スペイン人リカルドがいつものようにプールサイドで1キロ泳いだ後に難問を投げかけてきた。70歳になる彼はスマイルを絶やさないが油断はならない。何かよからぬことを企んでいる目だ。
「マサオ 日本のラブソングを教えてくれないか」
「いきなりだねリカルド」
「日本人の女性と付き合いたいんだ 日本のラブソングを歌うとうまくいくかな」
リカルドの視線を追いかけると離れたジャグジーの縁に30歳くらいの日本人の女性が座っている。なるほど、ジャグジーの縁から形よく張った尻があふれるほどですぐにリカルド好みだとわかる。
「ゴンドラの唄なんかはどうかな」
「日本の100年前の歌だけどもともとはイタリアの歌だ。同じラテンだから気に入ると思うよ」
わたしはゴンドラの唄を少し歌ってみた。
「いのち短し 恋せよ乙女~」
「なんだか暗いね でもエモーショナルムービングだ 歌の意味を教えてくれないか」
わたしは手元のPCでグーグル翻訳で翻訳しやすいように歌詞を変えて入力した。うまい具合に翻訳させるには原文にこつがいるのだ。
英文が出来上がった。
歌詞を変えて入力した翻訳前の原文
短い人生だ 恋に落ちる女たちよ
赤い唇があせないうちに
熱い血が冷えないうちに
明日という日はない
短い人生だ 恋に落ちる女たちよ
手を取りあってボートに乗ろう
頬を合わせ燃え上がろう
ボートは誰も来ない
短い人生だ 恋に落ちる女たちよ
波に漂うボートのように
私の肩に手をそえて揺らしてくれ
ここは誰もいない
短い人生だ 恋に落ちる女たちよ
黒髪の色が褪せないうちに
心の炎が消えないうちに
今日は二度と来ない
グーグル翻訳後の英文「ゴンドラの唄」
It's a short life, women who fall in love
Before my red lips rush
Before the hot blood gets cold
There is no day tomorrow
It's a short life, women who fall in love
Let's hold hands and get on the boat
Let's burn cheeks together
No one comes to the boat
It's a short life, women who fall in love
Like a boat floating in the waves
Hold your hand on my shoulder and shake it
There is no one here
It's a short life, women who fall in love
Before the color of black hair fades
Before the flames of my heart go out
I will never come today
「マサオ 俺の気持ちにまさにぴったんこだ 後でメールで送ってくれないか」
「わかったリカルド だけどうまくいったらスペインワインを1本飲ませろ」
1週間後リカルドがわたしの部屋にやってきた。いつものスマイルが10センチほど大きい。
「これ飲んでみて スペインの赤ワイン」ラベルにはスペインの畑の名前があるので相当な高級ワインだ。
「うまくいったのか リカルド」と尋ねるとはにかみを含んだウィンクで廊下を去っていった。
リカルドは恋愛こそ人生の男でいつも本気で付き合う。グッドラック。