おやじの遊び道具。

  シケたおやじも、愛されたいのだ!

喜ばせ屋。

2008-12-17 | ショウセツ&しなりお
 

喜ばせ屋と呼ばれる稼業がある。きっと耳馴染みの薄い職種だろうと思う。その名のとおり、他人を喜ばせていくばくかのお金を稼ぐシゴトである。
 屋号は「嬉壱屋」、享保元年の創業で現在11代目の老舗である。そもそも創業は江戸時代の中期である享保元年、田舎芸能に長けた初代の喜一が上州藩主お抱えの太閤持ち(後の太鼓持ち)に任命されたことに由来する。時代とともにその市場規模や需要が縮小され、同業のみなは廃業を余儀なくされてしまっている。しかし近ごろでは市場を広げるごとく、結婚式の披露宴や誕生日パーティのお膳立てをするイベント屋さんが、若い企画力で斬新な喜ばせ屋を創造している。船上やホテルのスイートルームを会場として斡旋したり、ヘリコプターに乗せて記念日を祝う企画を立てたりと。そこへいくと嬉壱屋のそれはかなり旧く泥臭いものだが、もっと依頼人に近いハートウォームなものだ。
 先々代の爺さんは「煽りの嬉壱」と名指される、ちんどんの名手だった。戦後の復興に活気付けられ、町全体は頬を赤く染めて気分も高揚していた時代、その勢いに乗じ、爺さんは関東の隅々まで笑顔を振り撒いて漫ろ歩いていたという。嬉壱屋には若い衆もどんどん集まり、太鼓やクラリネットやアコーディオンの特訓が毎夜遅くまで繰り広げられていたそうだ。
「薄き芸より厚き心」それが爺さんの心意気だった。
 爺さんの煽るちんどんは観客の心までも温かくし、中にはつられて路上で踊りだす者もいたようだ。
to be continue.

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