迷ったと書いてありました。本当にそうだったのでしょう。でもあえて彼は受賞することを選んだわけですが、それは当然公の場でものを言う非常に良い機会だと思ったからですけど、その他に実際エルサレムに行って人々がどのようなことを考えて生活しているのか自分の目で見てみたいという、作家としての好奇心もあったようです。

彼が前述のたとえとして使った「壁と卵」、これはある面においてはイスラエルとパレスチナなんですけど、本当に言いたかったのは別のことです。卵というのは一人一人の生身の人間、または人間がもつ良心や知性(彼は魂・soulと言っています)などのことを意味します。対して壁に相当するのは人間が作り出したいろいろなシステム、国家権力なんかもそうでしょうね。そもそも人間を守るために作り出されたシステムが、いつのまにか暴走して人間を痛めつけていることに心を痛める作家による、人間への愛情あふれたスピーチだったのです。一部抜粋します。

「 私がここで皆さんに伝えたいことはひとつです。国籍や人種や宗教を超えて、我々はみんな一人一人の人間です。システムという強固な壁を前にした、ひとつひとつの卵です。我々にはとても勝ち目はないように見えます。壁はあまりに高く硬く、そして冷ややかです。もし我々に勝ち目のようなものがあるとしたら、それは我々が自らの、そしてお互いの魂のかけがえのなさを信じ、その温かみを寄せ合わせることから生まれてくるものでしかありません。
 考えてみてください。我々の一人一人には手に取ることのできる、生きた魂があります。システムにはそれはありません。システムに我々を利用させてはなりません。システムを独り立ちさせてはなりません。システムが我々を作ったのではありません。我々がシステムを作ったのです。
 私が皆さんに申し上げたいのはそれだけです。」

会場ではこのスピーチを聞いて不快に思った人もいれば、拍手をしてくれる人もいたそうです。少なくとも、その場においてはイスラエル人達は壁ではなく卵だったわけです。それがイスラエルという国家になると、とたんに壁になってしまって、卵をどんどんはねかえしていく。もっと一人一人が知恵を使って、硬い壁にならないようにできないだろうか、そう言いたかったのだと思います。

村上春樹はやっぱりいいヒトだったんですね~(熱くて青くてちょっとベタだけど・・・
若者に人気があるのもわかるような気がします。

新書ブーム

2009-03-12 | 読書
今、空前の新書ブームなんだそうです。
そういえば昔は新書と言えば岩波新書、その他中公新書、講談社現代新書くらいを目にした程度でしたが、この頃はいろいろな新書が書店に並んでいます。新書は教養本と言われますけど、中にはとても教養を得るためと思えないような本もありますね。玉石混交、でしょうか。

3月10日、「新書大賞2009」が発売されました。新書に造詣の深い書店員と新書編集部のメンバー60人が、今読むべき46冊」というのを1500点以上の中から選んだのだそうです。そこでダントツ1位に選ばれたのが、「ルポ 貧困大国アメリカ」です。昨年8月、その感想は書きました。
アメリカの金融破たんの前に書かれたものですが、この大国の行く末が決して明るいものではないことを明快に示唆した1冊で、まさにタイムリーな内容です。他にどんな本がランクインしているのか実は知らないのですが、確かに私も手にするのの多くは新書、そういえば最近小説をあまり読まなくなってしまったなあ・・・じっくり良い小説と向き合うだけの時間と気持ちに余裕がないせいでしょうね。

さてブームの新書とは対照的に、論壇誌がまったく売れないそうです。昨年は「論座」「現代」が休刊に、この3月には「諸君!」も休刊になるようです。ネットで論壇をはれる(ブログとか)ことで、若い人たちがこういった雑誌を買わなくなったらしいですね。このような月間総合誌の最も多い読者層は70歳代~80歳代の人たちなんだそうです。団塊の世代もすでに離れつつあるというから驚きです。「オヤジ本」かと思っていたら、「オジイ本」だったんですねー(笑)。

斜陽の論壇誌の中でただ1冊一人勝ちしているのが「文藝春秋」だそうですが、確かに私も文藝春秋はたまに買うけど、その他のものは買ったことがありません。今月、その文芸春秋を久しぶりに買ったわけですが、そのわけは読みたかった記事があったからです。村上春樹氏の独占インタビュー&受賞スピーチ(エルサレム賞の)、記事のお題は「僕はなぜエルサレムに行ったのか」
非難ごうごうの中、なぜ村上氏はこの賞を受けたのか、知りたくありませんか?
このことについては次回に書こうと思います。

身近な両生類・はちゅう類 観察ガイド

2008-10-23 | 読書
プロ野球のクライマックスシリーズ、ドラゴンズは良い感じで初戦を勝ち、記事にしようと思っていた矢先、今日はひどい負け方です。あーあ、なので今日は野球の話はやめて本の話題です。

アマゾンで注文した本がソッコーで届きました。

「身近な両生類・はちゅう類観察ガイド」関 慎太郎 写真・文

全ページカラー写真付のとてもきれいな本です。写真集といってもいいほど、生き物の魅力的な写真が多く載っています。それもそのはず、関 慎太郎という人は学者ではなく写真家のようです。この手の生物が嫌いな人が見たら卒倒しそうな写真ばかり、とても良い本ですよ。

アマゾンで本を選ぶと、すかさず他のお勧め本がずらっと並ぶのですけど、今回この本を選ぶと、野鳥の関係の本が何冊もお勧め本として出てくるのです。中にはほしいな、と思っていた本もあり、データの解析力には驚かされます。


貧困大国アメリカ

2008-08-11 | 読書
札幌の帰りに読んだ本です。
堤未香著「ルポ 貧困大国アメリカ」岩波新書

家人が以前から薦めていた本。
著者の堤氏は今回の本で初めて知った人でしたが、アメリカで国際関係学の修士を取得後米国野村證券勤務中に9.11に遭遇、その後ジャーナリストに転進したという経歴の女性です。今年の初めに出版されたこの本、その後ずいぶん売れているようですね。

自由競争が基本のアメリカ社会、ブッシュ政権の間に民営化が医療や教育といった分野にまで拡大し、その結果社会全体が恐ろしいことになっているというレポートです。話には聞いていましたが、貧富の格差は想像以上で、しかもほんのちょっとしたきっかけで普通の人たちが破産に追い込まれていくアメリカ。一部の強者(企業)がほとんどの富を独占し、中間層は消えうせ残りは圧倒的多数の貧困層という構造が、加速度的に広がっているというのです。一度貧困層に落ちたらそこから這い上がるのは不可能、しかし唯一残された手段が軍に入ること、なのだそうです。
入隊すると真っ先にイラクの最前線に送られ、任期が明けた後は再び貧困の中に放り出されていく・・・
アメリカ社会において、人間はまるで鶏舎の鳥のようです。卵を産まなくなったら即お払い箱なのですね。

日本もアメリカ型の自由競争を持ち込もうという動きが、小泉元首相時代から強くなってきました。昨今の医療崩壊、教育現場の荒廃、格差の拡大などアメリカ型に近づいているのではないでしょうか。なんとか踏みとどまってほしいと思います。

このルポはかなり重いテーマでありながら、非常に抑えた書き方をしています。そのために余分なフィルターがかからず、読み手が自らの頭で状況を確かめていく作業がしやすくなっています。ぜひ、皆さんに、そして若者たちに読んでいただきたい本です。


死ぬための教養

2008-08-10 | 読書
先月末から読書づいています。ちょこちょこ泊まりで出かけていると、交通機関の中やホテルでまとまった時間があるから。家事や雑事に時間を取られないと、こんなに本が読めるんですねー。

さて北海道に行っているあいだの2日間に読んだ最初の本は、
嵐山光三郎著「死ぬための教養」新潮新書 です。
嵐山氏、1980年代に「笑っていいとも!増刊号」というテレビ番組に出ていたようで、当時はけっこう有名人だったらしいです。(私は見ていないので知らないのですが)もともとは平凡社で雑誌「太陽」などの編集長をした後にフリーになり、今の肩書きは作家、あるいはエッセイストと言えばいいのかな。私の中では週間朝日に連載の「コンセント抜いたか!」というエッセイの著者、というポジションですけど。まあ、世の中のことをあーだこーだと語ってるオヤジの一人、だと思います。

さてこの本ですが、事故や病気で何度も死にかけた嵐山氏が宗教の力を借りずに自らの死をいかに受け入れるか、そのために必要なのは「死ぬための教養」なのだ、ということが書いてあります。彼自身が参考とした本がいろいろ紹介されています。

で、感想ですが、ショートエッセイは結構面白かったのになあ・・・。以上。

問題は、躁なんです

2008-08-01 | 読書
春日武彦著「問題は、躁(そう)なんです 正常と異常のあいだ」光文社新書 を読みました。
著者の春日氏は前回の中嶋聡氏と同じ、精神科医です。軽快な文章で書かれており、思わず一気に読んでしまいました。

うつ病は現在比較的広く認知されていますが、躁病というのは発症頻度の低さもあってあまり世間に知られていません。ところがうつ病に比べ社会に与える影響の大きさたるや、比較にならないようなのです。男性と女性では多少現れ方に違いがあるようですが、共通して「心のタガがはずれた状態」に陥るようです。感情は激しく変化し、誇大妄想的な発言、けばけばしい化粧や服装、異常な浪費など明らかに異常な状態になります。新規事業に次々と手を出したり、株に大金をつぎ込んだり、しかもどれも最後までやり通すことはなく、興味の対象は次々と変化していく・・・もし、家族がこんな状態になったら大変です。

そのような躁病についての記述は非常に興味深いものでした。そういえば昔ちょっと言動が「?」の人がいたのはひょっとしたら躁だったのか・・・などと思い当たり、妙に納得したりしました。

でも最も印象に残ったのは、著者である春日氏自身についての記載でした。ちょっと抜粋してみます。

「わたしは躁状態の人たちを見るにつけ、キッチュなものを目の前にしたときと同じ「ときめき」を覚える。医療者の立場としてはげんなりしつつも、好奇心を抑えきれない。ただしそれは怖いもの見たさに近い感覚である。」

春日氏は他の多くの精神科医と同様、自らも精神に異常があるのではないという不安を持っています。よしんば今は何もなくとも、いずれ何らかの精神疾患に陥るのではないかと心配しているのです。中でも「この躁と認知症が微妙に絡まって[暴走老人]と化してしまうかもしれない」と書いています。
ところが本当に心配しているのだろうか?と疑問に思ったりするのです。実は恐れながらも隠し切れない好奇心が見え隠れしているような気もするのです。

やっぱり精神科医って興味深い存在ですねえ。

心の傷

2008-07-28 | 読書
中嶋聡 著「「心の傷」は言ったもん勝ち」 新潮新書 を読みました。

著者の中嶋聡氏は東京大学医学部卒の精神科医で、現在那覇市で開業医をしているそうです。この本では朝青龍問題、セクハラ、医療訴訟などを例に挙げ、現在の日本社会における被害者意識の異常な高まりとその権利の主張に対する、自身の考えを述べています。タイトルのインパクトの強さもあって、そこそこ売れている本のようで、書店では平積みになっていました。

ほんの少し前、学校(の先生)・病院(の医者)・企業・お上と言った、いわゆる「強者」に無条件に従っていた時代の反動か、今の社会は良くも悪くもそれらに対する垣根はすっかり取り払われてしまったかのように思われます。「傷ついた」「被害にあった」と主張すれば即座に保護され、加害者は弁解の余地もなく糾弾されるケースも実際にはたくさんあるでしょう。
著者は日々の診療を通して、何かにつけ人のせいにしたり無理やり病名をつけ仕事をサボったりする人々に遭遇しているようです。そしてそういった被害者の立場を一方的に容認する現代社会のことを、「被害者帝国主義」と名づけて、大いに疑問を投げかけています。

著者の考えには同意できない部分もあるのですが、言わんとすることはよく理解できます。ですが何故か読後感があまり良くない。その理由を考えてみて思い当たるのは、本に出てくるいわゆる「困った人々」に対して、著者が本当に困っていることなのです。確かに世の中には常識が通じない人ややっかいな人々がたくさんいますね。でも彼は精神科医です。そのような人々に愛情を持つべきだとは言いませんが、もう少し楽しそうに描いてくれるといいのになあ、と感じました。現場の大変さも知らないで、と批判されるかもしれませんけれど、少なくとも文章に書くときには、人間に対するちょっとした愛やユーモアを下地にしてくれると読者が気分よく読むことができるのではないでしょうか。

次に読んだ「問題は躁なんです」。いろんな意味で対照的なこの本についてはまた次回に。


姜尚中は悩みぬいた

2008-07-27 | 読書
今売れているらしい、姜尚中(カン・サンジュン)の「悩む力」を読みました。
著者の姜尚中は東京大学大学院教授で、専門は政治学・政治思想史、だそうです。朝まで生テレビなどの討論番組などによく出ている、痩身で低い声の在日の知識人として最近は知名度もかなり高いようですね。その知的な容貌、落ち着いた話し方から女性ファンも多く、「姜さま」という呼称で敬愛の対象になったりしています。実は私も結構好きな方でして(笑)。

さてその姜さまの新著「悩む力」は今までの著作とは少し印象が違いました。自らの生い立ちや現在の心境についてかなりオープンに語っていますし、表現の仕方はストレートで、比較的平易な文章で書かれていて、軽く読める内容になっています。「ニッポン・サバイバル」が若者へのメッセージだとすると、この「悩む力」は大人、むしろ中高年への応援歌、なのでしょうか。

ただこの本の中には人生の悩みに対する答えが用意されているものではありません。むしろ宗教やスピリチュアルなものに明確な解答を求めないで、七転八倒することを肯定的に捉えている本です。真面目に毎日を生き、辛いことにも歯を食いしばって一歩一歩進んでいる人にはこの上ない励ましとなるでしょう。けれども目の前の処方箋がほしい人が読んでもひょっとしたら何の足しにもならないかもしれません。

姜尚中はまっすぐ前を見つめて行く人、つまりいつまでも少年の心の人なのですね。この本の最後に自らのことについての記載がありますが、そこで彼は自分がいつまでも少年なのだと書いています。あまり恵まれなかった子供時代からずっと迷って悩んで、自問自答し続け、ついに突き抜けたのだそうです。悩みぬいた姜さまは無敵になったのですね(笑)。

最後に初めての姜尚中として、この本はちょっとどうでしょうか。「いったいどんな人・・・?」と思われてしまうと(姜さまファンの)私としては胸が痛むので、できれば前述の「ニッポン・サバイバル」あたりからお願いします。この「ニッポン・サバイバル」、青少年にぜひ読んでほしい本のひとつです。思想的にちょっと青いというかやや左寄り、ですけどね(笑)。