朝5時。
鳴り響く電話。
覚悟はしていたものの、ついに主人の父の訃報。
前日にはのんきこの上なく広島見物をしていたのが嘘のよう。あわただしく病院に向う主人を送り出して、すぐ前日のインタビューのテープおこしにとりかかる。締め切りのことを考えると今しかやるときがない。 普段では考えられないスピードでテープをおこし、プリントアウトを持って実家へ向かう。
実家への坂道を登る。
桜が満開。
なんて美しい季節に逝ったのだろう。
そういえば、義母も満開の金木犀のなかで逝ったのだった。
急坂の上の、家の前で、よく手を振り、見送ってくれた父。
長い間、力いっぱい介護してきた主人は、どんな気持ちなのか。
主人が希望して「楽」の字を入れてもらった戒名は『楽翁茂玄居士』。
もうすぐ92歳だった。