バリの滞在中はシシにベビーシッターをお願いしている。彼女はジャカルタ出身の女性でジャワ人だ。ジャカルタの大学で秘書学科を終え、いろいろな曲折を経て現在はベビの世話や連れ合いの仕事のアシスタントそれに家政婦役と炊事を手伝ってくれている。彼女自身はベビーシッターと云われるよりアシスタントと紹介してほしいという。
今回の邦人女性の事件をきっかけにして、今インドネシアにはどんな犯罪が多いのかと聞いてみた。
「学生の頃、ジャカルタでは恐喝に合ったことがある。路地でナイフで脅かされたが、大声で叫んだら逃げていった」シシは度胸があるのだろう。あるいは恐喝は日常茶飯事で慣れているのか。
「催眠強盗が今はやっている」
「催眠強盗!なにそれ」
「親しげに近づいてきて、やあ!お久しぶりなどという。果て誰だろうといぶかっていると、肩を挨拶代わりのようにぱんぱんと3回叩かれる。それだけで気を失い、気がついたら金目のものを獲られている」
「信じられないね。そんなの聞いたこと無いよ。結構いろんな本や新聞それにインタネットを見てるけど催眠術強盗なんて小説でも聞いたことがない」
信じられないままネットで検索するとあるある。「へえまさに事実は小説よりも奇なりだ」と常套句を発する。
米国でもコンビニ強盗から銀行強盗までやってのけている。ターバンを巻いた男が話しかけてきて目を見てしゃべっている内に術にはまってしまい、術中に現金を渡していたという。
その催眠術強盗の被害に遭わないためには相手が肩を叩いたらそれ以上の力で相手の手でも叩き返せばよいという。「肩を叩かれ、それでパワーを受ける。パワーを受けたらたたき返してパワーを返してしまう」そうだ。ここインドネシア・バリは白魔術・黒魔術が日常生活でごく普通に語られ信じられているお国柄で、ここでそんな話を聞くと説得力がある。
さらに信じられない犯罪事例が続く。
「名刺強盗がある」
「????」「今なんて云った?」
「名刺強盗といって、たとえばレストランなんかで隣り合わせになり二言三言話をしたら去り際に名刺を渡される。何げなく受け取るのが普通でしょ。そしたら受け取って数分後には眠ってしまう」
「ちょっと信じられないなあ。名刺に薬物が何か付いているの?」
「たぶん。よくしらないけど。名刺強盗もこちらの人はたいてい知っているよ」
再びネットで名刺強盗を検索するが、今度は出てこない。「namecard robber」などと入力してみるがそれらしきニュースはなにも出てこない。それにそんな凄い名刺があるならスパイものにとっくに出てきているのでは。
この件は当分様子見にしよう。