ちょっと余談です。
最近は、ツイッターやFBなどのSNS、ブログ、あるいはキャストやニコニコ動画など、プロのイラストレーターさんや漫画家さん、プロじゃないにしてもプロなみに上手な人と、直接会話できるような場所が増えてきましたね。
そういう人に、「どうやったら、そんなに絵が上手になるんですか?」とか、「一日どれくらい、どういう練習をしたら、絵が上手になりますか?」という質問をしたことがある人もいるかもしれません。
あるいは、質問しているのを見た人も。
こういう場合、相手の方がある程度、そういう質問に答え慣れている人や、人に教えるのが上手な人・好きな人なら別ですが、そうでない限り、かなり曖昧な回答しかかえってこないと思います。
「どうやったら」⇒「とにかく描くことですかね」
「どれくらい」⇒「毎日描いたら上手になりますかね」
というような感じで。
「そんなのわかってるよ!そういうことじゃないよ!もっと具体的にちゃんと教えてほしいんだよ!」と思う方もいると思います。
具体的な技術について質問しても、「まあ、そこはカンで」とか「なんとなくいい感じになるように」とか、そういう感覚的な回答しかかえってこないことも多く、「やっぱり生まれつきの才能なんだ」「持って生まれた感性なんだ」と思ってしまった人もいると思います。
また、質問サイトなどでそういう質問をしたら「こんな場所でそんな質問をしている時点でダメ」というようなミもフタもない回答がかえってきてガッカリした人もいるかもしれません。
そういう回答がかえってくるのには、もちろん理由があります。別にイジワルやケチでちゃんと答えないわけではありません。
まず、このブログのあちこちに書いているように、絵で食っていけるようになるほど上手な人、というのは一部例外を除き、物心ついたころから、本当に息をするように絵を描いてきています。
プロの人が20~30代以上としたら、20年30年、ほぼ毎日描いてきています。「生きる=絵を描く」みたいになっています。単に描くことだけではなく、見るもの聞くものすべてを無意識に絵に結びつけています。
「ハチミツとクローバー」の天才画家・はぐちゃんが、「もし絵が描けなくなったら、どうやって生きたらいいかわからない。息してごはん食べて、あと何すればいいの」と言っていましたが、まさにその感覚です。
その人が今上手なのは、その20年30年毎日の積み重ねなのです。
ですので、「どうやったら」と聞かれても、当然今まで毎日やってきたことをすべて答えられるわけもありません。当人だって覚えていません。
某スタンドの漫画ではないですが、「今まで食ってきたパンの枚数なんか数えていない」状態です。
あなただって、「どうやって生きてきたら、今そんな感じになれるんですか?」と聞かれても困るでしょう。どうやってって…、毎日睡眠と食事とって、学校行って、部活して…とにかく毎日一生けんめい生きてます、としか言えません。
「どれくらい練習すれば」と聞かれても、これも「毎日どれくらい息をするべきでしょうか?」と聞かれるようなもので、これも困ってしまいます。「どれくらいって…、できる限りは息はしてますけど…」ということになりますし、そもそもなぜそんなことを聞かれるのか、質問してきた人の意図がわからなくて悩みます。
だって「どれくらい息すればいいですか?」なんてことを聞いてくるということは、その人は息をしなくても生きていけると思っているのか?という話になります。「これくらい息すればいいですよ」と言われたら、それだけしか息しないつもりなのか?なぜ?苦しいだけだよね?息なんて、生きたいならするのが当たり前だし、できる限りすればいいだけじゃん…???と、そういう感じで悩んでしまいます。
プロになるような人の「絵」についての感覚はそういう感じなわけです。
もちろん、中には教えるのが上手な人、説明がきちんとできる人もいます。(ある程度、こういう質問をされた経験がある人が多いです)でもそれは、質問されることによって、「あ、普通の人にはこういうことをちゃんと系統だてて説明しないとわからないんだ」「普通の人は絵を描く=息をするくらい当たり前、じゃないんだ」ということに気づき、自分でそのためにちゃんと回答を整理したからです。
こう説明すれば、なぜそういう質問をしただけで「そんな質問をする時点でダメ」なんてことを言われるかも、わかるのではないでしょうか。
こういう質問をする人にとって、絵は生きることでもなければ、息をするようなことでもない。「特別に努力してやらなければならないこと」であり、「できればあまりやりたくない(だから効率的に役立つことだけをやりたい)」ということだからです。
息をするように絵を描いて生きている人なら、絶対にしない質問だからです。
絵を仕事にしたければ、上記の絵を描く=息をする感覚で生きているような人たちをライバルとして、そこで戦っていくことになります。生まれつき普通に息をして生きている人に、息のやり方や一日の必要量を聞かないといけないような人が、同じ世界で戦うのは相当に不利で難しいことです。水中で息ができる人と、できない人が、水中スポーツで戦うようなものでしょうか。
また、絵仕事のための進路というのは基本的に絵に関係ない仕事につくのにはあまり有効ではないため、諦めるタイミングを誤ると、将来行き詰まってしまいます。
だから、あなたの将来を心配した回答者が「今のうちにやめておけ」といってしまうわけです。
とはいえ、別に質問したいならしてもいいとは思います。
練習方法に効率を求めるのはけっして悪いことじゃないので。
ただ効率を求める理由が「できるだけ絵を描きたくない」「絵に余計な時間を割きたくない」ということであれば、多分たいして絵を描くのが好きではないと思うので、ご自分の適性については考えてみた方がいいと思います。
「絵に関するお仕事って」の記事に書いたとおり、厳しすぎる世界なので、たいして好きじゃないなら、おすすめしないです。
基本は「待遇悪いのわかってるし、キツいし、やめられるものならやめたいくらいなのに、どうしても絵を描くのが好きすぎて、やめられない・・・」という人しかできない仕事です。
そのあたりのことをわかったうえで、質問するならば、作家さんによってはちゃんと詳しく教えてくれる方もいるので、ありがたく情報をいただけば良いと思います。