ドドドドドリアン

「これ捨てとってくりぃ」

課長は俺にそう指示を出した。

その目の先にあったのはかの有名な高級果物

「ドリアン」

 

　俺はとあるスーパーの青果コーナーでバイトをしている。野菜を切ったり売り場に並べたりするのが俺の仕事だ。

　もうこの仕事を２年以上続けているが、１ヶ月ほど前入荷してきた一風変わった形の果物、それがドリアンだ。

　値段は直径20cm位のものが1玉2480円。高い…。

　多分こんなもの売れないだろうなと思っていたが、やはり売れなかった。

　この果実は熟すとひびが入り、割れ、その割れ目から強いニオイを放つため、売り場には出せず、ニオイを封じ込めるためにビニールでグルグル巻きにされ、先週から冷蔵庫に入れられていたが(それでもニオイは染み出し、冷蔵庫の中は少し臭くなっていた)、気まぐれで有名なＭ課長はようやく捨てる気になったらしい。

課長「間違っても割るなよ。大変な事になるぞ」

俺「もうすでに臭いですもんね、大丈夫です。捨てときます」

 　ドリアンはプロパンガスのニオイに似て、すごく臭かった。しかしこの珍しい果実を捨ててしまうのは勿体無い気がした。

 俺「課長、どうせ捨てるなら持って帰っていいですか？」

 課長「か～家で割ったりしたら警察がくるぞ!!」

 俺「えっ、そんなに臭いんですか!?じゃあやめときます。」

 　そして1時間後にＭ課長は帰宅。俺はゴミ袋にドリアンを葬った。 

　その後仕事が暇になったので、青果の作業場近くを通りかかった鮮魚のＯ先輩に、ゴミ袋を広げ

「臭いでしょ?」

とか言いながら、自分の子供を見せびらかすようにその臭さを自慢した。

その頃になると俺の心の中にフツフツと、ある感情が沸き起こってきたのだ。

「この果実を割ってみたい」

「この果実の味を確認してみたい」

「この果実を持って帰りたい」

「割ったらこれよりも臭いのか？」

「こんな話のネタになる果実はないじゃないか。いや、むしろ、これを持って帰らなきゃ俺じゃないだろう!?」と。

　すでに心の中で「それ」を持って帰ることにした俺は、一度は閉じたゴミ袋から「それ」を再び取り出し、ぐるぐる巻きにされていたビニールを剥ぎ取り(ニオイが立ち上り始める)、ブログ用の写真撮影をすることにした。

見よこの神々しい姿を!!

 

　グラビア撮影終了後、トゲ防止に薄い発泡スチロールを巻き、当初より頑丈にビニールを巻き直し

「カマキリのタマゴ状」

になったモノを10円で購入し、仕事場を後にした(捨てられる運命だったのだからこの値段で問題ないのだ)。

帰宅。そして晩御飯を食べ、ついにデザートの時間がやってきた。

　俺の彼女のＫ子は「腐った生ゴミのニオイがする」

とのたまう。

「そんなバカな、この高級フルーツが!?」

と思いつつビニール越しにニオイをかぐと

「あ、一理あるな」

と妙に納得。

　そしてドリアンを持ちバスルームへ移動.。これはニオイ対策の換気扇があるのと、変な汁でも出ようもんならすぐに洗い流せるという利点からだ。

　ハサミで頑丈なビニールを切り落とす、ニオイが立ち上る。

「うっ、さっきよりニオイがきつい…」

　晩ご飯の間1時間ほど常温に置いていたため温まったのだろう。しかし耐えられないニオイじゃない。ドリアンの割目に手を挿しいれ力を入れると、ドリアンは意外と簡単に割れた。

　すると中から黄色い鶏ムネ肉(?)のような果肉が現れた。

　スプーンを挿してみると柔らかく、一口食べてみると甘くクリーミー。だが口の中は明らかに臭い。

例えるなら

「バナナの酸味を取り除き、ペースト状にしてクリーミーになったものと一緒に生ニンニクを食べている感覚」だ。

　ぶっちゃけていうと予想よりは美味しくなかった、といったところだ。

　ちなみに次の日息が臭くなるのを恐れ、俺は一口だけ口に入れただけで飲み込まず、彼女はニオイがダメで一口も食べなかったので、ドリアンは先ほどゴミ捨て場へ向かった。

　今夜は燃えるゴミ回収日。回収員の人たちがドリアンを回収してくれることを祈る。

ところでドドリアさんの名前の由来ってってドリア？それともドリアン？

そんなことはどうでもいい。

ドリアン解体から4時間経つが、俺の部屋はまだわずかにドリアン臭いのだった…