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読者文芸 (少女の友 昭和13年)

2011年09月20日 | コラム類
少女の友 読者文芸 昭和13年 3月号



    少女の友記念時計贈呈    埼玉 幽菫
 少女の友昭和十三年第三號の記念時計を、幽菫(かすみすみれ)さんに贈呈致します。幽さんは主に詩壇に活躍され、毎號そのけんらんな詩才は美しい珠玉を以て詩壇を飾り數多き友だちの憧憬の的となつてゐられました。優れた詩才はむしろ最近老成の形にまで近づかうとしてゐましたが、今此處で早く形を作ることなく一層御精進の上大成の日あることを切に期待申上げます。
 今此處に多年の功成つたことをお祝ひ申し上げる共に此のお室(へや)のお一人として一層お輝きなさいませ。

    よろこび   京都 野原あき子
 こんなに素晴らしいクリスマスプレゼント。先生。本當に有りがたう存じました。嬉しくて嬉しくてたまりません。たゞそれだけ。遠いあこがれのお部屋、などと思ふよりも寧ろ無関心でなければいけないやうな私でしたのに―。
 十四の夏に初て、九鬼洋子の名で、
  名も知らぬ私の好きな白い花に
  蝶がとまつたので嬉しくなつた
 と言ふ幼い…でも、今の私にとつてはもう忘れることが出来ないものが賞に入つてから、友ちやんの訪れとお投書することが月々の大きな喜びでございました。不才な子は先生や皆様にあたゝかく見守られてやつとこゝまで参りました。来月から何にもお投書出来なくなつて寂しいと思ふのは贅澤ですね。お姉さまたち、よろしく。あき子、まだあんまりお姉さまぶれませんので、これからどんなことを書かうかしら、と心配でうれしくて胸がふるへてをります。

     無題     東京 若松不二子
 毎日私は思つてゐる、色々な事を。「考へて何も得られないで疲れるより、むしろ何も考へない方(はう)がよい」こんな文句を何處かで見たと思ふ。それなのに私は考へては頭を前より一層混亂させてやめようともしない。
 内山先生の「行くものをして行かしめよ」のお言葉、今の私にはとても嬉しいもので御座いました。
 どん底のルイジューヴェ 還俗(げんぞく)したお坊さんの様に思はれて仕方がありませんでした。第一印象つて恐ろしいものですわね。一番好き、と言ふには高過ぎる様にも思ひますけど好きですの。ボアイエは二番目でございます。

    病み臥りつゝ  兵庫 銀河
 臥(こや)りつゝ本読む手先冷え来れば渡河(とが)につめたきクリークをおもふ
 いくさ思はせ近づきて来る爆音にこゝろ襲はれ本読みさしぬ
 重々と空揺すり来る爆音に読み聞きしかずかずの犠牲(いけにへ)おもほゆ
 たゝかひのひまに秋草摘みあそび寫眞を見つゝ涙堪へかぬ
 咲きさかる菊に埋れてつはものゝうつれる姿静かなるかな
 臥りつゝ音のみ聞きて夜空に咲く祝勝の花火胸にゑがけり
 祝勝の提灯行列通るなり病臥(べつと)を下りてこよひ我が見つ
 提灯の列は明々(あかあか)と流れ行きぬ 去り惜しみつつ窓を離るゝ
 城まさみ様青柳レイ様昨年はお見舞ひ有難うございました。遅くなりましたが心から御礼申上げます。久美みちこ様星影さやか様どうぞ御返事の御心配なく、それよりもお體をお大事に。緋臘珠(ひらふじゆ)様誰方(どなた)かしら、前から美しいお名と思つてをりましたの。お尋ねの事は先生のお答へのとほりです。野原あき子様お祝ひ申上げます。一層お輝き下さいませ。

    春を迎へて    兵庫 松井敏美
 つとむれど歌にならざり我が想ひ春はくれども冬枯るゝ心はも
 うつせみはすこやかにして春迎ふれど心になほも木枯狂ふ
 逝きし日の夢想はんと久々に提琴(ていきん)にふれし今宵うれしき
 〝白菊″静かな御作、大好きでございました。千草様では?
 月江様、御元氣の御様子で嬉しうございました。貴女より年だけはずつとずつと大きいんですけれど何にも出来ませぬ私、御一緒に御勉強させて頂ければと願つて居ります。いつぞや内地へお歸りの節、お會ひし度(た)うございましたが―。

    幾何    東京都 城まさみ
 息をついてもゆるがない光。そのやうに、冴えた月の夜、無性に幾何を解きたいと思つた。星が流れると、銀色の直線が残る。幾何の感覚であつた。だが、私の教科書は、本棚の奥で、灰色にほこりをかぶつてゐた。
 私は悲しく、咽喉のつまるせつなさで、うす汚れたその表紙を、胸にいだくのであつた。
 内山先生、樂しい友ちやん會有難うございました。昔から尊敬してました蘭青たゑ様や白妙様六條様もお見えになつて嬉しく思ひました。渚の灯(ひ)様、ゆつくりお話がしたかつたのですけれど。北祥子様、再びお目にかゝれました事を喜びます。お氣が向く様になりましたら是非御作お見せ下さいませ。澄玲(すみれい)様、誌上で葦原さんの御話、お待ちしてます。武村美子様、堀川英子様、お友達になれまして嬉しく。では皆様御元氣で。御機嫌よう。

    旅の憶ひ出   兵庫 銀月苑子
 懐かしい筑紫の旅を思ひ出すこの頃。
 雲仙の絹笠山の頂上に足をなげて有明の海に見入ったひととき青草の緑がやはらかな線をゑがいて…こんもりと茂つた木(こ)の間(ま)から白い湯煙が六月の空にとけていつた雲仙国立公園、夕(ゆふべ)はホテルの窓邊からピアノがもれてゐる道を静かに去つた外人の姿をふりかへりつゝ山の道をあるいたものだ。切支丹の匂ひ懐かしい島原の湊(みなと)のさびれた景色が侘びしくも明るい胸に残つてゐる。
 次の日の熊本は雨でも雨にけぶつた熊本の町も好きだつた。ひこさんだんごと云ふ大きな字が何故か忘れられぬ、そして私達のバスを受けもつて案内して下さつた人が途中の博多の町のお人形とそつくりの美しい人だつた。綺麗だつたあの聲(こゑ)を今でもまねて見る私だ。しつとりと雨にぬれてゐた熊本の町を訪れる日がまたあるだらうかとおもふ。


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